苦役列車 (新潮文庫)

  • 1915人登録
  • 3.31評価
    • (70)
    • (203)
    • (308)
    • (86)
    • (22)
  • 281レビュー
著者 : 西村賢太
  • 新潮社 (2012年4月19日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101312842

苦役列車 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 女子には全くお勧めできない傑作。

    『王様のブランチ』の映画紹介コーナーで、主人公の貫多は「あり」か「なし」かというような話題をやっていた。皆一様に「うーん」と微妙な笑顔を作っていたが、ポップに映像化された主演の森山未來を観てさえそうなのだから、彼女たちが原作を読んだら絶句するかあからさまな嫌悪を示すに違いない。

    主人公の北町貫多は怠惰でどこかひねくれ、性欲過多でプライドが高く、激昂するかと思えば内向的な面もあり、臭い立つような狭い部屋での貧乏暮らしで...と数え上げればきりがないマイナス要素を持っている。
    しかし貫多は特濃100%果汁をギュッと凝縮した存在であって、男は誰しもこの果汁を様々な濃度に割ったジュースなのではないだろうかと思う。読んでいても嫌悪どころか時折チャーミングにさえ感じた。

    実際に貫多のような人間がいたらはた迷惑な存在だろう。でも何かのきっかけで接点を持ったら、日下部のように一緒に酒を飲んでうっかり盛り上がってしまうかもしれない。そうならない保証はない。
    ただ確実にいえるのは、貫多的男心が1%も無いヤツとは一緒に酒は飲めないということだ。これだけは保証できる。

  • 映画が先だったけど、想像していたのと全然違う文章でびっくり。

    (読めない漢字が多々^^;)



    どうしょうもない本当のロクデナシだったし、やっぱり共感できないけど、文章から根は小心者で、でも自分ではどうにも抑えられないものがうねうねしてるのがすごく伝わる。

    文章がうまいというのは納得。

    すらすら読めます。



    そして正二のさわやかどす黒キャラもリアルで良い味出してるなぁと思います。

  • 今作もおおいにに笑った。
    相変わらずの北町貫太。この情けなさがなんとも言えずかわいらしい。
    映画版はラスト変えちゃったのが一番まずかった気がする。
    同収の「落ちぶれて〜」で少し安心する作り。

  • 父親は性犯罪者、親との関係も悪く、貫多は11歳にして自分の将来を諦めた。妙に過剰な自意識を抱え、学歴は中卒、意欲もなくだらだらと過ごしながら日雇いで冷凍イカを運び、金を得る19歳。人付き合いも悪く恋人はおろか、友達すらいない。

    捻くれ、人を嫉み、狡く、自分には甘く…とことん読者の反感を買うような人物として描かれる貫多である。コンプレックスをばねにするでもなく、都合の良い言い訳にして甘え、自棄になる。しかし、意外に読んでいて不快感はない。この主人公や作者が女性だったなら、きっともっと胸糞悪いお話になっていた気がする。

    自己憐憫に酔ったように見せかけて、いっそ清々しい負のエネルギー。そして、氏は芥川賞を掴んだ。

  •  小学校の頃はクラスの人気者で、学級委員も度々と務めていた北町貫多。が、父親が性犯罪者として逮捕され、住み慣れた街を姉、母と逃げ出すように後にしてから、貫多の人生は大きく流れを変えていく。将来を悲観した彼は、15歳の時、母親の金を持ち出して家出。
     当然15歳の貫多に、働き口などなく、困りに困った彼がたどり着いたのは、履歴書不要の日雇い労働。以来、時折母親に泣きつきながらも、日雇いで日銭を稼ぎ、飲み食いや風俗通いに使い切る日々。誰とも深くかかわることもなく毎日を過ごしていた貫多に、初めて友達らしき存在が。言葉を交わし、共に食事をし、貫多の生活が変わっていくかに見えたが…。

      のっけから、う~んという感じなのですが、文体が調子よくて、なんだか近代小説を読んでいるような気分。主人公への視線も程よい距離感なのが意外といい感じ。しかし、ありったけ飲み食いして、家賃を払えなかったり、母親に泣きついたりしながらも、風俗に行くお金はきっちり貯めたり、服装に気遣わないようで、そうじやお風呂はきちんとしてたり、貫多って、だらしないのか、しっかりしてるのか…。
     素直になれず、屈折している貫多。おいおいって、共感もなんにもできないのですが、なんか気になってしまう存在。後年の貫多を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の彼も、やっぱりトホホな感じ。それにしても「ぎっくり腰」って大変そう。
     曩時北町貫多って何?名字?とか思ったら、曩時(のうじ)とは「さきの日、昔」という意味らしい。ほかにも、辞書をひきたくなるような難しい漢字や言い回しがたくさん出てきます。

  • 予想に反して、とても爽やかな読後感であった。
    それは、書き手の類まれな潔さによるのかもしれない。芥川賞受賞直後のインタビューで、父親が性犯罪者であることや風俗店通いしていることなどをカミングアウトしているのを見て、よくある偽悪趣味だと誤解していた。
    「私小説の逆襲」というキャッチコピーも、読み終わった今は“宣伝に偽りなし”と得心できる。大抵の場合、本の帯に賑賑しく印字された、出版社側の売らんかなの目論見満載の宣伝文句は、作品全体の雰囲気や作品本来のテーマを無視してセンセーションのみを煽る下劣なものが少ない。
    だが、今回は違う。
    二つの意味で、この西村賢太の『苦役列車』は正しく「私小説の逆襲」に他ならない。第一に、田山花袋から連綿と続く私小説の系譜は、日本近代文学史みたいな授業でならば、それは日本の小説の王道であると教えられる。しかしその王道はここ数十年途絶えていた。僅かに平成10年頃までに書かれた車谷長吉の作品群が最後の悪あがき的な打ち上げ花火であった。関係者の名誉を棄損し、自らの尊厳も貶めるのが宿命の私小説に世間は辟易していた。平成7年の地下鉄サリン事件は、日本の安全神話を打ち砕く衝撃だったが、その直後の芥川賞の選考過程で、車谷長吉の『漂流物』を選ぶことができなかった。選考委員の判断が偏狭であったわけではない、世間の気分そのものが「躊躇いもなく人を殺す」心情の告白に耐えられる状況ではなかったといえる。だから、平成7年に私小説は芥川賞の前に敗北したと言えるのだ。
    その直後、車谷長吉は、良く言えば私小説としての性格を極力抑制し、小説としての虚構性を一層昇華させた作品である『赤目四十八瀧心中未遂』で当然のごとく直木賞を獲る。これは車谷個人には栄誉かもしれないが、悪く言えば「私小説という身をすてて名をとった」と言えると思う。さらに数年後には、些細な名誉棄損訴訟に敗れた車谷は「私小説作家廃業」を宣言する。
    だから、日本の文学界で私小説は完全に敗北していたのである。

    最後の私小説作家たる車谷長吉と比べてみると、私が感じた西村賢太の「潔さ」が明確に浮かび上がる。
    その「潔さ」は「失うものが何もない」という開き直りと同義語である。
    世間的には脱落者ではあっても慶応大学文学部卒という学歴エリートであった車谷は、どうしても自嘲に湿り気が貼りついている。さらには、たとえば同窓だという某社の広報部長を実名で攻撃する筆致には棘がありすぎた。「毒」であらねばならぬと自認する筆致は自らをも相手をも本当に殺す危険のある「毒」だった。
    それに比べると、西村の筆致も極めて毒々しいのに、人を殺す「毒」は全く含んでいない。義務教育を終えただけの「失うものは何もない」彼は不必要に「悪」を装うこともない。主人公である自分がセリフや行動の上で「悪」や「毒」を体現した直後の、ふっとした真情吐露の場面では、かならず真っ当な真人間としての本音が吐かれる。
    真人間が小説的魅力を全く持たず、真っ当な発言が全然説得力を持たない現代では唯一無二の真っ当さの貫き方だと逆説的には言えてしまうかもしれない。

    因縁の石原慎太郎が文庫版の解説を書いている。これも面白い。
    失うものが何もないという逆説的には恵まれた私小説作家が受賞の結果裕福になってしまったのちの「変容」が如何なものか、石原は「尽きせぬ興味がある」と解説を締めている。

  • 映画化される芥川賞作品。
    もはや、純文学は落ちぶれたひきこもり男の中にしかない、普遍性のかけらもないものであるなどと言われるが、私は「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」に、作者の小説に対する姿勢が表明されていて、とても気に入った。

    最近はテレビでも個性的なキャラを発揮する西村氏だが、この人の在り方そのものが、時代遅れの純文学の生き残る道(あるいは滅んでいく道)を示している気がした。

    堀木克三、藤澤清造という名も、きちんとその名を留めていく。
    作家が、一部の学者の研究対象でしかなく、広く語る言葉をもたなくなることの恐さを、情報社会に生きる我々は認識する必要がある。

    良い情報は、「アクセス数」と比例するのだというスタンスではない何かを持ち続けることを忘れないようにしないと。

  • 芥川賞を授賞して話題になっていたのを思い出して手に取った一冊。もっと何か固い内容の本だと思っていたけど、本の薄さもあって内容はとても読みやすかった。文面もすごく印象的で「なぞ」「結句」「はな」「折しも」などなど、調べながら読むことも多々あったけど、その点も楽しめて読めたと思う。私も何度か派遣のバイトで作中でいう平和島のようなところで働いた経験があり、そのときはきついけど数日だから頑張ろうと思えたけど、もしその仕事が稼ぎのメインだったら間違いなく苦役の従事だと感じるだろうなあと、やはり自分がとても恵まれていることを改めて強く実感した。今まで私小説は読んだことがなかったけど、本当に誰かが経験したことなんだなあと思いながら読むからか、ずっしりと考えさせられた。

  • 19歳の、底辺の日雇いの青年の暮らしはこんなものなんだ。私小説なのかな?そうでないのかな?
    とにかく、筆者の経歴と、この主人公の生い立ちとプライドが重なって見えてきてしまう。
    みてはいけないものを見てしまったようで心が痛んだ。若さと、そのやりどころのない体力と性欲。そんな中で強がっていても孤独が伝わってくる。

  • 西村さんの作品は初めて。テレビで見たことがあり、小説でドリームを掴むことを体現したような人という印象。

    文体は好きだと思った。少し昔の文学の雰囲気をまとっており、途切れることのないテンポ感に自然と乗せられる。
    主人公は癖が強い。私が田舎から現役で旧帝大に進学した作中でいう美奈子のような人間なだけに、貫多とは真逆。とはいえ、気持ちは分からなくもない。だが、日下部さんも美奈子さんもそんなに悪いところがあるとは思えなくて、それでも貫多にはそんなに悪く映るのかというのが少し驚き。

    私が思うに、貫多には誰でもなりうると思う。から、意外と多くの人に考えさせるものがある作品かもしれないと思った。

全281件中 1 - 10件を表示

西村賢太の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊坂 幸太郎
三島 由紀夫
湊 かなえ
有効な右矢印 無効な右矢印

苦役列車 (新潮文庫)に関連する談話室の質問

苦役列車 (新潮文庫)に関連するまとめ

苦役列車 (新潮文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

苦役列車 (新潮文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

苦役列車 (新潮文庫)を本棚に「積読」で登録しているひと

苦役列車 (新潮文庫)の作品紹介

劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は――。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。解説・石原慎太郎。

主演、森山未來・高良健吾・前田敦子で映画化!2012年7月公開予定。

苦役列車 (新潮文庫)のKindle版

苦役列車 (新潮文庫)の単行本

ツイートする