すいかの匂い (新潮文庫)

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感想 : 704
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339160

感想・レビュー・書評

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  • 懐かしいような、それでいて思い出さなくてもいいことまで思い出してしまう居心地の悪さを感じるような、寄る辺なさ、息苦しさも一緒に押し寄せてきます。子どものころは「苦い」「切ない」などという言葉は持っていなかった。たくさんの言葉が体の中に入ってきてやっと、『すいかの匂い』を読めるのかもしれません。江國さんの夏の書き方は秀逸です。この新鮮な冷たさは、忘れられません。

  • 11人の少女たちの夏休みの出来事をえがいた短編集です。

    ノスタルジックなテイストとはほど遠い、ときにホラー小説すれすれにまで接近する少女たちの世界に戸惑いをおぼえながらも、鋭く研ぎ澄まされた感性に触れることのできる作品です。けっして共感できることもなく、まして理解できることはほとんどないのですが、それでも本書の随所に感じてしまう異物感こそが、子どもたちの暮らしている世界の実相なのかもしれないと思わされます。

    「解説」で川上弘美が著者の文章に言及していますが、漢字とひらがなの使い方にまで気を配った端正な文章が、本書のかもしだす世界とミスマッチして、不思議な魅力をもっているように感じました。

  • 11人の少女の夏の物語。あの夏、たしかに私も小さな体で感じていた、さまざまな感情の一つひとつに、丁寧に名前がつけられていくような、そんな感覚がありました。

  • 江國香織というと、まず顔が思い浮かぶ。でも、それは栗原はるみだったりする(笑)
    それは、まず江國香織の顔として思い浮かぶのだけれど、すぐに「あ、この人は栗原はるみだ」と気づくのだ。
    「じゃぁ江國香織って、どんな人だっけ?」と思い出そうとしても、出てくるそれはひたすら栗原はるみの顔で。
    よくよく考えたら、江國香織の顔を知らなかったことに気づく。
    もっとも、全然知らないわけじゃなくって。昔、江國香織が流行っていた頃にTVCMに出ていた、その記憶があるのだ。
    たぶん、江國香織と栗原はるみは一緒になってしまたのは、そのイメージなんじゃないかと思うんだけど……、って、なに書いているんだろう?w
    ていうか、今ネットで見てみたら全然似てないじゃん。江國香織と栗原はるみ(笑)

    この本は前からいろんな人に勧められていた。「絶対好みだと思う」みたいに。
    とはいえ、それは江國香織なわけだ。つまり、『冷静と情熱のあいだ』w
    『冷静と情熱のあいだ』といえば、フィレンツェ大聖堂とエンヤで、エンヤは「イブニング・フォールズ」以外はどーでもいいって方なんでw
    あ、でも、あれはよかったか。『グリーンカード』で流れた「ストーム・イン・アフリカ」!
    結局、たんにファースト以外聴いてないだけの聴かず嫌いなんじゃん!って、まあエンヤはともかく、江國香織というと『冷静と情熱のあいだ』のイメージが強くて(それも読まず嫌いw)、冷静と情熱でもってずっと避けてきた(笑)

    そんな『すいかの匂い』。いろんな人から勧められてきたわけは、最初の話「すいかの匂い」を読んで了解した。
    なるほど!これは好みだ(爆)

    だって、まさかその手の話と思って読んでなかったから、ラストの展開には「…!?」と。
    ていうか、そのずっと前。主人公の子供がおばさんを最初に見た場面、“そこには、髪をうしろで束ねたおばさんが、大きなすいかを抱えて立っていた。目が青白く光っている”って、ここは凄い。ドキッとする。
    あぁー、こういう絶妙な表現をするのが「文芸」ってもんなんだなぁーと、冗談抜きで感心した。
    “目が青白く光っている”は直接的な凄さだけれど、“そこには、”や“大きな”、“抱えて”って…。
    今、日本でホラーや怪談を書いている人で、こんな文章を書ける人、逆さに振ってもいない。
    それは、“目が青白く光っている”は言うに及ばず。“そこには、”、“大きな”、“抱えて”すら書けるセンス持った人、いないと思う(笑)

    続く「蕗子さん」「水の輪」と、最初の話の流れで読んでいたんだけど、4話目辺りからビミョーに様相が変わってくる。
    微妙に歪んでいるのは歪んでいるんだけど、それが変な出来事や人ではなく、普通の人の普通の微妙な歪みに移っていくような感じ?
    10話目「はるかちゃん」の、はるかちゃんがベランダの手すりに頬をあてて「人さらい、こないかなあ」とぼんやり言うのと主人公のわたしがみつめているなんてシーンがまさにそんな感じ。
    ただ、最後の「影」は、主人公のわたしと話すMに妙に人格が感じられなくて、なんだかのっぺらぼうと会話しているようで。
    あらためてタイトルを見れば「影」となっていて、「なるほど…」と最期はまた歪みが変な出来事に戻ったような気も。

    そういえば、解説で川上弘美という人(確か作家だったような?)が、(この小説を)“ここの話、わかる。こんなにこれがわかるのは私だけじゃないかな。僕だけじゃないかな”と書いているけど。
    確かにそれはその通りなんだけれど、でも自分からすると、わかるようで、でもそれは何かが微妙に違っている気がしてしょうがない。
    それは、たぶん著者が女性なのに対して自分が男だからで、こうしてみると子供の頃、男と女って、同じことをしたり見たりしていても、そんな風に微妙にズレて見たり感じたりしていたんだろうなぁ…と。
    考えてみれば当たり前のことなのに、それを実感できたというか、ちょっと目からウロコだったというか。
    もっとも、子供の時に限らずそれは大人になっても同じなのだろう。
    ただ、子供の頃に見たり感じたりする時に生じる男女のズレと、大人になってからのソレは根本的に変わっている気がする。

    江國香織というといまだに『冷静と情熱のあいだ』ってイメージだが、『冷静と情熱のあいだ』は確か男性作家が男の側から見た『冷静と情熱のあいだ』を書いていたはずで、そんな風に男の側から見た『すいかの匂い』も読んでみたいなんて思った。

  • 夏の怪談みたいでちょっとヒヤッとする。どれも主人公の女の子が持つひと夏の思い出とは少し違う記憶なんだけど、オイラにも似たような記憶がある。前後の脈略もなくてそこだけやけにディテールまで覚えている。その記憶に何の意味があるのかもわからないけど。でも、他人には決して話さないような類のものだ。誰かに嘘をついたり、後ろめたいものだったり、ひょっとしたら誰かが死んでいたかもしれないようなもの。子どもだからって許されないものもある。こういうのって誰もが持っているものなのかもしれない。そういう意味では、この短編集の目の付け所は面白い。他人のそうした秘密を教えてもらった気分だ。だからどれも薄ら寒い。

  • 最高。短編一つ一つがどれもとてもよい。

  • 短編もきりっとしまってていいね。

  • 夏の匂いを纏う短編集。爽やかに感じた「すいかの匂い」というタイトルが読み終わる頃には印象がガラリと変わる。
    子供の視点で描かれる日常描写の切り取り方が繊細。幼さ故の残酷さや思い込みの激しさ、自分一人では何も出来ない現実に対する無気力さは自分が子供の頃にも身に覚えがある。
    背筋をゾワッとさせる気持ち悪さと想像力をかきたてられる余韻が相まって夏にぴったり。
    また読み返したい。

    「ジャミパン」「影」がお気に入り。

  • すいかの匂い。
    ものの感触をまるで体感してるような。
    ものの音がそのまま聞こえてくるような。
    引きこまれる、入り込むというより、自分そのものがそれを体験してるような気分になりました。
    手にとるような何とも言えない、不気味な、でもどこか懐かしい気分になる。
    そんな話しがたくさん入った一冊です。

    闇があるストーリーだけどどこか透き通っている。
    奇妙な物語であるけれど、どこか綺麗なのは江國香織さんの言葉の表現力あってこそだと思います。

    夏らしい涼しい短編集でした。

  • 子供の持つ薄暗い感情を綺麗な言葉で包みこんで懐かしい物語にしてしまう。心のどろりとした動きすら夏の暑さと緑の濃さに埋もれさせて鮮やかな思い出に変えてしまう。
    凄いな、と思います。

    似たような経験を誰もがしているように読んでいるうちに感じてしまうのですがどの話の子供も尖がっていて「ここまでの経験はそうそうないだろう」と思い直すのですがやはりどうしてか自分の子供の頃の夏休みを思い出してしまう。尖っているのに甘くて懐かしい金平糖みたいな本でした。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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