- Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101331331
作品紹介・あらすじ
「おれが飛び立ったら、この女をお前の妻にしろ」-戦争末期の鹿屋航空基地で著者の父が出会った、三人の特攻隊員と絶世の美女、八重子。出撃命令を待つ彼らの間で交わされた密約が、それぞれの人生を大きく変えていく。国を守るために命を捨てた男たちと彼らの想いに殉じた女の運命を描く哀切きわまる恋愛譚。父が語った思い出を妖艶な物語に昇華させた鬼六文学の最高傑作。
感想・レビュー・書評
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神風特別攻撃隊。
愚かな戦略の象徴。
前途ある優秀な者達はどのような思いを抱いて飛び立ったのか。
彼らをテーマとする文学作品は多い。
この作品は描き方が少し変わっている。
破天荒な隊員の物語。
痛快なのだが、それが逆に悲哀を強調しているように感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「往きて還らず――すみれ荘奇譚」と「夢のまた夢――道頓堀情歌」という中編2編を収録。
「SM小説の巨匠」団鬼六には、一般小説の傑作も少なくない。『真剣師小池重明』や、自伝小説集『生きかた下手』に収められたいくつかの短編はまことに面白く、「SMの人でしょ」という色眼鏡で食わず嫌いしてしまうのはもったいない。
本書に収められた2編も、いずれ劣らぬ傑作。一部に性描写はあるもののポルノではなく、太平洋戦争末期と終戦直後をそれぞれ舞台にした“異形のラブストーリー”として読みごたえ十分だ。
「往きて還らず」は、タイトルが示すように「特攻隊もの」。ただし、団鬼六がフツーの「泣ける特攻隊もの」など書くはずはなく、前代未聞の“官能的な特攻隊物語”になっている。
謎めいた美女が、1人の特攻隊員を愛したことからたどった数奇な運命を描いたストーリー。
団の父が鹿屋航空基地に主計兵長として勤務していたときに見聞きした実話との触れ込みだが、あまりにも話がドラマティックなので、「じつは団の創作じゃないの?」と疑りたくなる。
ま、どこまでが実話かという詮索はさておき、小説としてはじつに面白い。「愛とは何か?」を考えさせる作品になっている。
「夢のまた夢」は、終戦直後の大阪を舞台に、若き日の団と父親と、米兵相手の公娼(いわゆる「パンパン」=私娼ではない)をしていた過去を持つ美女の奇妙な「三角関係」を描いた、自伝的青春小説。
「復員後すっかり人間が変わったよう」になった父親は、息子を博奕打ちにしようと「博奕の家庭教師をつけさせ」たり、ヤクザでもないのに自宅の2階で賭場を開帳したりと、まことに型破りな人物であったようだ。
そういえば、前に読んだ団の語り下ろしエッセイ集『快楽なくして何が人生』でも、この父親のことがかなりの紙数を割いて紹介されていた。
私は当ブログで、「これまであまり書かれなかった両親のエピソードが数多く紹介されている。とくに、団以上の無頼派であった父親の奔放な人生は、団自身の手で小説化してもらいたいほどの面白さだ」と、同書の感想を記した。その願いが、この「夢のまた夢」でかなった思いだ。
団父子がともに放つデカダンと無頼の匂いが全編に満ちた、“異形の青春小説”である。 -
2016 8 17
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特攻隊の物語も団鬼六が書けばこんなにも違った物語りになるのかと驚いた。特攻隊という行為そのものをユーモアーに紛れ込ませて痛ぜつに批判している。爆弾を積んで自爆するというまったく馬鹿げた行為を美化する物語が多い中で貴重な本だ。