レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)

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著者 : 高村薫
  • 新潮社 (2010年3月29日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347165

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レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  •  日本有数のビール会社”日之出ビール”の社長、城山恭介が誘拐される。犯人グループは城山とある取引を結び彼を解放、事件は日之出ビールに警察、マスコミを巻き込み、裏社会の人間たちも暗躍する様子を見せ、静かに波紋を広げていく。

     高村さんの作品を読んでいて圧倒されるのが、文章に込められた力です。その力というものは他の作家さんの作品と比べても突出していると思います。

     その力の根底にあるものは作者の高村さんの一種の情念にあるように思います。この本で描かれる問題は自身の闇を隠し通そうとする企業の姿に、被差別部落、政治と権力のつながりとどれも複雑なものばかり。しかしそれでもそうした問題を組み伏せ、話を作り上げる情念が感じられるからこそそう感じるのではないか、と思います。

     そして、この本を読んでいてもう一つ感じるのは犯人グループが感じる閉塞感。犯人グループのメンバーはそれぞれ自らの人生に対し、何らかの言葉にできない感情を抱えています。それがこの誘拐につながっていくわけですが、その閉塞感の描き方がとにかく巧い!

    この本の単行本版が出版されたのは1997年だそうです。現代の日本も”希望のない社会”や”格差社会”と言われるように一種の閉塞感があるように思います。そうした閉塞感の芽生えをいち早く察知し、個人の言い知れない感情すらも描き切ったからこそ、この本の厚みはさらに増したように思います。

     まだ上巻ですが今後の事件をめぐりどのような人間模様が繰り広げられるのか、非常に楽しみです。

    第52回毎日出版文化賞
    1999年版このミステリーがすごい!1位
    このミステリーがすごい!ベストオブベスト9位

  • 言わずと知れた高村薫の長編小説。
    上巻ではレディー・ジョーカーの生まれる経緯から、巨大ビール会社社長の城山恭介の誘拐劇、新聞記者の奮闘など最初から盛りだくさんの内容。

    久しぶりの合田との対面に、思わず内臓が震えまくった。
    それから、「ああこれだこれ、合田のこの刑事にしてはあまりにも繊細で壊れやすいギリギリさと、それに絡み合うようにして彼を支える加納の、こちらもまた張り詰めんばかりの緊張感が高村薫なんだよ…!」と一人興奮しているうちに上巻を一気に読み終えてしまった。


    本当に久々の高村作品で、訛っていた脳が彼女の独特の筆致の難解さによじれねじれしたが、それも一瞬で、グリコ・森永事件を髣髴とさせる不気味さと、とても一個人では敵わない大きなものの存在に翻弄されていく合田たち個人たちの息遣いに、すぐに引き込まれていった。

    個人的には、物井のおっちゃんの中に潜む鬼の部分が、殆ど記憶さえない兄の清二という人間一人が怪文書の中に籠めた心情と呼応するようにして、フッと物井を突き動かすあたりが好き。

  • [上中下巻あわせて]
    グリコ・森永事件をモチーフとした文庫本3冊の長編小説。
    最近はノンフィクションばかり読んでいたので久しぶりに小説を読んだ。
    グリコ・森永事件は自分が幼少の頃にリアルタイムに体験した事件でもあり、当時の自分の微かで断片的な記憶も思い出しながらで、大変面白く読めた。

    読み終わって幾分モヤモヤしたものが残るけれど、最近の自分は「小説は読んでいる時間そのものが面白ければいいのだ」と思う。

  • 終わりが見事で拍手です。一番好き

  • さすが高村薫という出来。
    上巻は事件がようやく始まったばかり。事件が始まるまでの背景が重厚に描かれている。
    被差別部落の問題、裏社会の問題、警察の問題等々、すべてがこれから先落とし込まれていくのだろう。
    楽しみだ。
    時代が時代だけに、普通預金の金利が2%とか4%とか出てくる。そんな時代があったんだね。

  • すごい筆力。圧倒される。

  • 長い、面白い、でも長い、でも面白い(笑)
    そんな感想。

    この本を読む前にリヴィエラを撃てを読んだのだが、個人的にはレディ・ジョーカーの方が頭に入ってきやすかった(リヴィエラは、アイルランドの歴史的背景等を含むので)

    競馬場で繋がった5人、日之出ビールの社長とその周囲を取り巻く人間関係と後ろめたい過去、警視庁の合田刑事のジレンマ、そしてマスコミ関係者。。。
    高村 薫さんならではの骨太な文章、重厚な物語の内容は健在。時間かかりそうだけれど、気になるので中巻、下巻も引き続き読み進めていく予定。

  • 評価は読了後に。
    何で今まで読んでなかったのかな?多分高村薫ってある程度構えて読まないとその濃厚な世界についていけないからだろう。
    まだ上巻だけだがご多分に漏れずです、そして面白い。
    不公正を社会の絶対的構成要素として捉えて人間関係の闇深さを抉り出す、この人ならではの仕事っぷり。
    それにしても高村薫って「男」の作家だなぁ、冷徹に男社会を眺めてるんだろうな。

  • 読み終えたあと、得体のしれない後味の悪さが襲ってくる。

    それはこの話で誰も救われないからだ。
    色々な要素が絡みあって、バタフライ・エフェクトのように
    大きな波として物語が出来上がっていく。

    淡々とだが着実に蝕んでいくウイルスの如く
    腹の下にうごめく黒い感情を押し込めて物語の役者は彼らの役割を演じていく。

    それは一種戯曲のような滑稽さ、空虚さをはらみながら
    ある種の皮肉を読者に投げかける。

    決して多くのことを語らない作者の文章だが、その下に潜む
    彼らの想いが最後まで交差することのないまま、終りを迎える。
    虚構が最後に見せる現実が、綺羅星のごとく明るく最後までまぶたに残る。

  • 東日本大震災、地震と津波と原発事故の同時連鎖という歴史的体験を、誰か優れた作家が文学作品にしてくれないかなと思う。フクシマは海外の人に、チェルノブイリ同等の原発事故と受け取られている。日本で何が起きたのか、政府と巨大企業と学者とマスコミと、当事者たちの間にどのような齟齬、不条理があったのか、文章にまとめれば、世界的な注目を集めると思える。原発事故をめぐる不条理は、日本社会の問題の縮図なのだから、これを世に広めて、事態の改善を迫るのが得策だ。

    現在はネット社会だから、誰か小説家が事件をまとめる前に、当事者が文章をブログやツイッターやSNSで発表するし、 YouTubeに動画は出るし、情報はハイスピードで流通している。それでも、この歴史的体験を小説にして欲しい日本の作家といえば、村上春樹、桐野夏生、高村薫などが思いつく。

    高村薫の小説『レディー・ジョーカー』を読み始めたのは、震災前の2 月頃だった。彼女はテレビに出演すると、自分のことを「わたくし」と言う。テレビで自分のことを「わたくし」と言う人は珍しいから、彼女の小説を数年前から読んでみたいと思っていた。震災前、『ニュース23クロス』にインタビュー出演した時、彼女は民主党政権を批判していた。政治、経済、社会の現状について、「わたくしは~」と言いながら批判する。19世紀の小説家のようだと思った。

    数年前、ネットで彼女のインタビュー記事を読んだ時、フォークナーの小説を読んでいたことがわかった。元々文学志望、文学では食っていけないから、エンターテインメント小説でやっているのだとわかった。

    『レディ・ジョーカー』を読んでいる時は、トルストイの小説を読んでいるような気分になった。最近の日本の小説は一文が短くて、わかりやすいし、読みやすい。『レディ・ジョーカー』を読むと、久しぶりに本格的な小説を読んだなあという気分になる。『レディ・ジョーカー』では、歴史と社会の中に生きている個人が描かれている。小説に出てくる個人の幅も広い。大企業の社長、刑事、検事、新聞記者、雑誌記者、総会屋、施盤工、トラックの運転手、部落差別を受けていた人、障碍児まで、登場人物は多様である。

    『これは、個人では払えない額の金を企業に出させる誘拐であり、誘拐されたのは社長である城山個人というよりは、日の出ビール本体なのだ、と。(…)この犯人たちは、いつでもどこでも誰でも買えるビールを人質に取って、要求が聞き入れられない場合は、商品攻撃をする気だ』(上巻p.459)

    大企業の新商品を人質にした企業脅迫。キリンビールをモデルにした日の出ビールの社長は、商品ブランドを傷つけないために、犯行グループと裏取引をしようとする。犯行グループの背後には、総会屋や闇社会勢力の存在が感じられる。こう書くと、安っぽい娯楽小説の構図だが、登場人物たちの心理は複雑で、多面的に描かれている。

    この小説の主人公の一人、合田刑事は、20世紀初頭の思想家、シモーヌ・ヴェイユを愛読している。

    (シモーヌ・ヴェイユの本の感想)
    『言葉の一つ一つ、ページの一行一行から溢れ出る一人の人間の、とてつもない息吹、信念、情熱、優しさ、脆さ、危うさ、美しさに打たれ、人間が物を考えることの偉大さに触れ、生きていてよかったと思わせる悦びに満ちているのだった。(…)その真剣な眼差しを受け取って心が洗われ、半世紀も前に死んだ一人の女性に感謝しつつ、それではおやすみと本を閉じるのだった』(中巻p.232)

    僕自身シモーヌ・ヴェイユのファンなので、この文章を読んで、合田のファンになった。合田は巨大組織である警察の中で、個人の正義を貫き通すために、浮いていく。犯人を追う彼の行動は、警察の規範に従う他の刑事から見たら、狂気と受け取られ兼ねない逸脱を示... 続きを読む

  • 緻密、の一言に尽きます。
    犯罪グループ「レディ・ジョーカー」、企業、警察、記者、そして彼らを取り巻く様々な人間たち。政治、社会。

    それぞれの立場の視点、そしてその組織が一枚岩でない複雑な構造をしていて、そのある一つの組織の中にいる個人としての視点、すべてがみっちり描かれていて、息苦しいぐらいです。

    いつもあるのが、社会の中にいる一個人が抱える空虚で、その空虚といかにつきあおうとするのか、どのように捉えようとするのか、社会に対して牙を剥くのか、己を傷つけてしまうのか。
    ひとりひとりの人生が、登場人物が互いに評し合うことはあっても、作家によっては肯定もされず否定もされず、生々しく描かれています。

    何を悪とするかその基準はしっかりある。そういう意味では安心して読めるといえばそうかもしれません。
    ただ、その悪が告発され罰せられているかというと、実際にはそんなシステムは作動していない。そんな事実が容赦なく突きつけられてきます。

    犯罪を犯す人間が何らかの目的をもっているかどうかはいつも明らかなわけではないし、犯罪者を追う側の人間が常に正しく美しいわけではない。
    お話の中には理不尽な苦しみを背負う個人、報われない個人、埋没する個人がいて、それは現実を的確に捉えたものだと思います。

    この複雑さ。
    描ききろうとする作家の執念には脱帽です。

    そして、私が好きなのは、苦悩する人間に対する作家の優しさです。
    この小説の中では、死というものがきちんと重みを持っているところも。

    読んで心がウキウキするような本ではないですが、読む価値のある本だと思います。

    それにしても男だらけなのですが、それもまた潔いですね。

    2010/8/17 読了

  • 戦時中から続いている日之出ビール。
    そこに手紙が届く。
    元従業員からの意見書。元同僚の解雇理由に異議を唱えるそれは同和問題を孕んでおり、日之出内部で握りつぶされた。
    時は移り現代、テープが届いた。その昔日之出ビールに届いた手紙を読み上げたものだった。
    どこから漏れたのか、何のために送られてきたのか。
    そこから物語が見え始める。

    高村小説に必須(?)の白スニーカー合田刑事が登場します。
    無駄にキれる頭であれこれと職業にそぐわない(失礼)哲学的な思索など悶々とやらかします。

    ちょいちょいと魅力的なキャラが出てきて気になります。
    ヨウちゃん、物井さんの関係が他人であるのに放っておけないという生暖かさを孕んでいてよいです。
    事件がガンガンに起こって展開がスピーディ。

  • 背景描写が長すぎて読むのが辛くて途中で断念...

  • 複数巻の長編を平行に読破しよう月間。真打ち。「グリコ森永事件をベースにした長編」と言われたら、読まざるをえない。

    のっけから、部落差別に基づく悲劇と不幸な家庭の話が、割と駄長な感じで続くので、いつになったら何か起こるのかと思っていたら、300ページ位でようやく本題へ。本題なく上巻が終わったらどうしようかと思う。

    高村作品は恐らく初めてなのだが、ちょっと文体に癖があり、唐突な話題の開始と、どうでも良い描写の付加があるため、その世界に入り込めないと、なかなか理解できない。実際に電車で本を開いて読書再開から1~2分、頭がフリーズしてしまう。

    どうでも良い描写の付加については、何度か読み返した時により生きてくるのだろう。伏線かと思って期待してしまうとかなり辛い。

    また、物語の性質でも有るが、章によって主人公がガラリと変わる上、登場人物もかなり多めなのでなかなか追いつくことは難しいかもしれないが、割と適当にあしらっていたら良いようだ。

    さて、事件についてのベースは整い、グリコ森永で言うと、"水防倉庫"の話が終わった所で上巻は終わる。犯人はわかっていても、狙いがわからないという状態だ。

    「グリコ森永」を知っている人は面白いのか、知らなくても楽しめるのかは、まだわからない。知らないという前提は持ち合わせていないので、中巻以降に期待。

  • 秦野親子(父と息子)の死が痛い。日本の内外を含む差別、障害者、日本の企業的社会構図など重いテーマ(問題)がのしかかる。そもそも布川の娘を作戦名にしたところにも底知れぬ哀しみを感じる。

  • 言わずと知れた「レディジョーカー」
    エンターテイメントとしても有名になりました
    私の中では「テンコモリ」な小説です

  • 「李オウ」を読んで、物語としてはそれなりに楽しめるけど、回りくどさが気になったのと、ジャンル的にハードボイルド的だったのが、自分的にいまひとつな印象を持ってしまった原因でした。それから本作者をつい避けてしまっていたんだけど、方々で評価の高いこれくらい、せめて読んでおこうと思って手を出した次第。で、これは面白いですね、ハイ。まだ物語の序盤で、これから膨らんでいく途上なんでしょうが、企業の闇をうまい具合に絡ませて、一筋縄ではいかないミステリになりそうな予感が満点。続きも楽しめそうで嬉しいです。

  • 相変わらず登場人物の内面に切り込んだ描写がこれでもかと続きます。でも、本作品はこの作者のものの中では読みやすい方だと思います。

  • 私のバイブル。

  • 重い。とにかく重厚。読み終えるといい意味でドッと疲れる。
    情景が想像できるようなディティール描写は圧巻。

  • 競馬場で引き寄せられた5人。
    日之出ビール社長の誘拐の裏。

    事件の始まり。
    読み始めたら止まらない。

  • 日々、自分の人生に閉塞感を感じる競馬仲間5人組がチーム「レディ・ジョーカー」を結成して、大手ビール会社社長を誘拐。
    この事件により刑事や記者など様々な個人の葛藤を生み出し始める物語。

    グリコ・森永事件から発想を得ている作品ですが、部落差別や株価操作、企業テロなど様々な裏社会的が絡み合います。
    そして作品自体に力強さを感じ、圧倒されます。

    読み応えのあるミステリーを希望の方にお勧めの作品です。

  • ダメ刑事、半田とその競馬仲間が集まってチーム「レディ・ジョーカー」が結成。狙いは大手ビールメーカー、日之出ビールから20億円を奪うこと。その第一歩として、彼らはビール社社長、城山を自宅前で誘拐する。

    そして、このシリーズの主人公、合田雄一郎登場。ユニフォームはいつも通りの白スニーカー。

    たぶん、合田はレディ・ジョーカーチームと警察組織に挟まれながら、単身で事件の真相に近づいていくんだろう。これまでの高村薫の合田刑事シリーズであれば。

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レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)の作品紹介

空虚な日常、目を凝らせど見えぬ未来。五人の男は競馬場へと吹き寄せられた。未曾有の犯罪の前奏曲が響く-。その夜、合田警部補は日之出ビール社長・城山の誘拐を知る。彼の一報により、警視庁という名の冷たい機械が動き始めた。事件に昏い興奮を覚えた新聞記者たち。巨大企業は闇に浸食されているのだ。ジャンルを超え屹立する、唯一無二の長篇小説。毎日出版文化賞受賞作。

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