- Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101302560
作品紹介・あらすじ
男ぐるいの女がひとり、死の床についている。その名は艶。夫・松生は、かつて妻子を捨て艶と出奔したのだった。艶の危篤を、彼女が関係した男たちへ告げずにはいられない松生。だがその報せは、彼らの妻、娘、恋人、愛人たちに予期せぬ波紋を広げてゆく。平穏な人生に突然割り込んできた女の存在によって、見知った男が別の顔を見せはじめる。一筋縄ではいかない男女の関係を描く恋愛長編。
感想・レビュー・書評
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現実にありそうな話で引き込まれた。艶に巻き込まれた人達の人生は大変になったけど何故か心底憎めない。
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井上荒野祭り。本人に語らせずに関わった人間たちの口を借りて艶というその人物を描くってこの手法は、「悪女について」かあるいは「横道世之介」か?と思って読み進めたけど、そこは井上荒野だわ。直接的な描写はほとんどせずに、読者に想像をさせつつ艶って女性を描こうと物語は進んでいくし、それぞれ単体で短編として見てもそこそこ成立してる。読み終えても、艶ってどんないい女だったんだろう、悪い女だったんだろう、って思いが残るのは作者の思う壺か。しかし井上荒野が描く中年女性にはすごくリアリティを感じるのに、彼女が描く若い女性にはあまりそれを感じないのは何故なんだろう。読んでる自分が中年だからなのか。
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2020 1/7
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978-4-10-130256-0 330p 2012.12.1 ?
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オムニバス形式ものが好きなので、みんなが直接でなくとも艶につながっているのが面白かった。
ラストだけ松尾(男)の話。もうただの執着というか…。こういう人っているな。映画も見てみたい。 -
次から次に男を翻弄する女、艶。彼女が死の淵に立たされたとき、夫は艶と関わった男たちにそれを知らせようとする。男たち目線ではなく、男の周りの女たちの目線で物語がすすんでいったのが印象的。艶目線では一言も物語は語られてないのに、艶にすごい存在感を感じたのは筆者の文章力なのかも。夫、松生の章ではどんな情念が語られるのかと思ったけど本人は至って淡々と忙しい日々に流されるように生きていて、はたから見れば波乱万丈な人生も本人たちからすると意外と淡々と日々が流れていってるのかもと思わされた。
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行間を読むことに慣れてない自分には、はじめは女性がただただ怖い生き物にしか感じない小説だった。
ただ最後まで読むと印象が一変する。涙が出てきさえする、そんな人間味溢れる一冊だ。
こんなに息が詰まる本は初めて読んだ。ただ、また数年後に読んでみたいと思う本だ。 -
島の病院で死んでいきつつある「男ぐるい」の女、艶。彼女とかつて関係をもっていた男たち、ではなく、彼らの妻や恋人たちの視点から、死にゆく女の存在が引き起こす、ほんの微かな波紋を描いているのが、この小説の味噌だ。
艶のために自分の人生を放り出し、自分を見ようとしない女で自分の時間のすべてを埋めつくし、今また彼女のかつての男たちにわざわざ連絡をとって波紋を引き起こそうとしている松生の真意は、本人にとってすらよくわからないし、小説の中で分析めいたものも示唆されない。
かつて艶と関係をもった男たちは、このわけのわからない松生の狂おしさからは、もはや地理的にも心理的にも遠い場所にいるはずなのに、さらに安全な場所にいるはずの語り手の女たちは、彼女たちの男たちの身体から発される微かな波紋を、感受してしまう。そのことが、安全な場所の中にある不穏なものの存在を明らかにしてしまうのだ。
まったく井上荒野らしい、穏やかでありながら不穏な小説だ。
で、行定勲監督はこの映画を撮ったのかしら?