- Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101347189
感想・レビュー・書評
-
上中下読了しました。髙村薫さんらしい作品でした。
民間企業、警察組織、反社会的勢力、ジャーナリスト達の死活?が複雑に描かれてる。レディジョーカーはそこから少し離れていると感じる。
照柿と同様に自身の適性に悩む合田刑事は、半田を挑発して刺されに行った。
ラストに新聞記者が物井清三と対峙したときに、物井の悪鬼が見えた。今後ジャーナリズムがここに踏み込むのであれば容赦しないという事だと。
合田刑事は警部に昇進して国際捜査課に異動とあったけど、次作はそういう流れかと期待した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
長い、長かった。濃くて重い社会派ミステリー。
犯人グループ、日之出、合田それぞれの話が交わりながら進む。
資本主義社会の中で落ちこぼれてしまったような犯人グループと、組織の論理で生きてきた城山社長の対比、そして「組織とは何か」というのが裏テーマで語られる。
それぞれの人生のやるせなさから事件を起こした犯人グループと、組織人としての勝ちを重視するあまり、後々大きな問題の芽となる出来事に対して思慮を欠いた対応をしてしまう城山。
当初は淡々と任務に就き犯人を追っていた合田も、組織と個人との関係において悩み始め、遂には暴走してしまう。
庶民の暮らしの慎ましさ、報われなさ。
大会社を率いる社長の多忙さ、決断の重み、巻き込まれ時に犠牲になる家族。
警察や検察の綺麗事では済まない複雑さ、正義を貫くことの難しさ。
多くの人が何がしかの組織や団体に属しており、それに守られても縛られてもいる。個人の感情とは別に組織の正義、論理といったものもある。
犯行グループはそういった組織からはみ出した人達で、自由ではあるが守られてもいない。
それぞれの内面が詳細に語られ、その人となりや行動背景を理解すれば、納得とまでは言わないが頷けるところ共感を覚えるところはあり、確かに犯罪は悪いが、彼らを責めきれない自分がいる。また城山や合田の心情も理解できるところは多い。
誘拐事件から派生するように生じた経済事件も描かれるが、こちらの黒さも相当なもので、政治とカネの問題の根深さに嫌気がさす。
こういった事件はひとつ潰したからといって無くなるものではなく、今も似たような話がどこかであるのだろうと思うと暗い穴を覗いているような気持ちになる。
そして最後の最後に持ってきた、溢れ出るような合田の心情の吐露。終始冷静に語られるこの話の中で高い熱を持った場面であり、人が人を想うことの貴さを改めて思うような、胸を打つ描写だった。
次作は「太陽を曳く馬」だが、別シリーズとの融合作とのことなのでそちらを先に読もうか迷っている。
-
最後は仰天の結末。
上中下完読まで時間かかったがめちゃ面白かった。 -
目的を達したレディ・ジョーカーは闇に消えたはずだった。しかし新たな脅迫状が別のビール会社に送られ、事件は犯人グループの思惑を越え新たな展開を見せ、そして終焉を迎えていく。
ようやく読み終えた…、と読後にまず思いました。完全犯罪が達成されたというカタルシスもなければ事件が解決された、という爽快感もこの小説にはありません。読めば読むほどに登場人物たちの葛藤、疲労、閉塞感、暴力衝動は深まっていき、それに姿が見えない政治や裏社会の闇が読むほどに深くまとわりつき、それが完全に晴れることはありません。
合田然り城山然り、マスコミ然りそして犯人グループでさえも、”レディ・ジョーカー”が生み出した闇の流れにゆっくりと飲み込まれていったかのように読んでいて思いました。
誘拐劇に企業への恐喝、そしてそれに立ち向かう警察というミステリー的な構図でありながら、この本の終着点はミステリー的な解決ではありません。この誘拐を通して浮かび上がったのは何者にも説明できない個人の感情や衝動、そしてそれと相克せざるを得ない企業や社会の論理、それに勝てないと分かっていながらも向かっていかなければならない人々の叫びと戸惑いだったように思います。
そしてそうした叫びや戸惑いは、現代の社会にも残り続けているのだと思います。自分もそうしたものを漠然と感じていたからこそ、この小説に嫌気がさしながらも、登場人物たちがどこにたどり着くのか知りたくてページをめくり続けたのだと思います。
合田の加納への最後の唐突な告白はちょっと違和感があったものの、それを差し引いてもこの作品の価値というものは揺るがないと思います。ラストの青森の描写も、この作品の終着点としてこれ以上ないくらいふさわしいものだったように思います。
人は小説にこれほどまで情念というものを載せることができるのだな、と強く思わされた小説でした。
第52回毎日出版文化賞
1999年版このミステリーがすごい!1位
このミステリーがすごい!ベストオブベスト9位 -
読み終わりました。
結局この長編は、合田の魂の再生と、物井の守りたいものの発見が救いなのかなと。
前者は、破滅願望の半田との対決を経て加納と向き合う大切さに気づくところ、後者は最後の久保が物井の故郷を訪ねるところで、特に強く感じました。
社会への言葉にできない怒りや不満からレディ・ジョーカーは現れ、でもそれぞれの帰結は対照的です。
壊したい願望と守りたい願望。
事件から先に進めた人間と、さらに破滅を求めた人間。
相反するところが個々の中にあって、けれどそれが個々の選択に違った形で表れる。
最後の物井の故郷は、彼の求めていた生きる意味を実感できる場所なのか、久保の詮索を拒絶するような心証描写が秀逸でした。
まず満足できた3巻です。 -
レディー・ジョーカーによる日之出社長誘拐事件。
犯人を追う刑事。
スクープを狙う新聞記者。
表面的な事件の裏で蠢くものたち。
一つの事件が人々の運命を様々な方向に変えていく。
緻密な描写に圧倒的な情報量。
「すごい!」以外、私のボキャブラリーでは表現できない。
それにしても、これほど面白いとは!
高村薫作品は以前にも読んだことがある。
しかし、 良いも悪いも「社会派な作家さん」ぐらいで特別な印象が残っていない。
今やっと、私自身に高村薫を読む準備が整ったということか。
作家との出会い(もちろん作品を通して)は、タイミングが重要なのだとつくづく感じた。
出会いがうまくいけば、長い付き合いになる。
新作が気にいらなくても、また次作に期待する。
しかし最初の出会いに失敗すると、もう一度手に取るのはなかなか難しい。
名作といわれていても、ピンとこない作品もあったりする。
もちろん好みの問題は重要だが、読む側の精神状態や、理解力、経験値など何かたりないものがあるのかもしれない。
ずいぶん遅くなってはしまったが、嬉しい出会いができた。 -
上中下巻と一気読み。
リアリティーのある最後で、まさに現実の出来事のようだ。
日本の企業、政治、社会ドロドロの世界で自分達は生きていると実感。
今回も登場人物が素晴らしい。期待を裏切る言動がより、リアリティーを生んでいた。
素晴らしい作家だとつくづく思いました。 -
様々な思いが最終巻につながれます
是非、最後まで頑張って付き合ってください
おそらく人によって感想が幾重にもなる作品です -
ついに完結( ´ ▽ ` )ノ
予想どおり、結末は曖昧模糊( ´ ▽ ` )ノ
元ネタのグリ森事件じたいがそうだったから、しかたがないことだけどね( ´ ▽ ` )ノ
自分でも理由の判然としない情動に突き動かされた男たちの犯行が、総会屋やら仕手筋やら政治屋やらに利用されて、結局だれにも全体像のつかめないもやもや不気味な代物に変じていくさまがみごと( ´ ▽ ` )ノ
半田のゆるやかな発狂は、あんまりにもいろいろな出来事があったなかに埋没して、やや唐突な感(>_<)
考えてみれば、物語スタート前から狂気への傾斜があったからこそ、ああいう犯行に及んだわけだけど……
合田の「覚醒」も、本作だけ見ると急な感じはするけど、「マークス」「照柿」の後だから、むしろ遅すぎた気がしたくらい( ´ ▽ ` )ノ
この「つぎ」の作品が書かれたらどうなるんだろう? イケメン刑事&検事のおっさんずラブ? 腐女子歓喜必死だね( ´ ▽ ` )ノ
しかし、なにより混乱したのは日之出のライバル社「旭ビール」なる社名の登場(・・;)
なんとなく 日之出=キリン、毎日=アサヒ、と想定して読み進めていたから、サッポロにあたるはずの3社目の名前が 実在する(と言っていいのか否か?)「あさひ」ビールとは……(´ェ`)ン-…
あと、終章でサラッとふれられる日之出社長の顛末、その後(2013年)に起きた「王将フードサービス社長○○事件」を予言しているようで 戦慄した……∑(((*゚ェ゚*)))ブルッ
ともあれ、犯人の動機も事件の解決もハッキリ(さ)せず、名探偵もトリックもない、ミステリーとしては異様といっていい怪作ながら、人間心理・現代風俗・各種組織の構造腐敗などなどを緻密に描いた傑作文学( ´ ▽ ` )ノ
それだけに、中巻の感想にも書いたとおり、女性視点・心理を一切排除している理由がよくわからない……(´ェ`)ン-…
2019/02/05