黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347110

作品紹介・あらすじ

銀行本店の地下深く眠る6トンの金塊を奪取せよ。大阪の街でしたたかに生きる6人の男たちが企んだ、大胆不敵な金塊強奪計画。ハイテクを駆使した鉄壁の防御システムは、果して突破可能か?変電所が炎に包まれ、制御室は爆破され、世紀の奪取作戦の火蓋が切って落とされた。圧倒的な迫力と正確無比なディテイルで絶賛を浴びた著者のデビュー作。日本推理サスペンス大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 1990年初版。著者の作品は「マークスの山」「レディ・ジョーカー」を読みました。登場人物たちを俯瞰で見て冷静にストーリーを展開させる感じを受けます。いろんな知識を綿密に調べて書いているなあと思わせます。公安やスパイなども絡んできます。もっと読み込めば矛盾する部分もあるかなあと思いますが、計画を実行するまでが細かく描写されています。

  • 娯楽小説と思って読むと肩すかしを食らいます。計画に至るまでの経緯や心理描写が薄いために金塊強盗をするに至る説得力に欠ける、という批判を多く目にしましたが、物語のメインとされる金塊強盗はむしろ物語のスパイスであり、高村さんが主題としたところはもっと別にあるように思います。主題を重視した結果、金塊強盗に関する各々の心理描写はあえて省略されているのではないかと感じました。
    物語の主題とは、”自我の目覚め”、”魂の救済”であり、高村さんの宗教観に基づき、幸田自身と幸田を取り巻く人間関係を通して以上の二つのテーマが描かれていると考えます。

    (以下幸田と北川のことしか語ってません)
    幸田を陰から思いやり見守る北川の行動に、『トーマの心臓』のオスカーに通じる優しい人間愛を感じました。表面的には男くさくて荒っぽい印象でけっこう怖い人なんですが、優しい人だと思います。
    幸田は北川の思いなどつゆ知らず、ひたすら人間のいない土地だけを求めて自分の殻に閉じこもります。他者を寄せ付けない人間嫌いの幸田。金塊強盗に関わる抱えきれないほどのしがらみや厄介事に直面し北川は、
    「なあ、幸田よ。人間なんて、面倒なだけだな……。この次に何かやるときには、もう仲間はいらねえよ。お前は、どうせ≪人間のいない土地≫へ行くんだろ?」- 141ページ
    という言葉をぶつけます。幸田を光の中に連れ出すことが自分には決してできないんだというやるせなさや、結局どこまで行っても人は一人で、他者と解り合うことはできないのではないかという北川の抱く孤独感が噴出した静かな悲しみを表す場面だと思います。

    一方幸田は、北川のあずかり知らぬところで、金塊強盗を通してモモとの関係を深める内に、その純粋さに触れることで救われていたんだと思います。
    奪取作戦の最中、北川と幸田はこんな会話をします。
    「なあ、幸田。お前、いつからモモと出来てたんだ?」
    「最近」
    「俺はなあ、人間嫌いのお前は一生、人とどうこうすることなんかないんだろうと思ってた。人間って変わっていくんだな……」 - 336ページ

    幸田は確かに変わりました。ビルから落下する直前、以下の独白があります。
    「ふと、≪自由だ≫と思った。これまで、同じようにしてビルの屋根から逃げたことは何度かあったが、自由の気分を味わったのは初めてだった。自由であり、少し孤独だった。≪人間のいない土地≫はもう、どうでもよかった。人間のいる土地で、自由だと感じるのなら。」- 347ページ
    幸田の生死は明らかにされていませんが、生きていればきっと幸田のこれからの人生はそれまでとは大きく違うものになったのではないでしょうか。

    「これは俺の想像だが、お前はもう、人間のいる土地でも何でもいいのだろう。きっとそうだと思う。こんなことを言うのは気恥ずかしいが、お前は確かに変わったぜ」 - 350ページ
    「うまく言えないが……俺はお前が、やっと訪ねてきてくれた、って気がするんだ。やっと、互いの顔が見えるところまで近付いた、って気がする。よく来てくれた。ほんとうに、よく来てくれた。俺は嬉しいぞ……!なあ、幸田よ」 - 351ページ

    幸田と北川、その思いは違ってもそれぞれに大きな魂の救済がある素晴らしいラストではないかと思います。
    読者視点では若干北川が報われてないようにも見えるんですが(北川が手を握ってあんなに熱く語ってるのに、幸田の心情描写はモモへ宛てた独白なんですよね。なかなか終始北川泣かせ)、実はそんなことは関係なくて、幸田に救いが訪れたことを北川は誰よりも喜ぶんだと思います。

    『ヨハネによる福音書3章』 -イエスは答えて言われた、「よくよくあなたに言っておく。だれでも新しく生まれなければ、神の国を見ることはできない」

    「どこかへ運ばれていく。新しい土地が待っている、と幸田は思った」
    「そうだ、モモさん。俺はあんたと、神の国の話がしたいと思う。あんたとは、心の話がしたいと思う……。 」 - 351ページ

  • 濃厚で好きです。
    文学を読んだという気になる。

  • 高村薫さんのデビュー作。やはり圧倒的な世界観でディテイルにこだわった描写がとてもリアル。舞台の肥後橋らへんで働いてたことがあるからあの辺はよく知ってるのでよりリアルだった。高村さんの作品を読んだのは「マークスの山」と「李歐」と読んで3冊目だけど、どれも主人公たちが排他的で孤独。「李歐」のときも思ったけれど、孤独な中でお互いを渇望してやまない男同士の友情というよりもっと濃密な関係が哀しいような、うらやましいような。映画化されたということで映画も観てみたいと思うけれど、はたしてこの世界観が表現しきれるのかどうか。

  • この本を絶賛してるエッセイがきっかけで手に取ってみました。
    しかし、読み進めるのにかなりの時間を要しました。自分には合わなかったのかもしれません。。
    アウトローな世界観や、キャラクターも好みなんですが。どこがどう自分に合わなかったのか、イマイチ分からないまま読み終わってしまいました。

  • 銀行本店の地下深く眠る6トンの金塊を奪取せよ! 大阪の街でしたたかに生きる6人の男たちが企んだ、大胆不敵な金塊強奪計画。ハイテクを駆使した鉄壁の防御システムは、果して突破可能か? 変電所が炎に包まれ、制御室は爆破され、世紀の奪取作戦の火蓋が切って落とされた。圧倒的な迫力と正確無比なディテイルで絶賛を浴びた著者のデビュー作。日本推理サスペンス大賞受賞。

  • ちょっと古めの本
    高村さんのデビュー作です

    さすが、デビュー作から緻密な描写や、考証、作品の熱量は圧倒的です
    しかし、冷静に読めば荒唐無稽なお話
    学生運動の爪痕がかすかに残る、時代を感じる小説でしたが粗もあるように感じます

    50kg入れたバッグって・・・
    それを7階から落として無事だった?
    周到に計画を立てた割に、行き当たりばったりの上、逃走は警官の前を突っ切って捕まらなかった・・・?

    もっとも、作品の主題は強盗犯罪そのものにあるわけではありませんが

  • 昔読んだときは気にしなかったが、この小説
    「日本推理サスペンス大賞」受賞作だった
    賞金1000万円!

    大賞受賞はともかく、金額にびっくり
    再読したこの古本のハードカバー本末尾に募集要項が出ていまして
    バブルだったのじゃないかしらん、時代もそうだったし、隔世の感ありです

    この賞はもうありません、5~6回で打ち切られてますね
    そりゃそうでしょ 

    このサスペンスにとんだストーリ展開は面白い力作(出世作)だけど
    携帯電話も普及していない平成色豊かな作品になってしまったというわけ
    で、スマホなどがあればどうなっていたか、最近読んだ『冷血』そうなんだけど
    と、やくたいもなく思ったりして、、、

    20数年まえにこの本と『リビエラを撃て』から高村薫さんにはまったのですが
    高村さんのロマン結構が好きで、けっこうたくさん読んでいるのです

  • そんなに大昔でもないのに時代を感じる。後半に力を入れるのではなく、強盗に入るまでに枚数を費やす過程にこの作家の力量を感じました。72

  • 友人のお勧めで読みました。髙村作品は「李歐」以来2作目。
    銀行から金塊強奪をたくらむ男達の、犯行に至るまでの綿密な計画と、各個人をめぐる人間模様を描いた作品。公安だの暴走族だの右翼だの北だの南だのが首を突っ込んできてややこしかった。さらに、立地が分かりづらく読むのに時間がかかりましたが、ラストの犯行シーンのスピード感は圧巻でした。また、犯行前の教会のシーンなど、静と動の対比もよかった。それにしても、爆弾や電気回線の知識がすごい。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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