神の火(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347134

作品紹介・あらすじ

の鍵を握るマイクロフィルムを島田は入手した。CIA・KGB・北朝鮮情報部・日本公安警察…4国の諜報機関の駆け引きが苛烈さを増す中、彼は追い詰められてゆく。最後の頼みの取引も失敗した今、彼と日野は、プランなき「原発襲撃」へ動きだした-。完璧な防御網を突破して、現代の神殿の奥深く、静かに燃えるプロメテウスの火を、彼らは解き放つことができるか。

感想・レビュー・書評

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  • (上巻の感想からの続き)
    髙村氏は書きながらストーリーやプロットを考えるという。この小説はそういう作者の癖が如実に表れているように思った。詳細な日常な描写が続くし、各国スパイの島田への接触が断続的だし、次々と出てくる登場人物の使い方が使い捨てすぎるのが気になった。

    特筆すべきはこの作家の脳みその構造の凄さである。
    まず専門家が素人の発言に驚かされるという描写。この小説では「世界の原子力発電所は戦争・破壊活動を想定して作られていない」、「原子炉の蓋を開けて見てみたい」という発想の斬新さを述べているが、こういう描写は専門家の頭を持っていないとまず思い浮かばない。
    この作家の経歴には商社勤務の経験しか書かれていず、技術者としての経験はないはずだが、何ゆえこのような発想が思いつくのか、想像を絶する。

    それともう一つは隠遁中の江口が島田と行う暇つぶしの方法について。
    ホテルに篭ってマッサージをしてもらい、お酒をちびりちびりやりながら読書をする、このだらしなさこそが男の至福の寛ぎなのだとのたまうが正にその通り。これを女性作家に述べられるともう敵わない。作者は男ではないかと疑うのも解る気がする。

    あと原子炉の温度制御の数値入力において不適当な数値を入れたとしても1つ1つ綿密に潰していけばシステムは機能するという話は現在問題になっている建屋の構造計算書偽造問題を想起させ、興味深かった。

    しかしこれほど緻密な説明や描写、血肉の通ったキャラクターを用意してもその内容はというと、首を傾げざるを得ない。
    結局原発襲撃は男二人の我侭による壮大な悪戯に過ぎないし、そのために犠牲になった各機関や人生を破滅させられるであろう登場人物が出る事を考えると簡単にこの小説に同意できないのだ。
    しかも島田や日野の最期は前作『黄金を抱いて飛べ』の主人公らと似通っているしで、同じストーリーを設定と手順と情報量を多くしたに過ぎないのでは?と勘繰ってしまう。世にその名が知られる前の作品だからこの辺の浅はかさは目をつぶるべきなのかもしれないが。

  • 原子力発電所をめぐるスパイもの
    ぐんぐん引き込まれて、あいかわらず高村さんは
    力強い小説を書くなあ~

    だけれども
    「建屋」「格納容器」の名称、原子力発電所の異様な姿など
    東日本大地震の事故を見聞きしなければ
    いくら想像力をたくましくしても、こうは臨場感が湧かなかっただろう
    むしろ原子力を使った発電所があることを意識しないでいた...
    という忸怩たる思いを一層強く感じた

  • 大好きな本。当時の情勢や雰囲気は生まれていない私は分からないけれど、とてもおもしろく読みました。冬の寒さや夏の暑さ、中華料理屋さんのご飯の美味しさ、全てが伝わってくるようです。アメリカとソ連と日本と北朝鮮間で繰り広げられる情報戦は本当によく描かれていて現実感がすごいです。ロシア文学の話がよく出てきたので影響されて、読もうと思うのですがなかなかページが進みませんでした。
    なんと言っても最後の原発襲撃は時間の記録もあってかスピード感に溢れています。原発襲撃から最後に至るまでは私の高村薫さんを好きな理由が詰まっています。最後が本当に好き。
    専門的なことについての描写が本当にすごく、よく読み込むことでより楽しめる小説です。力強く、それでいて繊細な描写によって物語の中に引き込まれていきます。
    原発についても深く考えされられる本でした。

  • 根暗でゲイでナルシストな主人公がどうも受け入れなかった。そんな主人公を周りが助けてくれるご都合主義に辟易。また本人はそれが当たり前と思っている節があり、さらにイラついた。
    物語に厚みをつけようと取ってつけたような専門知識が滑稽で小説自体を底の浅いものにしてる。

  • 福島の「人災」をきっかけに、手にとった本。

    もし震災からの一連の出来事がなければ、私は島田という人物に疑問しか抱かないまま、読み終えていたかもしれない。

    チェルノブイリによって人生を定められた青年・「高塚良」という存在を、福島が生み出さないことを願わずにはいられない。

  • 原発は攻撃されない、という大前提の元に設計されているとか。
    今回、あとからあとから津波で破壊する可能性があるという報告があったというニュースが出ていたけれど、それにしても津波で見事にあそこまで破損するとは。

    文庫本版と単行本版の内容が異なるとの事を聞いたので、読み比べたい。

  • 2011年5月2日読み始め 2011年5月4日読了
    内容はすっかり忘れてましたが、最後の展開はおぼろげながら覚えてました。福島原発事故のことを考えると、ちょっとばかし不謹慎な小説かもしれない…。まーこれを作者が書いたときに、大地震&大津波で原発がブラックアウトなんて考えられないことだったのだろう…。

  • クライマックスの原発襲撃。
    自由になれてよかったね

  • 2010年5月10日読了。2010年93冊目。

    面白かった。
    良と対面した島田のシーンが印象的。

  • ややこしくてたまらんかったです(笑)が、必死で読んでしまいました。
    行き帰りの電車で読むので、どうしても緊張感のあるシーンでも関係なしに読み終わらなくちゃいけなくてそれがイヤ。
    家帰って一気に読みたいのは山々なんだけどできないもどかしさったらありませんよ。
    あー家で自由に本読める生活になりたい!!
    しかしまあ、おもしろかったんですけど、なんで島田も日野も良にあそこまで執着するのかがナゾでした。
    下巻に入ってから島田の心境とかを読んで、やっとちょっと理解できそうな気になったのですけど…前半からそういうことが分かって読めてたらもっとずっとよかったのになーと思います。
    マークスのときもそうだったんですよね。マークスが真知子のことをちょっとでも特別に思ってたというのがこれまた最後の方になるまで分からなくて。途中気づいてからはうわーってきましたけど。
    今度のもその辺が消化不良…高村さんってそういうのを書くのが苦手なんかなー?

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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