クラッシュ―風景が倒れる、人が砕ける (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101316390

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  • 阪神淡路大震災、雪印食中毒事件、福知山線脱線事故等、
    20世紀末から21世紀にけての10年間に起こった6件の事件・
    事故を取材したノンフィクションである。

    阪神淡路大震災の発生直後から、自社も甚大な被害を受けながらも
    AM神戸はCMをすべてカットし、被害状況や安否確認情報のラジオ
    放送を続けた。

    緊急招集された社員は、それぞれ街中に散って行く。新聞記者が
    まだ来ていない長田に向かったプロデューサーは、炎上する民家の
    前に茫然と立ち尽くす初老の男性を見つけた。

    燃えているのは男性の自宅だった。家族はどうしたのか?そうマイク
    を向けると男性は無表情に答える。炎上している家の中に息子がいる。
    倒壊した家に挟まれ、身動きが出来なかった。助け出そうとしたが、
    火が回って来た。息子は懸命に助けようとした父に「お父さん、
    僕のことはいいから、早よ、逃げて…」と最期の言葉を残した。

    「これ以降、二度と被災者にマイクを向けようとしなかった。たとえ
    放送マン失格の烙印を押されてもかまわなかった。」

    瓦礫に生き埋めになった子供が数日後に助け出された現場で、救助に
    当たった人々の「生きてるぞっ!」の声に「うそっ!」との声を上げ
    たベテラン女性レポーターとは大違いだな。子供の死体でも期待して
    たのか…。

    阪神淡路大震災に一番ページを割いているが、個人的に注目したいのは
    福知山線脱線転覆事故のJR西日本だ。

    事故発生当初、JR西日本は踏切で自動車と衝突した為の脱線と説明。
    あっけなく嘘だとばれると、置き石による事故の可能性なんて言い訳を
    し始める。

    被害にあった人々の家族が現場付近にに駆け付けても、そこに配置
    された職員は事故現場はどこなのかと問われて「分からない」と答
    える始末。

    多くの被害者が予想されているのに、会社が用意した被害者家族
    担当者は僅かに2名というお粗末さ。

    そして、補償問題を先取りしたように遺族間の連絡を取らせない
    ようにする細心の配慮と、遺族間の切り崩し。保身だけを考えた
    巨大企業の硬直が
    良く分かる。

    良書なのだが、文庫本に加えられた最終章、13年後の神戸は内容が
    饒舌過ぎて余計なきがするのだが…。

  • 事故災害ルポの一級品。
    ただ、作者の佐野眞一の強烈な「反骨」的な意識が前面に押し出されていて、そこが鼻につくといえば鼻につきます。
    特に信楽高原鉄道事故の、JRを責める態度はバッシングと大した違いはないように見えます。あの事故で、JRを完全な加害者として責めるのは極めて難しいことです。

  • 福知山線の事故、17歳が起こした一連の事件、雪印の食中毒、東海村臨界事故、9.11テロ、そして阪神淡路大震災と、書かれているどの事件・事故も記憶に強烈に残った大きな事件事故であり、ひとつひとつについて一冊の本を書いてもまだあまりあるほどのものばかりだ。
    それを一冊にまとめているので、どうしても物足りなさは残るものの、筆者が自分の足で現場を回り、人々の話を集めたその臨場感は鬼気迫るものがあった。

  • ボクがなぜノンフィクションを好み読み続けるのか。それは単純明快。騙すのも騙されるのもどっかでシンドイから。エイプリルフール的なやつはいいんだ。ぜんぜん。実はウソだった。それもウソ。こういうやり取りはギャング映画だけで勘弁してほしい。JR福知山線バスジャック少年雪印食中毒東海村JCO臨海阪神淡路大震災NY同時多発テロ人の命が絡んでる事件の裏側にとんでもない事実が隠されている。『圧死せし友を悲しむ私は生きて暗夜に生理始まる』震災後、新聞社に送られてきた短歌。おそらく女子中学生と思われる。停電の中、友人の死亡を知る。ひとりその夜、おびただしい死者の魂が息絶えたこの地で生の未来を身に内震えていたのかも知れない。重症被災者はともかくヘリ運搬でなければ命は助からない。一刻をあらそう現場の判断だ。ところが。「現場からの直接ヘリ要請はできません。」地元消防署保健所知事秘書知事自衛隊へ。「この手順でお願いします。」のべ所要時間 十数時間。これを聞いてこの医師はどれだけこの国を悔い憂いただろうか。

著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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