照柿 下 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347226

感想・レビュー・書評

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  • 一目惚れして執着したり賭博にハマったり、どうしちゃったの合田雄一郎、、と戸惑うばかりだったが、最後の加納の手紙でそれもこれも次に進むためのものだったのかもしれないと思って納得した。

    題名も色の名前だが他にも様々な色が出てきて、その度に文章が頭の中で映像化される。イメージ映像のような感じではあるけれど、人が狂っていく過程を描いていくこの作品の重さ暗さに不思議なリアルさを与えているように思う。

    中年に差し掛かる時期、穴に落ちるかのように思いがけない経験や思考に嵌るというのはなんとなくわかる気もする。
    社会的な責任は重くなってきたのに自身の所在なさ覚束なさだけはそのままで、それを埋めてくれるような何かを求めたりするのかもしれないし、中途半端に残る若さの吐き出し口がいるのかもしれない。
    それでも普通は失うものの大きさを考えて大概のところで踏み止まるものだが、この作品の男2人は程度の違いはあれど徐々に道を踏み外して行く。
    それが美保子のせい、大の男にそうさせるほどの力が美保子にあったということなら、所謂悪女、ファムファタールの何と恐ろしいことか。
    テレビ版では美保子役を田中裕子がやったらしい。ぴったりの配役だと思う。

  • 凄い迫力。
    読むのは大変だけど、ページをめくる手が止まらない。
    高村薫文学。
    ここまで心の描写を文字にするのは凄すぎる。

  • この圧迫感、狂気は高村にしか描けない。

  • レディージョーカーで初めて出会った高村さん。あまりの面白さにマークスの山を読むと、更に更に惹き寄せられた。なんて素敵な作者を見つけたのだろうと心踊る。続いて読んだのが同じ合田シリーズの本作。下巻の途中まではダラダラと冗長な内容が続きどうかなと思っていたが、終わってみれば素晴らしくて、照柿が素晴らしくて、圧倒された。細部が細かすぎてしつこく感じるが、それもまた世界観が出ている。合田の狂気と変質が際立ってきて、他作とはまた違う人物像に変化してきた。そうだ、人は歪なのだ。一言で語れるほど簡単じゃない。登場人物のそれぞれが魅力的。

  • 粛々と続くうだるような暑さは最後の30ページくらいに持っていく為の布石だったのか…。
    と、なんというか放心してしまった。
    物語全体を覆う鬱屈とした空気が最後の最後で浄化されてゆくようなそれは半ば錯覚なのかもしれないけれど、人の事はわかっているはずの合田さんが、自分自身がどういう人間なのか見つめてゆく様はすごく生々しいものがあった。
    そうか、これで文庫版のLJに続くのかと思うと個人的にはすごくストンと落ち着くようなそんな心持ちになった。
    それにしても一番辛い状況に置かれ続けてるのは祐介なのかなとふと思ったりもした。

  • 熱く、赤く、嫉妬という名の男の激情が切なくて苦しくて、始めての感覚で涙が流れました。
    個人的には文庫版よりハードカバーで出たもののほうな断然好みです。

  • 先日読んだ「マークスの山」は講談社文庫だったが、今回は新潮文庫にした。字の配列は、講談社のほうが好きだな・・・。

    痛い話しである。
    なんとなく、「誰だって同じだ、他人事じゃないぞ」と突きつけられているきがした。
    合田にしろ野田にしろ、組織の中に馴染めない人間というのが必ずいて、そうしたを社会は異質なものを見るような目で見てしまうのだけれど、大きな組織というのは大概、組織防衛のためには個人のことなど虫けらとしか思っていないし、本当は彼らの方が健全なのかもしれない。
    感情の人で、その感情のまま一線を越えてしまった野田は犯罪者で、越えられない合田は、刑事の首はつながったままだが、しかし、心に抱えきれない虚空を抱えてしまうのは、すごくリアルで悲しい。
     その辺りが前作「マークスの山」よりも面白かった。

     ラストの義兄からの手紙が、彼にいくらかの救いをもたらしてくれたと、願わずにはいられません。

著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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