残虐記 (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101306353

感想・レビュー・書評

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  • 小説家の女性は10歳のころ誘拐監禁され1年をすごした
    それを小説にして語っている
    序盤で監禁から助けられたがその後にその詳細が語られ何が起こっていたのかが明かされる
    そして当時の少女の思いも
    本人にとっては忘れたい過去なんだろうけどその経験もあり小説家になれた感じ?で・・・

  • 新潟少女監禁事件に着想を得て展開された桐野ワールド。他者を傷つける想像という所為...。他者の意を汲むために行われた行為。自身を守るために変換されていく想い。後半に「泥のごとく」を持ってこれるのは流石だなぁ。

  • 読み始めてみたら実は再読だった。再読したいような後味のよい話ではないけれど、一度読み始めると最後まで読まずにいられないあたりが作家の力量なのだと思う。

    日常を失うことのとりかえしのつかなさ。事件の多い昨今に思うことの多い再読でした。

  • 人間1人じゃ生きられない。どうしようもない現実。可哀想な人だったんだね。

  • 「心が気持ち悪くて悲しい」
    読後のまっすぐな感想。
    桐野夏樹独特の、触れてほしくない傷口に敢えて触れるような表現に痛みの先に何があるか探究心が抑えられず読み進めてしまう。
    「残虐記」とは、誰に対する「残虐」なのか。加害者でもあり、被害者でもあるのか。登場人物達の心の描写が緻密でリアルで悲しくなる。

  • 桐野夏生は、3冊目・・・だったかな。
    他2冊はたしか、「柔らかな頬」「東京島」だったかと。

    う~ん。
    結局、真実は読者にも夫にも編集者にも分からずじまいだったというのが少々モヤモヤとするところが、まあ、ミステリ小説なわけでもないし、それはそれでアリなのかも。

    こうして描かれる種類の「男の性欲」とは、なんと醜く気色悪いものなのだろう(苦笑)。

    性犯罪報道を通して被害女性へ向けられる好奇の目・・・は、おそらく作中での描写がかなりいい線をついているのだろうな、と。
    好奇心むき出しに、それこそ性的な関心として目を向ける者はもちろんとして、そうではないつもりの者にとっても、その種の好奇心はきっと内在しているのだろうな。

    ※女児監禁事件、女児軟禁事件、家出女児を住まわせ事件・・・などが、ここ2~3年でいくつか立て続けに話題になったが、さて、その裏には・・・という想像も、ついつい働いてしまうのが哀しいね。主人公も語っているように、皆が「想像」してしまうことのないように、そういった事件の報道のあり方は改善されていくべきだと感じた。

    ★3つ、7ポイント。
    2016.12.05.図。

  • 10歳の小学生が25歳男性に1年間拉致監禁された。
    事件後、加害者も被害者も何も語らないため、「真実」が明かされずにいた。

    「真実」とは何か?

    それは、それぞれの人がその瞬間に感じた「何か」であり、他人とは共有するものが出来ないのかも知れない。

    本作は被害者が「真実」を想像して書かれているのだか、それはあくまでも事件後25年を経過した後の被害者にとっての「真実」であり、事件当時の「真実」とは相違しているのだろうか?

    人間はそれぞれの想像の中に生きているのか?

  • 10歳の少女が変質者に誘拐され、犯人が勤める町工場の寮の一室に一年以上拉致される。隣室の住民に助けを求めるが、精神障害の犯人を使嗾する共犯者であり、盗視常習者で発覚直前に逃走し行方知れず。少女は救助、解放されても世間の好奇の目に晒される。事後捜査でも拉致されていた状況や実態は一切語らず、うちに籠り妄想の世界に浸る。両親は彼女の救助を機に離婚し父は再婚する。少女は母親と生活するが娘への防御衝動が昂じて二人の気持ちは離れる。取調べや裁判は被害者の証言がないまま行われ、犯人は長い懲役刑に服する。彼に対して秘密の一年間をともにした連帯感のようなものが芽生える。沈黙を通す彼女に担当の検事がいきさつや犯人への心理を想像すべく接触を繰り返し、二人は後に結婚することになる。事件のことが世間から忘れられた頃、彼女は若くして小説を書き、その描写の迫力が世間に衝撃を与える。作家として生活するある日、突然、事件の真相や心理を綴った小説(記録)を出版者に届けるよう夫に依頼して失踪する。
    この小説は彼女が失踪するにあたって残した記録の物語であり構成も奇抜で面白い。被害者である少女の目を通した事件のあらましであり心の軌跡である。
    桐野夏生が少女拉致という状況を設定し逃げ場のない心の閉塞感を描いた心理小説である。

  • 妻が失踪したという冒頭だったので、なんとなく「真相を知りたい」という欲求に沿って読み進めた。
    結果からすると、求めていたものは得られず、ひたすら想像のみを強いられた。
    読後感はよくなく、妻がなぜ疾走したのかは勿論、そもそも事件の真相までもが不透明なままである。

    私は直ぐに答えを示してくれる娯楽に依存的で、「想像すること」自体に慣れておらず、体力もないのだと思う。
    また読者である私自身も、ケンジと景子の間にあった真相を隅々まで理解したいという野次馬精神、そしてマスコミ的な偽善を持ち合わせていることに気付かされた。

    「毒の夢を紡ぐ」とは、なるほど。
    自分を破滅させる妄想が自分を明日へと生かすことは、往々にしてあると思う。ただしいつかは抜け出さなければ、一生本当の現実は味わえない。

    恵子は夢の一部を構成する夫を捨ててそこから抜け出したのか、はたまた夢の中心であるケンジのもとに飛び込んだのか。
    私にはよく分からなかった。


  • 初めての桐野夏生作品。グロテスクが東電OL殺人事件を元にした作品というのは知っていたが、この小説も新潟の女児監禁事件が元になっていたのは知らなかった。

    誘拐されていた1年間何をされていたのか、周りからの視線や両親とのギクシャクした関係、全員が敵に見える、勝手に想像される地獄。被害者の少女の精神的な傷は計り知れない。
    ケンジのしたことは受け入れられるものではないが、施設でのいじめや同じ施設内での同性の性的暴行を目の当たりにし、ヤタベさんとの歪んだ関係と依存の様子を見ると適切な教育、そして愛情を満足に受けられていたらこうはならなかったのではと思った。
    私たちは性別、年齢、さまざまな単語を聞くだけで自分に都合のいいように“想像”していることがたくさんあるんだと気付かされた。『残虐記』のどこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのか。それを私たちが“想像”してしまっていることこそが、景子が警察にも誰にも事件の真相を言わず、そして突然失踪したことの答えなのかもしれない。

著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

桐野夏生の作品

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