すいかの匂い (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 9671
感想 : 704
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339160

感想・レビュー・書評

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  • 良い意味で非常に感覚的というか、五感を素手で鷲掴みにされる気分になる。まだ自分の感じていること、考えていることをうまく言葉に変換できない10歳前後の子どもが身体全体で受け止めていたその感覚を思い出させてくれるというのが、この短編集の一番の魅力で、それにとりつかれると毎夏のように読み返すこととなる。
    「水の輪」では、保護され可愛がられる子どもと、そうではない子ども(やまだたろう・大きくなった子ども)を隔てるものが壊される衝撃が描かれているが、クマゼミの質量と音声でその大きさを表すあたり、秀逸。
    気持ち悪いもの、醜いもの、蓋をしたいものを、目を見開いて凝視する苦さを、遠慮なく書き上げていて、その率直さが気持ちいい。

  • 夏の読み物だなー。
    新潮文庫の夏のフェア「ワタシの一行」はかなりいい企画!と思い、どれにしよーかな、と探し始めたものの、オーソドックスなラインは既に読んだものが多くて、紹介者の方のコメントに「わかるわかる、」「なるほど」と勝手に相槌を打つ始末で。でも、江國さんのこの短編集はまだ読んだことが無くて、鈴木杏ちゃんの選んだ一行が強烈に「骨太」というのか、何というか、相変わらず、線の細い江國さんから飛び出るとは到底思えないのに江國さんらしい、かっこいいもので、「こ、これだー!」と決定しました。
    川上さんの言葉を読んで、改めて思います。江國さん、どこかで色んな人の秘密を採集しているのではありませんか。どうしてそんなに、苦みのある、誰もが隠しておきたいような、気怠い思い出をご存じなのですか。この気だるさ加減が、また夏らしく、蝉の鳴き声が煩く、うねる様な湿気と暑さのときに外出先で読むと温度がぴったり合うのですが。百面相したくなる本なので、あまり外向きでないといえば、外向きでも無いのですが。「やだ!なんで、私の厭ーなところを知っているんですか、江國さんの意地悪!」みたいな、よく分からん心境になってしまうものです。でも、この得体のしれない一方通行な秘密の共有が癖になってしまって、江國さんの短編集や随筆の中毒になってしまっているのです。まいったなあ。
    特記しておきたいのは、「水の輪」の悍ましい程聴覚に訴えてくる感覚。読んでいて、「やまだたろう」(なんてお名前ではないけれど)の「シネシネシネ」に覚えた恐怖がありありと浮かんできました。一時的にしても、彼女にとっては怪奇現象、ホラーだったはずで、私も同じくして鳥肌が立ってしまったものです。だから、触覚?肌にも訴えかけてくるものがありますね。もう一つは、一番最後の作品、「影」を始めとした、時系列が破壊された記憶の引き出し方です。別の物事を行いながら何らかの記憶を思い返す、という状況を物語として浮かび上がらせたとき、これくらい混沌としているのが正しいはずです。きれいに整えられた回想描写は長編なら必要かもしれないけれど、時と場合によってはクドイものになってしまうかもしれません。江國さんのバランス感覚は最強です。

  • 夏になると本を読みたくなる。
    そんな思いでふと手にとったこの一冊は、夏休み読書の記念すべき一冊目だ。
    爽やかで、きらきらしていて、でも、どこか切なくて影のある少女たちの夏の物語がたくさん詰まっていた。

    窓を開けてひぐらしの声を聞きながら、扇風機をまわした部屋の中で読むのにぴったりな一冊。

  • ぞわっとする、夏の思い出。

    子どもの頃の夏の欠片を、思い出す。
    夏に感じる、あの感覚が、懐かしい。

  • 今でも残っているたくさんの昔のささくれを、美しく書き出してくれる。
    こうやって記憶を表現できたら、私の丹田のあたりにこごるコールタールみたいなどろどろも減っていくのだろうかと夢想したくなる。

    ときどき同性愛系の話が紛れ込むのがまた。わかっていらっしゃる。。

    私にとって、「好き」とは「やわらかく触りたい」という欲求なのだ。ぎゅうっと苦しくなるほど抱きしめるのも「好き」だけど、いちばんの「好き」はやわらかさなのだ。
    その曖昧で感覚的な「好き」は、触覚に頼ることない別のやり方、例えば心の持ち方や関係性の保ち方でも表せたりする。
    心のささくれにはそういうものがけっこう含まれていて、それが同性愛かどうかは関係なく厳然としたひとつの経験として記憶されている。
    そういうものもささくれとして認識して短編に表現してくれるのが、江國さんと共鳴できているかのようで、なんだかうれしい。

  • 巻末の解説はなんと川上弘美さん。

    二人とも現実から3センチ浮いてるね(褒め言葉)

  • 初めて読んだのがこれで………
    ひとつめの表題作から面食らいました(笑)。
    全編切なさを通り越して怖い。
    とにかく怖い。切なさと怖さは表裏一体。
    全部が全部こうとはもちろん思いませんが、
    レビューを読ませてもらうとファンの方も好き嫌いあるようで。

    思えば子どもの頃は確かにそうだったかもしれない。
    まだ見ぬ世界の扉が開く、快感と同時にやってくる恐怖。

    なんで江國香織は女性に人気があるのだろう?
    女の子の秘密は僕には一生かかっても理解できないのかもしれないな。
    と、感じました。

    質感が伝わってくる描写は秀逸。

  • 軽い読み物として友人から借りたけど、読んでてすごくぞわぞわした。面白い。

  • 面白かった!
    事前になにも知らずに、
    ただ江國香織さんの本だから。で、
    いつもの調子で読み始めて、
    1個目のすいかの匂い。を
    読み終わってびっくり。笑

    最後までさららーっと読んでしまった。
    ジャミパンの雰囲気は
    神様のボートを思い出して好き。

    今は冬だけど、夏が楽しみ

  • 不安定さと繊細さと未熟さが入り混じった作品が多かった。
    子どもゆえの不自由さを感じる作品もいくつもあった。
    刹那的で、自分の心を持て余して、うまく表現できない少女たち。
    心の弱さからついてしまう嘘。
    なんだか少し切ない。
    おもしろかった。


    2003.10.11
    どこかしらゆがんでいたり、こわれていたりする子どもたちの物語だった。子どもの残酷さをとてもよく表現している。そうだ、この子供たちはゆがんでないし壊れてもいない。子どもゆえの残酷さ。私だって同じだったのだ。大人になると丸くなってゆく感覚。痛みと引き換えに、その残酷さは少しずつ消えてゆくのかもしれない。


    2000.12.22
    なんか、とても静かに不気味な感じがした。心の奥の方がザワザワする感じ。水面はおだやかなのに、そのそこでは何かがぐるぐるしている感じ。そういった文章と物語だった。「焼却炉」のおにいさんがとても心に残った。悲しい。寂しいと思う。うまくいえないけれど、やるせない。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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