からくり民主主義 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101335544

作品紹介・あらすじ

賛否入り乱れる基地問題!「反対」で生計を立てている人もいて、ことはそう単純ではありません。民(みんな)が主役の民主主義は、でも実際に現地を訪れると、その「みんな」が意外と見つからないのです。「世論」、「国民感情」、「国民の声」の主は誰か?米軍基地問題、諌早湾干拓問題、若狭湾原発問題-日本の様様な困った問題の根っこを見極めようと悪戦苦闘する、ヒデミネ式ルポ。

感想・レビュー・書評

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  • この著者の「道徳教室」を読んで面白かったので、もう一冊読んでみました。米軍基地問題や諫早湾干拓問題は中学校でも教えます。それを実際現地に行って、当事者に話を聞いて、報道では伝えられない「実際のところ」や「本音」を聞き出し、皮肉も交えてリアルに書いていて非常に興味深いし、「まぁ、そうだろうな」と思うところも多くて、橘玲さんの「言ってはいけない」シリーズと似たようなところもあります。
    原発の問題とかも、そうですよね。原発なんか、ないほうがいい、もし事故が起きたら、と考えたら…でも実際、それがなくなったらほかに仕事(収入源)がほぼない自治体…今だって、福島の原発の廃炉作業で潤っている人がどれだけいることか…。
    表面的な報道では、真実なんて見えてこないのだ、ということがわかる本です。
    オウムの”サティアン”があった場所や、自殺の名所?となった樹海に住んでいる人の取材など、とても興味深かったです。

  •  世の中の複雑さにため息が出る、そんなルポルタージュ集です。

     沖縄米軍基地や福井の「原発銀座」、そして統一教会に上九一色村など、話題の土地に実際に行ってみた著者。勿論著者も、取材前は我々とほぼ同じく、メディアで報道されるような"対立軸"を頭に入っているわけで、その先入観を前提に取材を始めるわけです。
     が、取材を進めるうちに、そこで意外な実情を知ります。

     当事者は、賛成派も反対派も、外から(特にメディアを通して)見るよりずっと冷静で"普通"なのに気づきます。テレビで見るような激しい怒りも、イッちゃった感もなく、肩すかしを食らったような気分にさえなります。
     逆に、メディアを通して「可哀想な被害者だ」と思っていた人の言い分が支離滅裂で訳がわからない、というのもあります。が、ともかく、丹念に当事者の話を聞けば聞くほど、思い描いていたイメージと当事者の像にズレが生じてくるのです。
     そして、話を聞いているうちに、それぞれに言い分があり、それはどれもそれなりに正しく、それなりに変なところもあります。そういう「不完全な正しさ」と、様々な人々の利害得失により、紆余曲折を経た事実経緯。それらの絶妙に危ういバランスの上に組み上がった現状は、さながら崩壊寸前のジェンガのよう。下手に触ると崩れそうで、もう誰も手が付けられなくなっています。

     そんな実情を目の当たりにした著者は、ただただそこで「困り果てる」…そんなルポルタージュです。
     著者の、時にシニカルとさえ思える透徹した視点から描き出される事実の全体像は、確かに「こりゃどうしようもねぇなぁ…」と思わされる複雑さです(わかりやすい対立があって、白黒ハッキリ分かれるようならば、そもそも事態はそんなにこじれないわけですから)。

     ものすごい抽象的な感想になっちゃいましたが、本書のルポは、どうしようもなく複雑な事情を、ある種の「トホホ感」をもって読んでもらいたい、そういう作品だと思います。

     再稼働を巡って対立の激しい原発の問題についても、結論を出す前に是非一度本書の第7章をお読み頂きたいところです。


     議論・討論という奴でとにかく白黒をはっきりつける態度に何かモヤモヤするモノを感じる、という方。本書を読んで一緒にモヤモヤしましょう(笑)。
     でも、白黒キッパリつけるにせよつけないにせよ、心の何処かでモヤモヤを抱き続けるというのは大事なことだと思います。やっぱり、世の中はそんなに単純なのじゃないですから。

  • 序章と1章がおもしろくなさすぎて、その後のはけっこういいのに流し読みになってしまった。

  • 第1章社団法人「小さい親切」運動本部による美談の全国大会「小さな親切ハガキキャンペーン」に寄せられる「心がじーんと熱くなる忘れられない親切の思い出」の内容に感じる薄ら寒さ。第2章統一教会の国際合同祝福結婚式での参加者の声、第3章世界遺産白川郷で生活する人々の声(合掌造りは不衛生で不便で止めてしまいたいのが本音)、第4章諫早湾干拓問題の実態(デモの漁民の「ホントはやりたくなか」発言)、第5章オウムの上九一色村の「戦争で一回死んで」て「口だけ勇ましい」と奥さん達に評される酪農開拓古老達のマスコミの騒ぎぶりに反したシラケぶり、第6章沖縄米軍基地問題の住民の本音(自分の土地がフェンスの中なら借地料が貰える、つまり「このままでないと困る」)、第7章若狭湾原発銀座住民、第8章横山ノック知事セクハラ事件、第9章青木ヶ原樹海地元住民は首吊りの事をぶら下がりと呼び、余りにも日常化している為神妙に振る舞う対象ではない(「この前も裏で5つ見つけちゃいました」、とぷっと吹き出す住民)、第10章車椅子バスケ。
    しっかり取材、調査された上での分析、評価も表されてますが、著者の緩いパーソナリティと、騒ぎの後遅れて取材に来た為マスコミに話足りなかった住民達の思いが相まって「実は」という本音の話を上手く引き出せていて、そっちの方が主になってます。いずれもマスコミで報じられた表の姿とは違う“実はこんなもん”という裏の一面、庶民の実相が上手く引き出されていて非常に面白い。ま、世の中こんなもんですわね。

  • 日本各地の困った問題のホントのところを高橋秀実さんが聞いて歩くとても誠実なルポです。
    「〇〇賛成!・〇〇反対!」などの対立は作られるものであって、実際にあるのは個々人の思惑のズレであるという指摘は目からウロコでした。

    ご当人たちの困った問題というのは、他人ごととしてひいて聞くとプッと笑ってしまう可笑しみを含んでいます。わたしなどは不謹慎にも大笑いするところがたくさんありました。

    実に面白く!かつ、とてもためになる本。さすが、養老さんのおすすめ。

    Mahalo

  • 仙台空港ソファーで読了(67/100)
    世間の裏側。ジツニオモシロイ

  • 考えさせられる内容です。親本は2002年出版、各章の初出は1995年から2002年と古い本ですが、古さは問題になりません。

    序章 国民の声――クレームの愉しみ
    第1章 親切部隊――小さな親切運動
    第2章 自分で考える人びと――統一教会とマインドコントロール
    第3章 忘れがたきふるさと――世界遺産観光
    第4章 みんなのエコロジー――諫早湾干拓問題
    第5章 ガリバーの王国――上九一色村オウム反対運動
    第6章 反対の賛成なのだ――沖縄米軍基地問題
    第7章 危険な日常――若狭湾原発銀座
    第8章 アホの効用――横山ノック知事セクハラ事件
    第9章 ぶら下がり天国――富士山青木ヶ原樹海探訪
    第10章 平等なゲーム――車椅子バスケットボール
    終章 からくり民主主義――あとがきに代えて
    参考・引用文献
    解説 村上春樹

  • 困った困った。。。

    10年前の出版。統一教会やオウムなど時代を感じさせる問題の中に未解決の沖縄米軍基地問題が。テレビでは全く説明されていない軍用地の借地料をめぐる住民同士の対立や、マスコミ向けの反対運動などは村上春樹の解説にもある通り、弱ってしまう。何とかならないものか。若狭湾原発銀座問題もそうだがとてもよく調査してある。困った困った。。。

  • TVや新聞はあらかじめ作られたシナリオに沿って番組や記事を作る。
    起こってしまったことを調べる警察署よりは、悪をただすという目的意識を持って悪を探し求める検察に似ている。より強く正義感をドライビングフォースにしているだけにたちが悪い。
    いまどきマスコミを信じている人も少ないとは思うが、高橋秀美氏の本著には、マスコミや中央の政治家が、説明の難しいもの、シナリオに沿わないものをひたすら無視する様子が書かれている。

    著者の「弱くても勝てます」はひたすら開成高校の選手と監督へのインタビューが中心で軽妙な印象だった。この本でもその親切でわかりやすく親しみの持てる語り口はそのままだが、取り上げたテーマについては、実に良く勉強して臨んでいる事がわかった。ありとあらゆることを調べても、そこから無理に結論を導こうとしないところがこの著者の良いところであり、読者に好かれる所以だろう。

    沖縄米軍基地問題、若狭湾原発銀座、諫早湾干拓問題について述べた三つの章は、マスコミの報じる被害者と加害者の単純な構図がまったくのでたらめであることがはっきり書かれている。そして、国、自治体、地元住民各者各様の本音、地元住民間の微妙な対立関係などが色づけなしに紹介されている。原発賛成派や推進派にとって反対派は補助金や補償金のつり上げのために必要不可欠のもので、その功績によってとても感謝されている事や、当の反対活動家自体が自らの役割をそのように意識している事など、都合、事情、本音のオンパレードに、大人は「やっぱりそうだよなあ」と頷かざるを得ない。
    著者によれば小さな親切運動の達人曰く、「人に席を譲るためにはまず自分が座ること」なんだそうだし、富士の樹海で自殺者の死体を発見する事は、住民にとってはただただ煩わしいだけのものなんだそうである。

    普通の人は誰もがそれぞれの人たちの本音に理解をしめすことだろう。視聴者や読者はほとんどが賢い大人と言って良いから。
    しかし残念ながら普段私達は、マスコミや政治家にはすっかり舐められてしまっているのだ。タイトルの「からくり民主主義」というのは私達の社会がそういう都合、事情、本音を持った人々の集まりになっていて、マスコミや政治家、社会活動家がすぐ「みんな」をねつ造してありもしない現象をあるかのように伝える背後に、全然別のからくりがあることを表そうとしている。

  • 物事は単純じゃない。必ず、表と裏があることを実感させてくれる本。
    マスコミ関係者(特に朝日新聞とか)こそ、この本を読んで反省すべき。まあ、しないだろうけど。

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著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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