私小説 from left to right (新潮文庫)

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著者 : 水村美苗
  • 新潮社 (1998年9月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101338125

私小説 from left to right (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • これは「私」という人間について書いた小説。

    水村美苗の小説は、読み応えがある。これは横書きで、日本語と英語が混ざって書かれたものだが、だからこそ「美苗」という人物が、「私」をつづったものという形をしている。まさに「私」について書いた「小説」である。

    海外で暮らした時の、「日本」が「私」になる気持ち、そしてその違和感、孤独感がすごくよくわかる。長期間滞在すればなおのことだろう。

    そして言葉のこと。何語で書くのか。日本語でしかつむげない世界がある。でも、日本語で書く限り、英語で書くことには比べものにならないほどの力の差がある。そもそも、日本語で書けるのか。でも「美苗」が書きたいのは、日本語でしか描けない世界。でも、それは本当に日本語の中に存在するのか。英語の中には存在しないのか。片方を切り落としてしまえば、それはまったく違うものになってしまう、「美苗」ではなくなってしまう。

    「美苗」という「私」が書くのは、溝に隔てられた「日本語の中の私」と「英語の中の私」が存在する二つの「私」について書かれた小説。それが、この、英語と日本語を混ぜて、横書きで書かれている『私小説』なのではないか。

  • 中学生でアメリカにわたりそれ以来20年間アメリカに暮らす美苗と姉。日本人が外国で生きるとはどういうことかを私小説の形で書いた小説。アメリカ暮しを経験したことのある人には全く切実で悲しい物語である。長く外国に住んでいる人たちのプライドと疲れの入り交じった姿を思い出さずにはいられない。

  • 私が就職活動をしていた頃は就職難が叫ばれて久しかった。まだ学生だった私には、働いている大人はみな、安定しているように見えて羨ましかった。自分で選んだ仕事について、居場所があって、必要とされて、お金をもらえる幸せを世の大人たちはもっとしっかり噛み締めるといいと思っていた。
     本書を読むと、その頃の気持ちを切実に思い出す。不安と焦りと、自分がどこにもコミットしていけないような孤独感を。「水村美苗」とその姉が、日本にもアメリカにも居場所がないと感じ、職もなく、将来の展望も開けずにいた、その不安や孤独が読む者をものみこんでいくのだ。そういうときに私はいつも思い出す。楽しいことばかりじゃないし、落ち込むこともあるけれど、学生時代にもっと噛み締めればいいと思っていた幸せを、自分が手にしているということを。そうして、「また明日も仕事をしよう!」と思うのだ。

  • 作者≒ひきこもり留学生の美苗を主人公に据え、主観的に物語を展開。日本女流古典作品らしい美しい文体でつらつらと書き綴る。
    ただ文章1ページ1ページにシマウマの模様のように英文が紛れ込んでいるのが微妙に頭に引っかかってつらかった。どちらか一つに統一してほしい。その英文がさして美しい文章でもないので余計にがっかり。

  • 親の都合で米国に暮らすことになった姉妹。
    成年に達し、日本へ戻る選択もあるなかで、米国に留まり、
    どこにも属さない状況に、自己同一性が揺らぐ。
    米国になじめず、日本に焦がれ続けた妹だけでなく、
    うまくやりすごしてきた姉にも、歪みが生じる。

    高い壁に囲まれた袋小路に佇むような閉塞感。
    望みを失い、もはや煙さえ立たない自棄。惰性。
    傍目には、憧憬の異国生活ではあるけれど。

    朧な一条の灯り。

    *******

    だって文学などというものは、つきつめれば、今ここに見えないものへ
    あこがれる心の深さで書くものなのではないのだろうか。あこがれる心
    の深さだけなら、私は山を動かすくらい持ち合わせているように思えた。

    *******

    『私小説』の原動力。

  • うじうじしないで早く日本に帰ればいいのに、と思いながら読んだ。でも特殊な環境の下で作られた姉妹のしがらみは容易に断ち難いのだろう。
    アメリカにも日本にも違和感を感じる境遇に共感はできないが、そんな人のアイデンティティはどこに落ち着くのだろう。

  • 2009/04/06-
    天神
    ちょっと読みにくそうではある
    2009/04/18-
    返却期限が過ぎたので借り直し
    アメリカにも、日本にも帰属を見出せない姉妹の不安と諦めが露になって面白くなってくる。
    東側の話というのも親近感が沸く。
    私もあのままアメリカで大人になったらこんなことを考えるようになったのだろうか。
    やはり日本人は韓国・中国人に間違われると不快がるし、西洋人ぽく見られると喜ぶ。
    ましてや自分たちが黒人と同じ分類に見られているだなんて、夢にも思わない。
    日本というシャボン玉から分裂した小さなシャボン玉で守られて欧米社会に入る、という表現は非常に的を射ている。

  • 2004年11月の課題本

  • 文化の間で揺れ動く心。日本語なのに横書きなのです。

  • 本邦初の横書き小説。起承転結のなさがリアルで好ましい。

  •  これは何だかんだいって西欧における東洋だとか、言語民族国家を問題にして言えるように見せかけて単に家族がうざいと言いつづけるだけの話。
     に見えました。
     アメリカに一家で移住した姉妹を中心に話は展開していきます。有色人種だからとかアメリカになじめなかったとかが今の姉妹の人生が上手く行っていない理由として登場するのですが、読んでいるとそんな人のせいにしてばっかりで全然自分の頭で冷静にものを考えないから駄目なんだろうという苛立ちに苛まれました。
     いやきっと日本で生まれ育って環境に恵まれてるから全然そう思うんだろうけれども。
     駄々をこねても仕方ないのですよ。と登場人物にいってやりたい。

  • 海外で日本人・東洋人を意識する瞬間などといった頷ける場面と、そりゃお前だけだろって部分の混ざり具合が面白い。というより単純にバイリンガル&横書きってところが新鮮。

  • ちょっと暇だったから借りてみた。バイリンガル小説。会話にしょっちゅう英語がでてくる。その度にその意味が気になる。異郷の地で長い期間暮らすことは、きっときっととてつもなく寂しいのだろうし、同じ志を持つ人間が沢山沢山まわりにいないとダメになっちゃいそう。日本は、狭くてみみっちくていいとこもあるけど結構どうしようもない国だと思ってるけれど、横着して生きてゆくには、結構いい国なのかなって。 でも、結局保守的な人間は、どこに行ってもそうなのかなって。

  • 日本語が好きな方、海外での生活を考えている方、勿論本が好きな方にはいいんじゃないでしょうか?。特に留学など、海外での生活経験者には絶対にお薦め。著者同様に感じる孤独感は共有できるものだと思います。

    子供時代から大学院時代(本の中ではこの時期が現代)を米国で暮らした著者の、海外で暮らす生活や日常を、いくつかの時期について、「海外で育った日本人」という独特の視点で見つめる作品で、なんともいえない孤独感が全体に漂っています。NYCで暮らす姉との電話のやり取りも、また、著者と姉それぞれの孤独さの比較・対比もなんともいい感じです。

    淡々と語る口調は、冒頭部分に登場する雪の降り積むイメージとも重なり、物静かで哀しい色合いの本です。

    また、言葉、特に日本語へのこだわりが強く感じられ、この人の日本語の美しさには感嘆させられました。きっと日本語というものを、自分のアイデンティティをつなぎとめておく鍵として、そして日本文化や日本人というアイデンティティを失いたくない、或いは日本人というある種の集団から完全に切り離されたくないと願望も入り混じったような気持ちで大切にしてきたからじゃないかと思います。

    スタイルも、左から右(洋書と同じ)、横書きで、日本語に英語が少し入り混じった文体で書かれています。

  • 現在再読中。作者の日本、日本語への強い気持ちがよく分かる。
    私も無性になんでもいいから日本語で書かれているものを読みたくなります。

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私小説 from left to right (新潮文庫)の作品紹介

「美苗」は12歳で渡米し滞在20年目を迎えた大学院生。アメリカにとけこめず、漱石や一葉など日本近代文学を読み耽りつ育ったが、現代の日本にも違和感を覚え帰国を躊躇い続けてきた。Toreturn or not to return.雪のある日、ニューヨークの片隅で生きる彫刻家の姉と、英語・日本語まじりの長電話が始まる。異国に生きる姉妹の孤独を浮き彫りにする、本邦初の横書きbilingual長編小説。野間文芸新人賞受賞。

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