映画篇 (新潮文庫)

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著者 : 金城一紀
  • 新潮社 (2014年7月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (501ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101351520

映画篇 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 5篇の作品タイトルはそれぞれに映画のタイトル。
    「太陽がいっぱい」「ドラゴン怒りの鉄拳」「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくは トゥルー・ロマンス」「ペイルライダー」「愛の泉」
    ひとつも観たことがない。orz

    私が熱心に映画を観るようになったのはここ1~2年ほどのことなので、観てない名作の多さに打ちのめされるとともに、映画を観ることの楽しさや必然というか巡り合わせのようなものも強く感じた。
    要するに、私が本に対して感じたり得たりしていたことを、映画で感じたり得たりすることができるわけなんですね。

    「小説はよかったけれど、映画はね…」
    と簡単に言っていたけれど、映画って監督とキャストだけではなく、音楽だったり、その舞台であったりと、表現する世界は同じなのに、そこへのアプローチが関わる人の数だけ存在するので、映画を理解するというのは私にとって、かなりハードルが高いことなのである。
    心の深いところで理解できるのが一番いいことなのだろうけれど、理解力に自信のない私はどうしてもなんらかの情報から理解の手助けをえようとしてしまう。
    多くを観ることによって、自然と理解力は増していくのだろうか。
    みんな、どうやって映画を味わっているのかが知りたいところだ。

    この「映画篇」という小説は、作品タイトルになっている5つの映画だけではなく、数多くの映画が登場人物たちの人生を彩っていく。
    5つの短編を扇の要のようにまとめているのが「ローマの休日」。(これも観てねーorz)

    区民会館で行われる「ローマの休日」の無料上映会が、各作品で転換点となる。
    映画を観て泣いたり笑ったり惜しみなく拍手をしたり。
    そしてそのあとの人生が、少し色合いを変えていく。

    いいなあ。
    私もそんなふうに映画を感じることができたら、もっと人生が豊かで楽しくなるような気がする。
    よし、映画を観よう!
    そう思わせてくる小説だった。

    これは、連作短編集というか、連作短編を装った長編小説というか、とにかく「ローマの休日」が要になる。
    裏バージョンとしてひたすら各作品でけなされている人妻の不倫映画もあるのだけど、これだけがタイトルを記されていない。わかる人にはわかるのだろうけど、この映画を探してみるのも楽しみの一つかもしれない。

    ところで区民会館とあるから、私は札幌市の区民センターのような小さい会場を想像していたのだけど、1200人収容とあるから結構な大会場。
    道新ホールで700人だからね。(「ベニスに死す」の上映会をこの会場でやったとき、特大スクリーンに映るビョルン・アンドレセンの美しさに泣いた)
    東京以外にお住まいの方は、市民会館とかそこら辺をイメージして読んだ方がよいかと思います。

    “龍一と見た映画を起点にして目の前に広がる記憶には、不幸せだった事柄がぽっかりと欠落しているのだ。映画の力で導かれた記憶の中の僕は、いつでも軽やかに笑い、素直に泣き、楽しそうに手を叩き、一心不乱に龍一と語り合い、はつらつと自転車を漕いでいた。”

    結構な感動作に持って行こうとしているように思わせておいての着地点は、あっけらかんと「参りました」が言える素敵なオチで、心を鷲掴みにされなおしたところでエンディング。
    好きだわ~、こういうの。

  • 2014/8/25

  • ・僕がこれまでどれだけ龍一に救われてきたかを話し、感謝の言葉を口にすべきだった。いや、たった一言、ありがとう、と言えばよかった。でも、何よりも大切なことを話そうとすると、いつだって言葉は僕の口をすり抜け、音にならないままどこかに消えてしまう。僕はいつでも拙い話し方のせいで大切な言葉がうまく伝わらずに、にせものの響きが宿ってしまうのを恐れた。そんな臆病な僕が、一度だって龍一を救えたはずはなかった。誰よりも身近で、誰よりも最初に救わなくてはいけない存在だったはずなのに。

    ・《約束の日からもう二週間が過ぎています。梅雨も明けたことですし、今日中に電話線を繋いでください。》

    ・わたしは一人の長い夜を存分に使って記憶の中に入っていき、連れ合いと一緒に過ごした時間を最初から反芻していった。その流れのどこかに、わたしが気づかずにいた連れ合いの死の理由や兆候を見つけ出そうと思ったのだ。でも、とうとう見つけることはできなかった。そもそも記憶はところどころに穴が開き、色褪せ、それに驚くほど単調で、自分がいまどのあたりをさまよっているのかも見失ってしまうほどに目立った特徴がなかった。わたしは何度もどこでもない地点で立ち止まり、無表情にわたしを見つめている連れ合いを見つめ返しながら、こう自問した。
    ーわたしはこの人を愛していたのだろうか?

    ・目を開けた。
    目の前にあるのは、弱い光に照らされて木目がほんのりと浮かび上がっている、ただのクローゼットのドアだった。それ以外には何も存在しない。わたしはしばらくのあいだ、身じろぎもせずにクローゼットのドアと対峙したあと、力尽きて床の上にべったりと座り込み、泣いた。大声を上げて、わんわん泣いた。時々、ベッドのシーツの端で涙を拭き、鼻をかんだ。

    ・戦う準備はできた。

    ・「あんたとまともに喋ってからまだ三日ぐらいしか経ってないのよ。それなのに、こんなやばいことに手を貸すのってどう考えたっておかしいもん」
    「時間の長さなんて関係ねぇよ。俺はしたいことをしてるだけだよ」

    ・「子供は余計な心配なんてしなくていいんだよ。子供はね、好きな食べものと、大人になったらなりたいものと、好きな女の子のことだけ考えてればいいんだよ。わかった?」

    ・「君が人を好きになった時に取るべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分の思っていたよりも単純ではないことに気づく。極端なことを言えば、君はその人のことを実は何も知っていなかったのを思い知る。そこに至って、普段は軽く受け流していた言動でも、きちんと意味を考えざるを得なくなる。この人の本当に言いたいことはなんだろう?この人はなんでこんな考え方をするんだろう?ってね。難しくても決して投げ出さずにそれらの答えを出し続ける限り、君は次々に新しい問いを発するその人から目が離せなくなっていって、前よりもどんどん好きになっていく。と同時に、君は多くのものを与えられている。たとえ、必死で出したすべての答えが間違っていたとしてもね」

    ・お漬物は冷蔵庫の中。
    お味噌汁は鍋の中。
    お母さんは夢の中。

  • 金城一紀の原作が映画化されたものはほぼ観ています。と言ってもそもそも寡作な人ですから、私が観たのはそのうちの『GO』(2001)、『フライ,ダディ,フライ』(2005)、そしてその韓国版リメイク『フライ・ダディ』(2006)の3本のみ。あとは『SP』の脚本と原案を担当している作家として有名ですね。映画化されたものはすべて好きだったにもかかわらず、なぜか原作には手が伸びず、読んだことがありませんでした。これは映画化もされていませんでしたから、その存在すら知らず、たまたま見つけて購入したものの、ずっと放置していました。もっと早く読めばよかったと後悔。読み終わってすぐよりも、数日後の今のほうがじんわり来ています。本の帯には「現実よ、物語の力にひれ伏せ」のキャッチコピー。はい、ひれ伏しました。

    映画をモチーフにした5つの物語で構成されています。

    1つめは『太陽がいっぱい』(1960)。在日韓国人である金城氏の自伝だと思われます。映画がなければ共通項はなかったであろう主人公とある同級生。ふたりで過ごした少年時代の描写は、輝きと切なさいっぱい。いつしか疎遠になってしまい、迎える現在。こう結んでくれてありがとうと言いたくなるエンディングです。

    2つめは『ドラゴン怒りの鉄拳』(1971)。夫を自殺で失った女性のもとへ、ビデオレンタル店から電話が。夫が借りっぱなしだったビデオを返却しに行き、延滞料金5万円を払います。申し訳なさそうにそれを受け取ったアルバイトの青年は、サービスだと言って、次々とお薦め作品を貸してくれるように。何が可笑しかったって、数々のお薦め作品。特に『キングピン ストライクへの道』(1996)には笑いました。

    3つめは『恋のためらい フランキーとジョニー』(1991)、もしくは『トゥルー・ロマンス』(1993)。悪徳弁護士である自分の父親から金を強奪する計画を立てた女子高生。彼女に白羽の矢を立てられた男子高生はその計画に乗ることに。

    4つめは『ペイルライダー』(1985)。両親と過ごす時間が少なくて、寂しい思いをしている小学生の男の子。彼の前に突然現れたハーレーに乗ったおばちゃんと半日を過ごします。

    5つめは『愛の泉』(1954)。これはタイトルのみで、話中に本作が出てくることはありません。なぜなのかは読んでのお楽しみ。おじいちゃんを亡くして、見ていられないほど落ち込んでいるおばあちゃん。おばあちゃんのことが大好きな孫たちは、なんとかおばあちゃんに元気を出してもらおうと、おじいちゃんとおばあちゃんの思い出の映画『ローマの休日』(1953)を映画館並みの場所で上映することを企画します。

    こうして書けば歴然としますが、私が好きだったのは、1つめ、2つめ、5つめの物語。それぞれ別の話のように思わせておいて、ところどころでリンク。すべて読み終わると、もう一度、最初のページを開いてニッコリ。幸せな気持ちに浸れます。心に残る言葉もたくさん。

    映画を全然知らなくても楽しめること請け合います。『ローマの休日』、恐るべし。

  • 最近になってよく映画館へ足を運ぶようになった。
    お気に入りが俳優として参加している映画は見ていたけれど、いろいろな映画を映画館で見るようになったのはここ3年ほどだ。
    残念ながらこの物語に登場する映画のほとんどは見ていない。
    というか、題名すら知らないものが多かった。
    さすがに「ローマの休日」は知っていたけれど、これもザックリとした内容をしっているだけで見てはいない。
    「ローマです!なんと言ってもローマです!」
    本編に劣らず面白く、「ローマの休日」における王女と記者との関係性など、「えっ??」と思う見かただった。
    なんとなくプラトニックな純愛物語だと思い込んでいたので、「なるほど、大人はそういう見かたをするのか!!」と新鮮な思いがした。
    好きなればこそのめり込む。
    そしてどんどん詳しくなり、見かたも通り一遍ではなくなり、好きだからこそ違う世界が見えてくる。
    これが好きだ!!そう言えるものを持っている人は幸せだと思う。
    なぜなら、それだけできっとたくさんの素敵な時間が持てるような気がするから。
    切ないけれどあたたかい。
    金城さんの映画への思いとともに、そんなあたたかさが伝わってくる物語だった。

  • 配架場所 : 文庫
    請求記号 : BUN@913@K113@1
    Book ID : 80600058697

    http://keio-opac.lib.keio.ac.jp/F/?func=item-global&doc_library=KEI01&doc_number=002523599&CON_LNG=JPN&

  • とても面白かった。

    短編5編からなる連作小説。

    映画をきっかけにして出会った人々が友情や愛を深めていくストーリー。それぞれの登場人物が少しずつリンクしていて、「あれ、この人さっきの小説に出てた人だよな?」とか考えながら読むのがちょっと楽しい。

    苦しみや哀しさ、登場人物たちの足元には常に暗い影が落ちていたけど、そのしがらみから解放されていく様に素直に心が揺れた。
    『愛の泉』で龍一の語りだけで進む最後の4ページ。『恋のためらい』で最後にやっと言えた赤木くんの心情。この数ページを読めただけで充分読んだ価値があると思った。

    5編のうち最後の短編だけは底抜けに明るくて元気の出る話し。
    前4編で心静かに感動していた私には主人公がキラキラしすぎてて眩しいくらいだったけど、本を閉じたあと背伸びをしながら思ったことは「あー、明日からも頑張るかあ」だった。

    久しぶりに小説を読んでちょっと元気になれた。
    清々しい読後感をくれる一冊。面白かったです。

    mixiログ 2010/06/25

  • 友達に勧められて読んだ本。短編なのに色々な想いが詰まってて感動したなー。作品の中に出てくる映画1つも観たことないけど5つの話が1つ映画を通して微妙にリンクしてて十分楽しんで読めた。最後の話が好きだったなー

  • 久しぶりに本を読んで泣いた。
    全然関係ない、それぞれが映画をテーマにした短編集かと思いきや、最後にまとまってスッキリする本。
    言葉の選び方一つ一つにぐっときて、じわーっと浸透する感じが心地よかった。
    ローマの休日、久しぶりに見ようと思った

  • 『映画篇』  金城一紀  集英社

    先日『対話篇』を読んで、改めて自分は金城さんが好きだと再認識し、引き続き『映画篇』を読む。

    やっぱり良い。しかもこれは仕掛けも凄い。
    全ての話に、区民会館で開催される「ローマの休日」が共通して出てくる。また、どの話も他の話と微妙にリンクしている上、『対話篇』の登場人物、事件、場所、建物が素知らぬ顔で滑り込ませてあるのだ。そして、最後の物語を読むと全てが輪になって一つの時間と一つの場所に集約されて行く様な、其処から広がっていくような、不思議な感動に包まれた。

    本を開くと、5つの物語が、実在する映画の題名で目次に並んでいる。私が特に好きなのは、1話目と5話目。(4話目もエグいが好きだけれども。)
    なので、1話目と、2話目の感想を少し書いてみた。

    第1話 「太陽がいっぱい」
    民族学校に通う、父親のいない映画好きの「龍一」と「僕」の友情と別れを描きながら、痛切な小説と映画論になっている。お腹の底から絞られる様に今回も泣けてきて困った。「才能っていうのは力のことだよ。でもって、力を持ってる人間は、それをひけらかすために使うか、誰かを救うために使うか、自分で選択できるんだ。」と言う龍一の言葉。
    難解な芸術論や、賞なんか関係ない。逃れ様の無いクソの様な日常の中で生きている人間の心を、魂を、どれだけ震わせる事が出来るか。勇気を与えてくれるか。救ってくれるか。「救いに来てくれよな」と言って別れた龍一。小説家になった「僕」は龍一を救えたのか。彼に渡した「ブルース・リー」のブロマイドが何故「僕」の手に戻ったのか。最後は涙で文字が滲んだ。

    第5話「愛の泉」
    いつも《大丈夫オーラ》を放つ、みんなが愛するおばあちゃん。ところがおじいちゃんが亡くなってから、おばあちゃんのオーラが消えて行くばかり。一周忌に親戚中で集まり、心配した大人達は誰がおばあちゃんを預かるか、大人の相談。ばあちゃん大好きな孫達は、彼らの避難シェルターでもあった思い出の家を守り、ばあちゃんオーラを蘇らせるために、一計を案じる。この計画の実現までが、笑いあり、ハラハラあり、しんみりあり、最後も吹き出す様なオチがついて最高である。愛ある願いは叶うのだ。そして、何事も「イージー・カム、イージー・ゴー」なのだ、と思える素晴らしい話。この最終話を読んで初めて、見開きのローマの休日の手書きポスターの挿絵と、全ての物語が繋がる。

    金城さんの映画愛と人間愛がぎゅっと詰まった素晴らしい一冊。それにしても、毎話ボロクソにけなされるある映画、気になってしょうがありませんでした。題名が無いし(笑)どんな映画だと思いますか?

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映画篇 (新潮文庫)の作品紹介

人生には、忘れたくても忘れられない、大切な記憶を呼び起こす映画がある。青春を共にし、別々の道を歩んだ友人。謎の死を遂げた夫。守りたいと初めて思った女性……。「太陽がいっぱい」「愛の泉」など名作映画をモチーフに、不器用ゆえ傷ついた人々が悲しみや孤独を分かち合う姿を描く5篇を収録。友情、正義、恋愛、復讐、家族愛と感動――物語の力が彼らを、そしてあなたを救う。

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