白いしるし (新潮文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101349572

作品紹介・あらすじ

女32歳、独身。誰かにのめりこんで傷つくことを恐れ、恋を遠ざけていた夏目。間島の絵を一目見た瞬間、心は波立ち、持っていかれてしまう。走り出した恋に夢中の夏目と裏腹に、けして彼女だけのものにならない間島。触れるたび、募る想いに痛みは増して、夏目は笑えなくなった――。恋の終わりを知ることは、人を強くしてくれるのだろうか? ひりつく記憶が身体を貫く、超全身恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • え、なんやこれ、うちの物語とちゃう?
    そう思いながら、憑りつかれたように、読む!読む!読む!

    32歳独身、絵描き。彼女はいつも、恋愛にのめり込み過ぎてしまう。だから、むしろ恋をしていない時の方が、心身が安定しているのだ。出会った瞬間にセンサーが働く。「この人と恋に落ちるのは危険だ」と。それでも、どうしても惹かれてしまう。それが「まじまさん」だ。彼は、絶対に他人が立ち入れない、バックグラウンドを抱えていた。そして彼も、画家だった。彼は、自分の魅力に、無頓着だった。

    西さんの作品はいつも、わたしの感情の蓋をあっという間に開けて、ぶわっと溢れさせる。
    そして、そうなるともう、ジェットコースターに乗っているかの如く、感情をばっさんばっさん揺さぶられる。
    今回だって、どっぷりと作品の中に浸かっている時間は、まるで主人公に乗り移ったかのようなそれだった。だから、彼女の失恋はまるでわたしの失恋であるかのように、苦しくて、しんどくて、仕事が手につかなかった。

    しかも、である。
    しかも、このまじまさんの出で立ちは、全くもってわたしの好みなのである。
    わたしは言わずもがな、売れないバンドマン、バンドマンもどき、極度のバンド好きの人、が、大好きである。

    いや、だからバンド率!いつだって恋をするのはバンドマン(もどき)なのである。
    でも、彼らはずるい。こっちが好きって言えば好きって言うし、こっちがかっこいいと言えば可愛いと言う。けれど、決して自分からは、「好き」とか「かわいい」とか、言ってこない。こっちがアクションを起こすように、上手に仕掛けてくる。こっちは言われたい言葉を言われる。とろとろとした気分になるし、そういう関係はダラダラと続き、いつしかずぶずぶの関係になっている。彼らは断らない。ただ、受け入れる。だから抜け出せない。ずるいってわかってても、こっちがなめられてるってわかってても、止められない。
    あなたにたくさん聞きたいことがある。でも、それができないのは、そこに「恋人」の気配を感じるから。だから、休日に何をしているかも聞けないし、急に途絶えた連絡に、その時何をしていたのかも、聞けない。

    わたしにも、主人公のように、これほどまでに大きな絶望が立ちはだかれば、抜け出せるのかな。いや、それでもやはり、微かな、一縷の望みをかけて、彼らに期待して、縋ってしまうのかもしれない。

    ヒゲダンが唄うPretender
    「君とのロマンスは人生柄 続きはしないことを知った」
    「『好きだ』とか無責任に言えたらいいな」
    脳内でリピートし続ける。
    もういい十分だ!と、AppleMusicを開くと、2021年の自分用のトップソングのプレイリストが用意されている。
    開くと、現時点で一番聴いていた曲は清竜人の「痛いよ」だった。冷静に考えて、それって痛いよなぁ。

    読了後、自分のブックカバーを取って、トン、と作品を置いた瞬間、「ああ、だからこの作品の表紙は猫なのか」と思った。机の上でその猫がチラチラと視界に入る。愛くるしく、もふもふしたくなる。そして、その猫を、自分のものに、したいと思ってしまう。
    わたしと主人公の決定的な違いは、この、独占欲なのかもしれない。

    • たけさん
      naonaonao16gさん、おはようございます!

      始めから終わりまでずっと切なくて苦しい小説ですよね。
      こういう痛い小説、僕は大好...
      naonaonao16gさん、おはようございます!

      始めから終わりまでずっと切なくて苦しい小説ですよね。
      こういう痛い小説、僕は大好きです。
      Mではないはずなのですが(笑)
      2021/02/25
  • なんという純愛。
    恋とはこんなにも痛みを伴うものなのか。
    登場人物それぞれの想いがすごい。
    恋をすることは生きること、生ききること。

    なんとなく手に取った本でしたが、とても素敵な一冊でした。

  • H30.12.31 読了。

    ・この西加奈子ワールドは独特すぎて、ついていけなかった。

    ・「あなたはただ、何かを選んで、何かを選ばなかったことに、自身で責任を負わなければいけない。自分が、決めたんやって、それが自分の意見なんやって、揺るがず、思ってんとあかん。それだけを、強く持っていればいいと思うんです。」
    ・「赤が嫌いなときに見る赤と、赤が大好きなときに見る赤は、全然違って見えるけど、赤そのものは、ずっと赤なんです。赤であり続けるだけ。見る人によって、それがまったく違う赤になるというだけで。」
    ・「好きとか嫌いとか、エゴやとか関係なしに、すごいものは、すごいんです。」

  • フォロワーさんの評価が高く、共通して読まれている(その比率が高いような気がする)本でした。西さん、好まれて読まれていますね。鋭い感性のお話ばかりです。

    この本の表紙写真が何かわかっていませんでした。8割方読むまで。
    どうして富士山じゃないんだろう???と。
    今見ると、耳が動きそう。ぴくっと。

    第一印象でほとんどが決まってしまうともいわれる、男女関係。
    ここでも一目みて分かった、悟った、と本人も言われています。
    わかって、その後の展開もわかるから、だから慎重になる、とも言っています。
    苦しいですね。でも止めることができない。

    西さん、うまいです。
    ほんとうに。

    こうして悩んで、
    愛して、
    生きていくんだな、と。

    大量の猫とたばこは、その場にいたことを考えるだけでそれが文字であっても受け付けません。。。
    ちょっといただけないかな

  • 自身も絵を描くの夏目香織は、自分に正直な絵を描く間島昭史に強くひかれる。ほんの数ヵ月の交流、親密になってからはほんの数日で、彼は恋人の元に戻ってしまうが、なかなか彼の呪縛から抜けられない。

    二人の友人の瀬田君も、3年前に去った元カノが忘れられず、彼女が残していった猫を、その子どもたちまで含めて、大事に育て続けている。いつか彼女が帰ってくるかもしれないし、帰ってこないなら、その猫や仔猫たちに側にいてほしいとの気持ちから。

    この本の登場人物たちはみんな少し歪んだ恋愛をしていて、苦しくなる。でも、頭では近づかない方がいいとわかっていても、強くひかれてしまう人はいて、そういう相手に出会ってしまったら、どうしようもないというのもわかる。切ない。
    みんなが苦しくない恋愛だけできたら、どんなにいいだろう。神様はどうして、複雑な相関図を作りたがるのか。。

  • これも花田菜々子さんの本で紹介されていた本。

    圧倒的な生の肯定。

    最初の一文から、すでに痛くて、最後までずっと痛いのだけど、救われる、すごい小説。
    人を恋する時の、切なく苦しい気持ちをこれだけ表現しきった小説は他にはないのでは。


    ー 私は彼に会って、自由になった。

    ー 理由がない。まったく。ただただ、対峙していると、触れたい、と、思うだけだ。それだけ、恋は、圧倒的なものなのだ。

    まさしく。

    西加奈子さんの本を読むのは初めて。
    一気に、気になる作家さんの一人になりました。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      こんばんは!
      コメントありがとうございました!!

      もう本当に痛くてしんどい…なのに夢中になって読んでしまいました…!わたしはた...
      たけさん

      こんばんは!
      コメントありがとうございました!!

      もう本当に痛くてしんどい…なのに夢中になって読んでしまいました…!わたしはたぶん、Mなのだと思います(爆)

      そして、花田さんの本で紹介されていたことなんて全く覚えておらず、たけさんのレビューを再度拝見させていただいた後に、本棚から花田さんの本引っ張り出しました。
      ちゃんと書いてありました(笑)
      2021/02/25
  • 年を重ねるほどに、若い頃の様なスコーンとした恋愛は出来なくなってくる。
    妙に恋愛経験があるほど、なんだか拗らせたりして、大人になるほど恋愛は下手になるのかな。
    恋愛経験が少なくてもやっぱり拗れるか。
    夏目、まじま、瀬田、塚本…それぞれの痛々しい恋愛が寂しくも少しだけ笑えた。


  • 人それぞれ恋の方法は違うけれど、どれもその人にとっては大切な恋。失恋が怖くて遠ざけていても好きになってしまう…夏目の気持ちがわかる気がします。恋は辛く悲しい事もあるけど、夏目のように全力で頑張ろうと思える人に出会えた事は、幸せな事だなって思います。

  • 真島は最初から掴みどころのない、ふわふわした存在だった。真島のような人はなかなか居ないけど、このまま一生友達でもいいから一緒にいたいだとか、自分の気持ちに嘘を吐いてまで一緒にいたいだとか思ってしまうのは片想いあるあるかなと思ったり。

    瀬田のような人を好きになったことがある。無口で聡明な人だったけど、親しくなったらよく笑ってくれた。幼少期のこと、学生時代のこと、昔の恋愛、仕事の愚痴も褒められたことも、話してくれた。でも、恋人の存在だけは聞いたことがなかった。聞けなかった聞きたくなかった。必死に違う話題を探した。自分だけの存在じゃないことを私の中での事実にしたくなかった。
    だからふわふわとした、でもギラギラしてる瀬田のガールフレンドの気持ちが私にはすごく分かる。絶対に絶対に振り向いてくれない相手を好きになってしまった辛さ。自分が一番、危険な人と分かっているのに離れられない事実。瀬田は瀬田で苦しんでいるのに、それは瀬田にしか分からないように、どんなに親しくても、どんなに愛してても愛されてても、やっぱりその人の全てを理解することは疎か、知ることさえも許されないんだよな。それは皆が分かってることなのに、人は期待するし裏切りもするし、失恋してまた恋愛する。すごくエネルギーのいる本だった。

  • まっさらな心は恋をすることで色味を帯びていく。
    決して美しい色ではないかもしれないし、消すことの出来ない色もある。
    夏目の心は自身の絵と同じように今までの恋愛によって沢山の色で埋められてたんだと思う。
    それが間島の白によって全て塗り替えられた時、夏目はきっと興奮を抑えきれないと同時に不安で不安でたまらなかったんじゃないかな。
    全身で傷ついて泣いて喚いても、人間は誰かに惹かれることをやめられない。
    忘れることなんて絶対に出来ない。
    それでもまた全身でぶつかって前に進んでくしかないんだなって物語中の夏目達の姿を見て思った。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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