果断―隠蔽捜査2― (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101321561

作品紹介・あらすじ

長男の不祥事により所轄へ左遷された竜崎伸也警視長は、着任早々、立てこもり事件に直面する。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立する。異例ながら、彼は自ら指揮を執った。そして、この事案は解決したはずだったが-。警視庁第二方面大森署署長・竜崎の新たな闘いが始まる。山本周五郎賞・日本推理作家協会賞に輝く、本格警察小説。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者; 今野氏は、大学在学中に「怪物が街にやってくる」で、問題小説新人賞を受賞し、作家デビューしました。隠蔽捜査シリーズで脚光を浴び、第一作の「隠蔽捜査」で吉川英治文学新人賞受賞。中学生の頃、北杜夫の「マンボウシリーズ」に魅せられ、詩を書き始めたといいます。北杜夫の独特のユーモア感覚と小説全体に漂う上品さに魅了されました。また、空手の指導者という武道家でもあります。
    2.本書; 警察庁のキャリア官僚の活躍を描いた警察小説シリーズです。概略は、主人公の竜崎はミスを犯して大森警察署の署長に降格されます。そして、着任早々、立てこもり事件に直面し、竜崎が指揮を執り、人質は救出されたものの、犯人は射殺されます。事件解決と思えました。しかし、驚きの結末を迎えます。人質事件をでっち上げるという偽装があったのです・・・。ちなみに、本書は山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞しています。
    3.個別感想(気になった書中の記述と私の感想⇒3点);
    (1)段落7・14より、「自分が属する社会の約束事を守れない人間は、その社会に所属する資格はない。それがルールだ。・・・原理原則を大切にすることだ。上の者の顔色を窺うことが大切なんじゃない」
    ●感想⇒この考え方に賛成です。先ず、問題が発生したら、物事の道理・論理性で判断するべきです。私情を入れた判断では、人は納得しません。事実の前には、謙虚になる事です。但し、人間は感情の生き物なので、場合によっては、それぞれの事情を斟酌する度量は必要でしょう。
    (2)段落12より、「男は狩や戦闘をし、女は子孫繁栄に尽くす。それは霊長類のヒトとしてのごく自然な生き方なのではないかと思う・・・男女が平等に社会に参画するという考え方は、一見美しいが、どこか不自然だ」
    ●感想⇒性差の問題に関しては、確かに男女の役割が違うというのも一理あると思います。それは極論すれば、子供を産める産めないという事だけです。能力的な甲乙はありません。これからの社会は適材適所の考えで、性差や年齢差等の課題を乗越えて、誰もがやりたい事の出来る社会創造が望まれます。
    (3)段落20より、「署長は、所轄署が共同体であるという考えに反発を感じておられるようです。しかし、それは紛れもない事実なのです。人は命令だけでは動きません。われわれは日常を共にし、信頼しあう関係でなければなりません」
    ●感想⇒ 組織は人の集まりで構成されています。従って、人と人が協力し合って、成果が出ると思います。一時期、企業に欧米の成果主義が導入されて、日本の集団主義が否定されました。しかし、最近では、人間関係作りを狙って、新興のIT企業で、社員食堂新設や運動会の実施など、日本的な行事を導入し始めていると聞きます。人間同士の信頼関係無き組織に未来はないと思います。
    4.まとめ; 私が本書で魅力を感じたのは、主人公の竜崎伸也のキャラクターです。徹底した合理主義者で、判断のモノサシが、揺るがない理屈で押しまくる点です。私は、私企業勤めでした。”上司の言いなり” ”長い物には巻かれろ”等の社員が目につき、正論が通らない事がありました。せめてもの救いは、上司の中に、「物事は理屈を優先させろ」という人物もいたという点です。もちろん、人への思いやりは重要です。しかし、人情が優先する組織は、破綻しかねないと思います。最後に、本書は事件だけでなく、家族の問題を織込んでいる点も魅力の一つではないでしょうか。今野作品の代表作と言えます。       以上

  • 前作のラストで所轄へ左遷された竜崎です。
    大森署署長に着任早々、立てこもり事件が発生。
    まだ署内、署員とのぎこちない関係です。
    竜崎のやり方に戸惑いながらも竜崎の指示に従う副署長、課長達。腹の探り合いからの信頼。
    部下達のキャラもわかってきました。
    副署長が素敵♪


    おもしろ〜い\(//∇//)
    嫁が入院…ポンコツ竜崎が可愛い♡
    家でも「いい仕事しましたね」って言われる日が来るんだろうか笑

    • みんみんさん
      でたよ!寝てないから浮気じゃないってヤツ笑
      でたよ!寝てないから浮気じゃないってヤツ笑
      2023/09/24
    • ひまわりめろんさん
      確か民法に書いてあったと思う
      俺が言ったんじゃないもん
      法律で決まってるんだもん
      確か民法に書いてあったと思う
      俺が言ったんじゃないもん
      法律で決まってるんだもん
      2023/09/24
    • 1Q84O1さん
      じゃあ、合法だw
      じゃあ、合法だw
      2023/09/25
  • 今野敏さんの隠蔽捜査シリーズ第2弾。
    こちらも前作同様に読みやすくて面白く、1日で読了。

    前作でいろいろあって所轄へ左遷された主人公:竜崎は、着任早々に発生した立てこもり事件で指揮を執る。
    竜崎の性格を知らない部下たちは、竜崎のやり方にはじめは戸惑い反発もするが、徐々に信頼・尊敬に変わっていく。その過程が良くて、竜崎の真っ直ぐな性格が感じ取れる。事件の真相を解明して解決するために立場関係なく相手を尊重し、対等に向き合う姿勢は良い上司だと思う。
    同期の伊丹も自分の立場(権力)をうまく使って竜崎に協力しており、その仲がいいのか悪いのか、信頼しあってはいるが堂々と仲良くしないあいまいな関係性もまた読んでいて面白い。

    そして今作でも事件と並行して竜崎家が登場。
    前回より成長した娘・息子と竜崎のやり取りにほっこりしたし、妻:冴子の対応は、竜崎が署長として警察官としてやっていけるのは冴子のお陰だということをはっきりと認識したと思う場面だった。良い家族。

    今作でも相変わらず頑固な竜崎だが、不器用ながらも誠実に行動し、仕事仲間や家族の信頼を得て上司としても父親としても器を広げていくのが良い。

  • 山本周五郎賞、日本推理作家協会賞受賞作

    竜崎伸也は、息子の不祥事で、警察庁長官官房から所轄へ左遷され、大森署の署長となった。

    だが、環境が変わろうとも竜崎のスタンスが変わることはない。
    これまでの不合理な習慣や面子ばかりを気にするやり方をことごとく合理的に変えようとする。

    そんな中、立てこもり事件が発生。
    竜崎は現場で指揮を取り、解決に向かったはずだったが…


    私事だが、少々ストレスのたまることがあり、モヤモヤしていた時にこの本を読んだ。
    そして終盤に行くにつれ、そのモヤモヤがスーッと抜けるような爽快感を味わうことができた。

    古い形式主義や官僚主義ではなく、状況に応じて柔軟に最善の策を講じる竜崎のやり方がとてもいい。

    最初は戸惑いを隠せなかった署員たちも、竜崎の姿勢に眼の色が変わり始めるのだ。


    家族に対しては、男は仕事、女は家庭というとても古い考え方を譲らない竜崎。
    そこは、なんとも許しがたいのだが、今作では、少しずつではあるが、変わりそうな予感があった。
    次作以降に期待したい。

  • 感想
    今回も最後までハラハラしたけど、正しい者が救われるで良かった。

    方面本部長の管理官の小物ほど吠えるというのには苦笑。

    あとは奥さんの腹のくくり方にも好感が持てる。

    あらすじ
    大森署に赴任した竜崎。管内で立て籠り事件が発生する。竜崎は前線で指揮をしてSITとSATを正しく機能させ、人質を無事保護するが、犯人は射殺された。

    新聞では犯人を射殺したことに非難が高まり、竜崎は監察に呼ばれる。現場刑事の疑問から捜査を洗い直し、人質と目されていた夫婦が実は犯人だったことが明らかになる。

  • 東大法学部出身のキャリア・竜崎が前作品での降格人事で大森署の署長に。人質立てこもり事件に遭遇し、犯人を生きたまま逮捕できずSATが射殺。しかし犯人は玉切れで射殺する必要がなかったと監察官。竜崎の周りは責任のなすり合い。最終的には立てこもり事件の真相が明らかになり、うまく回収される。奥さんの献身的なサポートあって竜崎が気持ちよく働けているが、今回は奥さんが入院。その中で人間味ある竜崎の生活実態が滑稽でした。浪人生で息子の邦彦の将来、娘の美紀の就職も気になる。今後も竜崎が隠蔽解決するのを大いに期待したい。

  • 2010年(発出2007年) 405ページ

    今回は、警察ミステリーとしての要素があり、1作目よりも面白い!と思いました。

    警察庁長官官房の総務課長から、大森警察署の署長という降格人事の異動となった竜崎伸也。着任早々に管内で立てこもり事件が発生。中には人質2名。立てこもり犯は、消費者金融に強盗に入った3人組のうちの1人。他の2人は身柄を確保されている。大森署に捜査本部と指揮本部を立ち上げる中、竜崎は現場に向かう。現場では派遣されたSIT(捜査一課特殊班)とSAT(第六機動隊第七中隊)が事件解決の主導権をめぐり対立する。犯人は銃を所持しており状況が逼迫する中、事件解決のため竜崎はSATに突入の許可を出す。犯人は射殺され、人質2名は無事救助された。事件は解決したように見えた。しかし、犯人が持っていた銃の弾倉は空だった。マスコミが「犯人射殺」とセンセーショナルに騒ぎ出す一方で、今回の事件の監察に、警察庁の首席監察官が乗り出してくる。

    警察組織や役職名など、耳慣れない言葉が多く出てきますが、とにかくすいすい読めます。
    そして今回も、竜崎の胸がスッとするような発言が、そこかしこに登場します。言葉に説得力があります。
    『副署長が課長を怒鳴りつければ、課長は係長を怒鳴りつける。そして、係長は係員たちを怒鳴りつけるわけだ。そういう連鎖は士気をそぐ。管理職は、感情で物事を処理してはいけない。大切なのは合理性だ。心得ておいてくれ』
     竜崎のセリフの1つです。あとがきで西上心太氏が竜崎語録の一部を取り上げていらっゃいますが、自分も竜崎語録を集めたいと思ってしまいました。

    そして、今回の家族の問題は、妻・冴子の入院です。胃潰瘍での入院でしたが、冴子あっての竜崎という感じでした。竜崎自身も、冴子が家庭を守ってくれるから自分は安心して仕事ができるといつも言っているように、冴子がいないと足元がぐらついてしまうのです。
    『あなたは一国一城の主なのよ。自分の城の中で他の城主に好き勝手やらせるわけ?』
    『よろしい。国のために働きなさい』
     上は冴子のセリフですが、冴子は武士の妻というイメージです。登場シーンは少ないものの、冴子もすごくいいなあ。

    今回、竜崎が問題を乗り越えるきっかけとなったのは、邦彦から借りたあるアニメのDVD です。ここから竜崎の快進撃ですが、戸高もいい味出しています。ヒネたキャラでしたが、ヒネリの効いたキャラでもありました。

    最後に疑問点が一つ。犯人が射殺された場合、誰が発砲したものなのかその場で調べないのかなあ?

  • 1作目に続いての最高評価です
    降格人事により所轄の警察署長になった竜崎が自分の信念そのままに事件を解決していきます
    とにかく主人公が素敵すぎる!

  • シリーズ②
    唐変木でステキな変人、竜崎伸也は左遷されて大森署長へ。

    そして着任早々に署内で起きた強盗事件の巻。
    今回は事件の真相も見どころだ! 

    このシリーズの特徴は、敵に描かれがちなキャリア組が主役の本格警察小説だということ。そして、中年の竜崎警視長の、徹底した原理原則主義が、なぜか魅力的なのだ。

    就職活動中の長女:美紀、浪人中の長男:邦彦、出来た妻:冴子のエッセンスも○ あまりに、家の事を全て妻に丸投げの竜崎、昭和一桁生まれか⁈と思うほど(笑) もう少し改めてた方がもっと魅力的(笑)

    第3弾も楽しみ♡

  • 今野敏「隠蔽捜査」シリーズ第2作目(2007年4月単行本、2010年2月文庫本)。
    主人公は元警察庁長官官房の総務課課長、家族の不祥事で大森署に署長として左遷された竜崎伸也46歳。東大卒のキャリアで警視長である。家族は主婦の妻冴子、大学生で就職活動中の娘美紀、ヘロイン使用も自首で保護観察処分で済んだ東大を目指して浪人中の息子邦彦の4人家族。
    そしてもう一人の主人公が警視庁刑事部長の伊丹俊太郎46歳。竜崎の幼馴染、小学生の同級生で私大卒ながら入庁キャリアの同期生である。前作で窮地を竜崎に助けられている。
    今回は竜崎が大森署に転属早々に強盗立てこもり事件が発生する。竜崎のやり方に副署長をはじめ、大森署の各課長も勝手が違い戸惑い反発もするが、徐々に信頼、尊敬に変わってくる。特に本部の高圧的な管理官を正論で論破するのが気持ちよく、署員も驚き戸惑う様子が見て取れる。
    人質を取った拳銃所持の強盗立てこもり事件は警視庁との合同捜査本部が大森署に設置され伊丹が指揮するが、現場では竜崎がSITとSATを指揮し、最終的にはSATの突入を許可、人質二人の救出に成功する。しかし犯人は死亡し、その拳銃に銃弾が残っていなかったことからマスコミが騒ぎ竜崎は監察官の追求を受けることになる。竜崎は間違っていないという信念で応酬するが誰かに責任を取らせるには竜崎が一番都合が良かった。
    前作の警察官犯行隠蔽捜査事件に続いて今回も竜崎は覚悟したが、大森署の刑事戸高善信38歳の進言により所轄で再捜査を始め、事件は根本から覆される。
    人質二人が強盗事件の首謀者でSATの突入で死亡した犯人はその首謀者に殺されたということが判明するのである。進言した戸高刑事は前作で竜崎が 警察庁の課長だと知らずに悪態をつき、竜崎から叱責されたあの刑事だ。
    所轄で再捜査の時も竜崎は伊丹には状況を話し、協力を得る。相変わらず二人の間柄は仲がいいのか、信頼し合っているのかわからないところがありつつ、やはり警察のキャリア権力というのを気持ち良く使っているのも爽快に感じるのである。このシリーズの一番の見所はこの二人の関係だろうと思う。
    途中竜崎の妻冴子が血を吐いて救急車で病院へ運ばれるのだが、冴子の竜崎への毅然とした対応に圧倒される。竜崎の署長として、警察官として、キャリアとしてやっていけるのは冴子のお陰だということを竜崎ははっきりと認識したと思う場面である。
    娘美紀もいつのまにか冴子の代わりが出来るまで成長していたことも認識することになり、息子邦彦の将来のビジョンを聞き素直に共感出来る父親になったことにも感動する。
    これからもこのシリーズは見逃せない。次作も是非読んでみたい。

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著者プロフィール

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。

「2023年 『脈動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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