下山事件(シモヤマ・ケース) (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101300719

作品紹介・あらすじ

下山事件。昭和24年7月5日、日本橋三越から忽然と姿を消した初代国鉄総裁下山定則が、翌日未明常磐線の線路上で轢断死体となって発見された。自殺か?他殺か?戦後最大の怪事件の謎は、50年後のいまも解かれぬまま、関係者は鬼籍に入っていく-ある人物から得た重大な新情報。著者の迷宮への彷徨が始まった。生き残った関係者を探し、その記憶を辿る。真実はどこにあるのか。

感想・レビュー・書評

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  • 本書を読み終えたのは2023年6月26日の深夜。まだ6月だというのに蒸し暑い。下山事件が起きたのは1949年(昭和24年)7月6日の未明。今夜のような蒸し暑い夜だったかもしれない。
    本書は下山事件の真犯人を明らかにするような内容ではない。この闇を覗くことで、日本という国の暗部を見極めたい。この闇に見えるものが、そのまま現代にも通じていることを確かめたい。そんな衝動と葛藤をそのまま描き込んだのが本書なのだ。
    アメリカが描くシナリオ。その通りに事を進め、予定通りにうやむやになったこの事件。大衆をコントロールさせたら、アメリカ人の右に出る者はいないだろう。そのアメリカの傘の下で日本は経済的に成長した。
    佐野眞一(1947-2022)の解説も秀逸である。

  • 1949年、当時設立されたばかりの国鉄総裁の下山氏が電車に轢かれて死亡した。自殺として処理された下山氏の死には不自然な点が多く、昭和のミステリーの一つとして、過去様々な調査が行われ、複数の検証書籍が出版されている。本書も下山ケースの謎を解くべく、テレビ番組ディレクター出身のジャーナリスト、森達也氏が真相解明を試みる。
    50年以上前に起こった事件とはいえ、一部の当事者は存命で、不名誉を危惧する人もいた。はっきり言って、こういうことに首を突っ込むことは、命を危険にさらしているともいえる。森氏の使命感を強く感じる。よくこんな古い事件を調べたと思う。文章構成もさすがで、引き込まれる。
    内容が内容だけに、批判する書評も多いが、私はこの本はすごいと思った。特に後半は、本を閉じることができないほどのめりこんだ。当事者の名前がたくさん出てくるので、一気に読んだほうがいい。下山氏が自殺ではなく殺されたのだとしたら、誰がどうして殺したのか。戦後すぐの時代なので、GHQの思惑や、共産党と右翼の闘いの歴史とも重なる。
    下山氏が気の毒でならない。著者は結論は読者に任せる形にはしているが、本書を読んだ人には答えがはっきりわかるようになっている。今日の日本の繁栄は下山事件があったからなのか?その問いへの答えは私には出せなかったけれども。

  • 下山事件についての新事実や結論を期待していたわけではありませんが非常に残念な一冊でした。

    著者の森さんは「他殺」の観点から書いているのですが、終始ごたごたしており事件について向き合って動いているように思えませんでした。
    ずーーーっと言い訳。そして結局、宙ぶらりんのまま終わり。

    本の中で指摘している他の下山事件本の著者本についてとの差異は読んでいないので何とも言えません。
    でもブログなどのSNSよりも修正しにくい「本」という媒体で批判めいたことを書いていてよいのでしょうか?

    下山事件自体の情報も雑誌や文献などの引用ばかり。
    当事者やそれに近い人のインタビューはほとんど少ないです。がっかり。
    事実か思い違いかは別にしてもこの本を書いた意味がわからないほどオリジナリティがない。
    このことに気づいてから読むのが苦痛でした。意地で読んだけど。

  • 1949年7月5日、初代国鉄総裁・下山定則が出勤途中に行方不明となり、翌6日未明常磐線五反野ガード下の線路上で轢死体となって発見された。
    通称「下山事件」である。
    戦後のこの時代のことを、ほとんど何も知らない。
    自分が生まれていないどころか、親たちですらこの世に存在していない。
    日本国でありながら、国旗である「日の丸」の掲揚が許されない時代があったことなど、まったく知らなかった。
    同様に、当時の政治事情やアメリカとの微妙な関係についても何も知らない。
    松本清張さんがこの時代のことを「日本の黒い霧」に書いているらしいが、残念ながら読んだことはない。
    政治犯の釈放に合わせた共産主義容認の流れ。
    組織化し強大な力を持ちつつあった組合への対策。
    相次ぐ鉄道関連事故の発生により、メディアを含む世論は一斉に共産主義=怖ろしいという考えに傾いていく。
    作品の中に登場する多くの固有名詞。
    私ですら知っている有名な名前をあれば、たぶん知る人ぞ知るといった名前も登場しているようだ。
    事件の背景にある見えない力を恐れ、文字通り墓場まで秘密を抱えて逝った人も多いのだろう。
    何が真実なのか。結論は出ないまま作品は終わっている。
    丁寧な取材で掴んだ多くの証言。
    個々に見えていたものの後ろに隠されていた意外な繋がり。
    戦後とは想像もつかないほど混沌とした時代だったのだろう。
    その裏で誰が何のためにどんなことをしていたのか。
    確かなことは、その時代があったからこそ今の日本があるということだけだ。
    「下山事件」は「三鷹事件」「松川事件」と共に語られることが多いらしい。
    三つを総称して「国鉄三大ミステリー事件」と呼ばれている。

  • 1949年7月6日、初代国鉄総裁の下山定則は、国鉄常磐線の北千住-綾瀬間の線路上で轢断死体となつて発見されました。下山事件を説明すれば、たつたこれだけでありますが、現在に至るまで謎に包まれ、多くの捜査関係者やジャアナリストたちがその真相を突き止めんと、血眼になつた事件であります。
    さらに続く7月15日には三鷹事件、8月17日に松川事件が相次いで発生しましたが、いづれも未解決のまま現在に至つてをります。これら三事件を、国鉄三大事件などと称し、戦後間もない不安定な世相の中、人々を不安に陥れたさうです。

    さて下山事件。本書『下山事件(シモヤマ・ケース)』の著者・森達也氏は、映画監督の井筒和幸氏に「彼」を紹介されたところから、この事件に関つてゆくことになります。その後の森氏の苦難を思へば、井筒監督も罪なことをしました。「彼」とは、親戚が下山事件に関つたといふジャアナリストらしい(最後に正体は明らかにしてゐます)。森氏のほかに、その「彼」、斎藤茂男氏、週刊朝日の諸永裕司氏らが共同でこの事件を追ふ形になりました。しかし、「彼」も諸永氏も「下山病に感染(斎藤氏)」してしまひ、森氏を取り巻く雰囲気は俄かにきな臭くなつて参りました......これが、後に捏造騒ぎなどの問題の遠因になるのでせう。

    森氏は映像(ドキュメンタリー)が本職のせいか、その著書も一般のノンフィクションと違ひ、時系列で事件を再現する形式ではありません。取材対象を詳しく描写し、その息遣ひまで伝へんとするかのやうです。インタヴューする森氏自身の葛藤、逡巡、焦燥といつたものまで隠しません。
    読者は、新事実からどのやうな真相究明がなされたかを期待すると、当てが外れるかも知れません。しかし著者は「客観的な事実ではなく、主観的な真実を掴んだという自信がある」さうです。そして下山病のワクチンは見つけたつもりだけれど治すつもりはない、とも。それどころかこのウィルスを撒き散らして、多くの人に感染させたいらしい。迷走する取材活動の中で、最終的に辿り着いた本書の「目的」なのでせう。

    今さらながら、発表メディアの影響力いかんで、「ノンフィクション」の内容が如何様にも変化することを、森達也氏から教はつた気分です。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-675.html

  • なんだかごたごたしたいきさつがあったみたいですね。そのごたごた自体は、一方の言い分だけを聞いてどうこう言うことはできないので、なんとも言えません。
    ただ、この本についてだけを純粋に言うなら、下山事件に関する本ではなく、下山事件を調べようとして結局ごたごたしてしまったということを書いた本としか思えませんでした。

  • 下山事件の真相そのものではなく、真相に迫る過程を描いたドキュメント。新たな事実、真相が描かれている訳ではないのに著者の高揚感だけが伝わり、読み手からすると興醒めする作品だった。下山事件の真相を描いた作品は松本清張の『日本の黒い霧』、矢田喜美雄の『謀殺 下山事件』、柴田哲孝『下山事件 最後の証言』と面白い作品が多数あるのだが、この作品は余り面白いとは思えなかった。

  • 古本で購入。
    ノンフィクションが読みたかったので。

    昭和24年(1949)7月6日、常磐線五反野ガード下で初代国鉄総裁下山定則が轢死体で発見された下山事件。
    この戦後最大のミステリーとも言える事件について読むのは、松本清張『日本の黒い霧』を読んで以来2度目。
    かつて大学に向かう常磐線の中、しかもちょうど轢断現場の辺りで下山事件のくだりを読んでいた、というしょうもない理由で興味を持ち続けていた。

    本書の話は、祖父が下山事件実行犯かもしれないという男(作中では『彼』)に、著者の森が出会うところから始まります。

    ただまぁ、結論から言えばガッカリ本ですよコレは。

    まず内容自体が他人の著書や報告書のコピペのよう。
    森による新見地ってのはあまりない。取材で得られた新たな材料の組み立てを試みていないところに不満が残る。

    それから、取材を進める中で森が周囲とゴタゴタを起こして、一々その経過なり状況なりが描写されるのが不快。
    何がしたい作品なのかいまいちよくわからなくなってる気がするんだな。

    これは僕の求める「ノンフィクション」でも「ルポルタージュ」でもなかった。
    もっと骨太の本だと思ったんだけど。

    読んでいて森の迷走ぶりばかりが目に付く。
    何より
    「要するに事実を暴くことは、僕にとっての最終的な目的ではない。知った事実を素材にして、そこから何を自分が感知するのかが重要なのだ」
    というスタンスが僕に合わなかった。

    つまり森は、いわゆる「アーティスト」なんだと思う。
    この人はジャーナリストではない。
    雑誌連載の文章の一人称を「僕」にすることに拘るところからも、それはわかる。
    事件に対して主観で臨んでるわけだ。
    そのフィルターはノンフィクションには要らんよ。

    「文庫版のための付記」にもあったしネットで少し調べたりもしたが、森は重大な過ちを犯している。
    証言の捏造だ。
    この付記でいろいろ書いているが、正直言い訳にすらなってない。
    「読者に謝罪しなければならなかったがその機会がなかった」
    と言うけど、ホームページ持ってんだよね。
    全体に自己正当化、自分は被害者であり加害者でもある的な逃げのにおいがする。

    下山事件に興味がある人は、松本清張『日本の黒い霧』か、矢田喜美雄『謀殺 下山事件』(僕も未読だけど)を読むのがいいのかも知れない。

  • 国鉄三大ミステリーの1つ下山事件を追った作品。タイトルが「シモヤマ・ケース」となっているが、この事件を挟んだ途中から著者の葛藤がメインに、ジャーナリストの苦悩などになり、自分は入り込めなかった。

  • まずは作者の付記を先に読むことをお勧めします。
    この本で語られる「彼」こと柴田が自著でこの本のことを非難していると言うことは、予め知っておいた方が良いし、それについて作者がどう考えているかも知った上で、この本は読まれるべきでしょう。
    個人的には作者の書いていることにまったく共感できないし、今後、この作家の本を読むことがあっても何らかのバイアスを書けて読むことになるんだろうと思いますが。
    大事な本編の内容についても、タイトルの下山事件がどうこうというより、下山事件を追っている自分を観て、と言われているような印象。
    面白くないとは言わないけど、要注意の一冊。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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