末裔 (新潮文庫 い 83-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101304557

感想・レビュー・書評

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  • 「鍵穴はどこにもなかった」。勤め先の役所から帰ってきた富井省三が一人暮らしの家から閉め出された。。。という??なシチュエーションから始まるこの作品。
    妻を亡くし、母は理屈や辻褄の消えた世界にいる。省三は定年を前に人生に退屈をし、家はさながらゴミ屋敷の様相を呈している。
    行き場のない省三は、街で出会った不思議な占い師から東京を離れるように言われ、鎌倉の伯父宅へ向かう。
    不思議な男、喋る犬、口達者のオキナインコ。日常と隣り合わせのありえない世界そして、富井家の系譜をたどる旅。

    省三が鎌倉で出会った幻想世界の人たち、それによって想起される過去の記憶は、同時に私自身にも郷愁を感じさせ、亡き父を、祖父母を、幼少時を思い出させる。

    水が絶えず流れ続けるように、時も流れ続けていく。
    はるか遠くにたどる源流の、「末裔」として自分が存在する、その大きな流れの連なり。
    先立った者は時間を経て「突出した死者」であることをやめ、ほかの人々と同じように時間と調和するようになることは哀しいことではなく、そこに自分も必ず連なるという妙な安心感?に包まれる。
    末裔として生まれてきた意味、死ぬということ、死んだ後のこと。。。色々なことを考えた作品だった。

  •  3年前に妻靖子を癌で亡くした富井省三58歳、世田谷に住む定年前の地方公務員の話。ある日、家に帰ると家の鍵穴がなく、ドアが開かないで家から締め出されたところから物語はスタートする。大昔の人に出会ったり、死んだはずのインコが生きてたり、犬が話しかけてきたり・・・。どれが現実で、何が虚構なのか・・・。絲山さんの描く不思議な世界に引き込まれながら、富井省三と共に家族の過去の系譜に思いを馳せていきます。絲山秋子「末裔」、2014.4発行。

  • 2017年に読んだ同じ著者の『離陸』と同じようなテイストか。現実の世界が舞台なんだけど何だか摩訶不思議なことが起こっているという意味で。
    私は現実にあるような物語を読むのが好きなので、読み始めの頃は何とも読みにくさを感じたし、その後もスイスイ身の内に入ってくるような感じはしなかったんだけど、どこか定年間近の中年男が自分の歩いてきた道を振り返るような運びにはもののあはれ的な意味で共感をもてた気がする。最初はまったくさえずつまらないおっさんに思えた省三さんだけど、亡き妻に手紙を書いたり思い出を懐かしんだり、いろんな感情をもっていることが露わになってきて魅力が出てくるのも面白いものだった。想像で思い描く省三さん像も読み始め当初より髪が増えたり背筋が伸びたりしてカッコよくなっていった。
    一族の末裔として昔を振り返る「旅」をすることで、何となくしっくりいっていなかった娘や息子、長く音信不通だった弟との新たな関係が開けていきそうな終わり方もよかったね。

  • 主人公の男は喪失感と虚無感の中彷徨いながらも、小さな希望を見つけまた現実と向き合って歩き出した。絲山秋子は少し村上春樹に似ている気がする。好きな作家。

  • 再読。

    絲山秋子は、つねに「意外なオチ」を用意している。職人のようだ。伊坂幸太郎に似ているかもしれない。

    この小説では、桜田ミミがいい仕事をしている。

  • 鍵穴がないなんてもしやファンタジー?と思ったけどそうでもないみたい。乙も不思議な人。ちょこちょこ出てくる犬がなんだかおかしいのに妙にほっこり。

  • 家に帰ったらドアに鍵穴がなかった。というシーンから始まるように、現実感に乏しい作品です。
    妻を亡くして子供は家を出て、定年前という寂しい公務員が祖先や親戚との思い出を咀嚼しながら現実と向き合う。ヘンテコな展開やエピソードが添えられて、最後までよくわからないけど何となく面白い作品でした。

  • 読み込みが足りないのか、よく理解できない物語でした。
    断片的には引き込まれる場面があるのですが、全体の流れと言うか、繋がりが読み切れませんでした。
    いつか再読したいと思います。

  • 玄関のドアから鍵穴がなくなる、というよくわからない状況からスタートする本作。主人公が現実のような夢と虚構のような現実を行き来しながら話は進んでいく。その中で、主人公は自らのルーツを辿り、自分が何者なのかを考えていく。今まで読んできた本の中で、一番不思議な家族ドラマでした。

  • 久々の絲山、ちょっとファンタジー。

著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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