そして殺人者は野に放たれる (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101300511

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  • 古本で購入。

    「1.心神喪失者の行為は、罰しない。2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」(刑法39条)
    「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは3年以上の懲役に処する」(同199条)

    この2つの法、特に前者の39条をもって著者が指摘するのは、
    「日本は真の意味での近代的法治国家ではない」
    という、恐るべき実態である。

    精神鑑定という茶番により「責任能力なし」と見なされ起訴すらされない、つまり無罪放免となる凶悪事件が後を絶たない。
    「事件当時にいかなる精神状態であったか」というフィクション、しかも犯人の「わけがわからなくなった」「殺せという声が聞こえた」などという戯言により、「精神障害」の免罪符を与えるのである。

    仮に起訴されたところで、「心神喪失=責任能力なし=無罪」を訴える弁護側と、「正常=責任能力あり=有罪」を訴える検察側の折衷案として、「心神耗弱=減軽」の判決が下される。もちろん、弁護側の主張が通って無罪になることも頻繁に起きる。
    精神鑑定を行う精神医学者も検察も弁護士も裁判官も、39条という時代錯誤の法令の前に思考停止し、ヒューマニズムの欠片もない、流れ作業の如き処理がなされる。そこには被害者とその遺族に対する配慮など毛ほどもない。
    「犯人は事件当時、心神喪失であったため無罪」と結論付けられ、事件そのものが「なかったこと」にされる。結果、犯人に殺された者は“勝手に”死んだことにされるのだ。
    そんな馬鹿げたことがあるだろうか。

    世界一犯罪者に優しく量刑が最も軽い国、日本。
    犯罪者人格の殺人者が何の治療処遇も受けぬまま、今日も野に放たれる。

    これほど胸糞の悪くなる本は読んだことがない。
    「国民感情」という(良くも悪くも)「常識」から著しく乖離した、司法関係者の感性に怒りを覚える。引用される精神鑑定人の文章など、そのあまりの愚かさに吐き気すら感じる。
    理不尽極まりなく人の命を奪った者がのうのうと生きているとはどういうことだ。本当に死ぬべき人間はそいつらじゃないのか。

    この著者の本は初めて読んだが、信頼できるルポライターだと感じた。
    日本の抱えるひとつの問題点を知る上で、読んでおくべき本。

  • 日垣隆の『そして殺人者は野に放たれる』、読了。数年前に映画『39-刑法第三十九条』を見た際に、心神喪失者の犯罪を罰しないことを規定した刑法第39条に反駁するには、この法律が心神喪失者を守っているのではなく、むしろ「異常」という概念を持って逆に差別しているのではないかという論点を持ってしかあり得ないのかという思い(と個人的には諦念)を持ったのだが、この本を持ってもやはりそういう印象。人権派(というものが実在すると仮定して)に対してこの法律の廃止を求めて戦っていくには否応なしに相手側のフィールドに乗らないといけないのかと思うとなんか違う気がするんだよな。被害者感情とか、別のフィールドで勝負しないとなかなか苦しいのではないかという気がする。うまく言えないのがもどかしいが、そんな印象。いずれにせよ、この本は一読の甲斐はあります。

  • 殺人を犯しても精神がやんでると思わせることができれば、刑が軽くなるどころか無罪放免となり何もなかったように生活することができる。被害者遺族無視の法律。

  • 刑法第39条「.心神喪失者の行為は罰しない。心身耗弱者の行為はその刑を減軽する。」を徹底的に批判した著作。タイトルからして随分攻撃的。
    しかし、アルコールや薬物の過剰摂取により心神喪失・心身耗弱の状態で行われた犯行に対し、39条が適用され減刑の対象になってきた事。また鑑定人が公正さを欠く(誰を鑑定人とするかで事実上結果も決まってしまう)、という現実は驚き。

  • 必読。

    詳しくは日記をご参照いただきたい↓
    http://otokita.seesaa.net/article/46580882.html


    刑法の、三十九条の、
    司法の、日本の不条理。

    殺人者は。そして、被害者は…

  • 刑法第39条の「心神喪失」「心神耗弱」の乱発により、常人には理解できない犯罪が不起訴/無罪/減軽となり、犯罪者はすぐさま娑婆に帰ってくる。2人殺せば死刑だが、5人殺すのは「異常」だから「心神喪失」で「無罪」になる。 また、アルコールや覚醒剤の摂取後の犯罪も、なぜか「心神喪失(耗弱)」が適用され、減軽される。常識的感覚では刑が重くなるはずなのに、日本では軽くなってしまう! この「異常」な「法治国家」日本の問題点を鋭く抉る日垣隆の秀逸なリポート。第3回新潮ドキュメント賞受賞作品。

  • 常におかしいと思っていながら、一般人にはどうにもならない問題である、「重罪を犯した人間が、『心神喪失』あるいは『心神耗弱』を認められ、刑が減軽されたり、無罪になったりすること」について、多くの事例を挙げながら具体的に踏み込んで検証している、日本のタブーに挑戦した快著。

    本書を読んで初めて知ったのだが、検察は起訴前に被疑者の精神鑑定(本来は違法であるそうだ)を行い、心神喪失が認められそうだと判断した場合、被疑者を不起訴とするそうで、その数は年間数百例に上るという。しかも、中にはきわめて残忍で凶悪な殺人犯も多く含まれているというのである。このような事態が起こる理由は、なんと起訴した事件について無罪判決が出たとき、担当検事の出世に響くから、ということだというからあきれる。そのようなくだらない理由で犯罪被害者の人権を踏みにじり、時には命までも奪った者を何のお咎めもなしで世の中に返しているのである。この点で司法は社会秩序を守るためのその機能をまったく果たしておらず、また、加害者の「裁判を受ける権利」すら認めていないことを著者は激しく指弾する。

    さて、心神喪失、心神耗弱と認められる状態についてであるが、知的障害、精神障害等が当てはまるものであるということは一般に認知されているところである。ところが驚くべきことに、日本においては心神喪失状態を、加害者自らが招くような積極的な行為、覚せい剤の使用や飲酒による酩酊状態についても認めているというのである。さらに、例えば5人を殺した殺人者について、裁判所が「5人も殺す合理的理由が考えられない」と判断すると「理解不能な犯罪を犯したのであるから、犯行当時は心神喪失状態であった可能性が否定できない」などという、その言こそ理解不能な判断をされるという。まったく恐ろしい国に生まれたものだと、背筋が寒くなる思いがする。

    著者はこうした問題を、犯罪加害者の処遇施設が刑務所しかないところに帰結させて考えている。つまり、責任能力がないと判断され、しかし重大な犯罪を犯した者を例えば医療福祉的なアプローチから矯正、処遇できる施設がないということである。そのために、「殺人者は野に放たれ」てしまうのであると。

    殺人とは被害者の人権を最大限に踏みにじる行為であるから、人を殺した人間には、基本的に人権はないと私は考えている。昨今増えている言われる老老介護や認認介護などといったような特別な事情がない限り、人を殺す人間は障害があろうとなかろうと、社会において危険分子にほかならない。重罰主義が一部の人権派知識人によって非難される風潮もあるが、彼ら知識人が、例えば通り魔殺人の被害者家族となったら同じことが言えるだろうか。

    著者は精神障害者を兄に持ち、弟は少年事件によって不条理に殺害されている。まさに、この点においてただのインテリではなく、精神障害者家族として、また犯罪被害者家族としての当事者そのものなのである。当事者の言葉は重い。本書中でも紹介されているように、世界的にみても異質な日本の刑法は、即刻改められるべきであろう。もちろん、多角的な議論は必要となる。別の角度から障害者の犯罪について考えられている『累犯障害者―獄の中の不条理』(山本譲司著)なども合わせて読まれたい。

    私も一国民として、また人の親として、安心・安全に暮らせる国を願う一人である。

  • 重い刑法ってどうなってるの?難しそう、よくわからない…という方に!!
    提起された問題を通じて、殺人や強姦などの刑罰の仕組みについて、知ることができます。

    …悲しいことに、それらがどれほどアバウトなものであるかということを!

  • 刑法36条なくそうず

  • ズシリ、と重たい。
    それは著者の思いだけでなく、取材を重ねた中で得た事実にある当事者の現実や歴史があるからだ。

    感情的にならずに淡々と書いて欲しいとは思わない。
    冷静に整理しても僕には理解できないかもしれないから。
    そんな冷静さは出来損ないの法律で十分だ。

    被害者の悲痛な思いよりも、加害者の息づかいが静かに伝わってくる。それは何よりも知っておくべき現実なのだ。

著者プロフィール

1958年、長野県に生まれる。東北大学法学部卒業後、販売、配送、書籍の編集、コピーライターを経て87年より作家・ジャーナリスト。著書には、『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫、新潮ドキュメント賞受賞)、『世間のウソ』(新潮新書)、『ラクをしないと成果は出ない』(だいわ文庫)、『情報への作法』(講談社+α文庫)など多数。

「2011年 『つながる読書術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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