苦役列車 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101312842

感想・レビュー・書評

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  • 日下部と初めて出会った場面は思わず顔がほころんでしまった、すぐカッとなって悪態つきすぎて逆にちょっと笑えた…現実に主人公がいたら距離をとってしまうだろうけど、小説で読むとなんか憎めないというか、しょうがない奴で若干の愛おしさみたいなものを感じてしまう。正直、全然良いところないしめんどくさいやつだしひねくれてるのに何故なんでしょうか。
    …自分が日下部側だから?

    もっともっと暗〜い雰囲気の小説かと想像していたんだけど、そういうのではなかった。生活感がすごい臭ってくるところが魅力だと思う。

  • 芥川賞受賞作なので「期待」をもって手にしました。

    貫多みたいなその日暮らしの人ってたくさんいるし、知り合いにもいた。自分も、その場さえよければいいやって時代を長く経験し、わからなくもない。でも、その貫多の日常を覗かせてもらって、それで終わってしまった、、、という感想。

    併録「落ちぶれて~」の貫多(著者)に至るまでの約20年に何があったのかは知りたい気はした。

    読めない漢字が多くて調べても調べても追いつかず。





  • 自分の現状に不満があると多少ひねくれてしまう部分は誰しもあると思う。
    貫多は自分でわかっていながらも、感情のままに発言したり行動したりするのには読んでいて「おいおい」とツッコミをいれたくもなったが、読んでいて引き込まれた。

  • 私小説か、ほぼほぼノンフィクションか。
    なんとまぁ、こんな人生を選択したくても実践したくても、できやんな。したくないしな!
    いま何してんのかな、と思ったら、今年亡くなったんか。
    自分の気質を理解していない人は、是非とも私小説を書いてみると良い。気づきたくもない認めたくもない自分の内面と葛藤できて、その辺に売ってるどんな自己啓発本よりも自己啓発されるはずね。

    映像化された苦役列車、どんなんか観てみよう。

  • 交流が深まるにつれて貫太と日下部の格差が可視化されていく様に、切なさを感じた。
    貫太ほど極端ではないにしても、自分よりも幸福な人間に対する嫉妬や劣等感は多くの人が内に秘めている感情なのではないか。それらを飲み込めずに他者にぶつける性質の一点が、貫太を落伍者たらしめる。
    独特すぎる痛快な暴言の数々に笑いつつ、急速に冷え込んでいく作中の空気がリアルに伝わってきて、当事者並みに気まずい感覚が押し寄せた。愉快と不愉快を同時に味う不思議な読書体験だった。

    貫太と同じ土俵に立たず、静かに距離を置こうとする日下部の姿はどこまでも常識人であり、貫太の惨めさをより強調している。落伍者と常識人、両者の覆せない隔りを巧みな文章で描いた作品である。
    その両者の立場に共感する私は何者なのか、しんみりと考えさせられた。

  • いけどもいけども自分

  • 苦役列車の主人公には、常に満たされないような感覚があって、どうにかしなくちゃという漠然とした焦りがあるんだけど、自分の生い立ちに諦めの理由を見出して、手近な快楽で満足してしまう。
    主人公のそんな生き様から漏れ出る口調や振る舞いは完全にクズと呼ばれるような人間のそれなんだけど、この作者に書かせるとまぁなんともリアルだし、不思議と近い目線に立っていた自分がいる。

    主人公に言わせれば、きっと自分は「ロイヤルコース」を歩んできた人間なんだろう。
    だけど居酒屋で劣等感を爆発させてしまう主人公が他人だとは決して思えない。自分の中のクズ感が刺激されて止まなかった。
    終始引き付けられて、一気読み必至。

  • 結局犯罪者の家族は、一生それが付きまとい幸せにはなれないのだろうか。
    この作品のカンタは中卒で日雇いで生計を立てていて、将来のことなど全く考えていない。おまけに神経質でプライドばかりが高いが、劣等感の塊で非常に扱い辛い。
    だが、一つ思うのはこういう性格の人間は、世の中には大小あるがかなり多く居ると思う。とくに男性は学歴やら役職やらで人間を評価している部分があり、それが低い人間は何かで補おうとするが劣等感になってしまう。本当の人間性の深い人というのは、そんな所では評価されないのに、そういう人は不幸だ。
    カンタはそんな性格の持ち主なのに、よくぞ小説家を志すまでになったと感心する。おぞましい犯罪者にはならなくてひとまずはホッとした。

  •  小学校の頃はクラスの人気者で、学級委員も度々と務めていた北町貫多。が、父親が性犯罪者として逮捕され、住み慣れた街を姉、母と逃げ出すように後にしてから、貫多の人生は大きく流れを変えていく。将来を悲観した彼は、15歳の時、母親の金を持ち出して家出。
     当然15歳の貫多に、働き口などなく、困りに困った彼がたどり着いたのは、履歴書不要の日雇い労働。以来、時折母親に泣きつきながらも、日雇いで日銭を稼ぎ、飲み食いや風俗通いに使い切る日々。誰とも深くかかわることもなく毎日を過ごしていた貫多に、初めて友達らしき存在が。言葉を交わし、共に食事をし、貫多の生活が変わっていくかに見えたが…。

      のっけから、う~んという感じなのですが、文体が調子よくて、なんだか近代小説を読んでいるような気分。主人公への視線も程よい距離感なのが意外といい感じ。しかし、ありったけ飲み食いして、家賃を払えなかったり、母親に泣きついたりしながらも、風俗に行くお金はきっちり貯めたり、服装に気遣わないようで、そうじやお風呂はきちんとしてたり、貫多って、だらしないのか、しっかりしてるのか…。
     素直になれず、屈折している貫多。おいおいって、共感もなんにもできないのですが、なんか気になってしまう存在。後年の貫多を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の彼も、やっぱりトホホな感じ。それにしても「ぎっくり腰」って大変そう。
     曩時北町貫多って何?名字?とか思ったら、曩時(のうじ)とは「さきの日、昔」という意味らしい。ほかにも、辞書をひきたくなるような難しい漢字や言い回しがたくさん出てきます。

  • 芥川賞を授賞した短編私小説。
    文頭からインパクトがあり、どうにもならない荒廃生活を描く。
    是非とも中学校の教科書に載せて、教師の解説が聞きたい。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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