マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.77
  • (71)
  • (83)
  • (102)
  • (12)
  • (2)
本棚登録 : 780
感想 : 63
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (632ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101318158

作品紹介・あらすじ

南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 始まりはガルシアマシアスの族長の秋の世界観を連想させたのだが、族長の秋の大統領とは違い、本作の主人公であるマシアス・ギリ大統領は優れた政治家でありながら、多くの人が感情移入できるであろう普通の人だった。
    政治、経済、国際問題、戦争、民族、歴史、霊的な力など
    の多くの要素をぎゅうぎゅうに詰め込んであり、舞台は小さな島国でありながら大きな世界の広がりを作品の中に感じることができる。
    タイトルの通り失脚の話であるが、訓話的なところはなく、あくまでただの物語。人間と、人間よりももっと大きな計り知れない存在、世界、あるいは宇宙の意志のようなものが介在する物語になっている。この作品がどんな話かということはとても一言ではまとめきれず、まるで現実のようにどこまでも広がっているような読後感がある。
    バス失踪の不思議なエピソードはガルシアマルケス的、どこか陰謀的な大きな力の存在はピンチョン的、最後の物語のくだりはフォークナーのアブサロム、アブサロム!を連想させた。

  • ぐいぐい引き込まれました。主人公が資本主義経済の流れにのみこまれる過程がリアル。切ない終わりだけど冷たくはない。主人公は自分にとって大切なものに気づき、温かい気持ちになれたように思う。


  • 谷崎潤一郎賞受賞のごちゃ混ぜ闇鍋長編小説。
    現実主義にスピリチュアルや形而上学を組み合わせながら、作品は綺麗に纏まり読みやすい。途中に何度か挟まるバスの話など、構成もユーモラスで飽きない。
    500〜600pが一瞬で過ぎ去る、個人的作者の作品群ではナンバーワン。

  • 池澤小説三作目。現在と過去、政治と宗教、男と女、硬派と軟派、現実とファンタジー。南の島が舞台の、充分にリアリティーを持たせた設定の中にこれだけの要素を盛り込み、かつ素晴らしい日本語。これぞプロの作品。

  • 現実とはかくも幻想的である。

    登場する主要な登場人物一人一人に「血肉」が通っていて、まるでノンフィクションの物語を読んでいるようなリアリティーを感じる一面で、バスが消えたり、死者と話したりと幻想的な一面も見せる。

    一見相反する出来事がごっちゃになっているようで、そのイベント一つ一つが混然一体となってこの小説の「世界観」を互いに支えあっている。

    この小説は一つの世界を構築している。それは手に取ることのできない空想の世界ではあるが、この小説を読まれた方ならその「空気」を感じることができるはず。

    優れた真の小説家は世界を創り出す。池澤夏樹氏もそのうちの一人だ。

  • どう捉えたら良いか、難しかった。
    荒唐無稽なところが多々出てくるけれど、笑って良いのか、真正面から受け止めたほうが良いのか。かと思えば、濃密な文化論的な部分も出てくる。ある種のファンタジー(バスと慰問団が失踪する)でもある。明瞭な風景が思い浮かぶような描写力は、さすが。
    でも、主人公のマシアス・ギリ大統領は、本当は何を目指していたんだろう。失脚することは物語の最初から決まっていたが、目指すところには、結局、たどり着けなかったというか。まだ頭が整理できていない。

  • せっかく娘ができたのに、まさか飛行機から身を投げるとは。
    エメリアナにはこの結末が見えていたんだろうか。

  • タイトルから予告された「失脚」に向かっていく様が逆に新鮮だった

  • 大江健三郎風に言えば実に「たくらみ」「楽しみ」に満ちた大人のエンターテイメント小説だと思った。いや、スリルやサスペンスでこの作品に比肩するものを探すのはそう難しくないだろう。けれど架空の国と大統領に託して語られるのは政治が孕むきな臭さと老いの哀しみ(別の言い方をすれば「死すべき定め」にある人間存在の哀しみ)、そしてユーモアの三位一体だと思われる。登場人物たちが実に愛らしい。彼らは歴史の中のコマに過ぎない。誰一人永遠に名を残さない。それは私たちも同じだが、ならば彼らに倣ってままならない生を楽しもうではないか

  • 南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは……。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎賞受賞。
    (1993年)

全63件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池澤夏樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
池澤 夏樹
村上 春樹
サン=テグジュペ...
ポール・オースタ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×