- Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101337722
作品紹介・あらすじ
昭和48年、小学校三年生の裕樹は県境に建つ虹ヶ本団地に越してきた。一人ぼっちの夏休みを持て余していたが、同じ年のケンジと仲良くなる「遠くの友だち」。あなたの奥さまは、私の妻なんです――。お見合い9回の末やっと結婚にこぎつけた仁志が、突然現れた男にそう告げられる「秋に来た男」。あのころ、巨大団地は未来と希望の象徴だった。切なさと懐かしさが止まらない、連作短編集。
感想・レビュー・書評
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’21年11月16日、読了。
この何日かで、朱川湊人さんの短編集を三冊、読みました(いっぺんさん、かたみ歌、なごり歌)。そのうち、「かたみ」と「なごり」は、連作短編集で、かつ繋がっています。
この「なごり歌」の方が、「かたみ」より、ファンタジー色が強いと感じました。とても、楽しんで読み進み、あたたかな読後感、でした。(かたみ歌の方が、異界色?は強いと思います。)最後の、伏線回収、というか全てが繋がる感じは、やはり流石!やはり、上手い!
次は何に、行こうかなぁ…朱川作品との新しい出会いに、年甲斐もなくワクワクしてます!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人間ってのも まぁ なかなか
いいもんだね
と 思わせてもらえる
朱川湊人さん
少し前に マリ共和国の友達と話していて
彼が 初めて日本に来た10数年ほど前に
初めて新幹線に乗ることがあったそうな
その時に 新幹線の駅のホームで待っていた時
目の前を ものすごい速さで何かが通過していった
横にいた連れ合いに 今のは 何ですか?
と聞き、それが 自分の乗るモノだと教えられたときに
あぁ それには 僕は乗ることができない
と 強く思ったそうです
人の常識、常態を飛び越えてしまったものに対する
畏怖を 我々はもっと感知すべきかも知れない
私たちは 誰でも そういう畏怖の心を
持ち合わせているはず
朱川さんの小説を読んでいると
そういう気持ちを取り戻せるような気がします -
内容(「BOOK」データベースより)
昭和48年、小学校3年生の裕樹は県境に建つ虹ヶ本団地に越してきた。一人ぼっちの夏休みを持て余していたが、同じ歳のケンジと仲良くなる「遠くの友だち」。あなたの奥さまは私の妻なんです―。お見合い9回の末やっと結婚にこぎつけた仁志が突然現れた男にそう告げられる「秋に来た男」。あのころ、巨大団地は未来と希望の象徴だった。切なさと懐かしさが止まらない、連作短編集。
昭和小説の申し子とでもいうべき郷愁専門作家「朱川湊人」。ジャストの世代には甘酸っぱい時代の空気を胸いっぱいに吸い込ませ。その後の世代には昭和という時代への羨望を抱かせます。ネットも携帯電話も無い時代、今の人々が見ると不便極まりないと思うのでしょうが、どんどん時代が進んで行っているスピード感は昔の方が絶対にあったし、どんどん便利になっているという感覚でした。僕はもうちょっと後の世代なのですが、この時代の尻尾に属していたと思っています。
昭和賛美をするつもりはないです。何しろ高度経済成長真っ只中で、川は汚いし空気も汚い。煤煙で空はいつもぼんやりとした青で、人々の価値観も人よりも少しでも勝つ事を目指していたような気がします。
それでも人々は画面の前に縋りつく事も無く、近所の人々と交流してお互いに助け合い、商店には活気があふれて、頑張れば豊かになれるという希望がありました。多分に理想のフィルターが掛かっていますが、懐かしい時代だったなあと思い返します。
以前の「かたみ歌」は商店街、今回は団地です。マンモス団地という名前も懐かしいですね。色々な社会的問題は置いておいて、各々の心の中にある美化された昭和を想起させる、黄昏を感じさせる短編集です。こういう胸の奥に温めた密を滴らせるような物語を書かせたら天下一品です。 -
巨大団地が未来と希望の象徴だった昭和の時代。今を生きる人と過去の人、そして不思議な生き物『雷獣』。必然と偶然の交流がさわやかな感動をよぶ連作短編集。
お気に入りは「ゆうらり飛行機」。速さや高さを求めることなく、ゆっくりゆっくり、全部ゆっくりとその道を進もうと、主人公を諭す老人の言葉から奇跡が起こる。子を持つ親なら感涙です。
そして、「今は寂しい道」の『今は寂しい道ーこの道を歩き通せば、きっと、また会える』って言葉が美しい。全編通して優しい昭和ノスタルジーに浸れる作品。 -
1970年台の団地を舞台にした郷愁人間模様短編集。ちゃぶ台をあげて布団を敷いていた時代以降、食卓があるDKの生活に憧れ何十倍もする公団入居の抽選に応募していた頃のキラキラどろどろした世の中を彷彿させる。 -
かたみ歌を読んだ後にこちらのなごり歌を読む、という流れを踏まえてみたが、こちらの作品単体で読んでも充分楽しめる作品です。
アカシア商店街でテーマソングの様に流れていたというあの曲や、木綿のハンカチーフ、心の旅、作中出てくる実在の楽曲を聴きながら作品の世界観に浸れるというのが嬉しい演出でした。 -
『かたみ歌』同様、死を、単なる終わりとしてとらえるのではなく、世界の広がりとして描く。小説という物語形式だからこそ、それが充分に伝わる。小説以外ではなかなかこれは表現できないだろう。