天国はまだ遠く (新潮文庫)

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著者 : 瀬尾まいこ
  • 新潮社 (2006年10月30日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101297712

天国はまだ遠く (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 仕事のストレスで体を壊し、
    死ぬことにした
    23歳の山田千鶴。

    山奥にある小さな民宿で自殺を図るが
    なぜか失敗に終わる。

    田舎町での毎日の中、
    自然のリズムが目覚め、
    いつしか千鶴は
    生きる気力を取り戻していく…。



    ふんわりと
    溶けるように柔らかい卵焼き。

    生臭くなくみずみずしい
    アジの干物の朝食。

    冷めてもおいしい
    おにぎりやサンドイッチ。

    味が濃厚で甘い、
    取れたてのお米で炊いたご飯。

    しっとりと美味しい
    沖ぎすの煮付け。

    塩を振って焼き、
    柚子を絞って食べる
    新鮮な鶏肉。

    噛むたびに匂いが広がる
    打ちたての蕎麦。

    恋人と食べた
    和菓子屋のみたらし団子。


    瀬尾さんの小説には欠かせない、
    沢山の食事シーンが教えてくれること。


    食事をすると、
    自分が生きていることが分かる。

    思い出も
    美味しく食べたものの記憶は
    何年経っても強烈に覚えている。


    食べることは
    すなわち生きることで、
    本来人間は
    食べることによって
    ストレスに耐えうる心と体を作ってきた。


    「食」は、人間にとって
    本当に大切な行為なんだなって、
    瀬尾さんの小説を読むと
    あらためて思い知らされます。



    耳さえ澄ませば
    いろんな自然の音が聞こえ、
    ゆったりとした時間が流れる田舎町で、

    優しい人々と触れ合い
    美味しいものを食べ、

    初めて釣りをし、

    満天の星空の中、
    吉幾三の雪國を大声で歌い、

    何度もカルチャーショックを受けて、
    次第に心癒やされていく千鶴。


    自分自身、
    旅をして暮らしてきたのでよく分かるけど、
    自分の居場所が
    ここにないことに気づく瞬間は、
    本当に切なくて悲しい。

    華やいだ季節も
    いつかは終わる。

    人は自分の足で
    歩き出さなきゃならない時が
    必ず来る。


    だからこそ
    人にはとどめたい思いがあって、

    人は忘れていく
    生き物だからこそ、
    忘れたくない思いがあるんだと思います(^_^)


    幸せって、
    起こっている出来事によって決まるわけではなく、
    受け取る側がその出来事を
    どう捉えるかの問題です。

    自分の欲望を知るには、
    人と出会う旅に出なくてはならないし、
    一度はあたたかい場所から
    飛び出さなきゃならない。


    「救世主」なんて
    どこにもいない。

    自分を助けられるのは、
    自分しかいないのだということを
    この小説を読むたびに思い知るのです。

  • 人生に疲れた千鶴は自殺をしようと旅に出る。
    辿り着いた先、民宿たむらで彼女はしばらく生活する事に。
    たくさんの自然、美味しい食事、そしていつもそばにいてくれた田村さん。
    彼女はそこで暮らし心地よさと迷いを感じていく。
    大雑把な田村さんの心は大きかった。
    ずっと千鶴の背中を押してあげていたのだろうな。
    絵を描く事で答えを見つけた千鶴。もう大丈夫!

    誰でも自分に自信をなくす時がある。
    そんな時は民宿たむらへ。
    「まあ、おいで」って田村さんがいつもと違う世界へ導いてくれる。
    そして、自分が思うほど自分はダメじゃないことに気づけるかも。

    最初は「男」だった書き方が「田村さん」になって、瀬尾さんうまいなと思った。
    千鶴の心の変化がわかると共に物語が暖かくなった。

    星がひとつ減ったのは、田村さんが飲酒運転をしていた事。
    法律云々でなく、両親を交通事故で亡くした田村さんならそんな事しないと思う。
    いくら辺鄙で不便だとしてもよくないと思った。

  • この作者のやわらかさが好きだったんだけれど、本作に関してはそのやわらかさが裏目に出たような気が。

    ひとことでまとめると、「打たれ弱いスイーツ(笑)女子が田舎で素朴さに触れて立ち直る物語」。
    物語の波形が、あまりにも揺れなさすぎる印象。
    これが心に沁みるとしたら、よほど世間を知らない人か、そうでなければ死にそうな人だ。

    自殺を決めて、「北へ行こう」「奥へ行こう」「端へ行こう」とする主人公。北はまだわかる。奥ってなんだ。端ってどこだ。
    しかも主人公ったら、電車で行って、降りた駅でタクシーを拾い、運転手さんにそのまま言っちゃう。「端に行ってください」「北へ向かってください」「奥に行きたいんです」
    「そやから北ってどこやねん」と返す運転手さんに激しく同意。

    でも、確かにこれは、ものすごくものすごく疲れている人には救いになるのかもしれない。
    レビューを書くためにぱらぱらとページをめくって今、そう思った。

    「あ、パン屋さんがある」
    「私、歯ブラシはブラシが小さいのじゃないと吐きそうになっちゃうんです」
    一度は自殺を決意した人間が、あんたそんな脳天気な……。
    けれど、そういうものなのかもしれない。逃げることを自分に許してさえしまえば、何もかもから救われるのかもしれない。
    この主人公からはちょっと残念な子のニオイがするけれど、本当に自殺を考えてしまうような人も、「ひょっとしたら案外自分もそんなものなのかも」と思ってくれたらいい。

    針が激しく振れない物語というのは、誰も傷つけない物語でもあるのかな、と思った。

  • 前略 新刊のお知らせは削除しました(笑)

    本題に戻ると、この「天国はまだ遠く」。
    自殺を決意した若いOLが、誰も知らない何処か遠くの町へ行くという設定なのだが、いとも簡単に失敗して「やはり、生きていこう」というお話。
    プロットとか、変な捻りとか一切なし。
    とても単純なストーリーなのだけれど、何故に彼女が書くと、ここまでしみじみ心に響いてくるのだろう。
    特にてらった表現があるわけでもない、素直な文章。
    やはり登場人物が優しい人ばかりだからかな。
    民宿の田村さんも、みかんをくれるおばあさんも、地域のおっさん、おばさんたちも。
    みんなあったかい。
    田村さんとの会話のキャッチボールも、とても面白くて楽しい。
    *「農業と漁業のバイリンガルや」というのが可笑しかった。
    ホントに彼女の作品には癒し効果があります。
    温泉にぬっくりつかっている気分というか、ヒーリングミュージックを聴いているというか、アロマオイルマッサージをしてもらっているというか。
    心休まる小説ばかりです。
    桜の樹の下で、春の陽射しを浴びながら、ゆったりした気分で読むには最適の書でした。

    ───ちなみに昨日は、『千鳥が淵』に桜を観に行って来ました。
    満開一歩手前の八部咲き程度でしたが、それでも綺麗でしたね。
    人出がまたすごかった。
    去年は震災の影響もあり、自粛ムードでそれほど混雑していなかった記憶があるのですが、その分、今年は弾けたみたいで。
    日本武道館への入り口から外堀周辺は、歩行者の交通規制まで敷かれていました。
    しかも武道館では某大学の入学式。
    晴れの入学式に遅刻した方もいたのではないでしょうか。
    他人事ながら、少し心配になった私です。

  • 重いお話かなと思っていたのですが、
    読んだ後は ほのぼのとして心が温かくなります。

    生きること、死ぬことを考えさせられるのですが、
    読むのが辛いとかは なかったです。

    一度は死と向き合った主人公が、
    やさしくて楽しい日々を過ごしながら立ちなおっていくお話。

    「毎日辛くて息が詰りそう」
    こういう経験のある人は多いと思う。
    そんな時にこの本を読んでみると、心が軽くなると思います。

    ものすごく落ち込んだり 悩んでいることがあって、
    でも ある時ささいなことで ふっと軽くなる感じ。

    誰かのちょっとした一言や、本の文章、映画やドラマ。
    好きな音楽や楽しいひとときに出会った時。
    時間の経過。

    なんであんな事であんなに悩んでいたのだろうと、
    前向きに変わった時のような爽快感を感じられるお話です。

    主人公の過ごした民宿が あまりに心地よくて、
    読み終わるのが残念な気がしました。

    お話の終わりに、主人公は前に進んでいく。

    それが大事なことだけど。。。

    私なら その心地よい場所にとどまってしまうかもしれないなぁ。


    疲れた時に読みたい本。

    映画「めがね」を見た後の感じと、
    少し似ているなぁと思いました。

  • 上手くいかないことばかりで、いっぱいいっぱいの日常。
    なんだか体の調子も悪いし、もう、むりだ。

    追い詰められた気持ちでいっぱいの千鶴は、とうとう死ぬことを決意する。


    人が死にたいと思うとき、多くの場合は「死にたい」のではなく、「もう生きていたくない」「これ以上は無理だ」といった、現実からの離脱を望んでいる気がします。
    というのも、上手くいかない現実に対して、対応しうる術が思いつかない、あるいは、絶望しかないと感じてしまうから。

    千鶴が行き詰まった主な原因は、職場での人間関係。
    職場にいる時間は、1日の1/3を占めるし、影響力が大きいですよね。


    辿りついた山奥の民宿にいる「田村さん」や、自然との触れ合いの中で、少しずつ生きる力を取り戻していく様子がとてもリアルだなぁと思っていたら、一部著者の実体験も含まれていたんですね。

    読み終わった後はふっと心が楽になります。気持ちいい風が吹いた後みたいな清々しさ。
    心が疲れたとき、豊かな自然や温かな人との触れ合いほど心に染み入るものはないですね。

  • 合わない保険の営業の仕事に失敗続き。
    上司の怒り、同僚の嫌味。
    どんどん追い詰められて、もう逝くしかない。
    辞表を出して、部屋を整理して一晩分の荷物を持って北へ向かった千鶴。
    日本海の暗い海と暗い空なら決行できる。
    行き着いたのは木屋谷という閑散とした山間の集落だった。

    こう書くと、重い始まり方なんだけど、千鶴がどこか惚けていて、切羽詰まった感があまり感じられない。
    電車を降りてみたら賑やかな駅前に戸惑い、とりあえず飛び乗ったタクシーでは運転手に当惑され。
    でも、なんとか決行したものの。

    どうにもならない。
    身動きができない。
    そんな気持ちになった時に、全てを一度リセットして、こんな時間を持つのは簡単なようで難しい。
    でも決行すべきだな。
    諦めるのはまだ早い。

    千鶴を見守る田村さんや散歩で行き合う近所の人たち。山間の自然、海。
    田村さんじゃないけど、千鶴の印象がどんどん変わっていく。
    環境のせいだけではない気がするけど。

    「ミスチルでもビートルズでも、なんや世界平和が大事で、人は人を傷つけるけど、愛することは素晴らしい。ってな感じのことを歌っとるんやろ」
    「それ以外のことやったら、いちいち歌わんでもええやん。どのみち世の中ラブアンドピースやったらええんやろ。ラブアンドピース以外のことが聴きたかったら、吉幾三を聴けばええ。それ以外のことは吉幾三がみんな歌ってくれとるから」

  • 薄いこともあって、1日で一気に読み切ってしまった本。
    ただ生き残っていれば楽しいこともあるけど、逃げてるだけではダメ。そういう大事なことを学べた気がします。

  • 久々に再読したけど、やっぱり良かった〜
    緊張と緩和が絶妙でおもわず笑える。
    ほのぼのした休暇を一緒に体感した気分になれるから
    疲れている人にオススメです。
    地に足がついてる村の人たちの生き方はシンプルでブレがない。
    自分も多分、そうはなれないけれど。

  • タクシーの運転手に告げた行先は、「できるだけ端に行ってください」、「北の方へ」
    「はっきりゆうてくれ」と運転手に言われつつも着いた場所は『民宿たむら』。
    自殺のために「端っこ」と「北」を目指した千鶴。
    あえなくその目論見は失敗に終わり・・・

    わっ、ちょっと重たい内容になるの?とおそるおそる読み進めると・・・
    途中で思わず「プッ」と声を出して笑ってしまう場面があったり。
    『民宿たむら』での暮らしは千鶴にとって自分の居場所を見つける時間になっていく。
    文庫180ページほどの分量なのでさらさら~と読めて、すっと心に染み込んでくる。

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