男どき女どき (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294049

感想・レビュー・書評

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  • 向田邦子文学忌 1929.11.28〜1981.8.22
    木槿忌 (むくげ) 山口瞳の向田邦子の死を受けての小説「木槿の花」より

    小説新潮で昭和56年7月から連載された短編4編とエッセイ

    最後の小説「嘘つき卵」
    不妊に悩む妻と、過去に別の女性を妊娠させたので自分に問題ないという夫。という話だけれど、この作品が最期の原稿となり、脱稿後、台湾旅行の飛行機事故で亡くなる。

    冒頭に
    時の間にも男時女時とてあるべし「風姿花伝」
    とあり、タイトルが世阿弥の能の理論書よりとられていることを知る。

    男時女時の言葉の成り立ちについては知らなかった。意味はざっくりと、男時が運が良い時。女時が悪い時ですが、世阿弥が陰陽説から考えた造語のようです。世の中のことは、全て陰陽に分けることができ、男女であれば、男が陽で女が陰となります。本来は、陰陽に優劣はないのですが、世阿弥は、能に良い時悪い時があり、因果が巡っているというような意味合いで使うようです。

    向田さんの短編は、シュッツとしてギュときてバチんって感じで好きです。このタイトルは連載時から使われていたようです。脚本家としてエッセイストとして小説家として(前回の新潮連載の思い出トランプで直木賞を受賞している)男時を過ごしてこられた方のあまりに不運な事故であったと思います。

    印象的な作品は「三角波」
    結婚を控えたカップル。夫は何かにつけて部下の男を呼びつけ世話をさせる。部下の様子に妻は、自分に好意があると思う。部下は結婚式を病気として欠席する。新居で夫婦で迎えた朝、庭に部下の姿を見つける。部下が愛していたのは、夫だった。で、ここからの1ページが良くて、たぶんこの状況をやり過ごしていく新婚夫婦。壊さなければ壊れない。これが一番好きでした。

    • おびのりさん
      こんばんは。
      コメントありがとうございます♪
      まずは、こちらから。
      私も、世阿弥のこの芸能の書物がある事は知っていたのですが、内容は知らず。...
      こんばんは。
      コメントありがとうございます♪
      まずは、こちらから。
      私も、世阿弥のこの芸能の書物がある事は知っていたのですが、内容は知らず。
      今回、本の最初のページに記載されていて、この言葉はここからきている事を知りました。そして、作り方がオシャレですよ。まさか陰陽説まで関係しているとは。
      向田さんの短編好きなので、読むだけでも良かったのに、豆知識まで得ることができました。
      2023/08/24
    • 傍らに珈琲を。さん
      1つの作品からアレを学び、コレと繋がり…って楽しいですよね。
      読書や音楽鑑賞は、このアレコレが訪れた時が楽しくて仕方ありません♪

      おびのり...
      1つの作品からアレを学び、コレと繋がり…って楽しいですよね。
      読書や音楽鑑賞は、このアレコレが訪れた時が楽しくて仕方ありません♪

      おびのりさん、作家さんの忌日をよくご存知でいらっしゃいますよね。
      それとも何かでチェックされているとか???
      私も、命日にはその方の作品を…と思っているのに、
      作家さんについては覚えていないので、いつもスルーしてしまいます。
      ジョン・レノンや忌野清志郎など音楽に関してはある程度覚えているので、
      その方の曲を聴いて偲んでいるのですが。
      2023/08/24
    • おびのりさん
      文学忌は、覚えてないので、調べます。
      今なら、Wikipediaにもあります。
      元々は、文学忌が俳句の季語に認められているのを知って、文学忌...
      文学忌は、覚えてないので、調べます。
      今なら、Wikipediaにもあります。
      元々は、文学忌が俳句の季語に認められているのを知って、文学忌を使った俳句を詠めたら、カッコよきだわと思いまして。そして、文学忌を覚えて、俳句に作品まで入れられたらと。それなら、読むのが一番良い。そしたら、読むのが楽しくなって、俳句の事は、置き去りになっています。
      2023/08/25
  • 高校生のとき、初めて向田邦子作品を読んだ。起承転結のしっかりした無駄のない構成で描かれる昭和の男女の喜怒哀楽に、子供ながら心を掴まれた。もっと色々彼女の作品に触れたいと思いながら…三十年が経ってしまった。
    短編小説にエッセイを加えた本書は、久々に読む向田作品として丁度良いかなと思い手に取ったのだが、自分自身が登場人物にほぼ近い世代になってから読むと、描かれる男女の心模様の生臭さにギョッとする。それでも決して不快ではなく、心がザワザワしながらも、もっと読みたいと思わせる展開の巧さ。ユーモアもペーソスもちょうどいい塩梅で、今更ながら向田作品のすごさに痺れるのであった。
    エッセイも切れ味鋭く、時にほのぼのするものもあり、昭和という時代が懐かしいなと思う一方で、人間の本質なんてそう変わらないのかなと感じさせるところもあり。薄くて一気に読める分量ではあったけど、その薄さに反し内容は濃くてバラエティに富んでいる一冊だなと実感した。これを機に向田作品を少しずつ読んでいきたいと思っている。

  • 晩年の小説とエッセイを収録した短編集。上品でしなやかな向田邦子の世界を堪能できる。「黄色い服」というエッセイでは、著者が幼き時を受けた厳しき父からの思い出である。洋服ひとつを選ぶのも「選択」なのだと。「選んだ以上、どんなことがあっても、取りかえを許さない。泣きごとも聞かない」「この頃になって、これは、洋服のことだけではないと気がついた」
    人生は選択の連続。泣きごとは許されないのだ。

  • 昭和50年代からの短編とエッセイ集。年月が経っていても不変な題材を扱っているからだろうか、読み易いし感情移入もしやすい。なにより言葉が簡潔で綺麗だから、無音状態で物語の世界に入れる。
    しょっぱなの「鮒」のラストで震撼させられ、「嘘つき卵」の女主人公の1人称語りで進む話の中、急に数字で夫婦の関係を示す一文があるのにゾっとした。女性が語りだと感情的な流れになるのにその中で急に数字、というのは冷静な狂気の片鱗といいましょうか、すごいな向田邦子氏は!と感心しきり。(わたし何様)
    エッセイは、凛とした佇まいの女性を想像させる小品ばかりで、こういうふうに年を取れたらと、なんだか安心しながら読んだ。
    1人の、ちゃんとした女性がかつていて、悩んで考えながらも書く仕事で身を立てて生きていた、ということが嬉しい。
    「日本の女」のこの感覚、あの時代にそんな矜持を持っていたことに尊敬です。「無口な手紙」「アンデルセン」も好きです。

  • ひとりの時間を背中を丸めてペタンと座ったり、だらしない恰好で町を
    歩いたりは、絶対にしないで生きているのだろう。
    彼女たちはどんなにくたびれても決してシルバーシートに腰をおろさないでしょう。
    ゆれる電車でつり革にもつかまらず、体のバランスをとる訓練をしながら、
    乗り合わせた人の表情や窓の外の景色を、ドン欲な目で観察しているでしょう。
    5年先、10年先もきっと同じでしょう。決して老いにつけ込まれず、老いに
    席をゆずろうとしないのです。悲観論者ではないということ。
    先のくとをくよくよしたところで、なるようにしかならないのです。
    飢え死にした死骸はころがっていないのですから、みんな何とか生きてゆけるのです。
    あの人みたいになりたい・ああなりたくはないという人を見つけておけと
    昔からいうじゃありませんか。


    独りを慎しむ
    ひとりでアパート住まいをはじめたら急激にお行儀が悪くなっているのです。
    煮物を鍋のまま食卓に出して箸をつけていました。
    転がる石はどこまでもということわざがあるそうです。
    お行儀だけのことではない精神の問題。
    誰が見ていなくても、独りでいても、慎むべきものは慎まなくてはいけないのです。
    闇の中でひとり顔をあからめる気持ちを亡くしたら、どんなにいいドレスを着て
    教養があっても人間としては失格でしょう。

  • 向田邦子は、やっぱり面白い。
    短編小説も、エッセイも皆良い。
    こんなに短い物語の中に人間の感情や心の動きを文章にさらりと乗せて、読む人をすぐに惹きつける力がある。しかも向田さんの心の温かさまで感じてしまう。
    エッセイも共感できる事ばかり。
    これを書かれた時の向田さんの年齢に自分が近い事もあるのでしょうが久しぶりに向田作品に触れるとその凄さを実感する。
    本当に今もご活躍していて欲しかったと心から思う。

  • 前半に短編集、後半にはエッセイ集。

  • 人の心の機微というか、社会もしくは家族といったいわゆるコミュニティーにおける人間の心の動きを細かく、リアルに描いている。そういう意味で面白い。
    登場するのはごく普通の人々。そういう人々にも、普通ではない出来事が訪れる。それは殺人事件が起こるとか、未知の能力が身に付くとか、そういう大事件ではない。平凡と言えば平凡な出来事だ。しかし当事者にとっては大事件だ。そういうものに出会ったときの人間の反応を、実に上手く描いている。

  • 高校生の時に向田邦子をたくさん読んだ

    今読み返してもまったく古さを感じない。
    人間描写、心理描写が深い。鱒と嘘つき卵に男女関係の奥深さを感じる
    今では使わなくなってしまった日本語も美しい
    どの短編もすみずみまで丁寧に生活の中の
    すれ違いや出会い、人が描かれている



    エッセイは襟を正される。

    一人を慎む。黄色い服。ゆでたまごがいい
    含羞というものがある。凛としている。

    無口な手紙は胸をつかれる思いがする。


    誰が見ていなくても、独りでいても慎むべきものは慎まないといけないもです。
    誰も見ていなかった、誰も気が付きはしなかったけれど、なんと
    恥ずかしい事をしたのか。闇の中でひとり顔をあからめる気持ちをなくしたら、どんなにいいドレスを着て教養があっても、
    人間としては失格でしょう。
    自分にむかって意見している。

  • 「反芻旅行」
    野球に限らず、反芻が一番たのしいと思うがね

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

向田邦子の作品

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