葉桜の日 (新潮文庫)

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著者 : 鷺沢萠
  • 新潮社 (1993年10月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101325125

葉桜の日 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 鷺沢さんは大学生の時に読み漁った作家さんの一人です。育児で読書から離れているときにお亡くなりになり、びっくりした記憶が。この本も大学生の時に一度読みましたが再読。
    短編が二つ入っていましたが、この本を一言で言うならば「自分のルーツをさぐる話」だと思いました。

    ・葉桜の日
    19歳の主人公・ジョージは養母と暮らし、養母の会社の手伝いをしている。自分の本当の親が誰なのかは知らない。
    様々な人と触れ合う中で、「僕は一体誰なんだろう」とジョージは思い、自分のルーツを探っていく。
    養母とジョージはべったりしすぎず、一線引いた関係を保っているように思われるんだけど、その反面、しっかりつながった絆のようなものも見受けられるような……。この二人の関係性が絶妙でした。
    養母が実の母だった。ジョージに日本国籍を与えたくてわざと一度捨ててから引き取った……。その想いが切なくて良かった。
    「みんな、自分が誰かなんて判っちゃいねえよ」というおじいの言葉にハッとさせられました。
    自分のルーツって、血のつながりとか、そういう物理的なものの上には無いんだと思う。

    ・果実の舟を川に流して
    屈強な男性ながら女装しているバーのママと、そこで働いている健次。
    バーに訪れる客の様々な面や、ママの過去を垣間見て、健次は人生について考える。
    ママのキャラが強烈で良かった。多分この話は健次が主人公と見せかけてママが主人公なんだと思う。
    男っぽいところもあれば女っぽいところもあるし、しっかりしているかと思えば情に流されるところもある。
    ママを見て健次が思ったように、人生とは川を流れる舟のようなもので、心の思うままに、行くしかないのかも。

  • ジニのパズルを読んで読むシリーズ その1 川崎特有の地理感覚

    鷺沢萠さんという、10年ほど前にその訃報を聞いて知った作家さん。

    18歳で文学界新人賞受賞。当時最年少受賞。
    上智大学の1年生でこのビジュアル、となると当時騒がれたのでしょうねぇ。

    しかし、その後取材を通して自分の父方の祖母が韓国人だと知り、そこから韓国へ留学。
    とウィキペディアに書いております。

    自分が全くそうだと知らなかった人による作品ということで、これまた他の作家とは異なる体温ではあります。幼少期の差別、ということがもちろんなかったわけで、登場人物も成功してお金持ちのお宅が多いです。

    2作品が入っております。

    葉桜の日

    「葉桜の日」の舞台のひとつは、第三京浜の川崎インターを降りて車で15分南下した、南武線の線路沿いの弁当仕出し工場。

    ここで皆さまが正しく読み解けたかが疑問であります。
    実際問題、第三京浜の川崎インターを降りて車で15分南下したら、南武線から離れて横浜方面へと進んでしまうのですよ。

    川崎特有の地理感覚というものがありまして、ここでいう「南下する」とは、川崎方面に向かうことを指します。東なんですね。

    川崎では東側のことを「南部」と呼び、西側を「北部」と言います。
    アメリカでは農業が盛んな南部、工業が発展する北部でありましたが川崎では南部が工業、ブルーカラーに対して北部がホワイトカラーなイメージであります。

    つまり、川崎インターを降りて車で15分の南武線沿いってなると武蔵中原と武蔵小杉の間
    ぐらいかなぁ、と読み解くのですがこれ読者のどれだけの人にわかるんだ。

    「川崎南部」って言い方をしているので、鷺沢さんはこのあたりを取材なりなんなりで把握したうえで書かれているんですね。

    韓国の方も多いのだけど、実際他の国の方も実は多くって、もはやナニジンだからってどうこうしてられない地区だったりするわけですが、そこで主人公ジョージは

    「僕は、ホントは誰なんだろうね?」
    という疑問を抱くことになります。
    このジョージの思いは取材の上で自分の知らないことを知ることとなった鷺沢さんの疑問そのものであったのかな。

    冒頭、志賀さんが言ってる

    人の生きていく方法や道はさまざまで、どれが最高ということはない。ただ、自分のめいっぱいに真実で生きていればいい。
    ということばは、結構わたしの胸にああ、そうだなと響いたんだけどね。
    19のジョージは、これから悩んで行けばいいんじゃないかなぁ。

    果実の舟を川に流して

    「果実の舟を川に流して」は、中華街での話。あのあたりの赤い独特なネオンを浮かべながら、読みました。

    一転、ヨコハマの人たちが織りなす、おしゃれな空気が流れる作品。

    巻末の解説を読んで確かに、22とか23歳で書かれた本には思えないなぁと、若い者らしい甘え、のようなものの排された文章を見て、思いました。

    もう一冊を読むのが楽しみになりました。

  • 高校か大学1年の頃、妙に鷺沢先生の小説にはまった時期があった。
    今となってはその理由がさっぱり思い出せないのだけれど、はっきりしているのは、多分、あの頃の私はこの話をよく理解できなかっただろうということだ。
    年齢的には、あの頃の方が登場人物に近いはず。
    けれど、生活するということ、生きるということをいまいち分かっていなかったあの頃には、この本にちりばめられた桜の花弁も、きれいごとでも格好のいい話でもない、普段なら気にも留めない人々の、気にもならない日々も、目に映らなかっただろう。
    今の私はジョージの年も健次の年も超えている。
    次は、誰の年になるのだろう。
    その頃にもう一度読めば、また見えなかったものが見えてくるのかもしれない。

  • 「葉桜の日」「果実の舟を川に流して」の2編からなる。

    「葉桜の日」は、出生の秘密を知ることになる主人公と周囲の人が葛藤する。
    自分探しは永遠のテーマだと思うが、そばにいる人との関係や距離によって知っていくのだなぁとつくづく思った。

    在日という壁もでてくるが、これは作者本人が20歳の時に知ったという現実とシンクロしているのではないか。

    「果実の舟を川に流して」は、タイトルが秀逸だと感じた。
    バナナボートという飲み屋を舞台に社会との距離を主人公が感じてゆく。

    これを書いた作者の年齢のことは書きたくないのだが、ついつい考えてしまいながら読んでいる自分がいた。

    天才とは、儚いものである。

  • 表題作と『果実の舟を川に流して』いずれも丁寧に書き込まれている。女性が描く主人公の男の子たちは透明感がある。純で気持ちいい。

  • 非常に巧い小説だと思います。



    自分は一体、誰なんだろう?

    そんな思いを抱えながら生きてきたジョージ。

    彼が自分の出生の秘密、志賀さんの秘密を知った後、本来ならば、ようやく自分が誰だったのか分かるはずなのに。

    自分が余計分からなくなってしまうジョージが繊細に描かれていて、

    「僕はホントは、誰なんだろうね?」

    彼のこの一言が非常に鮮烈で染みました。


    大人への反抗心をむき出しにするわけではなく、若さを生き生きと描く、秀逸な作品。

    これを二十代前半で書いたというのだから、本当に鷺沢さんには舌を巻いてしまいます。

    天才っているのねー。

  • 言っても仕方ないこと、考えても仕方ないことは、生きていれば山ほどある。自分は何者なのか。若者特有の青臭い考えは葉桜のむせる若葉の季節によく似合う。

    焦りや苛立ちを書かせたらピカイチの鷺沢萠が切り取る世界は、地続きで、バーのカウンターでたまたま隣り合わせた他人の身の上話に似た雰囲気がある。

    当事者なのにどこか他人事。どうしようもない日々を生きていて、何が悪い。

  • 2013年5月8日(水)、読了。

  • <主な登場人物>
    ジョージ…身寄りのいない、19歳。
    志賀さん…ジョージの養母。女社長。
    おやじ…志賀さんが父親のように慕う人物。
    明美さん…かつてジョージと志賀さんと一緒に暮らしていた。

    <あらすじ>
    ジョージはずうっと志賀さんに拾われたと思っていた。
    けれど、実は志賀さんが実母だった。
    何故それなのに真実を言おうとしないのか?母の社会的な立場も影響していて…。
    血の繋がりより、人としての繋がりを感じて―。




    私の両親は、共に川崎の出身だ。
    しかも作品で描かれている場所はまさに実家のすぐそばだと思われる位置にあり。

    川崎という特殊な土地柄が志賀さんのような
    人々を歴史的にみれば沢山いたことは事実だろう。

    著者の作品は、著者の生い立ちからしてこういう人々のことは
    書かずにはいられないのかもしれないが、やはり重苦しいものがある。

  • 短編二つ。表題作よりも「果実の舟を川に流して」の方がすきだった。
    課題にあたって現代小説が読みたかったので借りた。最近全く読んでなかったから忘れ去ってたもんで…。選んだ理由は、現代作家には珍しく自殺したことを高校の国語便覧で見たのを覚えてたから。割と趣味が悪い。
    表題作、在日二世外国人の悲哀。
    果実~は順調に生きてきたエリートが、母が殺されることで転落して飲み屋で働く。道を外れた今とその仲間を受け入れながらも、密かに息づく「まとも」な人間への自負と嫉妬の描写が非常に鮮やか。主人公に、母が殺されたことについては仕方ない、というような諦めがあったのが印象的。
    どちらの短編も個人にとっての国家の問題が絡んでいる。この人の根幹はここなのかな。
    解説では女であることと若いことを武器にして語らないのは珍しいと。確かに…

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