ビート―警視庁強行犯係・樋口顕― (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (545ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101321547

作品紹介・あらすじ

警視庁捜査二課・島崎洋平は震えていた。自分と長男を脅していた銀行員の富岡を殺したのは、次男の英次ではないか、という疑惑を抱いたからだ。ダンスに熱中し、家族と折り合いの悪い息子ではあったが、富岡と接触していたのは事実だ。捜査本部で共にこの事件を追っていた樋口顕は、やがて島崎の覗く深淵に気付く。捜査官と家庭人の狭間で苦悩する男たちを描いた、本格警察小説。

感想・レビュー・書評

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  • 今野敏さんの隠蔽捜査シリーズ以外を読みました。
    これは樋口顕シリーズの何番目なのだろうか。
    この主人公は、他人から見るとクールでポーカーフェイスだが、妻からは融通が利かない唐変木と言われるシーンが面白かった。読み終わって家族とのコミュニケーションが大事なことを再認識した次第です。

  • <記>
    本文庫本は珍しく巻末に著者自身の「あとがき」が載っている。作者が なぜダンスに興味を持ったかというエピソードに始まり,この作品をいかに力を込めて描いたか、そして自分で言うのもなんだけれど かなりの傑作であるので出来れば読者の皆様も気合を入れて読んでいただきたい、という旨の事が書かれている。そして,この作品が2000年に幻冬舎から上梓された後 新潮文庫版として二度目の文庫化がなった2008年にあらためて書いた あとがき だと云う事も分かる。

    本編物語の内容についてを感想文に一切描かない方針の僕は,今回その代わりと云っては何だが 著者あとがき の中身についてかなり細かく書いてしまった事にここで気づく。こりゃ間違いなく【あとがきのネタバレ】だ。 もしかすると自分で決めた戒め事とは言え,本編内容についてづっと書けないストレスを抱えたまま多くの読書感想文を書いてきた反動が今回一気に出たのかも知れない。

    が しかし やはり最後は すまぬ で締めよう。すまぬ。

  • 今野敏「警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ」第3作目(2000年11月単行本、2005年3月文庫本)。
    このシリーズは事件の犯人を逮捕するのがメインテーマではなく、主人公の樋口が関わる人間関係がテーマのような気がする。警視庁捜査一課の仲間だったり、所轄の捜査員だったり、家族だったり、事件の容疑者だったりと。
    今回は事件に大きく関わってくる捜査二課の警部補で樋口より5歳年上の島崎洋平47歳との関係がテーマだろう。読んでいくうちに前作の年代背景より2年が経っているようで、樋口も警部になっていた。そして変わらず樋口の信頼する相談相手として登場する2才歳下の荻窪署の生活安全課の氏家も40歳になっていた。同じ捜査一課強行犯係の天童は49歳ということになる。捜査一課長の田端も変わってなく、この3人が変わらず脇を固めているので何となく落ち着く。

    今回は企業犯罪を担当する捜査二課の案件で島崎が捜査対象の銀行へ捜査情報の供与をしたことから発生する人間模様と殺人事件へと進んでしまったことに対する島崎の苦悩と樋口の人間性がよくわかる物語だ。また天童と島崎が交番勤務時代の先輩後輩の間柄で樋口も三人で飲むことにもなる。
    島崎には二人の息子がいる。長男が島崎と同じ大学の同じ柔道部の島崎丈太郎、次男が父親に反抗し高校中退して家族とも疎遠になっている島崎英治、ダンスにはまっているが家族は知らない。
    そしてその大学の柔道部出身で銀行に勤める富岡和夫36歳が、この家族に大きな苦難をもたらす。富岡は島崎警部補の大学柔道部の後輩でもあるが、丈太郎の先輩OBで子供の頃の柔道教室の先生でもあった。英治も子供の頃は同じ柔道教室に通っていたが、挫折して柔道とは縁を切っている。

    島崎の捜査チームは富岡の勤務する銀行を不正会計の疑いで近々強制捜査に入る予定になっていた。その情報を富岡は丈太郎から脅しに近い形で得て、島崎警部補に接触し巧みに脅しを加えながら、強制捜査の日程の情報を得る。罠にはまった島崎は丈太郎を叱責しながらも何の解決策も出すことも出来ず、警視庁警務部の監察に怯え、丈太郎の将来に悩み、荒んでいく。
    そんな時に富岡が自宅マンションの部屋で強打の上、絞殺された。島崎は一旦は安堵して日常を取り戻すのだが、捜査線上に英治らしい人物の目撃情報が出て、再び苦悩する。
    結果的に樋口が島崎警部補とこの家族を救い、殺人事件も解決するのだが、樋口はギリギリのところでの悲惨な新たな事件を防ぎ、更に不幸な捜査情報漏洩を余計な誰も望まない事件として処理するところに感銘を受ける。樋口警部へのシンパがこうして増えていくんだろう。

    今回も樋口の家族、妻の恵子、一人娘の照美が登場する。照美はまだ高校生で、夜から朝に掛けてのライブディスコに友達と三人で行くことに恵子は反対し、樋口は氏家に相談する。樋口がついていけばいいという助言を恵子と照美に条件として進言すると簡単に受け入れられるのだ。そのディスコに氏家も来ていて実にほのぼのとした感じがいい。前作「朱夏」では恵子の誘拐事件で夫婦の深い信頼関係を見られたように、これからのこの家族の幸福な行く末を見届けられたらいいなと思う。

  • 2000年10月幻冬舎刊。書下ろし。シリーズ3作目。2005年3月幻冬舎文庫化。2008年5月新潮文庫化。はじまりから、冗長なストーリー展開で、どうかなと思いましたが、読み進むとダンスの話を始めとして、あちこちに工夫があり、さすが今野さん、やや強引な展開ながら、面白く読めました。

  • シリーズ第三弾。前作では妻を探し求める樋口の心情、葛藤、焦燥感といったものに焦点をあてていましたが、本作では警視庁捜査二課の島崎のまるでジェットコースターであるかのような心の浮き沈みや心の闇、家族、とりわけ子供に向けるまなざしが軸になっています。

    特に前半は捜査情報の漏洩に関わってしまった島崎の目線で物語が進むことから、読み手としても島崎自身に感情移入してしまい、悪事に手を染めてしまった後悔や背徳感、刑事という自らの立場を失うことになるかもしれない恐怖といったものをひしひしと感じてしまいました。あのときどうして富岡の誘いを断らなかったのだ、とか、まさに自分自身が島崎になったかのような没入感を味わいました。

    樋口シリーズでは登場人物のこういった心情あぶり出すあたりが読みどころなのですね。事件そのものは難しいトリックがあるわけでもなく、複雑な人間関係が影響しているわけでもないので、登場人物の心理を追いかけるほうに集中できるというもの。しかも総じてマイナスな感情であるだけによけいに感情移入してしまいがちで、自分にとっては樋口シリーズがもっとも心に響く作品となるかもしれません。STシリーズや安積班シリーズとはまた違った魅力があると思います。

    物語終盤、富岡の自宅で繰り広げられたシーンは本作の一番のハイライトではないかと思います。そして島崎の行為に見て見ぬふりをし、自らの心にしまっておこうと決意する樋口たちの”気概”はちょっと感動してしまいました。ここでも島崎の感じた安堵やすべての重荷から解放された心持ちを思わずにはいられませんでした。

    前作朱夏につづきタイトルの”妙”も見逃せませんね。青春より朱夏(そして白秋~玄冬)という概念も自分にとっては新鮮でしたが、今回の”ビート”も島崎の英次に対するまなざしを思うと納得です。

    それにしても樋口の娘である照美の年齢が前作より逆戻りしているのではないかと気になっています。朱夏では物語の時期は年末、そして照美自身は受験生という設定でしたので、梅雨の時期が描かれている本作であれば、すでに大学生になっているはずですが、相変わらず高校生のままとなっています。刊行順に読んでいるはずなのですが、あるいは初出の順番が逆なのでしょうか?

  • ユニークな警察小説。
    家族に容疑者の疑いを持ち、焦燥し苦悩する刑事、そして今回はわき役気味な家族思いの樋口警部。
    二人を中心に、犯人捜しよりも、捜査に携わる刑事のプライバシーに主眼を置いて、物語は展開する。
    作者自らあとがきでも述べたような力作。
    警察も、生身の人間が集まった組織だということを改めて思う。
    このシリーズが、まだまだ続くことを期待する。

  • 樋口と島崎、英次…親子も夫婦も家庭も職場もアタフタしていいんだなーと思えた。

  • 子供が親の期待に押し潰されそうになるのと同じように親もまた子供の期待に背けない重圧にさらされている。
    大人である。
    そのことが雁字搦めな状況を生み出してしまうのかもしれない。

    家族だから、大切だから逃げたくなってしまう。
    そんな不器用な父親がムカつくけれど愛らしい。

  • これぞ私の中の大好きな今野さんといったお話。朱夏と一緒に店頭購入。
    以降ネタバレ注意。

    樋口さんがなかなか出てこないなぁと思いつつ、銀行の不正や人が人を利用する嫌な話から始まって、ちょっとしんどくなるかもと最初は思ってしまった。
    で、樋口さん登場~で、こんなにわくわくするのはとうとう竜崎さんに続き樋口さんも好きになった証拠か。
    話のほうは、もうこの親子はどうなってしまうのかとハラハラさせつつ、樋口さんも木原課長もとんでもなく良い男ぶりを発揮してくれました。
    島崎が息子の尾行中にいろいろと気づき始めるあたりからじんわり涙が滲みながら読み進め、最後は一気読みでした。
    ほんとに良かった。と思えるお話でした。
    樋口班って三作で終わりなんでしょうか?もっと読みたいですね。

  • この一家が誰一人好きになれなくてしんどかったけど、今野さんって嫌いなキャラのまま終わらせへんとこがすごくて、この家族でさえいいとこもあるやんって思わせてくれた。

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著者プロフィール

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。

「2023年 『脈動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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