初陣―隠蔽捜査3.5― (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101321585

作品紹介・あらすじ

警視庁刑事部長を務めるキャリア、伊丹俊太郎。彼が壁にぶつかったとき頼りにするのは、幼なじみで同期の竜崎伸也だ。原理原則を貫く男が愛想なく告げる一言が、いつも伊丹を救ってくれる。ある日、誤認逮捕が起きたという報に接した伊丹は、困難な状況を打開するため、大森署署長の竜崎に意見を求める(「冤罪」)。『隠蔽捜査』シリーズをさらに深く味わえる、スピン・オフ短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者; 今野氏は、大学在学中に「怪物が街にやってくる」で、問題小説新人賞を受賞し、作家デビューしました。隠蔽捜査シリーズで脚光を浴び、第一作「隠蔽捜査」で吉川英治文学新人賞受賞。第二作「果断 隠蔽捜査2」で、山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞しています。中学生の頃、北杜夫に憧れ、詩を書き始めました。北杜夫独特のユーモア感覚と小説全体に漂う上品さに魅了されたそうです。空手の指導者という武道家でもあり、異色の作家です。
    2.本書;警察庁のキャリア官僚の活躍を描いた警察小説シリーズの第3.5弾です。今回は、前3作を補完する8つの短編集です。前作の主人公は竜崎でした。本書の主人公は同期の伊丹です。伊丹が事件の相談で、竜崎に関わっていくというショートストーリー集です。8つの作品は、「指揮」「初陣」「休暇」「懲戒」「病欠」「冤罪」「試練」「静観」です。「初陣」は初仕事のエピソード、「試練」は、「疑心 隠蔽捜査3」の舞台裏を書いています。
    3.個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
    (1)「指揮」より、「警察官は、容疑者の確保のためにいるんだ。それが優先だろう。その為に、手続きが後回しになるくらい、どうという事はない。・・・合理的な判断を実行するためなら、遠慮なく行使すべきだ。そうじゃないか?(竜崎)」
    ●感想⇒この考え方に納得です。しかし、組織人は保身を考え、ややもすると、無難かつ安易な行動に走りがちです。私が勤めた企業でも、現場は情を重んずる傾向があり、貸し借りの世界がありました。そうした中で、合理性を貫くには、大変なストレスがあり、忍耐です。
    (2)「休暇」より、「組織の効率だけを考えてないけない。組織というのは、歯車やゼンマイの集まりではない。人間が集まって作るものだ。・・・効率は追求しなければならない。ただ、改革にはいろいろな段取りが必要だ。根回しだとか、説得だとか・・・(伊丹)」
    ●感想⇒合理主義の竜崎に対して、現場主義の伊丹の忠告です。私は、竜崎の合理主義を支持します。しかし、組織は人間集団です。時と場合によって柔軟性も必要でしょう。
    (3)「病欠」より、「刑事部長より先に電話を切る所轄の署長は、おそらく竜崎だけだろう。幼馴染という事もあるが、上下関係の気遣いなど無駄なことだと考えているのだろう(伊丹)」
    ●感想⇒組織は、タテ関係で構成されています。但し、上位の人が偉いという事ではありません。これに関しては、ホンダの本田宗一郎氏(創業者)も長が付くと偉いという事はないと、言っています。人間の偉さは別にしても、組織である以上、上位者への一定の配慮は必要と考えます。
    4.まとめ;伊丹と竜崎は同じキャリアでありながら、『現場主義を重視する伊丹』と、『合理主義に徹する竜崎』のキャラクターが対照的であり、興味をそそられます。8短編の流れは、伊丹が事件の相談を竜崎に持ち掛けます。そして、竜崎は自身の哲学である原理原則に基づいて、伊丹にアドバイスし、問題解決される、というストーリーです。私は、「短編なんて」と高を括っていました。しかし、本書は、前編を補完すると同時に、竜崎と伊丹の人間性が顕示され、良い作品に仕上がっています。私はあえて絞れば、「指揮」「休暇」「試練」が良かった。いずれにせよ、竜崎の(従来の慣行や部下の視線等を気にせず、理屈を押し通す姿勢)を支持するファンには共感できる一冊でしょう。 ( 以 上 )

  • 伊丹のスピンオフ短編。

    どんだけ竜崎好きやねん!の一冊笑
    竜崎は忙しいんだから!
    すぐ電話するの我慢しなさい!
    会いたいかもしれないけど我慢しなさい!

    インフルエンザを撒き散らすな笑
    薬飲んで寝てなさい!だんだんこの見栄っ張りの情けなさが可愛く思えてきたε- (´ー`*) フッ

    • 1Q84O1さん
      あれこれ我慢できない!
      だって竜崎大好きだもん♡w
      あれこれ我慢できない!
      だって竜崎大好きだもん♡w
      2023/09/26
    • みんみんさん
      子供の頃は好きな子イジメる男子
      声が聞きたい、話したい、叱られたい…
      あっ!?BL⁇匂わせだな笑
      子供の頃は好きな子イジメる男子
      声が聞きたい、話したい、叱られたい…
      あっ!?BL⁇匂わせだな笑
      2023/09/26
    • 1Q84O1さん
      工エエェェ(´д`)ェェエエ工
      隠蔽捜査ってBLだったの!?w
      工エエェェ(´д`)ェェエエ工
      隠蔽捜査ってBLだったの!?w
      2023/09/26
  • 隠蔽捜査シリーズ3.5

    隠蔽捜査シリーズの主人公である竜崎伸也の幼なじみで同期の伊丹俊太郎の視点で描かれたスピン・オフ短編集。 

    テレビのヒーローのような正義の味方が好きで、ものわかりのいい上司、部下やマスコミに好感を持たれることを目指す伊丹は、自分のポリシーを貫き通し、まわりの目など一切気にしない竜崎とは正反対だ。  

    福島県警本部から警視庁の刑事部長に異動となり、様々な困難にぶち当たる。
    そして、その度に竜崎に助けを求めるのだ。

    竜崎は無愛想ながらも的確なヒントを与え、伊丹は何度も窮地を脱する。

    少しは自分で考えろよ、と突っ込みたくなるのだが、逆に竜崎が伊丹を頼るシーンもあり、二人の良いバランス関係が見えてくる。

    隠蔽捜査シリーズ第3作、疑心の裏話もあり、なかなかに楽しめた作品だった。

  • 2013年(発出2010年) 352ページ

    警視庁刑事部長・伊丹俊太郎を主人公としたスピンオフ短編集・・・なのですが、影の主役は竜崎伸也という感じで、竜崎ファンには満足の一冊だと思います! そして、伊丹俊太郎がなんとなくかわいいキャラに思えてきます。
    時系列順に、『指揮』『初陣』『休暇』『懲戒』『病欠』『冤罪』『試練』『静観』と、全部で8編の短編からなっています。全部飽きさせることのない構成で、一気読みできます。今野敏さんは短編も名手! こんなにスピーディーに小説を読むことができるのは爽快な気分でした。会社の休憩中に、2、3編くらい読めてしまいますし、短編でも続きがすごく気になりました。面白かったです。
    ちょっと息抜き、そして次の長編へレッツゴーです。

  • 感想
    伊丹を主人公とした話。竜崎よりも人間味があって面白い。普通の人は保身を気にするよね。

    あらすじ
    福島県警の刑事部長だった伊丹が、警視庁の刑事部長に異動するところから話が始まる。私大卒で出世が遅れる中、世間にイメージが良い部長として、常に現場に出て、周囲に気を遣いながら実務をこなす。短編集。

  • 伊丹目線のスピンオフ短編集
    伊丹に降りかかる難問の数々頼りにするのは同期で幼なじみの我らが竜崎だが答えは決まって「何を悩んでいるかわからない」
    竜崎の原理原則に従えば魔法のように解決してしまうので爽快感がある。自分も少しでも竜崎のように生きてみたいと思う
    そしてやはり伊丹は竜崎が好きなんだな〜というのがわかる短編集でした

  • 【隠蔽捜査シリーズ 3.5】
    スピンオフ短篇集の主人公は、伊丹俊太郎だ。

    福島県警の刑事部長から、警視庁の刑事部長へ栄転するところからスタート。

    迷える小心者、人からどう見られているのか常に気になる伊丹は、悩むと竜崎伸也に電話相談するわけ(≧∀≦) シリーズ3の【疑心】で疑問に感じていた答えが書いてあったのは収穫だった。

    伊丹のような、コミュニケーション力が高く、摩擦を回避しようとするキャラは、組織の中で重要だろう。竜崎とはよいコンビ

  • 竜崎よ、前回は「お恥ずかしい」内容だったから心配したが、今回、その必要はなかったようだな。唐変木で変人でクレバーな竜崎が戻ったじゃないか。前回、恋をしてしまった畠山美奈子は実は罠だったんだってなぁ。まんまと引っかかってしまったが、男ならしょうがない部分もあるな。お互いに忘れようじゃないか。本当は伊丹のことが好きなんだろ?俺は好きだよ。可愛い一面を持っているじゃないか?毎回竜崎に意見を求めるなんて、好かれて信用されている証拠だろ?竜崎、伊丹の奥さんが不憫でならない。奥さん同士で話してもらえないか?

  • 『隠蔽捜査』のスピン・オフ短編集。長編シリーズでは竜崎伸也が主人公であるのだが、この短編集では伊丹俊太郎が主人公を務め、伊丹の視点で事件が描かれる。伊丹が主人公でありながら、竜崎の存在感が非常に光り、クールな竜崎にも温かい一面が見え隠れするのがまた良い。ゆえに一つ一つの作品を読むごとに竜崎の魅力も増していくのだ。しかも、どの作品も短編にするのは勿体無いくらいの秀作であるのが凄い。

    ★五つに近い、★四つ。

  • 今野敏「隠蔽捜査」シリーズ第3,5作目(2010年5月単行本、2013年2月文庫本)。
    今回の主人公は伊丹俊太郎。伊丹目線の短編8編のスピンオフ作品。それでシリーズ4作目ではなく、3,5作目としたらしい。
    とは言っても竜崎伸也も必ず登場して、と言うより必ず伊丹が竜崎に相談して問題を解決するので竜崎がやはり主人公でしょう。
    伊丹が福島県警刑事部長から警視庁刑事部長に転属するところから始まる時間軸で追った短編8編になっている。竜崎も最初の2編は警察庁長官官房の広報室長から総務課課長になったばかりの頃、後の6編は大森署の署長だ。
    どれも竜崎の出す原理原則の解決策にスカッとする。問題に悩んだ伊丹の苦悩はよくわかり、これをどう解決するのか非常に困難と思われた問題を竜崎はいとも簡単に伊丹に解決策を話す。悩むこと事態が理解出来ないと言う。こんなことを小説にした今野敏という作家は凄いと改めて思うのだ。それにしても全部自分で解決出来ない刑事部長というのもどうかと思うが。
    この短編集で竜崎と伊丹の関係を再認識した。思っていた以上に伊丹は竜崎に依存している。言い換えれば信頼し尊敬している。その関係は小学生の時から変わっていないということもわかった。
    7編目の「試練」が前作の「疑心(隠蔽捜査3)」の補作になっていて、竜崎が方面警備本部長に任命された経緯や藤本警備部長が美人のキャリア畠山美奈子を竜崎の秘書官として送り込んだ理由を伊丹に話す場面がある。藤本は竜崎を買っており、竜崎の敵ではなかったようだ。

    <指揮>
    伊丹が福島県警刑事部長から警視庁刑事部長に赴任する直前に起こった殺人事件に捜査本部の指揮と警視庁への赴任との二者択一に悩む伊丹。悩んだ末に竜崎に相談、竜崎から原理原則の簡単明瞭な回答により伊丹が救われるエピソードだ。 時間軸では最初の長編「隠蔽捜査」の前の出来事。

    <初陣>
    伊丹の警視庁刑事部長としての初陣は綾瀬署管内で起きた殺人事件。そして竜崎の検察庁長官官房総務課長としての初陣は2箇所の県警で起きた裏金内部告発問題だ。
    伊丹も直接関与はしていなくても福島県警時代に捜査費用の為に裏金がプールされていたのは認識していた。竜崎は内部告発された件の官房長官の国会答弁の原稿作りの参考の為にに伊丹に裏金作りの実態について聞く。伊丹は竜崎の頼みに答える為に素直にを話すのだが、後から自分への追求があることを不安に思い始める。
    結局は警察組織を守る竜崎の想いは伊丹が心配することなど全くないということになるのだが、二人の特別な関係を再確認するエピソードだ。時間軸では最初の長編「隠蔽捜査」と同じ時期の出来事。

    <休暇>
    時間軸ではここからの竜崎は大森署署長になってからの話になっていく。
    伊丹が珍しく休暇を取って伊香保温泉に一人でくつろいでいたのだが、大森署管内で殺人事件発生の連絡を受ける。
    伊丹は折角の休暇も大森署に捜査本部の設置が決まったからには、休暇を切り上げて大森署に本部長として駆けつけなければならないと決意する。しかし署長の竜崎は捜査本部は必要ないと断ってくる。
    さあ伊丹はどうする?これも非合理的な慣習を合理的な方法で竜崎があっと言わせるエピソードだ。時間軸ではシリーズ2作目の長編「果断」の後の出来事。以下の短編も同様の時間軸。

    <懲戒>
    伊丹が20代管理官の頃、親しくしていた友人の同年代の刑事白峰洋一、現在捜査二課の警部補だが、参議院議員の選挙違反のもみ消しに関わって、その処分を伊丹に委ねられた。
    与党の大物衆議院議員も関わっており伊丹に圧力を加えてくる。そもそも処分の権限は警務部長にあり、議員の圧力を伊丹に向かわせたのは警務部長の策略だった。
    難しい選択を迫られた伊丹は竜崎に相談する。竜崎は誰もが考えなかった事を指示する。もみ消しをもみ消すのではなく、もみ消しなどなかったことになる発想だ。いや本来の原理原則の考え方で何も悩むことなどなかった事を思い知らされるエピソードだ。

    <病欠>
    所轄の警察署にインフルエンザが流行している中で、伊丹も感染して39度の熱を推して登庁し業務に従事していた。
    そんな中荏原署管内で殺人事件が発生、しかし署長もインフルエンザに感染、署員も多数感染し、同じ方面本部の他の所轄署も多数感染者が発生していて応援に来られない。
    方面本部は違うが大森署だけは一人を除いて感染者がいなかった。管外なのに竜崎は署員を応援に出し捜査本部の本部長も伊丹に代わって竜崎がやると言って、伊丹を帰し事件は解決する。
    自宅では別居中の妻が帰って来て伊丹の看病をしてくれる。伊丹の夫婦のエピソードと危機管理のエピソードの物語だった。

    <冤罪>
    碑文谷署管内で4件の連続放火事件の冤罪事案が発生する。逮捕した第1容疑者は犯行を否認する中、別の放火未遂事件で逮捕した第2容疑者が4件の犯行も自供したのだ。
    検察官の調査が入り、冤罪となれば刑事部長と署長の責任が問われるのはまちがいない。ただ一人の捜査員はまだ第1容疑者の犯行を主張していた。しかし第2容疑者は自供しており、悩んだあげく伊丹は竜崎に相談する。
    竜崎は状況経緯を聞き、即座に第2容疑者の精神鑑定の指示をして、結果虚言症の模倣犯と判明、第1容疑者は犯行を自供、冤罪事案は消滅する。伊丹の刑事部長としての評価は上がるが、竜崎の洞察力には頭が上がらないエピソードだ。

    <試練>
    「疑心(隠蔽捜査シリーズ3)」の裏側をちょっとだけ描いた「疑心
    」の直前の時間軸だ。アメリカ大統領来日の警備の為の方面警備本部長に所轄の署長の竜崎が任命された経緯のエピソードだ。
    野間崎管理官が言い出しっぺで長谷川第2方面本部長が推挙したことにはなっているが、どうも藤本警備部長が変人の竜崎のことを買っていて試してみたいと言うのが本筋みたいだ。
    試す試練の内容の中に警備部の部下で美人のキャリア畠山美奈子をわざと竜崎の秘書官に送り込んで竜崎がどう反応、対応するかも入っていた。どうも藤本は敵ではなかったようだ。このことは伊丹にも話してあったので、伊丹は竜崎がこの試練を乗り越えられるように助けようとしながら、竜崎の反応を楽しんでいた節もある。反面初めて竜崎の相談に乗れることが嬉しかったのだろうと思う。

    <静観>
    大森署で3件の不祥事事案が発生する。1件は事故死として処理された被害者が既に荼毘に付された後で殺人事件の被害者だという疑いが出て来たこと。2件目は車両同士の交通事故の処理に当たった交通警官とその運転手の一人がトラブルになって訴えると言っている件。3件目は窃盗事件の地取りで話を聞いていた相手が監視カメラの映像で犯人だとわかり、取り逃がしていた件。
    この件を第2方面本部の因縁の野間崎管理官が伊丹刑事部長に上げずに押さえていた。伊丹のもみ消しを恐れて野間崎のところで竜崎を追い詰めようとしているように見えた。
    伊丹は竜崎が心配で大森署へ駆けつけ力になろうとするが、竜崎は事件のことは一向に気にかけていなかった。静観していれば問題は解決すると言う。伊丹の方が右往左往している。二人の関係がよくわかるシーンだ。そして問題は全て解決する。状況を冷静に判断、的確に事実関係の把握、部下との信頼関係、野間崎が追求したことは何もなかった。
    この章でも刑事部長は伊丹より竜崎の方が適任ではないかと思わせるエピソードだ。

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著者プロフィール

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。

「2023年 『脈動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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