- Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101332314
感想・レビュー・書評
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戦後文学のなかに投影された「戦後」のイメージを、さまざまな観点からえがいている評論集です。
本書は、「無条件降伏」をめぐる江藤淳と本多秋五の論争から説き起こし、さらに「家」「性」「留学」といった近代以降の日本文学でさまざまに語られてきたテーマが、千五の文学のなかでどのように変容していったのかということを明らかにしていきます。
江藤は、ポツダム宣言の検討をおこなうことで、そこで述べられているのが「日本軍の無条件降伏」であることから、「有条件降伏」論を主張しました。著者は、こうした江藤の議論の法解釈上の正しさを追認しながらも、国民心理への影響という観点から本多の議論にも一定の妥当性があることを認め、さらにそうした心理が文学のうちにどのようなしかたで映し出されているのかを検討しています。
著者の議論はクリアなものであり、また個々の文学作品の解釈においても鋭い視点が随所に示されています。ただ、戦後文学における「アメリカの影」というテーマは、江藤淳から加藤典洋へと引き継がれて、いわば二周目に入った現在から振り返ってみると、江藤と本多の両者の議論がつくり出すループ構造そのものが、「戦後」についての言説をかたちづくってきたのではないかという思いにさそわれます。著者は、どちらかといえば江藤に近い立場から、「戦後」を解明しその呪縛を断ち切ろうとしているように思えますが、そもそもそうした試みが真摯な取り組みでありうるのかどうかという点に疑問をいだいてしまいます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今の党派のカラーからは全く想像できない主張をしていたんだなぁ、たった半世紀前なのにまるで分からなくなるんだときづかされる。どう考えたらいいのか迷った時に、考えが気になる方でした。