- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101315126
感想・レビュー・書評
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父親を亡くした少女。母と二人、ポプラの木があるアパートに移り住む。
そこで繰り広げられる大家のおばあちゃん、隣人との心暖まる交流を描いた話。
戸惑いや悩みを抱えながらも人を大切に思う気持ち、何かを守る気持ちが少女に芽生えていく、そんな場面をポプラの木が揺れる風や光、空気感を感じながら読めた。
隣人との関わりや、オサム君との遊び、おかあさんへの思い、おばあちゃんへの思いなど日々の思いをお父さんへ綴る手紙には涙腺が緩む。
ずっと少女目線で読んでいくが、最後のお母さんからの手紙でお母さんの娘への思い、お父さんへの思い、これまで生きてきた葛藤、苦難の時間を感じ、お母さん目線になる。
人は人を許し、受け入れながら前を向いて生きていく大切さを感じた。
読んでいて穏やかな時間が過ごせる本です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
母が亡くなってからおよそ二年間、私は母に手紙を書いた。
こんなにも話したいことがあったのかと、自分でも呆れるほどだった。
分厚い手紙の束が貯まった頃、妙に気持ちが落ち着く日が来た。
大丈夫、私、生きてるもの。きっと良い日もやって来る。そう思えた。
この本に登場するおばあさんも、手紙を書くことの効能を知っていたに違いない。
しかし、「あの世へ手紙を運んでやる」とは、なんと粋な誘い文句だろうか。
亡くなった父親に自分の言葉が届けてもらえるならと、7歳だった主人公がせっせと手紙を書いたのも、とても頷ける展開だ。もっとも、そんなのは「子ども騙し」かと思いながら読むと本当に騙されるのだが。
「夏の庭」、そしてひとつ前の「西日の町」と同じく、喪失と再生の物語。
今回は20代半ばの女性が、母子家庭だった頃のアパート暮らしの記憶を、悔恨の思いで振り返る描写が多い。そこに微かなノスタルジーも入り込み、女性らしい語りになっている。
読む年代によって、少女寄りになったり母親寄りになったり、あるいはおばあさんに共感して読んだりするだろう。
特に身近などなたかを亡くした経験のある方は、身につまされるかもしれない。
主人公は語り手であるかつての少女(今は成人している)だが、私はこの母親に肩入れしたくなる。
何も言わず突然自死した夫。大きな「何故?」を胸に秘めたまま、幼い子を抱えて生きていかなければならなかった母親に、言いしれぬほどの孤独を見てしまう。
電車に乗って行き当たりばったりの旅を続ける日々の、言葉に出せない深い絶望と葛藤。
この子だけは守らねばならない。父親の死の事実から。
激情とともに吐きだして、いっそ怨み事が言えたらどんなに楽だったかもしれないのに。
最終章のポプラが黄色く色づく季節に、その母の胸の内を初めて知ることになる主人公。
救われたのは、この主人公だけではない。母親もそうだったはずだ。
そして私は今回もまた、しばしば涙ぐみながら読むこととなった。
湯本さん、ありがとう。次もあなたの作品を読みます。 -
文書の表現が好きです。
流れるような読みやすい文書なのに、
登場人物の心象がしっかり伝わってきます。
得体の知れない不安におびえる様子は
きっと体験した人でないと書けないのでは、
思えるほどリアルでした。
でもそこで、ずーっと沈み込んでしまう物語ではなく
おばあさんとの出会いが、
主人公を変え、救ってくれる物語。
ところどころの台詞が飾らないで、とても素敵です。 -
十代の頃は、「私」とおばあさんの関係ばかりが気になった。
今は母親の置かれた状況と決心に震える。
何十年後には、おばあさんのように生きるにはどうしたらいいかと考えるかもしれない。
こういうのが、世代を超えて読むことのできる本というのじゃないか。私の人生を支える存在と呼べるのじゃないか。 -
父親を亡くした小学1年生の千秋が母と、新天地のアパート「ポプラ荘」の大家さんに見守られながら心を回復させていく物語です。
タイトルに秋とあるように物語の中にはおいしそうな秋の食べ物が登場します。
2015年には映画化もされています。
めぐる時間と心の回復、人とのつながりが詰め込まれた物語を今の時期にゆっくり読んでみませんか? -
季節を感じさせる物語。少女の心の傷が癒やされ、成長していく。あたたかい気持ちになりました。また秋になったら読みます。
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湯本先生は子どもの視点でとらえた世界を描くのが本当に上手だと思う。
「マンホールのような穴」
「イエス様の顔」
「おばあさんの家の様々な物たち」
「マンホールのような穴」などはまさにそれで、子どもの頃に感じていた不安や恐怖を体現している。
言語では言い表せない感情が形をもって語り掛けてくるのだ。
「油断していると、幸せを奪ってしまうよ…」
反面、大人の心情は非常にあっさりと描かれている。
夫をなくしたばかりの母の心情も、大人になった千秋の心情も、事細かに描かれてはいない。
物語の視点が子ども時代の千秋なのだから当たり前なのかもしれない。
そんな、想像でしか分からない大人の事情が、最後の最後に明かされる。
子ども時代の千秋が、どれほど守られてきたのかも…
ポプラの木はそんな「見守る存在」を象徴しているかのようだ。
今、人生に疲れている人。
いつも不安にさいなまれている人。
何か大切なものを「喪失」してしまった人。
そんな人にそっと寄り添ってくれる作品。 -
久々に一気読みしました。涙が出ました。幼くして父を亡くした千秋とお婆さんのふれあい、登場人物たちの優しさに気持ちが揺れました。昨年、映画化されているようなのですが、是非見てみたいです。本当に、よかったです。
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夏の庭がそうであったように、この作者の「死」への対峙は柔らかで、穏やかで、温かみすら感じる。
主人公がこころをよせる、アパートの大家のおばあさんは、死者への手紙を運んでくれる…
主人公は亡くなった父へ手紙を書くようになる。1通書くたびに、まるで父の存在を消化するかのように。
小学生が描くにはレベルの高すぎる文章力のある手紙なので、若干リアリティがないのだが、物語の世界観を冷やかすほどではなく、手紙の文面を通して感じられる、彼女が父の死を乗り越えようとする成長が、そして他人を思いやる優しさが、胸に迫る。
そしてなんとなくは想像していた衝撃のラストで、彼女を包んでいた周りのすべての人をいとおしく思う。
「夏の庭」のほうが好きだけど、目頭と心が熱くなる、素晴らしい作品。 -
湯本香樹実初読。凄く、凄く良かった。最後のお母さんの手紙の件は特に良かった。梨木香歩の『西の魔女が死んだ』と似たような雰囲気の作品ではあるけど、私は断然こちらのほうが好み。図書館で借りたけど、あまりにも気に入ったので即日文庫をお買い上げ。将来子供が生まれたら絶対に読ませたい本。久々に素敵な本に出会えた。また読み返したいと思う。2011/414