夏の水の半魚人 (新潮文庫)

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著者 : 前田司郎
  • 新潮社 (2013年5月27日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101336329

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夏の水の半魚人 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 小学5年生の夏の、魚彦と海子の短い冒険。この小学生らは、現在の小学生ではない。私の二学年上だろうか。年代ははっきり書かれていないけど、ちびまる子ちゃんがアニメ化された年のお話。あざとくない懐かしさが満載で、言葉にできない部分をそのまま言葉にしない節度が好ましい。海を漏らすって表現いいなぁ。

  • 11歳、小学5年生の夏休み。「子供時代」から「思春期」へと踏み出すまさにその一瞬を見事に捉え、一分のズレもなく切り取ったものすごい感性に思わず唸ってしまいます。星の数ほど、水の粒ほどある小説の中でも特に好きな一冊。単行本も持っているのに文庫を買ってしまったくらいですから。そして単行本は単行本で酒井駒子さんの装画がかなり素敵なので、そちらも手放したくないのです。そして本棚がキャパオーバーになってしまうのです。

    前田司郎さんは基本的にいつもゆる~い感じの文章だけれど、この小説に関してはその「ゆるさ」が、一見すると稚拙さにも見えてしまいそうなその語り口が、絶妙な効果を出しているんじゃないだろうか。
    前半、魚彦が海子やほかの女子、それからこの世界そのものに抱いている感じ方は何というか言葉足らずで、ちゃんと説明されていない。遊びの場面でも「~みたいな感じになって」という展開が多くて、「流れ」や「雰囲気」で行動している感じがする。それが最終章では、魚彦ははっきりした意思を持って行動しはじめ、あの印象的なラストシーンに繋がっていく。まるでまだ意思を持っていなかった子どもに自我が芽生え、一人の人間として歩き始めた瞬間を目撃したような気分だ。その彼を雨が包み、生ぬるい海が呑み込もうとする。
    人間は元は魚から進化したのだという。オビに「少年と少女の夏の神話」とあるが、海と陸の狭間で、まだ男でも女でもなかった子供たちが「人間」になるその瞬間を描いたこれは、まさに神話と呼ぶにふさわしい。ここへ来て「半魚人」という言葉の意味も、ああ、そういうことか! と腑に落ちた。
    オビと言えば俳優の井浦新さんが、「僕は、この男と一緒に何かを残していきたい。」というコメントを寄せている。前田司郎という作家はまだあまり知られていないけれど、個人的にはもっといろんな人に知ってもらいたい。(書店員人生を懸けて)僕は、この男の小説をもっと売っていきたい。

  • 小学五年生の少年を疑似体験した。物語を読んだというよりも。けれどそれは読書体験とはちがうもの。

  • 子どもの頃、世の中はよく分からないものばかりだった。
    でもそのよく分からなさを楽しめた。
    よく分からない遊びをやった。よく分からないものをカッコよがった。よく分からない気分に浸ったりした。
    無邪気だったから。
    大人になる前の、よく分からない僕らの夏。

  • 小学生のころのうまく説明のつかない感情の機微を、適切な言葉で描き出しているのがすごい。

  • 雰囲気を楽しむ本。
    ちょうど五反田界隈に仕事で通っていたこともあり、楽しめた。

  • おかしみのある表現が随所にあるので笑ってしまう。自分の小学生のころのことはもう思い出せないけど、今言葉で表現しようとしたら、こういう気持ちもあったかなぁと思う。

    筆者の飾り気のなくて背伸びもしない感じが好みだ。前田司郎さんは演劇でも映画でもこういう肩の力を抜いて自由に泳いでる感じがある。それだけど「自由にやってます」というような主張もあまり感じない。そういうところがいいなと思う。

  •  なんと紹介していいのか分からない不思議な話だった。YAっぽい雰囲気もあるけど、大人が子供の頃の鮮烈な記憶を、ガラスケースにぎゅっと閉じ込めた感じの、やっぱり大人のお話。

     お母さんが変。初恋の相手は養殖ハマチ。それにちなんで名づけられた息子「魚彦」が主人公。子供に初恋の相手の名前つけるってのもだいぶどうかしてると思うが、こちらは初恋の相手がそもそも人間じゃないっていうか哺乳類ですらないですからね。
     すぐおしっこをもらす転校生・海子とか、魔法使いに会ったという車椅子の友人・今田とか、海彦の周りも少し変わっている感じだけど、そういえば小学生のとき魔女の修行してる子とかいたなあ。
     子供のもつ妙に冷静な分析力とか、残酷さとか、何故なのかよくわからないけど突然キレる危うさが垣間見えて、自分たちもそうだったのかなあ、と思い返してみたけど、どう考えてもわたしが子供のときは、もっと能天気で何も考えてなかった。なんなら、時折鼻水もたらしてた。

  • 前田司郎はなんかいい作家ですよ、ほんとに。天才だし、つまらない大人度ゼロ%な人。この世のどんな小学校5年生よりも純度の高い小学校5年生なんだと思う。文章のすごさ、視点のすごさ。あのころ特有のダサい気持ちとかをなんでここまで徹底してリアルに書けるのか。恋愛でも性でもない異性の見方もいい。全体を通してすごく、生きてる、心が立ち上がってくる。すごく繊細で上品な小説だと思う。
    10〜13歳くらいってすごい面白い季節だと思う。何考えてるのか、実際に話きいてみたいって思うけどいざ話すと、なんか自分が、気持ち悪い大人のしゃべりになってしまうよ。打ち解けて話せたらすごい楽しいだろうな!

  • 冒頭の主人公の母の話部分では、瀬尾まいこさんみたいな感じと思ったけど、全然違った。
    たんたんとしているようで、そうでもなく
    小学校5年、子供でもなく大人でもなく少年でもなく
    すっごい子供だったり大人のような冷めた感じだったり
    なんとなく「生きている」と感じた。。

  • 消費税がなかったころのこと、
    もうすっかり昔のことになっちゃったなあと。

  • 今から23年前、1990年に、都内の御殿山界隈に住む小学生たちの春と夏です。

    5年生の「僕」の名前は、母の亡くなった恋人と同じ「魚彦」。
    変わった母の恋人の変わった名前です。

    転校生海子。「僕」がたまたま目にしてしまった彼女の秘密。
    車椅子今田、林、中田とつるむ毎日。
    美人久我沼、有名人の母と弟「キン」と暮らす斉藤 etcとのエピソード.。

    東京タワーはかなり遠く、海辺まで行くのはちょとした冒険いという感覚。ほほえましい距離感です。

    小学生といえども、いつの時代も、ほっこりとした毎日ばかりは続きません。

    ちょっとしたいさかいで、きっかけをつかめずにヨリを戻せなかったり。
    お気に入りの子と接する機会に、ぶっきらぼうにふるい、後悔したり。
    うわさにふりまわされたり。

    意外と悩み多い年頃の出来事はリアルで、舞台の時代から23年後の今の大人の目から読んでも、みずみずしく映る日々です。

  • そうだな。
    自分が幼かったとき、「世間」はかなり矮小だったけど、大人が言うほど子供じゃないって感じてたな。とか、思い出した。

  • タイトル&ジャケに惹かれての初前田司郎作品。
    予想した内容とは違ったけれど、揺れ動く微妙なその瞬間を見事に描いている。
    とても感覚的。

  • 小5ってこんなだったなあって、懐かしく微笑みながら作品を読みました。子供のするどい感性を、子供の目線で表現しているところが新鮮。私がよく知ってる北品川が舞台ってのもいいですね。幼稚園は教会幼稚園だったのかなって想像したりして…

  • タイトルに惹かれて読みましたが面白かった。子供時代から思春期になる移り変わりが書かれた作品。毎日新しいことがあって、でもふと考え続けることが出来て、日々がつながっていることを意識し始める時代。当時は気づかなかった、あとから振り返ってようやく気づく変換点。そんなお話でした。

  • 20130620
    題名に惹かれて。
    文学的な文章のものを読みたかったので満足。
    最初の導入は幻想的でだったので、そっち系かと思ってしまった。綺麗な導入だった。
    もっと海子が絡んでくるのかと思ったけど、
    魚彦の日常がメインだった。
    あ、あと、お母さんも。
    幼少期と思春期の狭間の男の子の不安感だったり、自分は主人公じゃないかもしれない、とか、ネガティブな部分とか、リアルでよかった。

  • 最近の劇団事情には疎いので存じ上げませんでしたが、作者は「五反田団」という劇団の主宰の方だそうで。たまたま最近観た映画『横道世之介』の脚本がこの人でした。まあその脚本が取り立てて素晴らしかったわけではないんですが、この小説はタイトルに惹かれて読んでみました。

    お母さんの初恋の相手が魚(イケスのハマチ)なので「魚彦」と名づけられてしまった小学生の男の子が主人公。この冒頭の、お母さんの初恋エピソードは個人的にとても好きで、もともと異類婚姻譚が好物なもので(まあこの恋は成就しませんが)、あと子供目線の話にも弱いのでとても期待が高まったんですけども。結果だけ先に言っちゃうと、まああの、期待ハズレでした(苦笑)。むしろ期待しすぎたのがいけなかったのかも。

    子供たちのエピソードはどれも、ああ子供ってこういうこと言うよね、自らの幼少期を鑑みてもわかるわかる、あるある感は随所にちりばめられているんだけど、なんていうか、それだけなんだよなあ。イミもヤマもオチもなくてもディティールだけで読ませる作家もあるけど、本作に関してはまだまだ作者の力量不足。単なる作者のノスタルジーに終始していて、何より文章自体がとても退屈。

    基本的にどのエピソードも「書きっぱなし」で、有機的に繋がっていかないから、終盤の山場もやや唐突で盛り上がりに欠け、子供の頃の思い出をただ思いつくままに書き連ねただけのような印象しか受けず、物語としての感動、カタルシスはありませんでした。

    町田康の解説のほうが本編よりよっぽど面白かったです。

  • 三島賞受賞作にあるなにか、どちらかというと人間の仄暗いというかなにか深淵を見つけ続けているような、物語自体は大きく動かないけどどうもなにか掴まれていくような、そういう感じの小説だった。
    これってなんていう感覚なんだろう、そういう感覚としかいえないけども。

  • タイトルだけで勝手に、半魚人ファンタジーかなと思って買ったら違った。
    小学生の男の子が主人公で、その時代のことが描かれている。その時代、というのはつまり子ども時代なんだけど、大人の目線からでなく、子どもの目線で、かつ子ども子どもと媚びてない感じがいい、小説だった。読めてよかったなーと思う。

  • 『僕はお菓子に興奮しなくなっていた。去年、消費税というのが導入されて100円のお菓子は103円になった。遠足で300円分のお菓子を選ぶときも309円まで良いのか、それともやっぱり300円までなのか、その辺のルールが曖昧になって、遠足のおやつの買い物の魅力は失われたように思う。』

    『僕は、ちびまる子ちゃんをまだ見たことがなかった。面白いという噂は聞いていたけど、なんとなくサザエさんに悪い気がして見れなかった。』

    『いろんなことを知れば知るほど、いろんなことがつまらなくなる。』

    『僕は「唾は泡があるやつで、よだれは泡がないものだ」と言った。
    林は「目が覚めてるときのが唾で、寝るとよだれだ」と言う。』

    『熱があると嘘をついたけど、デジタルになった体温計は全然嘘がつけなかった。』

    「へー、埼玉ってどこ?」
    「お前埼玉知らないの? 東京の横にあるやつだよ、丸い形の県」
    「県庁所在地は?」
    「池袋」
    「海ある?」
    「ない」

    『切ないっていうのは、ちょっと泣きそうな気分に似ている。今の気持ちは心地良くて、この気持ちがいつか終わってしまうのが悲しいのか、なんと言ったら良いのかわからないから僕はそれを切ないと呼んでみた。』

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夏の水の半魚人 (新潮文庫)の作品紹介

魚彦。僕の変な名前は、お母さんの初恋にちなんでつけられた。写生大会で行った臨死の森で、転校生・海子の秘密を見てしまう。二人だけの秘密。夏の海の水の音。色ガラスの破片。車椅子の今田は魔法使いに会ったという。そんなの嘘だ、嘘であって欲しいと僕は思う。出処の知れない怒り、苛立ち、素晴らしい遊び、僕はこの楽園を飛び出したいのかもわからない。あの神話のような時代を。

夏の水の半魚人 (新潮文庫)の単行本

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