- Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101297712
感想・レビュー・書評
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R3.9.8 読了。
都会の暮らしや人間関係に疲れて訪れた山奥の民宿。広大な自然に囲まれて心身ともに健康を取り戻していく。野菜や魚や食肉の有難さや美味しさにも気づかされる主人公。民宿を営む田村さんのおおらかで温かい人柄にも救われた。
そして、どんな生き方をするのかも考えさせられました。
心が疲れたら、自然の豊かな民宿に連泊して英気を養うのもいいかもしれない。
・「(卵やフライドチキンは好きなんですけど、鶏の頭とか首についてる赤いビロビロがちょっと気持ち悪くて。)なんやそれ。それって外見で人を判断するのと一緒や。」
・「何十年かけても変わらないこともあるけど、きっかけさえあれば、気持ちも身体もいとも簡単に変化する。それにもっと敏感に対応していかないといけない。」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
このタイトルが目に留まった私には、心が和む一冊でした。冒頭からの怪しい雲行き、なのにそう感じさせないやさしい文体の空気。
絶望の淵に立たされた千鶴は、山奥の村へ来て最期を迎えようとする。土地で出会った、民宿の田村さん、村の人々との触れ合い、のどかな自然に囲まれた静かな生活。千鶴は20日余りの体験で癒され、自分らしく生きる基本を掴んでゆく。千鶴、本当はとても芯のある強い人だ、ラストにそう読み取れてよかった。
打ちのめされどうにも立ち上がれないときは、他所の空気を吸う、何気ない景色を見、時に現実逃避も良し。美味しい食べ物でお腹を満たし、誰かと些細な会話の交流も良し。心と体を癒し、エネルギーを蓄えることが大切。わかっているのだけど中々思うように出来ないですが・・。無理のない程度に胸に刻みます。
居場所を変えても良し、本来の場所で覚悟を決めても良し。最終的に自分の居場所を決めるのは自分自身である。どんなことがあっても命を粗末にしてはいけない。 -
どこかて読んだ気がする。
どこか似たような経験をした気がする。
海の美しさや星の美しさ
木々のささやき
目の前で鶏をしめる光景の非日常。
そんな凪のような瞬間は
いつまでも続かない。
別れは寂しい。
でも進むものは別れなければならない。
彼女がいわゆる都会的な社会復帰できるかどうか、
それはわからない。
ただ今までと違う時間と空気と
人の温もりが彼女の身体の中に入った。
神さまの近くにいた彼女は
讃美歌が染みた。
自分の居場所。
それがどこか長年生きていても
なかなかわからない。
ここじゃないと動き出した彼女は
きっとしなやかに強く
生きていく気がする。
田村さんにも幸あれ。
でないとさびしすぎる。
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仕事と人間関係に疲れ果てた23歳のOL千鶴が、死ぬことを決意して辿り着いたのは、北の山奥の民宿。
「民宿たむら」の田村さんと過ごした21日間の穏やかで濃密な出来事に、なんだかほのぼのとしてしまう。
大自然に囲まれた日々、おいしい食事と健やかな眠りに、千鶴は身も心も癒されていく。
あとがきを読んで、この物語は瀬尾さん自身が丹後地方の中学に勤務していた時の体験をもとに書かれたということを知りました。
田舎での大らかで温かい生活は、永遠の憧れのように思える。
2人の生活がこのままずっと続いてほしいような気もするけれど、自分の日常をしっかり作らなくてはいけないということに気づいた千鶴にエールを送りたい。
そして、私たちが生き物の命をいただいて生きているということに気づき、感謝したいと思います。 -
人生に疲れた千鶴は自殺をしようと旅に出る。
辿り着いた先、民宿たむらで彼女はしばらく生活する事に。
たくさんの自然、美味しい食事、そしていつもそばにいてくれた田村さん。
彼女はそこで暮らし心地よさと迷いを感じていく。
大雑把な田村さんの心は大きかった。
ずっと千鶴の背中を押してあげていたのだろうな。
絵を描く事で答えを見つけた千鶴。もう大丈夫!
誰でも自分に自信をなくす時がある。
そんな時は民宿たむらへ。
「まあ、おいで」って田村さんがいつもと違う世界へ導いてくれる。
そして、自分が思うほど自分はダメじゃないことに気づけるかも。
最初は「男」だった書き方が「田村さん」になって、瀬尾さんうまいなと思った。
千鶴の心の変化がわかると共に物語が暖かくなった。
星がひとつ減ったのは、田村さんが飲酒運転をしていた事。
法律云々でなく、両親を交通事故で亡くした田村さんならそんな事しないと思う。
いくら辺鄙で不便だとしてもよくないと思った。 -
人の居場所について考えさせられた。
本書によって、自分の本当の居場所を再確認できた。今いる場所。自分を必要としてくれる人がいて、自分にしかできないことが沢山ある。民宿の田村さんのように。
輝かしく見える所でも、何かが違うと気づくことがある。地味でもいい。人の役に立っているという手ごたえがある場所。そこがその人にとって最高の居場所なのだと思う。
民宿たむらは、人を一歩前進させてくれる素敵な所だと思った。
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色んなものを投げ出して遠くに行ってみたい気持ちになった。実際にはそんなことはできないけど、代わりにこの本を読んですっきりほっこりした。
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【天国はまだ遠く】読後、改めてこのタイトルを噛み締めると、絶妙なタイトルだな、と心に沁みる。
『なんとかなる。適当に流しておけばいい。きっと大丈夫。』『このくらいのこと、ちっともたいしたことはない。笑っておけばいいんだ』『そうやって自分に暗示をかけないと、動けなくなっていた』
千鶴が、そうやって、自分で自分に発破をかけ、心も身体も疲れたと、体には様々な症状が出て悲鳴をあげているのに、それでもまだ、自分の弱さや体の不調を自己嫌悪して追い詰められる感じ、分かりすぎて胸が痛かった。
でも、睡眠薬での自殺に失敗した。
そして、自殺する為に訪れた山奥の民宿で、自然とおいしい食べ物と、田村や集落の人達に触れ、生きる力を取り戻していくのだ。
そう。そうでなければ、遠いのは『天国』では無かっただろう。
しかし、この物語の素敵なところは、千鶴が救われた田舎で田舎暮らしをすること、田村を好きになって田村と暮らしていくことではなく、
そんなに力をくれた集落であっても、自分の居場所ではないと感じ、離れることを決意すること。
千鶴。田村さんの言う通り、きっと本来の千鶴は、率直で気楽なんだ。ゆっくり自分の生きる場所を取り戻して!