報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101338910

作品紹介・あらすじ

豊かなはずの超大国アメリカに、貧困生活を送る人、医療費が払えず破産する数多の人がいる。貧しさゆえに戦場に送られ、心身に深い傷を負う若者がいる。そんな現状を打破すべく立ち上がった「弱者」たちがいた-。電子投票に抗議する活動家。軍事訓練に反対する高校生。反戦運動を展開する母親たち。進み続ける彼らに寄り添い、希望の灯を探す若きジャーナリストの心の旅路。

感想・レビュー・書評

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  • 自由と民主主義の国といえば・・まず米国の名前が浮かぶ。しかし、その自由とやらが、弱者の犠牲の上に成り立つているものだとしたら。
    本書は、そうした貧困にあえぐ米国人の若者が、詐欺のようなリクルート活動で戦場に送られている事実を明らかにしています。息子ブッシュ時代に成立した法案「落ちこぼれゼロ法」とは、学校に行きたくても行けない貧しい家庭の子をターゲットに、後方支援の仕事がメインだとか学費や医療保険、最低賃金や除隊後の就職先のあっせんなどの甘言で軍隊の下部組織が、直接学生をリクルートしていく。しかし、実際は真っ先に前線に送られ、大学の奨学金をもらうために払えそうもない前金が必要だったり、除隊後はPTSDで仕事どころではない精神状態で帰還という有様。リクルーターは、もちろん現実を知っているが、リクルート数のノルマがあるため自分が失職しないように平気でうそを言う、そして学校はこの法案に反対すれば助成金がカットされるというそれぞれの弱みに米政府はつけこむ。さらに、9.11後に成立した「愛国者法」は、戦争反対者をテロ容疑の名目で逮捕できるようになった・・
    著者はこうした現実を丹念にインタビューで拾っていく。
    結局弱者は、「生活が苦しくて入隊しても、社会の底辺から軍というシステムの底辺にスライドするだけ」の捨て駒でしかない、という諦念から逃れられない。
    そうした閉塞感から、戦場で息子を亡くした母親たちがついに立ち上がった・・
    さらに、電子投票に反対するハンスト活動家ジョン・ケニーの話も必読です。

    作品紹介・あらすじ:
    豊かなはずの超大国アメリカに、貧困生活を送る人、医療費が払えず破産する数多の人がいる。貧しさゆえに戦場に送られ、心身に深い傷を負う若者がいる。そんな現状を打破すべく立ち上がった「弱者」たちがいた-。電子投票に抗議する活動家。軍事訓練に反対する高校生。反戦運動を展開する母親たち。進み続ける彼らに寄り添い、希望の灯を探す若きジャーナリストの心の旅路。

  • 米国の威信が失墜したなどと喧伝され始めてから久しいですが、それでもなほ「唯一の超大国」「世界の警察」としての存在感は保つてゐるものだと、何となく思つてゐました。
    しかし『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』を読みますと、いかに米国人自身が疲弊し、迷走してゐるのかが分かります。事情通ならとつくに知つてゐることなのでせうが、無知なわたくしは初めて知ることも多いのです。書名にもあるやうに、報道されぬ事項が多すぎることもあります。

    飢餓人口が4200万人とか、医療保険未加入(貧困の為)が4700万人とか、乳児が一日平均77人死んでゐるとか......およそ先進国とは思へない数字が次々と出てきます。
    著者の堤未果さんは、あの同時多発テロ事件(いはゆる「9・11」)を目撃(たまたま隣のビルで勤務中だつたさうです)し、それ以後「テロとの戦ひ」に突入してゆく米国の暴走ぶりを目の当たりにした人。『ルポ貧困大陸アメリカ』などといふ著書もあり、この国の貧困層と呼ばれる人たちを精力的に取材してゐます。

    2004年大統領選(共和党ブッシュ×民主党ケリー)にて導入される電子投票に反対して、55日間もハンストを続けた青年がゐました。彼は堤さんに、強引に自分を取材するやうに仕向けるのでした。米国のメディアはコントロールされてゐる。ならば外国のメディアに期待するしかない。
    前回2000年の選挙(共和党ブッシュ×民主党ゴア)でも電子投票は一部で導入されたのですが、機械の信頼性に大きな問題があるのださうです。フロリダ州では、ブッシュにプラス4000票、ゴアにマイナス(!)16000票入るといふ間違ひがあつたとか。しかも再集計の必要なしと判断されたと。この機械の製造元会社のCEOが熱心な共和党支持者であることも疑惑を呼ぶ材料ですな。

    結局ハンストもむなしく、2004年もブッシュが再選されました。しかし出口調査ではケリー有利でした。かうした逆転現象は、2000年でもあつたさうです。そして電子投票機は、やはり各地でトラブル続き(予定通りか?)であつたと。ある投票所では「ケリー」を選択しても、必ず「ブッシュに投票でいいですね?」と画面に出る不具合があり、それは最後まで放置されたとか。
    また、機械の絶対数が足りないため、投票まで6時間待たされたとか、犯罪歴(スピード違反)があるから投票出来ないとか、8時間待たされた挙句、機械に不具合があるから投票出来ないと断られたり......ケリー支持の多い黒人居住区や貧困層が多い地域の話です。
    ううむ、どこかの独裁国家の話みたいですね。先進国で起きてゐるとは、俄には信じ難いのですが、色色信じられない事が起きるのも米国であります。

    また、米国の徴兵制の実態もルポしてゐます。向学の志があるのに、貧困ゆゑ大学進学を諦めざるを得ない層が、リクルーターと呼ばれる勧誘員の言葉巧みな甘言により徴兵に応じます。学費は軍が出すとか、実際には前線での戦闘はしないとか、卒業後のバラ色の進路とか。
    しかし実際は、かういふ若者たちが真先にイラクへ派兵されて、人間扱ひされぬ殺人マシーンとして消耗させられるのでした。
    それでも堤未果さんは、絶望することなく、まだこの国には希望があると諦めてゐません。ポジティヴであります。「革命を起こすのはいつでも弱者だ」といふ、黒人女子高生の言葉を紹介して。

    現在行われてゐる次期大統領争ひでも、格差解消を訴へるサンダース氏が最後まで若者たちの間で人気を保つてゐたのも、問題発言だらけのトランプ氏が共和党の候補として残つたのも、米国に漂ふ閉塞感のやうなものを打破して欲しいとの願ひがあるのでせうかね。ただ、こんな時は「ヒトラー」が出現しやすい。日本でも要注意ですよ。
    デハ今日はこんなところで、ご無礼いたします。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-652.html

  • 2010年(底本2006年)刊。本書は子ブッシュ再選期の米国の一面を語る。それが日本の反面教師足りうるか。本書で叙述される著者の様々な体験は、我々の今を問いかける。子・ブッシュと境遇・メンタリティ?が類似するらしい現首相(「新・戦争論」佐藤優・池上彰著)が政権担当なら猶更。なお、電子投票制度の問題は目から鱗。手書き投票の場合、個人の投票行動の把握には面倒な作業を要し、間接的に秘密確保の信頼性を上げている。が、電子投票の場合、悪意を持てば、ボタン一つの検索で投票行動の秘密を把握しうるのだ。くわばらくわばら。
    ちなみに、アメリカの隠れた徴兵制に関しては、本書は具体的に書いているが、著者の他の書とも被る内容である。ただ、イラク戦争従軍兵士の給与が約200万円/年には目が点(しかも、大学学費のための積立や戦死のための生命保険、軍服代等に天引きされる)。

  • 「貧困大国アメリカ」の堤未香さんです

    相変わらず彼女の「立ち位置」はぶれておらず
    そこから発信されていく言葉(文章)には、当然のことながらしっかり説得力があります。

    日本国内で言えば
    沖縄で数々の大きなトラブル(犯罪)の根っこは
    ここにあるのだな、と改めて再確認してしまいます。

    ほんとうにわずかな富裕層のために
    膨大な底辺層が意図的に作り出されている構図
    これって
    アメリカだけでなく
    世界の各地で使われていく常套手段ですよね
    もちろん
    この 日本でも…

    最後の章の
    アメリカの「おかあちゃん」たちに
    心からエールを贈ります

  • 勇気とは、目をそらさないこと。問いかけるのをやめないこと。
    堪え性がない、単純で純粋で、弱くて強いアメリカ人達。
    これも、この国の一面。

  • メディアが報道しているアメリカはほんの一部だ。著者が体験したことをリアルに掲載しているのが面白かった。

  • この本が発行されてから4年。アメリカは変わっただろうか…そして日本は

  • 戦争経済を進め続けるアメリカで、貧困ゆえ軍に入り、死んでゆく若者、運良く帰って来ても未来に希望を持てない若者。そんな絶望的な現状に立ち向かった普通の人々の物語です。
    軍に入れば大学にも行ける、健康保険も手に入るという甘い言葉に乗り入隊する高校生。JROTCというプログラムは、成績や出席率の悪い高校生を引き上げるという名目の制度で、軍服を着た教官が命令やルールへの絶対服従を叩き込み、初歩的な軍事訓練を行うのだそうです。
    また、軍が提供する無料のオンラインゲームで、若者たちを戦争ができる人間へと洗脳していくという話もあります。
    ”正義と自由”のためにイラクへ行った若者たちは、人を殺したという苦悩を抱えて苦しんでいます。

    そんな現状を変えようと高校生が、母親が立ち上がっているんです。

    この本は2006年に書かれた物です。文庫化されたのは2010年です。現在のアメリカはどうなっているのでしょう。
    そして日本はこれから、アメリカのたどって来た道を進もうとしているようです。
    止めなければ!
    それにはたくさんの人が、苦しんでいるアメリカの、イラクの、アフガニスタンの人々の声を聞く事が大切です。

  • 体系だった論文ではなく、ルポであるけれど、余計に現場の臨場感が生々しい。

    格差が拡大し、進学や医療の費用が工面できない人々が、次々と国によって使い捨てにされ行く現実。

    電子投票機の不正を訴えハンガーストライキをする実業家だった男性。
    校内で生徒を米軍がリクルートする活動に異を唱え、学外に追放することに成功した高校生。
    イラク戦を進める政権に抗議する為、ブッシュ大統領の牧場周辺で座り込みをする息子を戦場で失った母親たち。

    一人ではたいした力を持ちえない弱い市民が、いかにして国の暴走から自分や子供たちの生存権を守ろうとしているかという戦い。

    一般市民が政治や社会に無関心でいることが最大の問題なのだ、ということが様々な苦闘の中から浮かび上がってきます。こういう層が、テレビや新聞のプロパガンダを無批判に信じ込んでしまい、暴走する政府を支持してしまう。自らが餌食になるというのに・・・

    よその国の出来事なんかぢゃない。
    今の日本でも起ころうとしている、もしくは既にじわじわと進行中の事態。
    ぼーっとテレビや新聞を眺めているだけの人々に、真実を知ってもらうことが何より大切なんだと思います。

    TPPに乗り遅れるなとか、押し付けられた憲法は改正すべしとか、規制緩和構造改革とか、元々普段からあった領海領空侵犯を大きく報道して国防軍化だとか、事故の収束も被害者への補償もできないのに原発を再稼動や輸出とか、内容もろくに知りもしないで言葉の勢いに乗って投票してしまう人々に、どうしたら本当のことを知ってもらえるのか。

    参院選が近づくにつれ、焦燥感ばかりがつのります。

  • テレビとは縁を切って暮らしたい。
    でないと、現実と作り物の境界線がわからなくなってしまう。

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著者プロフィール

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける。

「2021年 『格差の自動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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