明治天皇(一) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (471ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101313511

作品紹介・あらすじ

1852(嘉永5)年9月22日、京都御所を取り巻く御苑の北の端、板塀で仕切られた屋敷内の質素な家で産声が上がった。皇子祐宮、のちの明治天皇の誕生である。厳しい攘夷主義者の父・孝明天皇の崩御により、皇子は14歳で第122代天皇に即位。開国・維新の動乱に立ち向かうことになる。極東の小国を勃興へと導き、欧米列強に比肩する近代国家に押し上げた果断な指導者の実像に迫る記念碑的大作。

感想・レビュー・書評

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  • ドナルド・キーンの『明治天皇(1)~(4)』を通読して感じたことを順不同に列記してみる。

    ・明治天皇は、当時の事情(内戦の続発、憲法の未整備、周辺国家との相次ぐ紛争)故に、国内外の状況を知悉していた。

    ・それは、単なる「象徴としての天皇」であるだけではなく、寧ろ積極的に「統治者」としての権能を正当化することができた。

    ・事実、いくつかの局面において、首班の任免を含めて明治天皇は明確な意思(聖旨)を明らかにして政府の意思決定と政策遂行を、半ば強制的に促した。

    ・いくつかの失敗はあったものの、極めて短期間に近代国家としての骨格を得て、東アジア地域における主導的な立場を確立できた原動力には、有能な元老、官吏の働きもあったが、それを正当化し、かつ強力な指導力をもつ明治天皇の存在があったことは間違いない。

    ・そういう意味において、世界の王政の歴史の中でも明治天皇は傑出した存在であった。

    ・当時の周辺環境の目を転じてみれば、清朝末期の中国が未だ「眠れる獅子」として畏怖の対象であったが、日本がにわかに開国したことにより、パワーバランスが崩れたことで、当時の西欧列強は覇権争いの場として次々に「市場参入」してきた。

    ・又、韓国においても、隣国日本の急激な西欧化を見て「開国(西欧化)派」と「守旧派」に別れて政争を繰り返していた。清国との友誼関係と勃興する日本との合間で揺れていたわけだ。

    ・しかし、清朝末期の中国においては、西欧列強に屈服するケースが多々あり、恐れるに足らない単なる「黄昏の王国」ではないかという見方が徐々に広がり始めてきた。

    ・それを決定的に明らかにしてしまった出来事が「日清戦争」である。その戦後の三国干渉は、「日本が火中の栗を拾った」ことを奇貨として参入の意思表明をしたと言えば整理がつけやすい。

    ・思えば、今の中国も1950年の建国によって、はじめて内戦状態から単一国家としての体裁が整ったばかりである。不平等条約や、周辺国からの干渉に怯えながら、自国の成長を進めなければならないという面において、中国と明治日本は極めて類似性がある。

    ・無論、経済・通貨制度等は全く異なるが、その思考原理のいくつかは未だに通用するそれであり、事実、そのセオリーに則った手を中国は着実に打ってきている。

    ・しかしそこには、古臭い思考原理も紛れ込んでおり、それのみを排除するのは難しい。これは国民感情に類するこのが阻害要因。領土紛争はまさにそれであり、いかに法的歴史的に間違っていようが、なんとでも正当化して領土の割譲を求めるものだ。

    ・日本も明治七年の台湾討伐に続いて、日清戦争後の台湾割譲、又、日韓併合もそういう話であり、今の中国が、当時の日本と同じようなことをやっていると思えば良いわけで、あまり中国の意図を深読みする必要などないと思う。要は「欲しい」だけだ。(ただし、それが今の時代に許される事かどうかは全く別問題)

    ・明治の時代には、明治天皇という類稀なる英明な君主を擁していたが、今の日本は民主主義にもとづき、国民と同じレベルの首相と政府しか持ち合わせていないことは、仕方ないこととはいえ不幸なことだ。今の中国は、共産党による一党独裁である。かの国に英明な国家主席が誕生した暁には、歴史は全く違う速度で動き始める筈だ。

    ・それは、日本にとって、決して心地よいそれにはならないだろう。

  • 「近代日本の天皇像」

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/detail?rgtn=B09519

  • 『文献渉猟2007』より。

  • 明治天皇の、きわめて詳細な評伝。

    序章に、著者は明治天皇がどのような人物であったかはよくわからない、という。
    山川三千子の『女官』とか、たまたま手にしたものなどで勝手なイメージを作っていた自分には、最初意外だった。
    しかし、この碩学には、そうなのだ。
    つまり、あらゆる資料を読んできた、この人には、互いに矛盾する記録が目に入るため、一つの像を結びにくいのだろう。

    そんな重厚な明治天皇の評伝。
    第一巻は、嘉永五(1852)年の誕生から、明治二(1869)年までの内容。
    江戸時代の公家の暮らしぶりが決して悪くなかったことなど、いきなり蒙を啓かれることが多い。
    憂悶の挙句、酒色にふけり、やがて不審な死を遂げる孝明天皇、暗躍する岩倉具視、慶喜と朝廷を取り持つはずなのに不可解な動きをする輪王寺宮(のちの北白川宮)など、物語を読むかのようにドラマチックである。

    なかなか読み進められず、まる一週間かかった。
    自分の病気のこともあって、明治百五十年の今年中に最終巻まで読み進めるのは難しそうだ。

  • 明治維新まで
    従来の天皇から一線を画し、今上天皇まで続くモデルの萌芽を見る

  • 孝明天皇の考え方(特に攘夷に対する)を踏まえた上で、明治天皇の誕生〜江戸遷都(戊辰戦争終結)頃までを収める。

    孝明天皇は書簡も多く残っており、性格や考え方などを推測できるが、明治天皇の気持ちなり考え方を述べた資料は少なく、周りの人達の手記や「明治天皇記」等に残された行動から推測するしか無いと言う。

    そのため、筆者は文献を多くあたる事により、周囲から明治天皇像を浮き彫りにしている。資料が多ければ多い程、より正確な明治天皇像に近づのであるが、当然ながらそれらをまとめ、誕生からの時系列に並べ一冊の本にするには大変な忍耐と根気と努力が必要である。そういう作者の気概が伝わってくる。

    内容は単純に楽しい。幕末の幕府はイヤイヤ開国したかと思っていたが、実は主立った重役達は開国を前向きに捉えていた等、イメージとは異なる幕府があり、「燃えよ剣」や「龍馬が行く」等で描かれている幕府とは随分違うことを発見した。

  • (欲しい!)/文庫

  • 第一巻は孝明天皇を中心に展開。幕末通史としても読むこともできる。幕末維新の書物を多く読んでいるが、天皇の視点からの書物はこれまで読んだことがなかったので、新しい考察もあった。
    明治天皇の青年期の人柄、姿勢、教育など個人的な側面を知ることもでき興味深い。
    第一巻末尾より引用
    『これまでのところ、未だ明治天皇は自らの気概を見せる機会に恵まれたとは言えない。・・・・長命と強い使命感が、この若者をついには歴代の天皇の中で最も名高い天皇に仕立て上げることになる。』
    第二巻以降が楽しみだ。

    本書が外国人によって書かれていること、また多くの書物に基づき(それを明記している)書かれていること、即ち、客観性が高いということで史実としても貴重なものではないか。まさに労作且つ傑作。

  • 淡々と当時の天皇を取り巻く情勢を作者の見解を交えて綴っているという感じですので純粋な小説ではありませんが、数少ない明治天皇の生涯を取り上げた作品ということで読み始めました。
    1巻目は幕末の西洋諸国が続々とやってくる頃から始まります。
    孝明天皇による朝廷の威信と権力への影響力の拡大など、当時の幕末の様子が分かって興味深かったです。
    1巻目は戊辰・函館戦争が終息する頃で終わっています。

  • 気になっていたドナルド・キーンの「明治天皇」を発見。
    新潮文庫から出てるみたい。
    忘れないようにメモメモ

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著者プロフィール

1922年ニューヨーク生まれ。コロンビア大学名誉教授。日本文学研究者、文芸評論家。2011年3月の東日本大震災後に日本永住・日本国籍取得を決意し、翌年3月に日本国籍を取得。主な著書に『百代の過客』『日本文学の歴史』(全十八巻)『明治天皇』『正岡子規』『ドナルド・キーン著作集』(全十五巻)など。また、古典の『徒然草』や『奥の細道』、近松門左衛門から現代作家の三島由紀夫や安部公房などの著作まで英訳書も多数。

「2014年 『日本の俳句はなぜ世界文学なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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