君たちに明日はない (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101329710

作品紹介・あらすじ

「私はもう用済みってことですか!?」リストラ請負会社に勤める村上真介の仕事はクビ切り面接官。どんなに恨まれ、なじられ、泣かれても、なぜかこの仕事にはやりがいを感じている。建材メーカーの課長代理、陽子の面接を担当した真介は、気の強い八つ年上の彼女に好意をおぼえるのだが…。恋に仕事に奮闘するすべての社会人に捧げる、勇気沸きたつ人間ドラマ。山本周五郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;垣根氏は小説家。小学生の頃から小説を読み始め、「月と六ペンス」に感動。大学卒業後に、リクルート→商社→旅行会社に勤務。求人広告の制作で文章やコピーを書いていたのが作家になるキッカケ。文章力が高い純文学を読み、会社から帰宅後に小説執筆の生活を続けた。「午前三時のルースター」でサントリーミステリー大賞、「ワイルド・ソウル」で大薮春彦賞・吉川英治文学新人賞等を受賞。他の受賞や候補作も多数。
    2.本書;主人公の村上信介は、リストラ請負会社の面接官。不況対策の為に希望退職を募り、社員を退職に追込む仕事。リストラに悩む勤め人の苦悩と、それにどう向き合っていくかを描いた。本書は、シリーズ5巻の内の第1巻で。「怒り狂う女」を始め、5つの短編を収録。“村上×退職候補”の人生観を突詰めた物語。会社と個人生活の狭間で“生き甲斐とは何か”考えさせられる。山本周五郎賞を受賞。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『File1.怒り狂う女』より、「リストラ最有力候補に限って、仕事と作業の区分けが明確に出来ていない。つまり、自分の存在がこの会社にとってどれだけ利益をもたらしているか。・・・会社というものが営利追及団体である以上、そこに思い至らない者は、この終身雇用という概念が崩れた現代では、最終的に淘汰されてしまう。当然の事だ」
    ●感想⇒日本企業の強みの要因は、“三種の神器=①終身雇用 ②年功序列 ③企業別組合”だと言われてきました。会社は、終身雇用による生活の安定という無形の報酬で、社員が仕事に打込め環境を作ったのです。しかし、一歩誤ると、社内に好ましからぬ平等意識を蔓延らせ、企業の創造と成長の原動力である社員の活力を損ないかねません。私は、会社に入社した頃、上司から口酸っぱく言われました。「作業をするな、仕事をしろ、仕事は“作業+考える(工夫・改善・革新)”だ」と。「新たな付加価値を創造し、豊かな社会作りに貢献するのが働く者の使命だ」とも。企業は終身雇用が崩れたとしても、やりがいのある仕事と有益な製品を創出し、世の為・人の為に尽力してほしいと考えます。
    (2)『File3.旧友』より、「この男の精査部での実績は部署内でもかなり優秀だった。・・・そんな奴でも、結局は窓際に追い立てられてしまっている。・・・減点方式の評価しか下せない職場では、個人の能力が突出してくる事はない。当然、上の方から注目され、他部署から引き抜かれる事もない。俺が“もう二度と浮かび上がる事はない”っていったのは、そういう事だ」
    ●感想⇒減点主義の人事評価は、官公庁や金融機関が多いと思います。営業などは個人の業績を加点し易い職種と思いますが、営業成績が良いのは、外的環境や関係者の支援によるものかも知れません。人が人を評価するのは大変難しい事です。人間には感情があり、評価に人間関係が持込まれるのは避けられません。ある外資系企業の人事制度です。上司が部下を評価するのに、安易なチェックリストや点数を使わずに、文章記述をさせると聞きました。普段から部下と真剣に向合う事を重視しているのでしょう。日本も納得性を高める為に、年功序列に固執せずに、学ぶ点がありそうですね。
    (3)『File5.去り行く者』より、「男ってやつはどうしても仕事のやり方が保守的になる。何か新しい事を、とは思っていても、つい今までの仕事のやり方を踏襲してしまう傾向がある。業界での常識に縛られてしまう。周りの目を気にしてバランスとりをしてしまうんですよ。・・・そんな時こそあなたのような人(芹沢陽子;営業部のチーフでリストラ候補)が必要なんですよ」
    ●感想⇒「男ってやつはどうしても仕事のやり方が保守的になる・・・今までの仕事のやり方を踏襲してしまう傾向」に共感します。冷やかですが、仕事を無難にこなし責任逃れしたいから、と思うのです。先にも述べました。企業は世の為、人の為に存在しなければなりません。それには、仕事を常に進化(深化)させるのが責務です。保守的に前回方式という仕事の仕方を続ければ、仕事も社会も現状維持です。そんなものには魅力が無いでしょう。昨今、女性の社会進出が目覚ましく、とても良い事です。男性中心だった日本企業には、女性の感性が必要です。女性に活躍の場を提供する為にも、就業環境の整備・改善が急務です。女性にも気概を持って活躍して欲しいと思います。
    4.まとめ;企業は営利追求団体なので、業績には浮沈があります。本書は退職勧告の物語で、勤め人には、誰にもリスクはあります。有事に備え、職業能力の向上と多少の蓄え、最も重要な“耐え忍ぶ精神力”が必要と思います。所で、短編の中で『File5.去り行く者』に共感しました。それは、2人の内、1人を解雇提案する仕事です。石井はコンスタントに業績を上げるが、新人育成に消極的。黒川は業績に波があるものの、どんな新人でも、情熱をもって育てるタイプ。村上(主人公)は黒川を残した方が良いと進言。挫折を経験した村上のこうした言動は他の短編にも見られ、将来を見据えた判断力と人間味に感動です。小説とは言え、書名とは裏腹に『君たちに明日はある』と願います。(以上)

    • 本ぶらさん
      こんにちは。はじめまして(…だったかな? 前にもコメントしたような気もするw)

      >作業をするな、仕事をしろ
      それは、自分も言われまし...
      こんにちは。はじめまして(…だったかな? 前にもコメントしたような気もするw)

      >作業をするな、仕事をしろ
      それは、自分も言われましたねー。
      いやー、ホント、その通りなんですよね(^^ゞ

      ただ、そういう仕事の仕方は向かなくて、指示されたことをちゃんとこなすことが向いている人もいる。
      政府や経済界はジョブ型雇用を目指すとか言ってるけど、その人の向き不向きを上手く"使う”みたいな風にはならないものなのかなーと。
      結局、みんなが右向いたら一斉に右ばっか向いてる、今までと同じじゃん!なんて思っちゃいます(^^ゞ
      2023/02/01
    • ダイちゃんさん
      本ぶらさん、「いいね」と「コメント」ありがとうございます。本ぶらさんがおっしゃる様に、人には個性があるので、多様な働き方を認める必要がありま...
      本ぶらさん、「いいね」と「コメント」ありがとうございます。本ぶらさんがおっしゃる様に、人には個性があるので、多様な働き方を認める必要があります。しかし、適材適所って難しいですね。
      2023/02/01
  • 何年か前にドラマで拝見した。

    主人公の村上真介は企業の人事部から、リストラ業務を請け負う会社の社員。所謂リストラを宣告し、自主退職へと誘導する面接官。

    様々なリストラ対象者が登場し、言葉巧みに誘導していく。もちろん下調べにもソツが無い。

    『気持ち良く、会社を辞めていく』なんてことができたら幸せだろうな。あっそれはリストラではないか…。

    兎にも角にもテンポよく読み進める話でした。

  • 直木賞受賞作家の出世作、ということで読んでみた。文章のテンポがいいので、普段の倍くらいのスピードで読めた。

    内容は、主人公がリストラ代行業の中堅社員(33歳)なので、決して明るい環境ではない筈なのだが、何故か明るく前向きになれてしまう不思議なお話だった。

    銀行の中の厳しい出世競走は、「半沢直樹」で業界外の人も広く知るところとなったが、都銀で冷遇されているバンカーがM&Aアドバイザリーの世界でシンドイながらも輝きを取り戻すという設定は、今となっては割と普通の話なのかもしれない。

    40代独身女子の恋愛事情に対する好意的な書き振りも、現代的で好感が持てた。

    次は、「ワイルド・ソウル」を読む予定だ。

  • 直木賞作家・垣根涼介、初読み。

    リストラ請負会社『日本ヒューマンリアクト㈱』で、リストラ対象者の面接官を担当する村上真介。

    真介は、リストラ対象者のこれまでをじっくり調べて、どの選択が幸せかを考えて、対象者を導こうとしている。
    対象者も、人生を振り返り、どうすればいいかを考えている。

    陽子も、緒方も、池田も、日出子も。
    日出子は結局、実家のとんかつ屋を継ぐんだろう。

    音楽プロダクションの石井だけはまだ考えられてはいないだろうけど…

    リストラって、敗者って感じが強いが…
    やり方なんだろうなって感じる。
    それだけでネガティブなリストラがポジティブに。

    リストラ請負会社って、実在するんだろうか?
    あった方がいいな。
    人事だけに任せておくとできるものもできなさそうで…
    たぶん、自己都合退職パックを出して、はい、さよなら、だろう。
    辞めていくひとのこれから先のことなんて、考えてないだろう。
    それが真介たちリストラ請負会社との違いで、リストラをネガティブなものにしてしまうんだろう。

    真介と陽子はどうなって行くんだろう。
    最後に出てきたのは、順子??

    『借金取りの王子』、読まなければ。


  • リストラ屋さんが主人公。
    あまり期待していなかったのですが、登場人物の人間像がしっかりと書かれていて、とても面白く読みました。
    第二弾が発売されているようなので、そちらも読みたいと思います。

  • クビを切るのは、本当に難しい仕事だと聞いた。私のいる会社でもクビ切り課長と呼ばれる人物がいて、その人はなぜか尊敬されていたことを思い出す。
    その難しさの中身がしっかり書かれている良著。

    そこに垣根涼介さんお得意のイケメンスケコマシ野郎(死語)要素が掛け合わされ、なんだかマグロの解体ショーを見ている気分になった。マグロに申し訳ない。

    会社に切られる人間に敢えて同情はしないが、切られる側に立ってついつい先の人生を考えてしまうのは、ダメサラリーマンの性かな。
    いや、反面教師とすべき。
    面白いコンセプトなので先を追いたくなる。

  • 合理的理由なき指名解雇は、労働基準法に違反する。 企業の人員削減計画の最有力候補者と面談を繰り返し、自己都合退職に追い込むリストラ業務請負会社に勤める〝首切り面接官〟の人間模様を描いた、超おもしろ連作小説。 「俺は、いったい何をやっているんだろう・・・」 被面接者が肩を落とし、部屋を出ていくのを目にするたびに憂鬱になる主人公(村上伸介)の魅力と、被面接者との絡み合いが眩しく炸裂する、山本周五郎賞受賞の人情劇ドラマの傑作。

  • リストラ請負会社の社員が主人公の連作短編小説。
    リストラ面談の修羅場が描かれているかと思えば、そのリストラ候補者と主人公が恋に落ちてしまう意外性もあり面白かった。面談を受けた人の行動が、諦めて受け入れてしまう人、怒って会社にしがみつく人、などなど。
    自分がリストラ面談に呼ばれたらどうするかな。いくらもらえたら受け入れるかな、などと想像を巡らせて擬似体験出来たのが良かった。とりあえず、5000兆円欲しい。

  • 「リストラ請負会社」というコンセプトが秀逸。人間の感情を仕事の過程で自然と抉り出していく

    ★本の感想
     良い意味で軽い小説。文章は読みやすいし、登場人物の感情の揺れ動きもリアル。リストラをテーマに上げつつも重すぎない。「リストラにあったらどうしよう」「仕事の面白さって何だろうな...」と読みながら考えがドライブする。エピソードの節々に「人望がある人とない人」「仕事ができる人とできない人」の特徴も読み取れる。新入社員の私にとってはちょっとタメになる。

  • 数年前に日経か何かで、
    お仕事小説特集ページで紹介されていて、
    気になっていた一冊。
    直木賞受賞作家ということで、
    近くの書店で発見、綺麗な状態の本を購入できました。嬉)

    リストラ請負会社に勤める村上真介の面談を中心に描かれています。
    面談者(リストラ候補者)に恋をしてしまったり、
    学生時代の友人と面談で再会することになったり。
    私だったら、精神もたなくなりそうですが、
    真介は迷いながらもタフにこなしていきます。
    解決策が力強かったり、容赦なかったり。

    面談者が社内の人間だと、
    どうしても私情、社内政治、派閥などが影響しそうだし、
    後々のしこりを最小限にするためには、
    外部に委託する、という選択はありなのかもと思います。

    以前読んだジェーンスーさんのエッセイにも、
    自己責任という言葉が最近頻出することに違和感を覚える、みたいなことが書いてあったのを思い出しました。

    生きてくためには生活費が必要だし、
    もちろん自己研鑽だって必要だと思います。
    結婚していれば、自分だけの問題ではないし、
    日々の中で全員が全員勝ち組に回れるわけではなくて。

    もし自分が真介だったら…
    もし自分が被面談者(リストラ候補)だったら…
    考えな方読むと、もやもやが止まりませんでしたが、
    小説として、とても面白い一冊でした!

    リストラというテーマは重たいですが、
    真介のひょうひょうとした感じとか、
    ちょっとダメな男っぽいけど、
    結末はどうよ、みたいな感じとか、
    読後は良かったです。

    垣根さんの作品を初めて読みましたが、
    もう少し読んでみたいと思いました。

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著者プロフィール

1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も05年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、16年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。その他の著書に『ヒート アイランド』『ギャングスター・レッスン』『サウダージ』『クレイジーヘヴン』『ゆりかごで眠れ』『真夏の島に咲く花は』『光秀の定理』などがある。

「2020年 『信長の原理 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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