五千回の生死 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307084

感想・レビュー・書評

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  • 月並みな表現だが「生きる」と「死ぬ」がすぐ隣り合わせに存在しているという抗えない現実。

    成熟社会は合理性・簡便性・情報の透明化を優先しているが、人間そのものの複雑さは普遍的なもの。
    生きることに必然である困難や理不尽を特別なものとして描くのではなく、そこここにあって当たり前の体で描く。

    憎悪、嫉妬、未練、後悔、逡巡など本来自分で認めたくない弱くて醜い部分が登場人物たちの一片となる。

    頑張っても報われないし、想っても望みは伝わらない。
    暴力も略奪も搾取も日常。

    描かれる時代背景は一昔前だが、人間の本質は早々容易くは変わらない。

    そこに私自身への許しを感じるから宮本輝さんの作品に時折手を伸ばすのかもしれない。

    どの短編集も結末後どう受け取るかは読み手次第。

  • 現実からはみ出すぎないぎりぎりの範囲、尼崎の交差点に1人の男の大事な大事な手紙が埋まってるなんて、夢のある話ではないか

    あぁっどうして、もったいない、のような後悔と焦りの気持ちにさせられる、単なる恐怖よりもこういう気持ちの方が僕は感情が揺らぐ、トマトの話も、ライターの話も
    今更どうしようもないやん、みたいな事柄を積み重ねて大人になってゆくのかな


    宮本輝、大阪育ちということで大変没入しやすい場面設定。

    五千回の生死 宮本輝
     トマトの話:伊丹、梅田
     眉墨:軽井沢病院

  • 一発目のトマトの話でもうやられる

  • 島田「優しくなったらいいんだよ。優しく、優しく、人間がみんな、やさしーくなったら、それでいいんだ。そうなったら、世の中の難しい問題なんて、みんな解決するぜ」
    私「どうやって、人間全部が優しくなるんだ」
    島田「そんなことは不可能だ。お前、いまそう思っているだろう」
    私「思ってるよ。当たり前だろう」
    島田「ところが俺は、不可能じゃないと考えている。それ以外に解決の道はないんだ。こんなこと組合の連中に言ってみろ。俺は吊しあげられるぜ。反動分子、日和見主義者、戦いの苦しさから逃げようとする臆病者。組合だけじゃないよ。世間もそうだ。鼻で笑って、あいつは馬鹿だって言われるさ。ガキみたいなこと言うな。だけど、これが、誰に何と馬鹿よばわりされようと、曲げられねェ俺の考え方なんだ」
    そういえば、同期入社の連中の中で、この島田が一番優しそうな顔をしていたっけ。私は世界中の人間がみんな優しくなっている光景を想像した。私は島田に右手を差しだし、
    「俺は、お前を好きだったんだ」「そうだよ。みんな優しくなりゃいいんだ。簡単だ。お前の考え方は正しい。俺だけは支持するぜ」「お前が、いま、世界中の人間がみんな優しくなった場面を空想して、この島田の野郎の考え方は正しいと、心から思ってくれたってことが、判った」

  • たまらんものがある

  • 宮本輝、本当に凄いな。宮本輝が40歳かそこらん時に書いた短編だと思うけど、えづいたよ、、、

  • 大学時代に読んだはずなのにほとんど記憶になく再読。
    「え?終わり?」と思うような終わり方の作品が少なくなく、あのシーンの意味は?と考え込んでしまうことも多かった。
    読み手に思考の余白が残されている作品構成が、人は分からない世界の中で迷いながら生き続けていくものであると言っているように感じた。
    作品全てに死が差し込まれていて、自覚するしないにかかわらず死は生き続けようとする人の近くに常に存在しているものだのだということも再確認した。
    まだまだ咀嚼しきれていないので何度か読んでみたい。

  • 情景がありありと目に浮かび、心にグサグサくる素晴らしい文学。「死にたい」と「生きたい」が交互にくる現象を「お前はどうや?」って人に確認したくなるの、すごいわかる。1日に五千回もきてるかはわからないけど、わかる

  • トマトの話と、五千回の生死が素晴らしい
    しばらく宮本輝を読んでいこうと思う

  • 「トマトの話」が妙に印象に残っている。
    作者の叙情的感性に酔わされた。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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