レディ・ジョーカー 下 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347189

作品紹介・あらすじ

消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。激浪の果て、刑事・合田雄一郎と男たちが流れ着いた、最終地点。

感想・レビュー・書評

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  • R1.12.18 読了。

    ・3巻とおして、濃い内容、登場人物の多さなどから、面白いのになかなか読み進められない作品だった。
     未解決の誘拐事件や政治家や総会屋などの贈収賄事件、新聞記者やフリーの記者の失踪事件など、一見モヤモヤした後味の悪そうな終わり方だが、犯人側の物井、ヨウちゃん、車椅子の障害児のレディと雑種犬のチビが、青森の物井の生家で穏やかな暮らしをしている光景は、細やかな幸せで穏やかな日々を連想させる。犯人なのに聖域としてそっとしておいてあげたいようなラストが良かった。

    ・「企業を恐喝するという大それた犯罪も、孫の事故死と同じように、起こるときには起こる人生の1ページだったかのようで、何事かをなし遂げたという達成感はなく、自分という人間の本質が変わったということもない。否、何億かの現金の手応えはあるが、それによって満たされたわけではないという自分という人間のありようが、いまはざわざわ、もぞもぞするだけだった。」
    ・「『辛いなあ…。』物井は自分自身と、レディと布川夫婦と、自分たちが生きているこの時代の全部の人間に向かって、そう呟いてみた。孫の孝之が亡くなった時と同じように、自分でどうにか出来ることではない辛さだった。…(中略)そういえば、生家の貧窮、隻眼、駒子との別れ、戦争、空腹、奉公先の倒産等々、辛かったことはみんな、自分の力ではどうにもならなかったことだったと思うと、自分の代わりに、腹のなかの悪鬼が声にならない声をあげて慟哭した。七十まで生きてきてたどり着いたところが、ここか。俺は何を受け入れたわけではない、何も納得したわけではない、と。」

  • 物哀しさ、衝撃の一冊。

    上中下巻、正直中弛み感はあったけれど読み応えのある重厚な作品だった。

    誘拐組織レディ・ジョーカー。警察。企業。この三つを軸に展開されていく物語。

    差別に左右される人生、悪を悪とせず葬られる理不尽さ、個人で抗えない巨大な組織の壁。

    いつの時代、至る所でそれが感じられる虚しさといい、序盤から終始、物哀しさが漂う印象。

    終盤は特になんとも言えない風が心に吹く。

    合田が抱える虚しさも競馬場でのレディの姿にも。

    そしてこの巻はつくづく重要な巻だったこと思い知らされた。
    合田の心の中は予想外。衝撃だったな。

    • まことさん
      くるたんさん♪

      この本、私もだいぶ前にたぶん初版で買って、ずーっと積んで、結局読まなかった作品です(^^;
      結局というのは…読んでな...
      くるたんさん♪

      この本、私もだいぶ前にたぶん初版で買って、ずーっと積んで、結局読まなかった作品です(^^;
      結局というのは…読んでないのに、多分読めないからと言ってブックオフに持って行っちゃった…。
      高村薫さん読みたいけど難しいよね。
      『マークスの山』の映画はレンタルして何度も観ました。
      2021/08/31
    • くるたんさん
      まことさん♪そうだったのね♪
      たしかに長編だし、タイミングが必要かも。
      私も実は春ぐらいからちょっとずつ読んでて、やっと読了(๑́•∀︎•๑...
      まことさん♪そうだったのね♪
      たしかに長編だし、タイミングが必要かも。
      私も実は春ぐらいからちょっとずつ読んでて、やっと読了(๑́•∀︎•๑̀)ฅテヘ-
      「マークスの山」は映像でも観てみたいなぁ。山が舞台の作品は何気に好き¨̮♡
      2021/08/31
  • 上中下読了しました。髙村薫さんらしい作品でした。

    民間企業、警察組織、反社会的勢力、ジャーナリスト達の死活?が複雑に描かれてる。レディジョーカーはそこから少し離れていると感じる。
    照柿と同様に自身の適性に悩む合田刑事は、半田を挑発して刺されに行った。
    ラストに新聞記者が物井清三と対峙したときに、物井の悪鬼が見えた。今後ジャーナリズムがここに踏み込むのであれば容赦しないという事だと。

    合田刑事は警部に昇進して国際捜査課に異動とあったけど、次作はそういう流れかと期待した。

  • 長い、長かった。濃くて重い社会派ミステリー。

    犯人グループ、日之出、合田それぞれの話が交わりながら進む。
    資本主義社会の中で落ちこぼれてしまったような犯人グループと、組織の論理で生きてきた城山社長の対比、そして「組織とは何か」というのが裏テーマで語られる。
    それぞれの人生のやるせなさから事件を起こした犯人グループと、組織人としての勝ちを重視するあまり、後々大きな問題の芽となる出来事に対して思慮を欠いた対応をしてしまう城山。
    当初は淡々と任務に就き犯人を追っていた合田も、組織と個人との関係において悩み始め、遂には暴走してしまう。

    庶民の暮らしの慎ましさ、報われなさ。
    大会社を率いる社長の多忙さ、決断の重み、巻き込まれ時に犠牲になる家族。
    警察や検察の綺麗事では済まない複雑さ、正義を貫くことの難しさ。
    多くの人が何がしかの組織や団体に属しており、それに守られても縛られてもいる。個人の感情とは別に組織の正義、論理といったものもある。
    犯行グループはそういった組織からはみ出した人達で、自由ではあるが守られてもいない。
    それぞれの内面が詳細に語られ、その人となりや行動背景を理解すれば、納得とまでは言わないが頷けるところ共感を覚えるところはあり、確かに犯罪は悪いが、彼らを責めきれない自分がいる。また城山や合田の心情も理解できるところは多い。

    誘拐事件から派生するように生じた経済事件も描かれるが、こちらの黒さも相当なもので、政治とカネの問題の根深さに嫌気がさす。
    こういった事件はひとつ潰したからといって無くなるものではなく、今も似たような話がどこかであるのだろうと思うと暗い穴を覗いているような気持ちになる。

    そして最後の最後に持ってきた、溢れ出るような合田の心情の吐露。終始冷静に語られるこの話の中で高い熱を持った場面であり、人が人を想うことの貴さを改めて思うような、胸を打つ描写だった。


    次作は「太陽を曳く馬」だが、別シリーズとの融合作とのことなのでそちらを先に読もうか迷っている。



  • 内容(「BOOK」データベースより)
    消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。激浪の果て、刑事・合田雄一郎と男たちが流れ着いた、最終地点。



    とても読み応えがありました。
    でも、WOWOWのドラマを観ていなかったら 登場人物が多くて混乱していたと思います。
    上中下巻と長く 間を空けて読んでしまったせいもあるかもしれません。
    20年以上前の作品ですが 世の中あまり良い方には変わっていないなぁ...と思っています。

  • やっと終わった!長かった!難しかった!頭が疲れた!

    実在の「グリコ森永事件」をモチーフに……という触れ込みには納得。兜町や永田町の闇も関わり合って結局は事件としてね解決を見ないままで物語は終焉を迎える、という点も、妙にリアリティがありgood。

    グリコ事件にも、実は同じような水面下での闘いが繰り広げられていたのかも……という感慨を残してくれた。

    物井のもとでやり直した人生を生きるヨウちゃんの姿を描いたラストには、心が少し救われた。



    事件の結末には不満が残るがまとめ方には納得。
    株や競馬等の、自分には守備範囲外の世界の詳細描写や、永田町関連の複雑なしがらみが難しく読むのに疲れたが、不思議と引き込まれたまま読み続けられた。
    同性愛的な描写にやや引いてしまうも、嫌悪感までは至らないのは、作者の筆力の賜物?合田というキャラクターの魅力のせい?

    文庫化にあたり3分冊とのこと……下巻は、疾走感に欠けて★3つ。
    上下巻2冊のままだったならば、下巻は★4つだったなぁ。

    2011.12.06 了。古

    • geronimoさん
      実在事件をモチーフにというとやはりこの作品がまず頭に浮かびました。かなり前に読んだのですが、かなり無難にまとめたなぁ。。という印象が残ってま...
      実在事件をモチーフにというとやはりこの作品がまず頭に浮かびました。かなり前に読んだのですが、かなり無難にまとめたなぁ。。という印象が残ってます。

      桐野夏生の『OUT』は未だ未読なんですが、あの不可解な井の頭公園バラバラ殺人を扱っているので期待はしています。
      2012/06/22
  • 最後は仰天の結末。
    上中下完読まで時間かかったがめちゃ面白かった。

  • [上中下巻あわせて]
    グリコ・森永事件をモチーフとした文庫本3冊の長編小説。
    最近はノンフィクションばかり読んでいたので久しぶりに小説を読んだ。
    グリコ・森永事件は自分が幼少の頃にリアルタイムに体験した事件でもあり、当時の自分の微かで断片的な記憶も思い出しながらで、大変面白く読めた。

    読み終わって幾分モヤモヤしたものが残るけれど、最近の自分は「小説は読んでいる時間そのものが面白ければいいのだ」と思う。

  • 実際の事件をモチーフにしているだけあって、やはり犯人捕まらずか…

    重厚な物語の結末としては、不完全燃焼。

  • 合田とレディ・ジョーカーチームの中心、半田がいよいよ直接対決。と、その前にレディ・ジョーカーから事件の幕引き宣言。そして、チームが分裂して、別のビール会社への攻撃がはじまる。社長誘拐、同業他社へ目標変更、青酸カリ混入と、当時のグリコ・森永事件の流れを忠実に再現している。

    小説の方は新聞記者の失踪あり、株屋の活躍あり、刑事の自殺ありと、事件の解明どころか、盛りだくさんの内容で混沌は深まるばかり。が、合田のワンマンプレーでなんとなく、ぼんやりと決着する。これは合田刑事シリーズの定番だ。

    20億円も奪った犯人の追及が甘い気もするが、グリコ・森永事件も未解決なのだから、こんなものか。

    それにしても、社会で取り残された人間が大事件を犯すという設定。この小説は現在の「格差」がクローズアップされる時代にマッチしている。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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