整形美女 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101321233

作品紹介・あらすじ

20歳の繭村甲斐子は、名医・大曾根に全身の整形手術を懇願した。「なぜ?」その美しい肢体を前に戸惑う大曾根。自らの「計画」を語る甲斐子。一方、元同級生、望月阿倍子は甲斐子の写真を手にオペ室に向かう…。幸せを夢見て、新しい容姿を選んだ二人。手術後に辿るそれぞれの意外な生き方を軸に、変身願望の虚構を描く。独特の哲学を、ユーモアと格調とをもって提示した衝撃の問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 阿倍子と甲斐子の同級生の二人が、偶然同じ美容外科で整形手術を受けた。
    幸せを夢見て、一人は目を二重に、鼻を高く。一人は目を一重に鼻を低く。

    自分にとって「幸せ(の基準)」が明確であれば、整形してもしなくてもきっとハッピーなのだろう。
    しかしそれがはっきりしていないからこそ、日々迷いが生じ悩む。
    甲斐子の計画自体は?と思うが、明確な基準を持ち遂行する努力をおしまないガッツには頭が下がる。
    女の執念と後ろめたさが入り混じって、ホラーである。

  • 整形手術を受けた2人の女性を軸として「美しさとは?」という命題を筆者独特の哲学を持って描いた作品です。


     主人公の一人、甲斐子がもって生まれた容姿は、本書のはじめに登場する老医師曰く「絶世の美女」。ところが彼女はその容姿に満足せず、あえて小さな目、ふっくらした頬、鼻を低くし、腰も太めにして、貧乳手術をすることまで考えていました。

    「なぜ?」

     彼女は実は男性にもてたことがなく、彼女自身、この先ずっと自分はもてることがないと悲観していたのです。そこで彼女が考えたのは「男性にもてる容姿」に自分を変え、男性を惹きつけられるような「匂い立つような清潔感のある不潔感」(男性サイドから言う「清潔感のある色気」だそうな)をかもしだせるように自分を変身させるということ。彼女は3段階の「計画」を練っていました。そして整形後、彼女は彼女の予想通りに、恋愛市場で「勝ち組」となっていくことになります。

     そういえばこのテの容姿って、「あいのり」に出ていたちゃきそのものやん。確かこの人もあいのりの旅ではやたらモテていたような気が・・・。そうすると、モテるためにこういう容姿に整形するという行為はなかなか世の男性たちの好みをよく読んでいたのでしょうね。


     もう一人の主人公、安倍子は甲斐子の高校時代の同級生。彼女はもともとは甲斐子が望んでいたような容姿をもち、とりたてて美人ではないがなぜか男性にはもててしまう女性だった。彼女はほんのささいなきっかけで整形をします。甲斐子の写真を持って。そして整形後の彼女は、甲斐子の整形前の悲哀を味わうことになり・・。


     これだけの話だったら、「女性が思う美人と男性が思う美人って違うのねー」とか「いくら美人でも、内面からでる色気(お色気、じゃなく色気。清潔感のあるといわれる色気)がないとだめねー」なんて程度の感想で終わってしまうし、おもしろくない。このへんはいかにも姫野作品だなあと思うのですが、おもしろいのはこっからなのです。ふふ。


     その後、甲斐子は高学歴高収入の男とできちゃった結婚をし、子供もできます。が、なんだか毎日が満たされない。安倍子は自分が「整形美女」であることを隠し続けることが不潔であると思え、辛くなり、カミングアウトをします。そして自分の好きな道を進んでいこうとするところで話は終わり。


     ふたりとも、変身の仕方や美についての考え方が違うけれど、幸せを夢見て整形をしたことには違いないのになぜ、このような結末になってしまったのか。


     詳細は実際にこの本を読んでみてうなってみてほしいけれど、私は「主体性」、「自分の価値観」の問題ではないかと思いました。男性にもてるために自分の内面を変え、主体性まで消してしまい、価値観のよりどころは他人の目と化してしまった甲斐子は、自分が無意識に見過ごしている自分自身の価値観にフィットしていないことに気づけないがゆえに毎日が満たされなくなっているのでしょう。
     一方安倍子は主体性も自分の価値観も持ち合わせています。実は彼女は作品の中で年を重ねるごとに「自分の内面」を自分らしく作っていってます。私はこの作品では「美しさとは?」よりも「自分らしさ」の大切さを改めて感じました。

  • よく分からないまま半分読んでやめてしまった。なかなか掴めなかったなあ〜・・・なんでだろう。多分最後まで読んだら結果的には面白かったのかも。

  • 美人すぎてモテない女は不細工に整形し、不細工でモテない女は美人に整形する。男は実は不細工の方が好みなのか……?我々の価値観を変える問題作。

  • 美への執念は、どのようにして植えつけられるのだろう。おとぎ話の美しいお姫様幻想からか、あるいは可愛い同級生がブスよりちやほやされているのを目の当たりにして以来か?
    何ともいえず面白くて、ぐいぐい読ませる。「フランスかぶれ」のくだりも、ああ、あれね、あるあると笑ってしまう。

  • 不倫とは、既婚者が他の人と行為することだけではなく、道徳を踏み外すこと全般を指すことを知った。いまいち甲斐子と阿倍子の顔がイメージし辛く話に入っていけなかった。甲斐子が香椎由宇、阿倍子が大塚愛ぐらい??整形は不倫なのか。顔に一生コンプレックスを抱え卑屈に生きていくよりは思い切って整形してしまう方が精神衛生上良い気もするが…そもそもはルッキズムに囚われない考え方で生きていけた方が幸せなんだろうけれど。甲斐子の生き方は整形前後ともがんじがらめで疲れそう。

  • 途中登場人物の心理の意味がわからなかったのも、自分が体験したり感じたりしたことのないことだからか?最後の解説の美人投票の話で納得できた。美容整形、私は恐くてできないし興味ないな。

  • 言葉に対する強いこだわりが感じられる。作者は国語辞典を隅から隅まで読んでいそうな気がする。

  • この年齢不詳のペンネームが気になったのは、映像化された「受難」(2013) を鑑賞したことがきっかけ。不思議な世界を書くこの人の作品を一度文字のまま味わってみるべきだと感じてもいたからこそ、このインパクトのあるタイトルは容易に棚から引き抜く力を与えてくれた。

    蓋を開けてみるとこの方、同郷でしかもその後直木賞を5回のノミネートを経て受賞し、その受賞式の様子もあって時の人になっていたりしたものだから、どうやらこの一冊では終われなくなってしまった模様。作品ごとに作風も全く異なるそうな。

    秀逸な一節を拝借。

    「ときどきヒステリックになるのは、男が安心する女らしい女である。きいっ、プラダのバッグ買ってちょうだいっ。きいっ、フェラガモの靴買ってちょうだいっ。きいっ、3カラットのダイヤ買ってちょうだいっ。この類のヒステリーに男は辟易しながらも安心する。もし、きいっ、資源がもったいない、裏が白い広告は四つ切にして綴じてメモ用紙にしてちょうだいっ、とか、きいっ、盲導犬協会に少額でいいこら寄付してちょうだいっ、とか、きいっ、『サザエさん』の弟のカツオの同級生の花沢さんのお父さんの職業くらいおぼえていてちょうだいっ、とかいったヒステリーを前にしたなら、男は尤もであると頷きながら怖がる。」

    う~ん、素晴らしい表現力。

  • 見た目が愚鈍になれば中身も愚鈍になって、スーパーの買い物袋をぶら下げて歩くようになる?美人になったら趣味が高尚になり、元どおりの凡庸な見た目に戻ると手芸をする???そんな単純なもんじゃないだろう。

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著者プロフィール

作家

「2016年 『純喫茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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