母なる海から日本を読み解く (新潮文庫 さ 62-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101331751

作品紹介・あらすじ

母の故郷、沖縄・久米島。その新垣の杜には世界の中心がある-琉球古謡集『おもろさうし』の一節は、緊迫の北方領土交渉に努めた著者を揺さぶった。では久米島が世界の中心なら、世界そして日本はどう映るのか。思索は外交の最前線から、遙か琉球人の意識の古層へと飛び、やがて日本の宿命と進むべき未来が現れる。瞠目の国家論。

感想・レビュー・書評

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  • 作家、佐藤優氏の母の故郷であり、自らのルーツでもある沖縄・久米島。その新垣の杜には世界の中心がある――『おもろそうし』の一節に心を揺さぶられた氏は久米島を『世界の中心』と見立て、国家論を展開します。

    本書は、作家・佐藤優氏が自分の母親の出身である沖縄は久米島を『世界の中心』と捉え、そこから世界はどう映るのか?という視点で書かれた異色の国家論です。

    そう思うにいたったきっかけは佐藤優氏が文字通り命を懸けてとりくんだきっかけは緊迫を極めた北方領土返還交渉の経験と、琉球古謡集の『おもろさうし』からだそうです。実は本書を読み終えた直後、『おもろさうし』を実際に手にとってぱらぱらとめくってみましたが、またもとの本棚に戻してしまいました。これについては、またの機会に…。

    それはさておき、沖縄に足を踏み入れたことのないということと、佐藤氏の多種多様の文献を大量に引用した沖縄論の『濃さ』に読み終えた現在でも理解したのか理解していないのか、よくわからないような感覚を持ちながらこれを書いております。ただ、沖縄には本土と違って『易姓革命』の思想が息づいているという話や、ここであげられたことがめぐりめぐって、現在でもその解決策が見当たらない『沖縄問題』について大手のマスメディアが報じない『沖縄人』の複雑な感情のルーツや、万が一沖縄が日本から独立して行った際にどのようなことになっていくかということが佐藤氏は『反対』の立場をとっており、その理由を読んでみると、『あぁ、なるほど。そういうことか・・・。』ということはなんとなくわかった気がいたします。

    でもこれは、相当難しい文献になりますので、佐藤氏個人や沖縄問題に関心がある方以外には少し敷居が高いのかもしれません…。

  • 沖縄にルーツを持つ佐藤さんならではの視点を持った本。沖縄について、何も知らなかった自分に気付かされた。

  • 著者の母の故郷である沖縄の久米島の歴史を探求することが、本書の主題となっています。そしてそのことを通じて、琉球の人びとの精神に深く錨を下ろすとともに、日本国家の取るべき道についての構想へと思索をつないでいく試みをおこなっています。

    国民国家が近代の発明品だということは、いまや左派論壇のみならず右派論壇においても常識とされています。しかしながら、藤岡信勝に代表される自由主義史観の論者たちは、国民の物語を構築することの必要性を叫ぶのみで、それがシニシズムに取り込まれてしまう危険性を持っていることに気づいていませんでした(この問題をいち早く見抜いていたのは福田和也でした)。それに比べると、本書で著者が提示する構想は、はるかにラディカルでありながら、同時に極めて理性的だと言えるように思います。

    本書は、著者の「ルーツ探しの旅」です。しかし、こうした言葉から直ちに予想されるような、ロマン主義的な「ふるさと」への没入は、どこにも見られません。むしろ、著者の説くインテリジェンスの視点をくぐり抜けた上で積極的にコミットするべき「物語」を見いだそうとする試みだと言えるように思います。

    本書の冒頭で、著者が外交官時代に親交を結んだブルブリスとのやりとりが記されています。そこでブルブリスは、北方領土問題をめぐって、末次一郎を切り捨てた経緯を著者に語っています。ブルブリスは、末次は「現実のロシア」を相手にすることを止め、「日本の正当性を最後まで主張したロビイストとして歴史に名を残すという選択をした」と言います。この末次の態度に、日本という国家へのロマン主義的な没入を認めることができます。他方、沖縄の悲劇を背負う著者の場合、復讐という要素を戦略的提携のうちに包摂することに成功していたというのが、ブルブリスの見立てでした。

    本書では、久米島出身の伊波普猷や仲原善忠の沖縄学について、詳しく検討をおこなっています。著者は、同化傾向を持つとされてきた伊波や仲原の思索のうちに、あえて同化にコミットすることで、久米島の独自性を保持する道をさぐろうとする思想的努力を突き止めます。

    こうした努力は、神話的なルーツを現実のインテリジェンスの中で活かしていくものでした。著者は他の本の中で、北畠親房や葦津珍彦の思想への傾倒を表明していますが、本書で紹介される伊波、仲原も、彼らと同じ戦略的思考を身に着けていた思想家だということができるように思います。

  • 母親の出身地である沖縄久米島の歴史を通じた国家論。
    独立国としての成立から、本島からの侵略、首里王府よる征服、薩摩・首里王府の二重支配、琉球処分、敗戦、米軍支配まで。全く知らなかった久米島・沖縄の歴史を知るのは面白い。

  •  著者の母の故郷、沖縄県久米島の歴史を紐解いている。まず、琉球とは何か?さらに、普遍的歴史過程としての統治者と被支配者の関係を説く二つの視点が本書の骨組みとなっている。

     主権回復問題や日中間でのバランスの取り方のみならず、特にペリーによる寄港地開港要求のくだりは注目に値する。また、現在の米軍駐留による諸問題を考察する上で重要なヒントを与えてくれている。

  • 元外務官僚の氏の文章はそれなりに読んでいるが本作はちと難解。自らの素養不足に尽きる。

  • ボクが好きな佐藤優氏が、彼の母親の故郷、沖縄・久米島を中心に世界を見て書き下ろした本。

    本文にはこんなことが書いてある。「地球は球体である。それならば、その上のどの任意の点も「世界の中心」のはずだ。これまで、私が世界を見るときは、常に東京、ワシントン、モスクワなどの主要国の首都が世界の中心になっていた。いまここで見方を変えて、久米島の新垣の杜を「世界の中心」としてみると、歴史はどのように見えるであろうかという好奇心からこの本を書き始めた」。

    最初は自壊する前のソ連から。根室、東京拘置所、沖縄と場所を変えながら、そして、ときに時間をさかのぼりながら話しが進む。

    ただ、いまのボクにはこの本は難しい。特に沖縄の歴史に踏み込んでいくあたりは、もともと知識が少ないボクには苦痛に感じた。おそらく、巻末にある、大城大裕さんが書いている解説が、この本の位置づけを言語化しているはずだ。

    この本は、いまも世界の中心である国の中央から見た歴史書ではなく、境界にある小さな民族の視点から世界を見た歴史を見直す試みであり、また、そのきっかけを与えてくれた佐藤さんのお母さんへのオマージュなのだと思う。

    いつか、読み直すことにしたい。

  • 2012/10/31 Amazonより届く。
    2016/9/11〜9/16

    佐藤氏が、母親の産まれ故郷である久米島を中心に据えて自分のアイデンティティを探る、内省的な書。なかなか興味深い視点である。しかし、沖縄や周りの島々についてほとんど何も知らない自分に驚いた。やはり、無知は罪なんだろうこ。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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