「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101335551

作品紹介・あらすじ

甲子園も夢じゃない!? 平成17年夏、東大合格者数日本一で有名な開成高校の野球部が甲子園大会東東京予選ベスト16に勝ち進んだ。グラウンド練習は週一日、トンネルでも空振りでもかまわない、勝負にこだわりドサクサに紛れて勝つ……。監督の独創的なセオリーと、下手を自覚しながら生真面目に野球に取り組む選手たちの日々。思わず爆笑、読んで納得の傑作ノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 君達、日本に生まれた育ってくれてありがとう、と心の声がこぼれてしまう。
    有名な進学校開成高校野球部密着ノンフィクション。
    彼らは明らかに偏差値が高く、あからさまに練習量が少なく、あまねく野球が好きな高校生。
    グラウンドは他部と共用で週一使用。グラウンド整備で終わりそう。しかも皆さん、身体より先に頭で考えちゃうからマイペース。それに対峙する監督さんは、東大卒の保体教師。彼らの思考に見合った檄を飛ばす。練習量が少ないので守備は、捨てる。確実にストライクを入れゲームを壊さないピッチャーを選ぶ。とにかく前からきたボールを打って、早めのチャンスで一気攻める。通称ドサクサ野球。
    生徒を実名で掲載し取材を許した、学校・保護者・高校生達の懐の深さよ。
    原点から自分で考えてしまう彼らは、自己分析も明確で驕らず凹まず試合に向かう。何度も笑わせてもらいました。成り行きで取材を始めたらしい筆者が彼らに惹かれていく気持ちが伝わりました。

  • 【まとめ】
    1 弱いからこその攻撃特化
    開成高等学校は、毎年200人近くが東京大学に合格するという日本一の進学校である。

    そんな日本一頭のいい学校にある硬式野球部が「文武両道」なのかというと、そんなことはなかった。下手なのだ。しかも、異常なほど。
    ゴロが来ると、そのまま股の間を抜けていく。その後ろで球拾いをしている選手の股まで抜けていき、球は壁でようやく止まる。フライが上がると選手は球の軌跡をじっと見つめて構え、球が十分に近づいてから、驚いたように慌ててジャンプして後逸したりする。

    「エラーは開成の伝統ですから」3塁を守る3年生が開き直るように断言した。

    野球部の青木秀憲監督は静かに語った。
    「一般的な野球のセオリーは、拮抗する高いレベルのチーム同士が対戦する際に通用するものなんです。同じことをしていたらウチは絶対に勝てない。普通にやったら勝てるわけがないんです」

    そうなると、一般的なセオリーにはとらわれない戦術が必要になってくる。
    例えば打順。一般的には、1番に足の速い選手、2番はバントなど小技ができる選手、そして3番4番5番に強打者を並べる。要するに、1番に出塁させて確実に点を取るというセオリーだが、開成は違う。そこで確実に1点取っても、その裏の攻撃で10点取られてしまうからだ。送りバントのように局面における確実性を積み上げていくと、結果的に負けてしまう。
    つまり、一般的なセオリーには「相手の攻撃を抑えられる守備力がある」という前提が隠されている。開成にはそれがないから、「10点取られる」という前提で一気に15点取る打順を考えなければならない。

    野球をギャンブルとして解釈すると、「リスク」とは失点で、「リターン」は得点である。通常はリスクを減らすために守備を固めるのだが、彼らは大量の「リターン」(得点)によって、コールドゲームに持ち込み、「リスク」を生み出す回(イニング)そのものをなくそうとしている。正確にいうなら、「ハイリスク・ハイリターン」というより「ハイリターンでノーリスク」を目指しているのではないだろうか。

    しかし、開成の守備はハイリスクどころか、スーパーリスクだ。下手をするとこちらがコールド負けしてしまう。
    「守備というのは案外、差が出ないんですよ」。青木監督はさらりと答えた。
    「すごく練習して上手くなってもエラーすることはあります。逆に、下手でも地道に処理できることもある。1試合で各ポジションの選手が処理する打球は大体3~8個。そのうち猛烈な守備練習の成果が生かされるような難しい打球は1つあるかないかです。我々はそのために少ない練習時間を割くわけにはいかないんです」

    週に一回しかグラウンドを使えない開成高校。彼らの練習は、必然的にバッティング中心にならざるを得ないのだ。

    また、青木監督は「大切なのは球に合わせないことです」とも言い切っている。
    「球に合わせようとするとスイングが弱く小さくなってしまうんです。タイミングが合うかもしれないし、合わないかもしれない。でも合うということを前提に思い切り振る。空振りになってもいいから思い切り振るんです」

    大木君がマウンド上でキャッチボールを始めると青木監督が声をかけた。「一生懸命投げようとするな!」「コントロールしようとするな!」「厳しい所に投げようとするな!」「抑えようなんて思うな!」「甘い球を投げろ!」キャッチボールのようにストライクを入れるというのが開成ピッチャーの使命なのである。
    監督はこう続ける。「ピッチャーをやるな!」「野球しようとするな!」
    おそらく「野球する」と「野球しようとする」は違うのだろう。野球だから野球するに決まっているのに、彼らは「野球しようとする」ので意味が重複してコントロールも乱れてしまうのである。

    「ドサクサ、ドサクサ!」「ここで目の色を変えろ!」青木監督が絶叫する。ドサクサで大量得点、という指示だった。結局開成は8回と9回にも2点ずつ取って、10 ─5で青稜高校に勝ったのだが、監督はその試合展開に怒りまくった。
    「これじゃまるで強いチームじゃないか!」勝ったのは開成で開成のほうが強く見えたのだが、この戦い方では予選で勝てないということなのだ。1回、3回、4回のチャンスで本当は15 点以上取るべきだったのだ。
    「俺たちは小賢しい野球、ちょっと上手いとかそんな野球はしない。自分たちのやりたいことを仕掛けて、そのやり方に相手を引っ張り込んでやっつける。俺たちは失敗するかもしれない。勝つこともあれば負けることもあるけど、勝つという可能性を高めるんだ!これなら国士舘や帝京にも通用するんだよ!」
    拳を握りしめて青木監督は激昂した。弱者の兵法、下手の矜持というべきか。上手くなって勝とうとするのではなく、下手は下手で勝つのだ。


    2 貪欲になれない
    「僕たちはやっぱり何か抜けているんですかね」遠くを見つめながら八木君がポツリと言った。「いや、他のチームを見ていると、例えばチャンスでヒットを打ったり、フォアボールが出るとその瞬間にワッと盛り上がるんですね。ところがウチの場合はワンテンポ遅れる。なんか、こう、遅れて喜ぶんですね。これって、やっぱり勝ちに対するこだわりが全体的に薄いということなんでしょうか」

    青木監督「『練習』という言葉は、同じことを繰り返して体得する、という意味です。しかしウチの場合は十分に繰り返す時間もないし、体得も待っていられません。それにそれぞれが繰り返すべき何かをつかんでいないわけですから、『練習』じゃダメなんです」
    ──それで何を?筆者がたずねると監督は明快に答えた。
    「『実験と研究』です。グラウンドを練習ではなく、『実験の場』として考えるんです。あらかじめ各自が仮説を立てて、それぞれが検証する。結果が出たらそれをまたフィードバックして次の仮説を立てることに利用する。このサイクルを繰り返していくうちに、それぞれがコツをつかみ、1回コツが見つかれば、今度はそれを繰り返して体得する。そこで初めて『練習』と呼ぶにふさわしいことができるんです」

    「思い切り振って球を遠くに飛ばす。それが一番楽しいはずなんです。生徒たちはグラウンドで本能的に大胆にやっていいのに、それを押し殺しているのを見ると、僕は本能的に我慢できない。たとえミスしてもワーッと元気よくやっていれば、怒れませんよ。のびやかに自由に暴れまくってほしい。野球は『俺が俺が』でいいんです」
    「生徒たちには『自分が主役』と思ってほしいんです。大人になってからの勝負は大胆にはできません。だからこそ今なんです」

  • 少し前のベストセラー。
    文庫化されたこちらを読んだ(単行本はこちら)。
    東大合格者数日本一を誇る、いわゆる「御三家」の1つ、開成高校の野球部を追ったノンフィクションである。

    単行本の方が売れていた当時はさほど食指が動かなかったのだが、ドラマ化されて、娘が見るというので一緒に見ていた。
    アイドルや歌舞伎役者を使ったり、きれいなお姉さんも登場させたり、先生と生徒の年の差がまったく感じられなかったり、生徒たちがむやみとイケメン揃いだったり、三角関係を絡ませたり、家の経済的事情を抱える子が出てきたり、ちょいといろいろ盛り込みすぎで、んー、オトナの事情があるのだな、とは思った。が、まぁまぁまぁ細かいことを言わずぼやーんと全体の雰囲気を楽しんで見れば、そこそこおもしろく見られたドラマだった。
    とにかく、凡百のオトナの事情を盛り込んでもなお尖っている、野球部「語録」がスゴい。曰く、「俺『は』、ではなく、俺『が』で行け!」「『練習』じゃなく『実験と研究』をしろ!」「守備は捨てろ、打撃に賭けろ!」。
    ・・・なんじゃそれは!? 予定調和に収まりきらない開成野球部精神に大ウケし、何だか気になって原作を読む気になった。

    開成は天下の進学校である。グラウンドでの練習は週1日、テスト前には部活停止という、強豪校ではおよそ考えられない練習時間の短さを「誇る」。
    そんな短い練習時間で試合に勝つには、いったいどうすればよいのか?
    ウチは下手くそなんだ。下手くそが強いチームと同じことをやっていても勝つはずがない。
    例えば守備を練習しても完璧にするには時間が掛かる。効率よく勝つためには守備練習はやめて、打撃に特化した方がよい。ウチみたいな弱小に点を取られたら強豪校はがっくりくるだろう。そこを攻めろ! ドサクサで勝て!!
    監督はあれやこれやと考えて、理屈で作戦を立てる。生徒を叱るときには理詰めで責める。

    監督に負けず劣らず、選手たちも一様に理屈っぽい。
    自分の欠点の分析、野球に関する理論、こうしたらなぜダメで、ではどうすればよいのか。それはまさに、「実験と研究」なのである。
    ときに「野球で困るのは、球が正面から飛んでくることだ」なんて珍結論に到達しながら、あれこれ、論理的に考えつつ、黙々と素振りしたり、型破りなフォームを試してみたりする。
    頓珍漢なこともあるけれど、自分の頭で考えようとする彼らの姿勢は、基本、明るく、悲愴感がない。

    桑田真澄の解説が何だか絶妙で、うんうん、この本の解説を書くのはこの人が適任だよな、と思う。
    スポ根にありがちな、頑張れ、我慢しろ、が最適だという証拠はない。桑田によればこれは戦争に影響を受けた「武士道」スポーツの弊害なのだという。
    フォームに関して定説と言われていることだって、要は、大部分の人にとって他のよりは成功した仮説に過ぎないわけである。個々人にとってはもっとよいやり方があるかもしれないではないか。
    闇雲に監督にしたがうのではなく、「自分」にとって、何が最適なのか、考えて考えて、追い求めて行く者がいたってよい。

    開成高校野球部監督の方針が、「セオリー」と呼ぶほど確たるものなのか?というとよくわからないのだが、とにもかくにも、ここには明るい「萌芽」が感じられる。

    根拠はないが、いつか、この理屈っぽい高校生たちが甲子園に行く日も来る、ような気もしてくる。
    そう、いつか。多分。

  • いやあ、面白かったです。東大合格者数日本一で有名な開成高校の野球部で、下手を自覚しながら生真面目に練習(実験と研究)に取り組む彼らの日々を追ったノンフィクション。選手たちと高橋さんの噛み合ってるような無いような会話がたまりません。勝った試合にも監督さんの「これじゃまるで強いチームじゃないか!」とのお怒りは、開成高校の野球である「ドサクサ、ドサクサ!」には及ばなかったから。いつかこの子たち、なんかやってくれるんじゃないの(甲子園)?なんて期待感を抱きながら応援したくなるチームですよね。
    おおっ!桑田真澄さんの解説も載っているではないですか。わたしの高校野球好きはPL学園時代の桑田さんのファンになってから。どこをどうなったからなのか今では理由は思い出せないけれど、中学生のときPL学園がウチの田舎で試合をする事になって、学校をズル休みしてたくさんの女子が観覧しにいったものです。よい思い出です。
    それにしても高橋さんの文章は面白く読みやすいです。彼らの個性を温かい目で追いかけられてるので、読み終わったあとの余韻も清々しいものでした。

  • 高橋秀実(1961年~)氏は、東京外語大モンゴル語学科卒、TV番組制作会社勤務等を経て、フリーのノンフィクション作家。元ボクサーで、ボクシングのジムトレーナーの経験もある。『ご先祖様はどちら様』で小林秀雄賞受賞(2011年)。
    本書は、「小説新潮」の連載をもとに、2012年に出版(2014年文庫化)されたもので、ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。2014年4~6月には、「弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜」としてTVドラマ化(日本テレビ系/キャストは二宮和也、有村架純、山﨑賢人等)もされた。
    内容は、長年に亘り東大合格者数連続1位の進学校・開成高校の野球部が、2005年の全国高校野球選手権大会の東東京予選でベスト16にまで勝ち進み(5回戦で、優勝した国士舘高校に3-10で敗れた)、そのことに驚いた著者が練習に密着取材し、まとめたノンフィクションである。
    副題が「開成高校野球部のセオリー」と書かれていることから、開成ならではの理論的で緻密な戦略・戦術があり、それに関する情報が得られるのかと思って読むと、肩透かしを食う。尤も、日本有数の進学校に学力選抜で入った生徒(=運動が苦手、というわけでは必ずしもないが)が、グラウンドでの練習を週1回しかできない環境で、どのようにすれば勝てる(可能性がある)かについては、青木監督には明確な方針があり、それは、守備はそこそこ/打撃はひたすらフルスイングで、ハイリスク・ハイリターンの勝負をするというもので、理に適っているとも言えるのだが、それが、一般的見て、勝つための戦略・戦術として参考になるかといえば、少々疑問であろう。ましてや、高校で部活をやりつつ一流大学に進学するために参考になることなどはほぼ出てこない。
    よって、本書は、そうした読み方をするのではなく、野球に関してはごく普通の高校生である開成の生徒が、野球にどのように向き合い、取り組んでいるのかを、純粋に楽しみながら読むのが良いように思うし、実際に大いに楽しめる。
    例えば、
    ◆ショートの生徒「僕は球を投げるのは得意なんですが、取るのが下手なんです・・・苦手と下手は違うんです。苦手は自分でそう思っているということで、下手は客観的に見てそうだということ。僕の場合は苦手ではないけど下手なんです」
    ◆ピッチャーの生徒「実は、僕は逆上がりもできないんです・・・中学(開成中学)では軟式野球部にいましたけど、僕はゴロを捕って投げることが苦手ですから、試合にも出られませんでした・・・ピッチャーならできるんです・・・他のポジションは来るボールに反応しなくてはなりません。ボールに合わせなきゃいけないわけです。でもピッチャーだけは違います」
    ◆外野の生徒「球が来ると焦っちゃうんです。『捕れない』と思っちゃうんです・・・何も考えずにやれば捕れるんです。でも、何も考えずにやれば捕れる、と考えちゃうと捕れなくなる」等々
    万事この調子なのだ。
    松井秀喜や松坂大輔とは異なる、もう一つの高校野球(もちろん、開成高校という特殊性もあるが)が楽しめる傑作といえるだろう。
    (2022年7月了)

  • セオリーっていうほど勝ててないけど!
    まぁそれはさておき、開成と言えば頭良いんだから頭脳プレーで勝負だぜ、みたいな、ベイビーステップみたいなんかと思ったら、勢いで打ちまくれ、という豪快さだった。打って当たるか当たらないかはギャンブルだと言い切るところが適当やなー、って最初思ったけど、こういうギャンブルできるからスタートアップで儲けられるんかな、とか思うと、なんか考えてしまうわな。
    しかしメンバーそれぞれ主張が強いというか。やっぱ開成ってのはスゴイわけですよ。

  •  東京都の予選でベスト16とは、高校野球経験者の認識ではその凄さを瞬時に理解する。くじ運か?との疑問にもすぐに答えを提供され、なぜ勝てる?と読み進めたくなる欲求を抑えきれなかった。
     頑張らないように見えて、努力の片鱗が見えた。きっと勉強で鍛え上げられた耐力の成果だと思った。夢見て自分の身体をイジメぬいて鍛える猛者たちと相対することに少しも怯まない精神的な狡猾さとも思える考えには感心せざるを得ない。失敗を嫌い、侮蔑から逃避する思考で満タンの権力者たちとの対比をしてしまった。学歴が高くても自身の弱点と克服出来ない実力にも向き合い、可能な範囲で勝利する戦略を個々に考え、試し、実行されたら強さにつながる。そんな過程がハッキリと見てとれた。
     ミスを許容し、弱みを認め、好きや得意を伸ばす事で勝ちに繋げる理論は、仕事や私生活で充分通用するのではないかと感じた。特に年々個人へのストレスが増していく昨今には有効かもしれない。

  • スポーツ推薦の万能選手(しかも練習量豊富)と、
    エラーだらけ空振りだらけ(しかもグラウンド練習は週1回)の選手が戦うとき、
    どうやったら後者が勝てるか。まともに考えると無理。

    後者が勝つためには、どさくさまぎれという状況を発生させるしかなく、
    エラーで10点は失なうだろうから、逃げ切るには15点とか20点が必要。
    そこから考えていくと、練習でやるべきことが、見えてきます。
    野球強豪高とはまったく違った問題解決のアプローチは、おもろいです。

    1回でもこういう学校が甲子園にでてきたら、もっと多様性がうまれるんちゃうか、
    って思うのですが(笑)
    20160731

  • ドラマ「弱くても勝てます」の原作となっているが、野球部の練習に関すること以外の場面はまったくない。
    顧問となった先生の過去へのこだわりもなければ、部員たちの恋愛模様もない。
    野球部が取り組んだ他とは違う練習方法や、部員たちの練習への思いを追いかけたノンフィクションである。
    既存の練習法を打ち壊し、まったく別のアプローチで勝利を目指す。
    一応野球のルールくらいはわかるといった程度の人間にも理解できる練習方法だったけれど、本当にそれでいいのか?と思うようなこともあった。
    部員たちは不安にならなかったのだろうか?
    疑問の答えは本書の中にあった。
    部員たちは、そもそも野球をよく知っているわけではない。
    当然、当たり前だとされているセオリーを知らないからこだわりようもない。
    「野球をしようとするな」
    監督のこの言葉の意味を理解するのは、ちょっと難しかった。
    「野球をする」と「野球をしようとする」の違いがわからない。
    たぶん、彼らは理屈で納得してからでなければ野球が出来ないのだろう。
    何も考えずに球を打つ、走る。球を拾う、球を返球する、球を捕る。
    普通のことだと思うのだけれど…。
    週1回の練習でも試合に勝てるようになるのか!!と単純に驚いた。
    常識からは大きく外れた練習方法だったけれど、だからこそ週1回の練習しかしない彼らでも勝てたのだろう。
    この本の面白さは、何よりも普通とは「大きく外れた」部分にある。
    監督のいうことのひとつひとつが、変わりすぎていて唖然とする。
    でも、読んでいるうちに、唖然とするよりも何だか面白くなってくる。
    次はどんなことを言うのだろう。
    これで本当に勝っちゃったの?
    負けたほうは辛いだろうな…など。
    すべてのことを決め付けるのではなく、時には「あり得ない」と思うアプローチが有効なことだってある。
    そんなふうに思えたノンフィクションだった。

  • 出張帰りの夜行便で、超絶眠いのに読み切ってしまった。傑作だ。素晴らしい。俺、生まれ変わったら開成に行って野球やります。なんのドラマ性もなく、圧倒的に戦力差のある強豪校を打ち崩す方法論を追求し、迷い、そして負ける。全然弱い。登場人物も監督を除いてあっさりしてる。ヒーローなんか居ない。感動した。俺たちの日常そのものじゃないか。絶対もう1回読む。

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著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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