鎮守の森 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101317519

作品紹介・あらすじ

世界規模の森林破壊や地球温暖化が加速する現在、きびしい自然環境に耐え、かつ大災害にも負けない森を再生することが緊急の課題となっている。78歳の今まで、その土地固有の植生を割り出しながら、国内外でじつに3000万本を越す植樹活動を続けてきた植物学の世界的権威が、人々を守り、育てる「鎮守の森」の可能性を通して、地球をあと千年生かすための道を指し示す。

感想・レビュー・書評

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  • ブルータスでおすすめされてた本だけど、おもしろい!生態学、日本古来の森をつくり直す話しだけど、宗教、人間につながり、ビジネスにも置き換えることができる。植物にとって最高な状況は最適でないため、それは長く生き続けることができない。満たされていない状況がよりよい成長を促す。人と同じですね。眼に見える物、数値化できるものばかりにとらわれ、見えないものをみようとしない結果、大切なものを失った日本人。森と歴史は同じなんだ、と。いやはやおもしろい。

  • 森にとっての最適条件は適度な我慢 
    人間も同じ、常に満たされている状態は危険であり衰退の原因となる
    神道、仏教の自然崇拝という自然との共生思想を忘れてしまったことで日本人の誇りも失われた
    潜在自然植生で木を植える
    魂の森は人々の心の拠り所

  • 植生について目から鱗な内容はもちろん、日本古来の価値観にまで触れている。すごく充実した良書。

  • 「鎮守の森」というと、神社やお寺の周囲にある鬱蒼とした森のことをイメージするが、本書ではそれにとどまらず、その土地の気候や地質、地形に適した植生によって構成された森のことを呼んでいる。

    それぞれの場所には、その土地にあった植物がある。また、自然に形成された森は単一の植物種だけで成り立っているわけではなく、高木から亜高木、中低木、さらには下草に至るまで、一連の植生が組み合わさった生態系として存在している。これを瀬在自然植生と呼ぶ。

    この生態系は、外部要因である気候、土壌、人間の活動などによっても影響を受けるし、また同じ生態系内に存在するさまざまな植物が、日の光や水分、土壌の養分などを巡って激しい競争を繰り広げる中で、微妙な均衡を保ちながら持続している。

    このような多様性とバランスの中に成り立っている植生が、鎮守の森である。

    これらは、植林によって成立した杉林や、人間が薪などを取ることにより定期的に間伐されている里山とも異なった成立条件であり、日本のように長い間森林資源が活用され、人と自然の関係性が非常に密になった場所では、都市の周りにはスポット的にしか残っていないという。

    鎮守の森はもっとも多様性が高い植生であり、生物多様性の保護の観点からも、大切にされるべき存在である。また、防災の観点からも、風水害や火災などに対して強く、潜在自然植生によって成り立った森は、豪雨においても土砂崩れが少なく、また大火のときに、この森が火災の延焼を食い止めたといった事例も、多く報告されているようである。

    また、鎮守の森という言葉が本来持っている、社会的、文化的、宗教的な役割も、引き続き大切にされていかなければいけないと、筆者は述べている。

    このような多様な役割を果たす森のあり方を考えると、我々は、植林や緑化の際にも、その中身がこのような持続可能で多様な生態系をつくりだすものになっているかという視点から、計画していかなければいけないのではないかと感じた。

    本書の中でも、後半では筆者が取り組んできた様々な植林の取り組みに触れられている。これらの取り組みが、長期的に息づく緑の形成につながっていくことを期待したい。

  • 一志 治夫作「魂の森を行け 3000万本の木を植えた男」は宮脇昭氏の人生を描いた名作です。ある意味アクの強い宮脇氏のエッセンスを客観的に描いており、「鎮守の森」という概念を世界に広め、数々の森を復活させてきた偉業を余すことなく書いています。
    そして本作はその後本人が書いたその名も「鎮守の森」
    これは彼の熱い熱い思いがぐらぐらと煮えたぎっていて、文章なのにとっても前のめり。
    森作りという静謐に思える行動を熱くアグレッシブに行動していきます。なんだかんだ20年前くらいの本ですが、あれからどれくらい森が復活したんだろうかと思うとワクワクします。
    川もそうですが、人が本気で取り組むと自然も本来の美しい姿を取り戻すんですね。多摩川や荒川なんて昔どぶでしたから。
    針葉樹を植えて緑化したと言っている自治体は今でも有りそうですね。我が住まう自治体は杉を売り物にしている町なんですがどうなんでしょうか・・・。
    繰り返し繰り返し同じ事を書いている部分も有りますが、まるで宮脇氏の肉声を聞いているようで楽しいです。御年90になるようですがお元気なのでしょうか。
    今でもイオンの植樹祭は続いているようです。継続は力なり!

  • 昔から人々の隣には、神社があり、その周りには林というか森があった。蚊に刺されながら飛び回ったり、ガマガエルを捕まえたり、ドングリを拾ったり。そんな子供時代を思い出した。遊びの場であった、そんな森には、地域を守る大きな役割があったことを教えてくれる。

  • 「鎮守の森」というタイトルは、
    本書を読むほどに、筆者の訴えたいことを端的に象徴している。

    ポイントは2点。
    1)どこの土地にもあるはずの「固有の植生」、そこには防災上、宗教上、文化的伝承、生物多様性保全などの重要な意味がある。
    2)固有のものであれそうでないものであれ、植生には「生理的最適」(居心地の良い状態)と「生態的最適」(嫌な奴とも何とか折り合いをつけながら存在している状態)が存在し、後者にこそ健全性がある。

    これらの点を踏まえない緑化は不適切なのだそうだ。また、緑化を適切にやるにも、相応の覚悟を持ってやり切ることが必要との主張も筆者はしている。

    少なくはなったが、日本にはまだ各地に鎮守の森が残っているという。本書の最後にその代表的な場所が紹介されている。

    学者にありがちな難解で押し付けがましい主張は厳しく抑制された書き方がされていて、全体に穏やかな筆致で論旨は進んでいく。それでいて「火事場の野次馬」のような、エモーショナルな表現が時折繰り出され、それが心地よいアクセントになっている。

    よく語られる「持続可能」ということの本当の意味は何か、の解の一つが本書であるように思う。
    また、環境保全の話から始まり、それを超えた部分にも目を向けた啓蒙的な主張、「生態的最適」論に代表されるような、人間社会の処世術まで考えさせるところが面白い。

    人付き合いに何らかの倦怠感を抱いた時、本書を読み返して最寄りの鎮守の森を訪れると、もしかしたら、森が何らかの啓示を与えてくれるかもしれない、そんな気持ちを持たせてくれる一冊だった。

  • 土地本来の植生(生態)を考えた森作り
    我が家の庭も金ばかりかかる見せかけの緑か。
    森が形成されるプロセスは個々の相互作用の結果。
    森は人を育み,人が森を育む。そこはある種の宗教的シンボルとなる。宗教性を失った人間は横暴になるのか。

  • 14/5/30読了

  • 宮脇理論が素晴らしすぎたので横浜国大の樹木は鬱蒼としすぎです。

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著者プロフィール

1928年岡山生。広島文理科大学生物学科卒業。理学博士。ドイツ国立植生図研究所研究員、横浜国立大学教授、国際生態学会会長等を経て、現在、横浜国立大学名誉教授、公益財団法人地球環境戦略研究機関国際生態学センター名誉センター長。独ゲッティンゲン大学名誉理学博士、独ザールランド大学名誉哲学博士、タイ国立メージョウ農工大学名誉農学博士、独ハノーバー大学名誉理学博士、マレーシア農科大学名誉林学博士。紫綬褒章、勲二等瑞宝章、第15回ブループラネット賞(地球環境国際賞)、1990年度朝日賞、日経地球環境技術大賞、ゴールデンブルーメ賞(ドイツ)、チュクセン賞(ドイツ)、後藤新平賞(2015年)等を受賞。第5回「KYOTO地球環境の殿堂」入り(2013年)。
著書に『日本植生誌』全10巻(至文堂)『植物と人間――生物社会のバランス』(NHKブックス、毎日出版文化賞)『瓦礫を活かす「森の防波堤」が命を守る』(学研新書)『「森の長城」が日本を救う!』(河出書房新社)『森の力』(講談社現代新書)『見えないものを見る力』『人類最後の日』『東京に「いのちの森」を!』(藤原書店)他多数。

「2019年 『いのちの森づくり 宮脇昭自伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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