神の火(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347127

作品紹介・あらすじ

原発技術者だったかつて、極秘情報をソヴィエトに流していた島田。謀略の日々に訣別し、全てを捨て平穏な日々を選んだ彼は、己れをスパイに仕立てた男と再会した時から、幼馴染みの日野と共に、謎に包まれた原発襲撃プランを巡る、苛烈な諜報戦に巻き込まれることになった…。国際政治の激流に翻弄される男達の熱いドラマ。全面改稿、加筆400枚による文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 東北の大災害で、大問題になった原発。

    かなり前に読んだが、原発のセキュリティーを
    危機管理の視点から?問題視しての小説。

    「黄金を抱いて・・・」と同じく、侵入不可能の原子炉の
    炉心部分に潜入を企てる青年の物語…。

  • 〝 日本海からミサイル一発飛んできて、格納容器に命中したら間違いなく壊れます。容器は、ただのコンコリ-トの塊だから・・・ 〟原子力工学のエキスパ-ト(島田浩二)による旧ソ連への極秘情報の漏洩、東西冷戦時代から尾をひく諜報と謀略の渦、音海原子力発電所(福井県高浜原発)の襲撃計画など、国際政治の激流に翻弄される男たち・・・女性作家の筆致とは思えぬ超ハード・ノヴェルの本作は、〝神の火〟をまえにして、読む者の身も心も焼き尽くす、熱き孤高の男たちの灼熱のドラマ。

  • 高村薫さんの本はディテールが細かい。時にそれが苦痛になって読み飛ばしてしまうときが多い。
    しかし、この人の書く大きな流れが好きでお気に入りの作家の一人だ。

    この本はなぜか手を出していなかったのだが、
    多くの人が書いているように 福島第一原発の事故がおこって 読まなきゃと思った。

    『純粋な理論と人間の良心を信じた原発の存在が、現実世界の悪意と暴力の前でどれほど矛盾に満ちているかを、見つめるべきだ』
    この本の本質を一行で描くとすればこの文章になるだろう。

    911テロ・第一原発事故をみれば、人間が“神の火”を完全に制御できるわけなど無いのだ。仮に津波から完璧に防御できたとしても911のようなテロも前にはなすすべもない。

    そうした人間のおごりを今回の地震で万人がかんじたことであろうが、
    広瀬隆「東京に原発を! 」ほど理屈っぽくなく
    エンターテイメントの枠組みの中で、それを理解させてくれる小説だ。

    それにしても、一流の作家の取材力には舌を巻く。

  • 読中、この人は一体何者?という思いが頭を覆っていた。
    冒頭のプロローグでの原子力発電所の建築現場のシーンにおける建設専門用語の正確さから始まり、原子炉制御システムの専門的な説明はまだしも、科学専門雑誌・専門書の取次会社の業務や、潜入した大学で新しい原子炉のデータを抜き取る際のコンピュータ関係の専門用語、ウラン濃縮技術の話や操船技術、時限爆弾の作り方などそれらこの小説では余技である部分でさえ、微細に渡って描写し、説明するのにはひたすら脱帽。
    普通の作家なら、それらは省略するテクニックで上手く処理するのだが、この人にはそれがない。しかもそれらが全て専門家と同一レベルの知識なのだからものすごい。
    更に加えてこれらの知識を一切取材せず、専門書や自らの空想で描くというのだから、ほとんど天才である。

    しかし、それらは裏返せば小説としての力の抜きどころがないわけで、読者もずっと力の入った読書を強いられる事になる。この辺が万人になかなか受け入れられにくいところではないかと思う。

    さて、物語は三人称の文体を取りつつも、基本的に主人公島田浩二の視点で語られる。島田はソ連側のスパイ、江口彰彦によって日本に連れてこられたロシア人と日本人とのハーフだった。日本では江口の知人、島田海運の社長、島田誠二郎の息子として育てられ、成長するにつれて江口の弟子としてスパイとして育てられつつも、原発の技術者としても知られるようになっていた。
    一時期疎遠になっていた二人を再び引き合わせたのは父誠二郎の葬儀の場だった。そこで島田は明らかにロシア人の顔つきをした高塚良と名乗る青年と幼馴染みの日野との再会を果たす。スパイを引退した島田はその日を境にCIA、KGB、北朝鮮、日本公安4つ巴の原発襲撃プラン「トロイ計画」の情報戦の渦中に引きずり込まれるのだった。
    (下巻の感想に続く)

  • 島田は原発の技術者として働きながら、諸国を相手にスパイ活動を行っていた。
    突然の父の死。葬儀で再会した男たちをきっかけに、彼の日常は再び謀略にまきこまれていく。

    圧倒的なリアリティと全編に染みとおる緊張感。
    「どうでもいいことにこだわってしまう」と作者が公言するとおり、大阪の町の様子や断崖絶壁、はては原発にいたるまで、細密な描写に嘆息してしまいます。
    主人公の謎めいたところや変に人間臭いところも、殺し屋や工作員による殺伐とした雰囲気に一興を添えています。

    福島の原発事故について、思いを巡らせずにはいられません。天災にせよ人災にせよ、原発はエネルギーの強大さも政治的な意味も含めて、本当に恐ろしいものだと思いました。

  • 何か、苦しみと哀しみが全体から伝わってくる話。
    良の日野に対する献身的な思いがこの話の救いのように感じる。

    p385引用≫
    理想いうのは、中身のしっかり詰まった心身に育つもんやろ。大穴開いてる俺の人生には、ちょっとな…。

  • 難しくて漠然としかわからなかったけど、人間ドラマ目当てで頑張って読んだ。高村薫、めちゃくちゃ頭いいんだろうな…
    本筋にさほど影響なさそうなのに木村商会パートの仕事の様子を結構きちんと描いてて、そういう細かいとこをはぐらかさずに描写することで物語の説得力が増してるなと思った。一切隙がない。
    島田さんと良の関係が好き。

  • 帰省とか旅行などのお供に高村薫を読むようになってしばらく経つ。本作もゴールデンウィークの帰省で読み始めた、夏休み前の帰省でこの上巻を読み終えた。はじめは事件物かなと獏とした予想を立てていたが、スパイ小説。「黄金を抱いて翔べ」でも北鮮のスパイのエピソードがあったが、本作はさらに米国、ロシアのスパイが登場。光磁気ディスクをUnixマシンで開くとか、いまからみるとやや時代かかった部隊にも興味が行く。アラブ人顔の高塚良が拉致されて上巻が終了。グイグイ引き込まれるわけではないが、帰省の車内で読みには良い作品だった。

  • 江口の言う「時代は変わる」というセリフじゃないけれど発売当初はまだソ連が崩壊してなくて、その頃の話ではあるんだが原発テロというテーマは今まさにそこにある危機なのでそんなに色あせてない。<トロイ計画>とか、ところどころ消化不良な箇所もあったが下巻に行くと急に話が動き始め原発襲撃はまさに手に汗握る緊張感だ。結局テロリストたちは何がやりたかったのか?というのは最後まで謎のまま。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file8/naiyou6709.html

  • もう何度読んだかわからないけど、冬になると読みたくなる。そして平日の阿倍野界隈を歩きたくなる。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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