いまひとたびの (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101345123

感想・レビュー・書評

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  • 短編集でしたが、「生き方」、「人生」、「死」などを考えさせられます。
    文章がとても美しいと感じます。
    とくに光景を表現する文章がとてもすばらしく、きっとどんな映像にも負けないと思います。
    この本は ずっと持っていて、何度も読み返したいと思う一冊です。

  • 間誰しもが訪れる「死」というものをテーマにした珠玉の短編集。普通ならば特別なものとして描くそれを作者はあくまで淡々と、でも濃密に描いてく。人生の夕暮れを切り取ったような書きぶりは、はやり良い。「七年のち」と「海の沈黙」が特に良かった。前者はラスト付近での回想シーンが抜群。その映像が目に浮かぶよう。自分はこういうテーマに弱いのです。後者も最後の1文でグッとしめる。語らずとも見えてくる奥行きが素晴らしい。大人の短編集で自分もこういうのが読めるようになったのかぁ、としみじみ実感。

  • 内容
    ドライブに連れてって。赤いオープンカーで――交通事故で夫を亡くして以来、車椅子の生活を送ってきた叔母の願いは意外なものだった。やがて男は叔母の秘められた思いと、ある覚悟に気づくが……(「いまひとたびの」)。大切な人と共有した「特別な一日」の風景と時間。それは死を意識したとき、更に輝きを増す。人生の光芒を切ないほど鮮やかに描きあげて絶賛された傑作短編集。

  • 9編の短編集、全部染みました。
    だいぶ前に読んだ時と、還暦になってから読むのとでは、染み具合が全然違いました。
    現実的に考えても仕方ない気もするけど、終活?始末?について、淡々と落とし前?つけられるような生き方をしていこうと、小さく自分に喝!

  • 赤いバス
    七年のち
    夏の終わりに
    トンネルの向こうで
    忘れ水の記
    海の沈黙
    ゆうあかり

    いまひとたびの(日本冒険小説協会大賞短編部門大賞)

    第13回日本冒険小説協会大賞短編部門大賞
    著者:志水辰夫(1936-、高知県、小説家)
    解説:北上次郎(1946-、東京都、文芸評論家)

  • 新潮文庫で志水辰夫の短編集『いまひとたびの』読了。いずれも人間の死に関するテーマだがミステリーではない。が、シミタツである。一筋縄では行かない作家だ。9篇のどれもが読後心に欠片が刺さる。表題作は車椅子の叔母にせがまれて箱根へドライブに連れて行った初老の男が知った切ない真実。

    「赤いバス」は家族と離れて山荘に移住した男が地元の少年との交流を通して不思議な体験をする話。少年は赤いバスが死んだ姉を乗せてくると言う。そして男は家族にも秘密にしていることがあった。ラストは男の力強い決意に感動した。

    「七年のち」は亡くなった同僚の娘の就職祝い。集まった男達と同僚の妻、そして娘の会話、そして娘から明かされた足長おじさんの存在。桜の下で娘が思い出した父親の葬儀の時のある出来事。自分のための行為が他人の人生に与えた影響を知った春。

    「夏の終わりに」は田舎の実家に住もうとする夫と、夫を理解するも都会の仕事を離れられない妻との子供のいない初老の夫婦が実家で過ごす週末。夫婦の何気ない会話の積み重ねと田舎の晩夏の風景描写で夫婦のお互いを大切に思うその思いが痛いほど読み手に伝わる。

    「トンネルの向こうで」は死期の近い母親のことを気にかけながら北海道へ出張に来た会社役員が、トンネルを抜けた不思議な空間で母親の姿を見る。いくつになっても男にとって母親は特別な存在だろうか。

    「忘れ水の記」は若き日の悔恨を胸に故郷の旅館を訪れた男の話。亡くなった幼馴染に瓜二つの旅館の女将のため、雨の夜に作った〝てるてる坊主〝。男が過去を思い返し、自己嫌悪に震えるシーンはシミタツ節そのもの。

    「海の沈黙」は母親の元に帰った元同僚の死を知ったシナリオ作家が元同僚の実家を訪れて抱く思い。他人を理解することの難しさを思う。

    「ゆうあかり」は妻と共通の友人だった女性からクラス会に来られなくなった連絡が来る。何故なのか心が騒ぐ男が思い出す友人の姿。詳しい経緯は語られないが、三人の間にあったことは予想できる。悔恨と罪悪感を抱く男はラストに何を思ったか。

  • 30頁程の9つの短編集。人生の終末が匂いが漂う主人公たちの心情と、描かれた自然との掛け合わせが、読後にじわっと沁みてくる。2016.1.22

  • 初老の男性ばかりが主人公の物語を、ここまで立て続けに読むのは初めて。都合良く、理想の女性像を描く男性作家が多い中、とても新鮮に感じた。
    現代においてリアリティには欠けるが、端正で品があり思慮深い男性を通して味わう風景は、どれも奥行きがあり豊かで美しく、やさしい気持ちになれる。

  • 個人は遺された人の記憶の中でしか生きられない。
    だから美事が多い。
    …と云う事実を噛みしめる事が出来る短編集。
    自分が歳とって穿ったのか、
    正直申し上げれば陳腐でげんなり。
    年配の男性と思い出の女性。
    そんな話が殆どな上に、女性の名前がみんな似ていて
    何か思い入れでもあるのかと勘繰ってしまう(笑)

    時代の所為も有るでしょうけど、
    劇団ひとりのネタ帳にありそうな…。

  • 清水辰夫の作品は、ハードボイルド系のみしか読んだことがなかった。
    本作は、高齢のほのぼのした純愛小説とでもよぶのか、読後感がほのぼのとさせられる作品が多数収録されている。
    清水辰夫の新たな一面を知ったという感じ。
    解説を見ると、こちらの方が真骨頂のようです。

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著者プロフィール

1936年、高知県生まれ。雑誌のライターなどを経て、81年『飢えて狼』で小説家デビュー。86年『背いて故郷』で日本推理作家協会賞、91年『行きずりの街』で日本冒険小説協会大賞、2001年『きのうの空』で柴田錬三郎賞を受賞。2007年、初の時代小説『青に候』刊行、以降、『みのたけの春』(2008年 集英社)『つばくろ越え』(2009年 新潮社)『引かれ者でござい蓬莱屋帳外控』(2010年 新潮社)『夜去り川』(2011年 文藝春秋)『待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控』(2011年新潮社)と時代小説の刊行が続く。

「2019年 『疾れ、新蔵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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