自壊する帝国 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (603ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101331720

作品紹介・あらすじ

ソ連邦末期、世界最大の版図を誇った巨大帝国は、空虚な迷宮と化していた。そしてゴルバチョフの「改革」は急速に国家を「自壊」へと導いていた。ソ連邦消滅という歴史のおおきな渦に身を投じた若き外交官は、そこで何を目撃したのか。大宅賞、新潮ドキュメント賞受賞の衝撃作に、一転大復活を遂げつつある新ロシアの真意と野望を炙り出す大部の新論考を加えた決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 私は「このまま一生頭悪いまま終えたくない」と思い
    佐藤優さんの本を読み始め、これで94冊。

    一か月前に彼のデビュー作『国家の罠』を読んで
    「佐藤さんの本から一冊だけ人に薦めるならこれ」と書いたのですが、
    その約一年後に発刊されたこの『自壊する帝国』も
    同時にお薦めしたい本です。
    いや、本当にすごい!

    佐藤優さんは私の大好きな須賀敦子さんに似ていると
    今頃気づきました。
    佐藤さんはロシアに敦子さんはイタリアに数年間
    まるで地元の人のように暮らしています。
    どちらも若き日を回想して書いているのですが
    まるで今目の前で見ているかのよう。

    佐藤さんはロンドンの古本屋とモスクワ大学の哲学部に出入りすることにより、多くの人と話をして人脈をどんどん広げていきます。
    敦子さんはコルシア書店でした。

    佐藤さんはプロテスタントで敦子さんはカトリックという違いはありますが、どちらも熱心なクリスチャンで、そして神学にめちゃ詳しい。
    そのおかげで現地の人との会話がはずむのです。
    ちなみに私、佐藤さんと敦子さんの神学関係の本を読もうとしたことが何度かありますが、即挫折しました。
    本当はこういうことが大事なんだろうなあと今回改めて思いました。

    佐藤さんも敦子さんも東大で教鞭をとったことがあるし、佐藤さんはモスクワ大で敦子さんはナポリの大学でも講義をしました。
    とりあえずこんなところかな。

    とにかく佐藤さんの記憶力は超人的です。
    「モスクワ時代の回想録を書くつもりはなかったけど、『国家の罠』を出版したとき読者の多くがモスクワ時代に関心をもっていることを知って驚き、読者との双方向性を維持したくなり、回想録執筆にとりかかった。」
    つまり事細かに日記をつけていた結果ではないのです。

    また登場するロシア人たちの名前とニックネーム。
    それぞれの個性。
    ロシア語や、そのほかのいろいろな国の言語。
    それから話題にのぼる政治家とか文化人とか。
    そういうのがすべて頭にあって、ロシア人たちと交流していくわけですから。

    ソ連→ロシアの時代に佐藤優さんという外交官を送りこめたこと、それは奇跡的な幸運だったとしか言えません。
    512日間の拘留で腐ることなく、むしろそれを利用して、その後私たちにたくさんのことを教えて楽しませてくれる佐藤優さん。
    同時に生き方も教えてくれているのです。

  • 筆者がその類稀なる機転と才能、そして教養をフルに活用して当時のソ連を駆けるその様子はさながらフィクション映画の様な緊迫感。こちらは終始圧倒される。
    大学時代のシーンではこんなふうに体当たりでお互いの議論を交わせる場に身を置けた彼の運と、そしてなによりもその視点や知性の深さに感心する一方で、純粋に羨ましいという気持ちでいっぱいになる。教養のある人っていいなあ…!同じ世界でも、見えている構造が全く以って違うんだろうな。
    図書館で借りて読み始めましたが、ゆっくり時間を掛けて読み切りたくて、文庫版を購入しました。

    21.02.20
    少しずつ読み進めて、やっと読了!
    面白かった〜〜〜!!!ロシア史、そして日本も含めた近現代史もっとちゃんと勉強してからまた読もう…頭のいい人の書く文章、読んでいて全くストレスがない…

  • ソ連邦の消滅という歴史の大きな渦に身を投じた若き外交官は、そこで何を目撃したのか?。筆者が今の日本はこの時期に非常によく似ているという意味が読み終えてなんとなくわかりました。『文庫版あとがき』もいい。

    この記事を書くために再読しました。非常に面白かったのですが、やっぱり難しいです。この本は『外務省のラスプーチン』こと佐藤優さんが在ソ連日本大使館の外交官として赴任したときに 見聞きしたソ連崩壊までの一部始終を振り返る回顧録です。

    筆者は『蘇る怪物』を詳しくは参照してほしいんですが、モスクワ大学で教鞭をとっていた時期があり、そこで知り合ったミーシャという学生を介して、多くの重要人物を仲介してもらったり、自身の体質でウオトカを一日に数本飲んでもあまり二日酔いになることはない、という利点を十二分に発揮して『日本以上に酒を強要する』といわれるロシア人高官を相手にウオトカをガンガン飲みながら自身のルーツであるキリスト教はプロテスタントを基礎とした神学の教養を武器に彼が今でも『師』と仰ぐゲンナジー・ブルブリス氏をはじめとする人間たちに受け入れられていく姿はすごいなと素直に思わずにいられませんでした。

    そして、『大使以上の人脈を持っている』といわれる情報網を駆使して1991年のクーデター未遂事件にも正確な情報をいち早く掴み取って、『ぎっくり腰で政務ができなかった』といわれるゴルバチョフ大統領(当時)の生存を重要人物から聞き出したシーンがいまだに強い印象を僕の中に残しています。

    そのほかにも読んでいて面白かったのは食事、行動原理や習慣にわたってロシア人のことを細かく観察・描写されてあって、食事や飲酒の場面。そこで供される豪奢な料理。筆者と彼らが交わした言葉の一つ一つにもそういった事がにじみ出ていてロシアおよびロシア人がいったいどういう人なのかということや、あの当時、現場でいったい何が起こったのか?筆者が最近、今の日本がこの時期のロシアにそっくりだという理由がこの本を読むと本当によく理解できるかと思われます。非常に読んでいて骨が折れる文献だとは思うんですけれど、それに見合った対価は保証できる本だと思っています。

  • ソ連の崩壊を見届けた外交官
    難しかったけどすばらしい作品

    作品の紹介
    ロシア外交のプロとして鳴らし、「外務省のラスプーチン」などの異名を取った著者の回想録。在ソ連日本大使館の外交官として見聞きしたソ連崩壊までの一部始終を振り返る。
    「もともと、人見知りが激しい」という著者だが、モスクワ大学留学中に知り合った学生を仲介に、多くの重要人物と交流を深め、インテリジェンス(機密情報)を得る。ウオツカをがぶ飲みしながら、神学の教養を中心に幅広いテーマで議論を交わし、信頼と友情を勝ち取る。その豊富な人脈と情報収集力を1991年のクーデター未遂事件でも発揮、ゴルバチョフ大統領の生存情報をいち早く入手した。

    出世競争が最大の関心事であるキャリア組とは大きく異なる仕事・生活ぶりで、外交官の本質を考えさせられる。

  • もともとしゃべり方とか雰囲気とかを見て、失礼な表現になるけれどサイコパスっぽく思っていた。ところが、この本を読んでみて佐藤優さんの印象がガラッと変わった。
    人間味溢れて、とても好きな人間だった。

    外交官の仕事ってほとんど知らなかったけれど、よくテレビで見るスパイみたいなものだと感じた。

  • ソ連帝国が内部から崩壊していく模様をソ連に深く人脈を築いていた著者の目でそのただ中に生きる人間たちの姿を生き生きと描いている。ラトビア出身でソ連を壊すために決意したサーシャとの交流。またリトアニア独立へ向けた最高会議場の中で共に過ごした日々。エリティンの台頭…。今のロシアでなぜゴルバチョフが嫌われて、むしろあのブレジネフの人気があるのか?それが納得できるように感じた。ソ連において無神論を研究するモスクワ大学の哲学科の学生も教授もほとんど隠れ信者とのサーシャの情報はそうなのだろうと思わせるところがあった。ロシア人の「旅の恥はかき捨て」「避暑地のセックス」という風俗にも驚き。ソ連社会がいかに爛熟し、人々も自壊を予想していたことも頷けた。この著者が本当に深く人脈を築いていたことには圧倒される。リトアニア独立に貢献した叙勲者の発表(1992年1月13日)に著者が入っていたというのは、凄い話だ!

  • 面白かった。読みやすかった。

  • 元々は伊藤潤二の「憂国のラスプーチン」がきっかけで手に取った本書。ソ連崩壊までの内情を描くノンフィクションで、聞き慣れない組織や思想も多かったが、先述の本で全体はカバーしていたのですんなり読むことが出来た。時系列的にはこのあと、出版時期はこのまえになる「国家の罠」も是非読んで「憂国のラスプーチン」への理解を掘り下げたい。
    佐藤優氏の経験は深く広い。そしてその経験を物語として描ききる作家性も見事だ。文庫版に追加された章も、横道にそれつつ重要な部分にも触れているので必読だろう。

  • ソ連邦の崩壊を、内側から記した一冊。
    当時何が起こっていたのか、何を起こそうとした人々がいたのかが論理的にわかりやすく書かれており、一気呵成に読んでしまった。
    ロシア経験が長い私の友人(著者と同年代)が言っていた、嘘のような話がここでも書かれており(カレンダーやマルボローの話)、それが本当に現実であったのだと改めて思う次第。
    「知の型には二つある。一つは、新しいものを創り出す知性だ。(中略)第二は、一流のオリジナルな知を、別の形に整えて、別の人々に流通させる能力だ。」(pp.258-259,ll.13-ll.7)
    いずれの知も持たぬ自分にはがゆいばかり。

  • ウクライナ戦争でにわかにロシアやクレムリンの論理が騒がれており、積読棚から本書を引っ張り出しました。

    とても面白い作品だと思いました。
    著者の外務省入省から始まり、イギリスでの研修時代を経てロシアに赴任、ソ連崩壊前後を濃密なタッチで描いています。
    イギリス研修時代に出会った裏の顔を持つ亡命チェコ人、ロシア赴任後に出会った知的だが個性の強烈な人々との交流。そしてロシアはペレストロイカを経て崩壊に向けて激動の時代に突入していきます。著者はその当事者として、その出来事を克明に記します。

    内容的にはドキュメンタリーの部類に入るのでしょうが、その筆致は多分に物語調。そして登場人物たちはクセが強い一方で非常に魅力的に描写されており、読んでいて感情移入します。
    著者の外務官としての職務もまるでスパイのようで刺激的。おそらく活動内容や事件・出来事の表現は盛られていることでしょう。しかしそれを割り引いても国際政治の壮大な物語を語られているようで、かなり面白く読むことができました。

    またなによりもロシアやその他ソ連圏諸国の制度、風習、文化(特に食文化)に触れている点も特徴的だと思います。
    著者はこれら懐かしい過去を愛おしく振り返っているように感じます。ソ連圏の人間や習慣だけでなく(何となく謎めいているが、観念的でシンボリックな)政治状況も含めて、ソ連圏での生活のほとんどが彼にとってはしっくりくるものだったのでしょう。

    ある本で、ハルピンや奉天の特務機関長を歴任した土肥原賢二の行動を指して「外務・軍官僚はしばしば任地を偏愛する」と評しました。個人的にこれは著者にも当てはまるのだろうと思います。
    ただそれだけに彼のロシアでの生活描写については非常に読みごたえがありました。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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