- Amazon.co.jp ・本 (574ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101318219
感想・レビュー・書評
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ものすごくおもしろかった、
この小説、もっともっと評判になってもいいのに! いま読まれるべき本ではー?
沖縄の基地だし、ベトナム戦争だし、でもっと硬くて小難しい暗い感じかと思っていたら、まったく違って、すごく読みやすくてエンターテイメントで、青春モノだし恋愛モノだった。
沖縄の人々や生活、米軍基地、アメリカの軍人、戦争、そういうなんとなく知っているというレベルだったいろいろなことを、情報じゃなくて、身近なことという感じで小説をとおして知ることができるというか。
ごく普通の人々がスパイ活動にかかわって脱走兵を逃がす、という小説の主軸となる話も、純粋にサスペンスフルだったし。
あらためて、池澤夏樹さんて、ほかの著作を読んでわかっているはずなんだけど、人々を、女性や若者を描くのがうまいなあと。登場人物それぞれの語りで話がすすむのだけれど、その語り口調が読みやすいうえにそれぞれ「らしく」(らしい、とかいうのも失礼な感じだけど)てすばらしい。
そして、声高になにかを主張するんじゃなくて、エンターテイメントな小説という形にして楽しませつつ、いろいろ考えさせるところがすばらしい。
脱走兵を逃がす組織について、一致団結して、とかではなく、ひとりひとりが自分で考えてゆるく集まる、やめるのも自由、っていう考えにはなんだか感動すらした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ベトナム戦争中の沖縄、嘉手納。
そこには、米軍基地があり、そこには、米軍で働くフィリピンとアメリカのハーフ・フリーダ、米軍基地にも出入りするロックバンドのドラマー・タカ、太平洋戦争時のサイパンで家族をなくし一人で戦後の沖縄に暮らした朝栄、がいた。
ある日、朝栄はサイパンでの知り合いであるベトナム人安南さんに出会い、ベトナムに住む人々のためにスパイをしてみないかと持ちかけられる。
それは米軍の爆撃計画を入手し、ベトナムへ知らせると言うものだった...
戦時中の沖縄についての小説はいくつか読んだが、戦後の米軍基地ができ、そこから各地の戦地へ出撃もする沖縄については、知らないことが多かった。
戦争は全体ではなく、一人一人の行為や恐怖、悲しみに繋がってしまう。そんな状況でどうやって生きていくかが大切。 -
池澤夏樹氏の中で初めて読んだ作品。
読み応えがあり、スピード感もあって、最後まで飽きさせなかった。 -
沖縄嘉手納 アメリカ軍にとってはカデナ。
アメリカ軍兵士にも苦悩はあった。戦火を潜って生き抜いてきた人の戦への気持ち、今戦火の中に暮らすベトナムの人たちの気持ちが一番わかるのは彼らかもしれない。沖縄に暮らす兵士と市民どちらも人間。フリーダ=ジェインと朝栄さんとタカと安南さん そして彼らの周りの人たち。丹念に語られるそれぞれの生きてきた様がちゃんとそこにある気がする。
また沖縄でアメリカ軍兵士による事件がニュースになっている。基地の無い沖縄、いつまでも夢でしかないのだろうか -
沖縄がまだアメリカだった頃、泥沼化するベトナム戦争のために爆撃機が行き来するカデナ基地を舞台に、沖縄人の日常、米国軍人の日常、その裏で行われたスパイ活動、反戦活動などを描いた物語。
国籍やアイデンティティが異なる3人の主人公達が、葛藤したり葛藤しなかったりしながらとあるスパイ行為に「できる範囲で」加担するお話なので、メッセージは重いのだろうが、語り口は軽やかで、爽やかですらあったりする。
沖縄の歴史を少し知って、印象がまた変わった。 -
テーマは重いが、語り口は軽やか。つるつると読める。
しかし、語られる内容は、ベトナム戦争と太平洋戦争であり、沖縄がかかえる様々な状況だ。
佐々木譲の解説が秀逸。 -
これは上手いと思う。戦争末期の殲滅戦を経て(!)米軍基地の過重な負担(!!)をなお強いられている沖縄を舞台にして、サイパンの悲劇を引きづりながら(!!!)、ベトナム戦まっただ中(!!!!)という時代に生きる年齢も性別も違う3人を中心に描かれた、ひと夏の冒険。どうやっても重苦しくなりそうなシチュエーションなのに、突き抜けた明るさと誰にも覚えのある青春、恋愛が違和感なく存在しているのは、作者の通底にある無常観のせいなのか。ちょっと乾いた感じで、読後感も悪くない。夏に読んだのは正解だった。