明治天皇(四) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (501ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101313542

作品紹介・あらすじ

日露戦争で、明治天皇が旅順陥落の勝利に示した反応は、敗北したステッセル将軍の名誉を保てるよう指示することだった。「大帝」と呼ばれた開明的君主の心にあったのは「平和への願い」だったのである。日本が韓国を併合、極東支配を強化しつつある1912(明治45)年7月30日、明治天皇は崩御する。卓越した指導者の生涯を克明に追い、明治という激動の時代を描き切った伝記文学の金字塔。毎日出版文化賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 最終巻。日露戦争、韓国併合から天皇崩御、乃木希典殉死に繋がる。
    特に日露戦争に亘るところは、「坂の上の雲」と重ねて、興味深いエピソードが書かれている。
    明治天皇について、何故か一人の人物の肖像を描き出すまでに至っていないとする。その理由として牧野伸顕は語る。「陛下は公の天職を御尽くしになる御資格の外は、殆ど御自分様即ち私と云う側面はないのである」

    (引用)
    ・この時期に先立って既に日本と英国の双方で、このような同盟を唱えていた人物がいた。福沢諭吉は明治28年、「時事新報」に日英同盟を提唱する社説を書いた。
    ・天皇が海軍よりむしろ陸軍を好んでいる事実は、誰もが知っていた。天皇は、軍艦に乗るのが嫌いだった。その一因として、重油の臭いを好まなかったことがある。
    ・もし、天皇がロシア皇帝のように、司令官となるべき将軍や提督の任命を強要したり、あるいは何か個人的な喧嘩のために和平交渉の日本全権にもっとも相応しい人物の指名を拒否しようと思えば、仮にそれが如何に日本を危険に晒すことになったとしても、天皇は思い通りにすることが出来たはずだった。幸いにも、そういうことは起こらなかった。
    ・天皇の勅語に、繰り返し登場する主題が一つある。それがあまりにも度々なので、これこそ天皇の最も深い信念の表現に違いないと考える誘惑に駆られることがある。それは、平和への願いである。

  • 『文献渉猟2007』より。

  • 運命の子裕仁親王の誕生、日露戦争、日韓併合と伊藤博文の暗殺事件、大逆事件と明治天皇自身の崩御、そして乃木大将の殉死。
    明治の歴史の中でも、濃密な数年だったが、それがこんなに天皇の晩年に集中していたことを改めて思い知らされる。

    日露戦争の頃の国際情勢は、学校で習うところではある。
    ロシアに警戒していた英米とたまたま利害が一致していたこと、ロシアと協力関係にあるはずのフランスが日和見したこと――こういったことが重なっての日本の辛勝だった。
    これを成功体験として太平洋戦争に突き進んだとしたら、と思うとぞっとする。

    この日露戦争勝利に対する天皇の反応が冴えないものだったというのは意外だった。
    それから、日比谷焼き討ち事件の騒擾が、皇居の中にも聞こえたというのも、今からすると考えられない話だ。
    勝利に大きな反応も見せなかったのに、この時は落ち着かず、興奮状態だったというのも、この時期の天皇がどれほど一般からかけ離れていたか想像させる。

    安重根と、ある時期までの幸徳秋水の意外な共通点が指摘されていたのが面白かった。
    二人とも、天皇を私利私欲ではなく、世界平和を願う君主として理解しており、それを実現させない重臣らを激しく非難していたという。
    これは、もしかすると平成天皇をめぐる状況とかなり似ていなくはないか?とも思える。
    安重根が、看守や取調べ担当者を敬服させる人物であったというのも、興味深い。

    乃木希典の殉死への賛否、特に批判がいくつか紹介されていた。
    最初、乃木の殉死を信じなかった鴎外が「興津弥五右衛門の遺書」での殉死絶賛から、すぐに「阿部一族」での懐疑へ転じたことを取り上げている。
    こうした個人の中の揺れも興味深いけれど、新聞の論調が数日賛否両論(批判については乃木はまだ果たすべき役割があり、今死ぬのは無責任だという論調)だったのに、一転して賛辞一辺倒になったというのはどういうことだろう。
    今でもこういったことは見受けられるのだけれど。

    さて、四巻どうにか読み続けてきた。
    最後で初出が『新潮45』だったことを知って驚いた。
    それで各章が短いのか、と合点がいく部分もあり、よくこんなものを載せたな、と思う部分もあり。
    今、こういうものが世の中に出ることができるのだろうか?

  • 明治天皇の崩御と乃木少将の殉死まで
    天皇という国体に市民が寄り添って成立していた明治という大転換期、コンパクトだが強い国家
    天皇はかくあるべしという信念のもと溢れる感情を押し留めて最期を迎える明治天皇の高い精神性
    近代日本を考えるうえで良書

  • 日露戦争から明治天皇の崩御に至るまでの日本の状態がよく分かりました。
    明治天皇が諸外国からも君主として高い評価を得ていたことが分かります。
    歴代天皇の中で最も「天皇」であろうとした明治天皇。
    「天皇」とはどういう存在であるべきなのかを考え続けた一生だったのではないでしょうか。

  • 2008.8.23

  • 5月から読み始めていた
    ドナルド・キーン「明治天皇1〜4」
    ようやく、よ〜〜〜うやく読み終わりました。
    長かったです。

    私の全く知らない歴史がそこにありました。

    伝記小説ですからそれほどおもしろいわけでもなく、途中で厭きてちがう本を読んだりしましたが「全く知らない時代を知りたい!」という好奇心だけでどうにか読み終わりました。

    たとえば
    伊勢神宮に初めてお参りされたのが明治天皇。
    それまでの天皇は京都御所から一歩も外へ出られたことはなかった。
    そんな天皇が東京へ移られた・・・・いつ、どのような経緯で移られたのか。

    また、廃藩置県について、
    こんなに大変なことだとは実感としてなかったですね。
    日本中の武士がリストラされたわけです。
    藩体制をやめて県に置き換わった程度の理解しかなかったのですが現代でたとえれば
    日本中の公務員がある日突然、全員リストラされる・・・・というぐらいの出来事だったわけです。

    まぁ、そんなこんな、明治時代というのは天地がひっくり返るほど大変な時代だったということですがそれをドナルド・キーンさんに教えていただくという所が複雑ですね。
    ドナルド・キーンさんだから明治天皇の伝記が書けたと言うべきなんでしょう。

    大の西洋嫌いの父(孝明天皇)のもとに生まれ、伝統的な公家の教育を受けて育った明治天皇が確固たる意思を持ってこの激動の明治維新後の舵取りをとられたことは本当に日本にとって素晴らしい事だったのだとこの「明治天皇」を読んで初めて知りました。

    また日本と中国、日本と韓国の歴史的な関係も詳しく書かれており日本人としてきちんと知っておくべき歴史でもあると正直思いました。

    ドナルド・キーンさんはすごい方です。

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著者プロフィール

1922年ニューヨーク生まれ。コロンビア大学名誉教授。日本文学研究者、文芸評論家。2011年3月の東日本大震災後に日本永住・日本国籍取得を決意し、翌年3月に日本国籍を取得。主な著書に『百代の過客』『日本文学の歴史』(全十八巻)『明治天皇』『正岡子規』『ドナルド・キーン著作集』(全十五巻)など。また、古典の『徒然草』や『奥の細道』、近松門左衛門から現代作家の三島由紀夫や安部公房などの著作まで英訳書も多数。

「2014年 『日本の俳句はなぜ世界文学なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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