- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101325217
感想・レビュー・書評
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ゆっくりと静かに、しかし大きく魂を揺さぶる。モノの名前とは違って、人間の名前というのは他者によって識別されるためのものである以外に、自らの生き方を規定するものであるらしい。自らの名前を名乗ることが、他者の魂を揺さぶり、美しいと感じさせるとはどういうことだろう。その人達の意志と関わりなく、歴史や制度がそうさせたのだと思うと、ものすごく切ない。
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鷺沢萠氏の遺作にして、傑作。『眼鏡越しの空』は2つの名前を持った在日コリアンの逡巡を描く、青春小説。『故郷の春』は読みやすい文体から、琴線に触れてくるので、不思議な感覚に陥る。解説にもあるように「鷺沢萠」という名前が故人であることが、とても、哀しい。
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鷺沢 萠 の作品に出会ったのは、たしか大学受験勉強中に目にした『葉桜の日』だったと記憶している。「本の虫」と言われることを密かに喜んでいた私にとって、国語の受験勉強(小説に限る!)は、親に咎められることがない読書タイムの時間でもあったのです。大学受験が終わったら読もうリストに加えたはずなのだけれど、すっかり忘れてしまっていて、ここ数年で読み始めました。
彼女自身も在日の方だったと思うのですが、そんな彼女が「在日」をテーマに書いた作品集がこの本。残念ながら、2004年に自ら生涯を閉じてしまったために、パソコンに残されていた未完成の作品も2つ収録されている。
特に「眼鏡越しの空」で揺さぶられる。
2つの名前を持つことの意味と本人の葛藤、殻、違和感、仮面をかぶるような感覚。
そして、周囲の人間の戸惑いと思慮。
それをめぐるetc.・・・
知らないということは、無邪気だ。だけれども、人を悩ませることにもなる。
それでも、知らないことに気づいたら、アトナオのように知ろうと努力すればいいのだ。
そして、考えればいいのだ。
「在日」であるマエナオ、「日本人」であるアトナオ、どちらにもやさしさが注がれたお話だった。
うまく言葉で表現できないのだけれど、何かとても大切なことが語りかけられている。
(2008.8.16) -
鷺沢は初期の頃から好きで、でも本から離れていたときに突然亡くなった。この本は彼女のアイデンティティなのだとおもう。未完の一篇が残念でかなしい。「眼鏡越しの空」はいとおしい。