養老孟司特別講義 手入れという思想 (新潮文庫)

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著者 : 養老孟司
  • 新潮社 (2013年10月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101308371

養老孟司特別講義 手入れという思想 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 養老さんの講演を収めたもの。全部で八つの講演が収録されていて、都市と自然について触れている部分がとても多いです。
    この本でとりあげられている都市の象徴は天王洲とみなとみらい。とことん人工的で、地べたからすべて人間が設計して作りあげた、養老さん式に言うと「ああすれば、こうなる」が形になったところ。その対極にある自然の象徴は屋久島と白神山地。ここを養老さんは「人間とできるだけかかわりのないところ」で「使いようがありません」と言います。
    そしてその中間にあるのが里山。これは自分が作ったものではない、自分の思いどおりにならない自然を素直に認め、「それをできるだけ自分の意に沿うように動かしていこうと」する人々の働きかけによってできたものです。そしてその働きかけこそが「手入れ」なのです。
    里山風景というのは、決してそれを作ろうという意識が作り出したものではなくて、こうやったら農作業がしやすいとか作物がうまく作れるとか、そういうことを考えて人々が努力して工夫してきた結果できたもの。そしてそれは人にとって使い勝手がよく、目で見ても美しい。
    これを養老さんは子育てやお化粧に例えます。子育てには「こうやれば大丈夫」ということは一つもない。こうやれば永遠に美しく若くいられる、という魔法もない。到達点は見えないけれど、それでもよりよくしようと日々努力してきちんと整えていこうとする、それが「手入れ」で、それをやっていれば出来上がりが大きく間違うことはないだろうと。とても共感できました。生きていると思いどおりにならないことばかりありますが、結局は日々よくなろうと努力するしかないのだから。
    死んだ時に心がなくなるとしたら、人が死ぬ時に体重を計ったら心の重さが分かるだろうと、それをやってみた人がいる、という話。死は具体的なある瞬間ではなくて、人はそれぞれの器官がバラバラに死んでいくのだという話。言葉と音楽と絵は人間の「表現」の典型で、本来これらは同じものであり、それを別物と区別しているのは人間の意識であるという話。とても挙げきれないくらい面白い話がたくさん出てきます。
    養老さんのお父さんの死について語られる部分では、きっと彼らしく飄々と話されたのでしょうが(実際彼の講演に行ったことがあるので、声が聞こえる気がしました)涙が出ました。
    養老さんはブレなくて、どの講演でも基本的に同じことを繰り返し言っています。でも、講演をする場所、語る相手によって切り口が違う。それが面白いと思います。

  • むずかしい養老孟司。

  • 講演録なのでどんどん面白く読める。内容はいつも通りに「唯脳論」の敷衍。

  • 大学などの講義録
    いささか内容等古い( 当然だが…)
    ただし、昔からこの人の発言にはブレがないことがよくわかる

  • 養老孟司先生の講義録。
    日本人特有の「手入れ」という思想から、
    「言葉」というものの再定義、人類が行ってきた「都市化」という行動がもたらすもの、「死」というものについて…
    意表をついた切り口が鮮やかで、霧がぱっと晴れたようにものごとが分かった気がします。で、IQが10くらいは上がったような気になりますが、後で人に説明しようとしてもうまく伝えられない。とても難解なことを語っていたのだなと、後で気がつくのです。これは読み返してしまいますね。

  • 講演録なので読みやすい。なるほど、と思う発想がいろいろ開陳されていておもしろく読めた。

  • 講演集のため、内容は多岐にわたり、収められた講演のテーマも、
    子どもの教育からことば、脳科学、そして死の意味まで、雑多です。

    ただ、一見雑多なのですが、読み進むうちに、一貫して流れている
    テーマがあることに気付かされます。それは「自然と人間」とでも
    言えばよいでしょうか。ここで言う「自然」とは、いわゆる自然環
    境だけでなく、身体や死や病気や災害という自然現象を含めてのこ
    とですが、それら自然と人間はどのように向き合ってきたのか、向
    き合うべきなのか、切り口を変えながら語られてゆくのです。

    根底にある問題意識は、人間は自然を切り捨てては生きていけない
    ということです。なのに、人間の「進化」や「都市化」は、自然を
    排除する方向に行ってしまう。子どもや奇形や死や土は、都市にと
    っては余計なものとして、隔離され、見えないものにされていく。

    でも、本来は、人間は、自然と折り合いをつけながら生きてきたの
    です。特に、植物の繁殖力が旺盛で、地震や噴火や台風など、自然
    災害が頻発する日本列島に生きてきた人々は、自然と向き合い、折
    り合いをつける生き方をせざるを得なかった。

    そこで無意識に培われてきた考え方や態度を象徴する言葉が「手入
    れ」です。自然を自然のままに放っておいては人間らしい生活はで
    きなくなる。だから何とか人間の意に沿うようとする。でも、自然
    は思うようにはいかないものです。コントロールしきれない。では
    どうするか。ちょっと手を入れてみて、反応を見て、それに対して
    また手を入れて、ということを弛まずにやるしかない。相手と向き
    合い続けるしかないのです。

    そうやって一所懸命やっていても、死は来るし、災害は来る。それ
    は「仕方がない」ことです。誰の責任でもない。自然とはそういう
    ものなのです。そうやって日本人は生きてきた。

    これは、子育てや教育にも通じる考え方ですね。人間を管理しよう
    と思うから間違えるのであって、相手はナマモノなのだから、手入
    れの態度で臨むしかない。子どもも部下も思うようにはいきません。
    でも、だからこそ面白いのです。そのことを忘れたらどうなるか。

    そういうことを本書からは考えさせられます。

    著者がこういう本質的なことを考えるようになった背景には、解剖
    学者として死体と向き合い続けてきた経験があるようです。死体は
    動きません。動かないから、こちらが何かしない限り、何も始まら
    ない。だから、嫌でも考えざるを得ない。そうやって考える癖がつ
    いたと言います。

    動かない現実を前にした時に人は考える。これは目からウロコでし
    た。確かに、自分から事を起こさないと動かないような環境に身を
    置いた時、嫌でも考えさせられますよね。逆に、周囲の状況に流さ
    れて忙しく生きている時は、色々考えているようで、実は何も考え
    ていない。それを著者は、「世間の人は案外なまけている」と言い
    ます。「日常起こっていることに対応するのに精一杯」で、何も考
    えていないからです。ああ、そうだよなあ、と反省させられました。

    そんなふうに、思わずハッとさせられることの多い一冊です。是非、
    読んでみてください。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    人間や世界は止まったものではなくて、生きたものだということを、
    教育でどうやって教えるのか。

    なぜ自然は消えていくのか。それは人の意識が作り出したものでは
    ... 続きを読む

  • 手入れとは何か。養老さんがいう。手入れとは、日本的な文化で、自然という、どうにもならないものに対して、少しでも人間の側に寄せるために手を入れることなのだと。日本人は、自然を相手と認め、折り合うために手を尽くした。神道などの宗教とは違った、別の切り口から考えさせられました。

  • 里山の話は他の本で読んだが、
    あらためて話を読むと、ふんふんなるほどと思う。
    子育てにしてもお化粧にしても、せっせと手入れをするのだ。
    自然のままにしておけば、いったいどうなるか空恐ろしい。

    死に対するはなし、脳死について、
    ああそうかと腑に落ちる。
    帯にある通り、この本は日本人論だ。

  • 「バカの壁」の著者として有名な養老孟司氏の講演会の書き起こしをいくつか集めた本。著者は解剖学者であり、趣味が昆虫採集(虫を捕るために海外まで出かけてしまう猛者)ということで、生き物の「生」と「死」、あるいは「変わるもの」と「変わらないもの」という観点での考察がとても鋭い。自然とは、人の手が入っておらず「変わり続ける」のが本質であるのに対して、人による都市化とは、あらゆるものを「変わらない(ように見える)」人工物で覆い尽くしてしまう営みであると看破している。そして、都市化の象徴として、人間の「四苦=生老病死」を、すべて「病院」という人工物に押し込んでしまっていることを挙げている。日本でも、一昔前までは、ほとんどの人が家で「自然に」生まれ、家で「自然に」死んだものであるが、現代ではそれらの機能がすべて病院に移ってしまった。すなわち、日常生活から「生」と「死」が消えてしまうことが都市化の最大の特徴であり、現代社会の様々な不具合の病巣になっているという指摘は、まことに愁眉である。
    著者は、また、「知ることは変わること」だとも主張する。膨大な知識を蓄えていても、それで自分が変わらないのであれば「知っている」ことにはならないし、逆に、本当に何かを「知る」ということは、(特に、現状維持を良とする封建的な共同体においては)非常に危険なことなのだと指摘している。
    不治の病にかかって、医師に「余命半年」と宣告されたら、誰もがそれまでの生き方を変えるはずである。それが「知る」ということである。「生きること」と「死ぬこと」、「変わること」と「変わらないこと」、「知ること」と「変わること」、これらの関係が人間として生きることの本質なのだと教えてくれる良書であった。

  • 「今日の自分と明日の自分はもはや違う人間である」、「今日の自分が少しずつ死んでいき、新しい自分になっている」という感覚が現代人にはない。それはおそらく自我が強くなってきたことと相関があるのだと思う。自分自身が変化しているという感覚。中世には「人は変わるもの」という感覚があったようで、だからこそ約束を絶対とする「武士に二言はない」ということが言われたと記憶している。常日頃思うのは、よくもまあみんな「自分」という曖昧模糊なものに根拠もなく確信を持って生きられるなぁと感心する次第。養老先生の『感覚』に大変共感した。

  • 複数の講演録が収録されています。

    宗教について、都市について、育児について・・今が悪くて昔がよかったと言っているわけでもないと思うのですが、現在おこっていること・身の回りのことをどうやって理解するかについてヒントが多く示されていると思いました。

    とくに都市化というキーワードは繰り返し出てきます。そのことが自分たちの心性に与える影響のことはあまり考えないで都市化がすすめられてきたんだなーと思います。

  • 他のレビュアーさんも指摘しているように、内容の重複がだいぶ見られます。
    講演をベースにしているためだと思われます。
    ですが、各講演ごとに扱われているテーマが異なりますので、興味のある部分だけでも、読む価値はあります。読みやすいですしね。

    個人的には、「子どもと現代社会」「手入れ文化と日本」がお気に入りです。前者は、知ることは変わることである、という指摘にグッときました。後者は、養老先生の都市論と宗教論が詰まっていて、文系脳が刺激されました。

  • 養老先生の本とは長いお付き合いをさせていただいているが、バカの壁に始まる口述型の方が、分かりますね。今回は公演記録で、基本の考え方を繰り返し記述されているので、30%くらいは理解できたとおもわれます。

  • 世界,特に日本に醸成されつつある漠然とした不安の根源を追究,明文化し,平易な言葉で物語る.読んでいて自分の無能さに参ってしまう.

  • 特別講義とタイトルされている通り、様々な大学の講義などで養老さんが語った授業内容をまとめた本です。

    『まともバカ』などと内容が多々重複しているので購入の際は注意。

    内容は、人間にとっての言語や、人工で作られた世界の不自然さ、テレビ世代の特性、万物流転の法則について、など。

    人工物を嫌い、自然を大事にする考え方がベーシックにあります。
    自然で起こることは仕方がない、というようなある種の諦めを感じさせる本です。

    それは解剖学が、何か問題を解決する学問ではなく、自然が作った人間を分解して見つめるという職業的性質からくる思想なのかもしれません。
    言葉を代えるなら保守的とも言えるかもしれない。

    人工物を愛し、発展を求める人も、こういう考えに触れてみるといいかもしれない、と思いました。

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養老孟司特別講義 手入れという思想 (新潮文庫)の作品紹介

人間が手入れした自然にこそ豊かな生命が宿る。お化粧も子育ても同じで毎日毎日手入れをする。どういうつもりでどこにもっていくのかはわからなくても、そうやってきたのが私たち日本人の生き方の特徴だ――。我が国独自の思想をはじめ、子育てや教育、都市化の未来、死ぬということ、心とからだについてなど、現代日本社会を説いた八つの名講演を収録。 『手入れ文化と日本』改題。

養老孟司特別講義 手入れという思想 (新潮文庫)はこんな本です

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