春のオルガン (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101315133

作品紹介・あらすじ

小学校を卒業した春休み、私は弟のテツと川原に放置されたバスで眠った-。大人たちのトラブル、自分もまた子供から大人に変わってゆくことへの戸惑いの中で、トモミは少しずつまだ見ぬ世界に足を踏み出してゆく。ガラクタ、野良猫たち、雷の音…ばらばらだったすべてが、いつかひとつでも欠けてはならないものになっていた。少女の揺れ動く季節を瑞々しく描いた珠玉の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 小学校を卒業した春休み、ってなんか宙ぶらりん。
    もう小学生ではないけれど、まだ中学生でもない、どっち付かずな感じ。
    春って新生活のワクワク感がある反面ちょっと淋しい。

    トモミもそんな一人。
    頭痛も酷いし怪物の出てくる夢も見るし家族もなんだかバラバラで…。
    身体は日々成長していくのに、心はついていけず冴えない。
    この中途半端なモヤモヤ感は私にも遠い昔に覚えがあり、とても懐かしい。
    そんなモヤモヤした不安を抱えながら、手探りで少しずつ大人に近付いていくトモミ。
    トモミの不器用さにとても共感を持ち、エールを贈りたくなった。

  • 小学校を卒業した少女
    春休みのできごとのお話でした
    解説は角田光代で解説を読んでなるほどと思いました
    子供から大人へっていうところと死について
    いずれの出来事もなにげないことでしたが
    それぞれに著者のメッセージがあるんだなと

  • 小学生から中学生になるあいだの春休み。大人たちのどうしようもないトラブルがトモミを憂鬱にしていた。
    きっかけは堀の位置をめぐる、隣の家との問題。おとうさんとおかあさんは何度もケンカした。おとうさんはあまり家に帰らなくなった。おじいちゃんは散歩したり、納戸の整理を繰り返したりしていてよくわからない。弟のテツは隣の家に嫌がらせをするため、猫の死体を探している。

    ---------------------------------------

    結局のところ、物語のなかで結論は出ない。
    トモミが隣の家のおじいさんを助けたことで、状況は好転するかもしれないが、それはまだ先の話だ。
    路上で突然胸を触ってきた痴漢を許したわけではないし、被害自体をなかったことにしたわけでもなく、トモミの心に傷は残っている。

    たとえば猫たちの病気、たとえば両親のケンカ、たとえば誰かの死。自分ではどうしようもないことが世の中にはたくさんある。
    どうしようもないトラブルや悲劇を目の前にして、ただ指を咥えて傍観するのか。テツのように戦うのか。どちらが大人の対応なのかはわからない。
    けれど、どうしようもないかもしれないことのために戦うのが勇気だと、猫に餌をやり続けるおばさんは言った。
    勇気って何だろうな。難しい。そしていつも通り、やっぱり答えはない。

    ---------------------------------------

    深夜、家族に気づかれないように家を出て、猫の死体を抱えてくるテツの姿を想像したら、酒鬼薔薇聖斗が頭に浮かんだ。本好きの優しい少年、テツ。彼の将来が不安でならない。

  • 読んでる間なんだかずっと胸がぎゅっとなって、不安な気持ちになった。
    この作品のもつ不気味さみたいなのが読後も胸を取り巻いてる気がする。
    読んでる間そわそわと不安になってしまったのは、小学校を卒業したばかりのトモミの背たけから見る大人の世界や死というものは解像度がとても低く、全貌が見えにくいものだからだと思う。
    だからこそより不安感が増したし、落ち着かない気持ちになったんだと思う。
    大人になるにはやっぱり静かにただ前に進むしかないのかな。

    あとがきの
    「あっていなかった時も私の断片はその人の時間の中で生きていたのだと思う」
    という文、すきです。

  • 「夏の庭」や「ポプラの秋」が良かったので読んでみました。
    ...が、自分が未熟なせいか、よくわからなかった。何でだろ。
    いろんな要素があり過ぎた?
    とても感想を述べにくいです。

  • 思春期。子どもから大人に変わる途中の不安定な感じがよく出ている。

    喧嘩ばかりしている両親、ガラクタ修理にとりつかれている祖父、隣家の不愉快なじいさん。隣家のじいさんに嫌がらせするため、トモミと弟のテツは猫の死骸を探し回るうち、野良猫たちの溜まり場でエサやりをしているおばさんに出会う。

    お話がこんがらがると言うか、あれ?これは夢?現実?と境目がよく分からなくなる感じが独特。
    浅野いにおさんの「おやすみプンプン」を読んだ感覚と似ているなぁ。梨木香歩さんの「エンジェルエンジェル」も連想した。

    「死」とか「正しさ」について子ども目線から描いた作品。トモミの祖父の話がズシンときた。

  • 猫は嫌いですが、この作品は実に良い!構成も良く練れていて、何より読みやすい。すれ違いざまの胸タッチ事件は角田光代女史の解説で合点
    表紙画は、イマイチぴんと来ない

  • 「夏の庭」の作者の本ということで、公共図書館のハードカバーを読みました。
    (なので、酒井駒子さんの絵はありません)

    主人公の心情はよく書かれていると思いましたが、正直気持ち悪いと思ってしまう場面が少なくなく、かといって中途半端にしてしまうともっと気持ち悪いと思い、なんとか最後まで読み終えました。

    他の方の評価は高いようですが、私はきっと読み返すことはないでしょう。

  • 小学校を卒業したばかりの私。ご近所のトラブルから始まって、捨て猫とその世話をするおばさんに出逢う。すれ違っていた家族や宙ぶらりんな自分に思い悩む少女とその弟を切ないほどにリアルに描く。
    あらすじがうまく説明できません…(;´∀`)夏の庭、ポプラの秋に続いて読みました。子供の心情のリアルな描写、魅力的なおばあさん(本作ではおばさん)、死を通してのメッセージは通じるものがあると思います。後半は何度か涙しながら読みました。

  • 大人でもない、子どもでもない、そういった女の子のもやもや感がうまく描かれていると思います。
    もやもやしたことの答えが見つかるわけではなく、もやもやしたことをひとつひとつ自分なりに噛み砕いていく、
    そんな過程を見せてくれます。しんどいことでもあるのですが、心がすっきりとしていく面もあります。

    10代前半の子にとっては、うけとりかたが人によって結構かわる作品かも。
    いま、もやもやしているであろう隊長に一読をすすめたいですね。

    2014.05.31

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著者プロフィール

1959年東京都生まれ。作家。著書に、小説『夏の庭 ――The Friends――』『岸辺の旅』、絵本『くまとやまねこ』(絵:酒井駒子)『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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