ブラバン (新潮文庫)

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著者 : 津原泰水
  • 新潮社 (2009年10月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292717

ブラバン (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • そのうち読もうと本棚に置いてそのまま忘れていた一冊。軽快な青春部活ものかと思っていた。そういう面もないわけではないけれど、これは哀切な中年小説と言ったほうがぴったりくる。ひねりのきかせ方が津原さんらしい。引き出しの多い人だなあ。

    四半世紀前の高校時代と現在が、絡まり合いつつ並行して語られていく。作者自身を思わせる主人公は、吹奏楽部でコントラバスを担当していた。ブラバンは日本最大の部活動と言われるくらい部員が多く、熱心に活動するクラブだが、ほとんどの人は高校までで楽器を離れていく。練習する場がないし、第一自分の楽器を持たない人も多い。「趣味で続けていく」ことが難しいのだ。

    この作品は、そういうブラバンの特性をとてもよく生かして書かれた小説だと思う。あるきっかけで再結成の話が持ち上がるが、音楽を続けている人はほとんどいない。すでに不幸な形で亡くなった人もいる。かつての部員はそれぞれの人生を、それぞれの苦悩や喜びを抱えて生きている。主人公自身、一人で赤字続きの酒場を経営し、鬱屈の多い生活の中にいる。

    そうした現在と、決して楽しいだけではなかったにせよ、間違いなく熱を持って輝いていた高校の頃と、主人公と共に時間を行き来していくと、その哀感は胸に迫るものがある。だって誰にだって若い頃はあったのだ。
    「スナップ写真のような、テレビCMのような麗しい青春時代を送りえた人が、人類史上に一人でもいるだろうか。」「十代の自分を振り返る大人の視線は手厳しく、今の自分を見つめる十代の頃の視線は残酷だ。」

    過去と現在をつなぐのは「音楽」である。津原さんは私より少し年下で、高校時代は八十年代に入った頃、私は大学生だった。だから、言及されるミュージシャンたちがとても懐かしかった。主人公はブラバンと軽音のバンドを掛け持ちしているのである。「僕はエルヴィス・コステロやXTC、スクイーズといった、斜に構えすぎて正面を向いてしまったようなポップロック好き」というところに笑った。津原さんも書いているが、あの頃の音楽は絶対だった。みんな(ろくに弾けもしない)ギターを持っていて、文化祭で「スモークオンザウォーター」をやった子はスターだった。

    そういう無邪気な時代の終わりを告げたのは、ジョン・レノンの死だと書かれていて、ああ、そうなのかもしれないと胸をつかれる。
    「ぼくが信じていた世界は、才智や芸術に対してはそれが少々独善的であろうとも寛容で、過大評価するならともかく息の根を止めるはずなどなかった。ジョン・レノンは絶対に安全なはずだったのだ」

    ブラバンならではの蘊蓄も楽しい。オーボエとホルンが「最も演奏が困難な楽器」としてギネスにも認定されているとは知らなかった。楽器を極めるために必要不可欠なものは、センスや情熱や器用さではなく、持って生まれた肉体だというのも、言われてみればなるほどである。なにより、なぜ人が苦労を厭わず音楽を奏でようとするかという問いに筆者が出している答がいい。
    「そいつ(音楽)と共にいるかぎりは何度でも生まれ直せるような気がするからだ」

    全体を柔らかく包んでいるのが広島弁の響きだ。登場人物たちの言葉に実感がこもるのは、この広島弁あってこそだろう。紹介文に「ほろ苦く温かく奏でられる、永遠の青春組曲」とあるが、そこにかっこ付きで(広島弁で)と加えたい。

  • 吹奏楽経験者だったので、割と楽しめました。
    しかし音を重ねることよりも、
    「ゆるめの吹奏楽部の日常生活」とその四半世紀後に
    焦点を当てているので
    音楽をやっていた楽しさというより集団で過ごす青春のほうが
    表現されていたのかと。
    音楽室の温度とか、
    木製の床にしみ込んだ独特の匂いとか、
    教室の窓からの夕日に輝く楽器とか、
    ロングトーンの残響等など、
    空気感を伝える言葉は少なかったかと思います。
    未経験の方が読んで面白いのかは分からない。

    引用に登録した文章には激しく同意。
    流れてくる音に思わず動きや感情が立ち止まる瞬間っていうのは
    絶対にあります。

  • 概ね世の中には二種類の人間が存在するが、私はその一方、即ち高校吹奏楽部経験者である。この本は我々にとって読了が惜しい程楽しめる本であった。とは言っても、もう一方の人々が楽しめないようなマニアックな本ではない。楽器や曲の解説は本文中に書かれているし、作中の高校生は、帰宅部でも素直に感情移入できる若い率直さに満ちている。
    物語はこの「高校生」が大人になった「自分」によって綴られる。忘れ去ってしまった筈の十代を手繰り寄せながら、何十年もの月日ですっかり変わってしまった、そして何も変わっていない自分を、作者の持つ優しいタッチでストーリー中に滲み出させているのが最大の美点であると感じた。
    前述したが楽器や曲などの解説は本文中に十分書かれている。そして、高校生の自分と今の自分のエピソードが行き来しながらストーリーは進行するのだが、この両者により、物語の「スピード感」や「キレ」が落ちている。決して空気感の重々しい本では無いのだが、軽めの本が好きな人で、スカッと爽やかなタッチの青春ものを一気に読み切ってしまいたいと期待する人には若干つらいカモ。
    私事であるが、作者と私が同じ中学の同期で、それぞれ川を隔てた公立高校に通い、同じく高校から吹奏楽部に入部したこと、それに、私が今春出身高校吹奏楽部の定期演奏会を約30年振りに聴き、当時の懐かしい仲間と再会した頃、たまたまこの本を手に取ったこと、このふたつが、この物語の色彩を更に深く彩ってくれた。本との出会いというのも不思議なものである。作者と私とは在学時代からほとんど接点は無いのだが、陰ながら応援している。これからも自分らしい本を書いてくれ、津原くん。

  • 本屋さんのポップに釣られて購読。

    吹奏楽をやっていた人だったので、
    昔を思い出して泣けるとか、懐かしいとか、
    そういうものを期待して読んだのだけど、
    ちょっと期待はずれ。
    その上、読みにくかった。人多い。必要あるのか、その件とか。

    私のブラス暦とはかなり違った小説でした。
    出てきた曲も、ほぼやったことがないという…。
    年代もちょっとずれてたかなー。

  • 語り手の他片(たいら)は赤字続きのバーを営む中年男性。
    そんな彼のもとへある日一人の女性がたずねて来る。
    「披露宴で皆で集まって吹奏楽を演奏してほしい」と依頼したのは高校吹奏楽部の元メンバー、桜井。
    桜井の一言がきっかけとなり、他片は今は散り散りとなった吹奏楽部のメンバーに再結成を呼びかけるが……

    物語は語り手・他片の回想に沿ってすすむ。
    吹奏楽部のメンバーはいずれも個性的。
    登場人物はのべ数十人。吹奏楽部は大所帯、楽器の数だけ個性がある。
    音楽小説であり青春小説であり八十年代ーグロリアス・エイティーの風俗小説である。
    中年の他片が吹奏楽部で活動した過去を振り返る形で綴られる物語は、青春真っ只中の輝かしい黄金の光ではなく、ランプシェードで絞ったようなくすんだ黄金の輝きに満ちている。
    それは夕暮れが訪れる寸前の、溶けて消えそうな黄金の空に似ている。
    桜井と組んでかつての部員の足跡をたどるうちに、他片はさまざまな人生の変遷を知る。
    変わった友人がいれば変わらない友人もいる、成功した友人がいれば破滅した友人もいる、そして死んだ友人も……
    現在と過去が交錯するごと陰影は際立ち、部員たちのそれからの人生が浮き彫りになる。

    吹奏楽部時代は先輩や友達との馬鹿騒ぎ中心でユーモラスなエピソードが多いが、現実はそうも行かない。
    二十数年の歳月は人を変える。変わらないものもある。
    幸せになったヤツもいれば不幸せになったヤツもいる。再結成は困難を極める。
    それでも他片と桜井の熱心な勧誘にこたえ、一人また一人とかつてのメンバーが集まり始めるのだが……

    音楽はひとを幸せにするばかりじゃない、音楽のせいで不幸になる人間だって確実にいる。
    音楽を極めんと志すものこそ、狭き門にはじかれぼろぼろになっていく。
    だけど人は音楽を愛する。音楽に情熱を捧げる。それが素晴らしいものだと信じてやまない。
    音楽に命をやどすのも意味を与えるのも、人だ。究極的に人でしか有り得ない。
    音楽は時としてローマ法王の説教より胸を打つ。

    演奏シーンの一体感、上手い音楽と気持ちいい音楽の違いなど、示唆に富んだ考察に目からぽろぽろ鱗おちまくりでした。私が吹奏楽部だったらもっと共感できたんだろうなあ……。

  • キャラの確認で辛い読書だった。エピソードを深く掘り下げて各々のキャラに思い入れられればよかったが、そこまで行く前に話はかわり、個性と名前が一致せず感動の手前で読了。

  • 音楽に無知な自分にはちょっと難しい作品だった。
    ある少年の青春期の物語。

  •  シンプルなタイトルから、吹奏楽部を舞台にした煌めく青春ドラマを想像してしまうが、必ずしもそのような内容ではない。80年代初頭の高校吹奏楽部時代の回顧と、四半世紀が経った現在を行き来しながら語られるのは、癖のある部員たちと共に演奏することの楽しさや、当時の学生を取り巻く音楽の魅力(蘊蓄満載で面白い)、そして音楽から離れて日々の暮らしに精一杯な現在にあるきっかけで再結成する運びとなった部員たちの現在。津原さんの独特な、淡々とした語り口で、落ち着きつつもどこか可笑しくて、感傷的になりすぎずもどことなく哀愁を漂わせる雰囲気になっているように思う。
     当然ミステリーものではないが、結末はある意味予想外だった。

  • 中学高校の頃 感じたものをなんとなく思い出させてくれたような。楽器ほとんどやらないけどやる時の気持ちとか。まわりの男と女の子に関わる気持ちとか。そう なんとなく思い出させてくれたような。大人になってからのもどかしさとかも。ちょっとせつないです。

    そう ジョンレノン。確かに亡くなるまでは堅かったようなイメージ。スターティングオーバーのアルバムから急に神に祀り上げられたような。気にもかけてなかったのに。人材とタイミングってのも音楽には必然なのかも。

  • 津原 泰水の大ファン。
    なのに、リンダリンダリンダとかの流行に迎合した小説なんじゃねえの?
    と思い込んで、若干敬遠、積読していたのを、ようやく読む。
    自分の馬鹿。

    文学少年・軽音少年であり、ブラバン少年では決してなかった自分でも、
    共感的に楽しむことができた。

    とはいえ、村上春樹の「ノルウェイの森」が単純な青春小説ではないのと同意義で、
    この小説も多重構造、裏切りや謎、語り手による恣意的な隠匿、といったテーマを隠し持っている。
    それを次回は意識して読みたい。

    普通に読んでも面白いし、裏読みしても面白そう。

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ブラバン (新潮文庫)の作品紹介

一九八〇年、吹奏楽部に入った僕は、管楽器の群れの中でコントラバスを弾きはじめた。ともに曲をつくり上げる喜びを味わった。忘れられない男女がそこにいた。高校を卒業し、それぞれの道を歩んでゆくうち、いつしか四半世紀が経過していた-。ある日、再結成の話が持ち上がる。かつての仲間たちから、何人が集まってくれるのだろうか。ほろ苦く温かく奏でられる、永遠の青春組曲。

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